東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第125話 気持ち

 望は他の人を気にせず、俺の目を見て話してくれた。

「お母さんもどこかに行っちゃうし、家には私だけ……いくら待っても警察から連絡がない。そして、探しに行く力も勇気もなかったの……ただ、ずっと待ってただけ。すごく辛かった……悲しかった。お兄ちゃんやお母さんが居なくなった事もだけど一番は……自分に対してだった。どうして、私はここに独りでいるのか毎日、毎日自分に問いかけた。結局、最後に行きつくのは自分に力がないから……悟さんも毎日、家に来て私を励ましてくれたけど……ダメだった。心にどんどん、黒い何かが溜まって行くのがわかった」

 そこで、望の目からとうとう涙が零れてしまう。俺はすぐにそれを親指で拭った。望が笑顔で『ありがとう』とお礼を言ってから続きを始める。

「1週間ぐらいしてお兄ちゃんが帰って来た。でも、何か隠してるのが分かったの。それからお兄ちゃんは仕事を始めた……お兄ちゃんは心配するなって言ったけど心配するに決まってる。そして、1週間くらい経ってまた、お兄ちゃんが帰って来なかったの」

 そう、その頃になって俺は『狂気異変』を起こしたのだ。

「私……ものすごく不安になった。携帯にお兄ちゃんからメールで『無事だから安心しろ』って連絡が来たけどまた、お兄ちゃんがいなくなっちゃうんじゃないかって……また、あんな思いをしなくちゃいけないのかって……どうして、私には何も出来ないのかって……次の日にはお兄ちゃん帰って来てくれたけど仕事が忙しくなったのか深夜に帰って来ることも多くなった。私は何もせずに生活していただけ……もう、そんな自分が嫌でたまらなかった。その時、悟さんから借りた東方が目に入って……廃人になった」

 何という事だ。俺は望の為に幻想郷や仕事について黙っていた。余計な心配をさせないように。だが、それは間違いだった。逆に望に不安を与え、廃人にまでさせてしまった。全て、俺の責任だ。

「でも、お兄ちゃんは雅ちゃんや奏楽ちゃんを連れて来てくれて家が賑やかになった。とても、嬉しかったよ。でもね? やっぱり、雅ちゃんも奏楽ちゃんも私の知らないお兄ちゃんを知ってるみたいで不安になった……私だけが知らない秘密。家族なのに打ち明けられないほどの内容なのかって心配するよりも悲しくなった。でも、夏みたいな事が起きて欲しくなかったの……だから、頑張って気にしないようにした。とても、辛かったけど頑張ったよ?」

 声が震えている。今も一生懸命、俺に伝えようとしているのだ。自分の気持ちを。

「だから、私に能力があるって知って……そして、その能力を使ってお兄ちゃんを助ける事が出来て私は本当に嬉しかった。やっと、やっと……お兄ちゃんの世界を知る事が出来たから。だからね? お兄ちゃん。私に霊力がなくなっちゃった事、気にしなくていいんだよ。ううん……違う。ありがとう。私に力を与えてくれて」

 とびきりの笑顔で望がそう言ってくれた。

「……ああ」

 望の思いを踏みにじるわけにも行かない。俺は無理矢理、笑みを浮かべ頷いた。

「もう、お兄ちゃんは気にしすぎだって」

「仕方ないだろ……お前は大切な妹なんだから」

「……うん」

 俺の言葉を聞いて嬉しさ半分寂しさ半分の笑顔になる望。何故、そのような表情になってしまったのかわからなかった。

「もういいかしら?」

「「え?」」

 紫の声で我に返った俺たちは辺りを見渡す。皆、ニヤけていた。

「う、ぅ……」

 自分が恥ずかしい事を言っていた自覚があるのか望は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「と、とにかく! 望の能力についてはだいたい理解した。次に俺に呪いをかけた奴って誰なんだ?」

 すぐに話を切り替える。俺も恥ずかしかったのだ。

「その事なんだけど……男の妖怪だって事しか判明してないわ。私も直接、見たわけじゃないけどあの健康マニアさんが少しだけ戦ったらしいの。まぁ、すぐに逃げられてしまったらしいけど」

