東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第126話 道中

「うわああああああああ!」

「お兄ちゃん、右!」

 背中にいる望の指示通り、右に旋回。すると、背後から弾が俺たちを追い抜いた。

「待てー!」

 後ろからルーミアの声が聞こえる。

「今日は遊べないって言ってるだろ!?」

 永遠亭を出発してから早1時間。俺と望はルーミアの遊び(と言う名の本気の弾幕ごっこ)に巻き込まれていた。

「だって、1週間も遊べなかったんだもん!」

「だから、また今度たくさん遊んでやるって言ってんじゃん!!」

「左!」

「のわっ!?」

 望の能力のおかげで何とか回避した。だが、これじゃいつまで持つか分かったもんじゃない。

(せめて、この姿じゃなかったらな……)

 半吸血鬼化した体じゃまともに戦えない。翼があるから飛べるには飛べるが、弾幕が放てないのだ。それに自分の能力すら把握していない状況で戦えるはずがない。何とかして逃げなければ望に怪我をさせてしまう。

「上と下から同時に来るよ! 速度アップ!」

 結構なスピードで飛んでいたが、更にスピードを上げる。次の瞬間に後ろから弾幕同士がぶつかったのだろう。爆発音が轟いた。だが、望がいてくれたおかげで後ろを見なくても弾幕の軌道がわかるのはありがたい。それにしても――。

「何か、能力の発動率が高くなってない?」

「う~ん、なんか弾幕の時とか高くなるみたい。あ、真後ろからレーザー来るよ」

 何だが、俺も望もこの状況に慣れ始めている。今も右に少しだけ移動してレーザーを躱した。