 紫が少し面倒臭そうに教えてくれる。

「妹紅が?」

「私が竹林に犯人がいるから向かってくれって頼んだの」

 まだ若干、顔を紅くしている望が補足説明を入れてくれた。

「向こうの目的は?」

「貴方の抹殺じゃないかしら」

「どうして?」

「それもまだよ」

「う~ん……情報がなさ過ぎるなぁ」

 今の所、人型の妖怪で性別は男しかわかっていない。これでは犯人探しは無理に等しいだろう。

「仕方ない……そいつの事は後回しだな」

「い、いいんですか?」

 俺の呟きに反応する早苗。その目には不安の色が浮かんでいた。

「だって、さすがに無理だろ。この状況じゃ」

「そ、そうですが……念のため、妹紅さんに犯人像とか聞いてみては?」

「それでもいいんだが、あいつ帰ったし……」

 妹紅は家にずっといるわけではないので探すのに一苦労するのだ。夜まで待てば帰って来るのは知っているが、いつも通りなら俺も家に帰っている。そこまで考えて今日は満月の日で能力が使えない事を思い出す。

「……わかった。夜、あいつの家に行ってみるよ」

「はい。でも、周りには注意してくださいね? 夜道とか」

「了解」

「ところで? お兄ちゃん」

 それまでの時間。どうしようかと考え出した時、望が袖をぐいぐい引っ張った。

「何だ?」

「確か、今日は家に帰れないんだよね? 泊まるところとかあるの?」

「多分、博麗神社かな? 霊夢、いい?」

「ええ。私は構わないわ。まぁ、布団は私のも含めて2つしかないから兄妹で1つの布団を使って貰う事になるけど」

「ええ!?」

 霊夢の発言に望が目を見開く。

「そんなに俺と一緒が嫌か?」

 さすがの俺でも落ち込んだ。妹はいつの間にか思春期に突入していたらしい。

「う、ううん! そう言う事じゃなくて……その、寝れるかどうか心配で」

「昔みたいに頭をナデナデしながら寝るか?」

 小さい頃、毎晩そんな感じで寝ていた。

「えええええ!? あ、え、そ、その……お願いします」

「おう」

 再び、真っ赤になる妹。俺はそれを気にせず、頷いておいた。

「しかし……それまで相当、暇だよな」

 今の時刻は午前9時。

「あ! なら、紅魔館に行きたい!!」

 復活した望は興奮気味に叫ぶ。

「そう言えば、お前の好きなキャラってフランだったもんな」

「うん! お兄ちゃんはフランに会った事あるんだよね?」

「ああ、何だって今じゃ俺の妹だからな」

 望とは血が繋がっていない『義妹』。しかし、フランとは少しだけだが、血が繋がっているのだ。

「またまた~! お兄ちゃんったら冗談でも妹の前で『フランは俺の妹発言』はナンセンスだよ~」

「え? あ、ああ……」

 だが、望は全く信じていないようだ。実際に会えば理解してくれるだろうと踏んだのでスルー。

「とりあえず、紫。何かわかり次第、連絡くれ」

「わかったわ」

「それじゃあ、早速行くか。飛べると言ってもここからじゃ結構、遠いからな」

 しかも、望を背負わなければいけない。お昼までに着くだろうか。

「ああ、一番大事な事を忘れていたわ」

 今回の事件に協力してくれた皆に挨拶していると紫に預けたままになっていたPSPを渡してくれた。

「お? メンテ、サンキュな」

 それを受け取ってすぐにスキホに収納。

「それと……これも完成したわ」

「え?」

 紫が差し出して来たのはかなり前に頼んだ物だった。

「で、出来たのか!?」

「ええ。調節がかなり、難しかったけど何とか使えると思うわよ? まぁ、貴方の推測が合っていれば話だけど」

「ありがとう! これでまた、新しい戦い方が出来そうだ!」

 頼んでいた物を受け取って、スキホの中のPSPと同じ場所に収納する。

「あまり、夜遅くにならないでね?」

 そろそろ、出発しようかと思っていると霊夢が最後に話しかけて来た。

「おう。お前もありがとな。ずっと、結界を貼ってくれて」

「別にこれが博麗の巫女の仕事だもの」

「……そうかい。じゃあ、行くわ」

「行ってらっしゃい」

 こうして、この事件は解決し俺と望は紅魔館に向かった。

 

 

 

 

 

 だが、この事件は終わっちゃいなかったのだ。いや、やっと始まったと言っていいだろう。俺はこの件を後回しにした事を数日後、後悔する事になる。

 


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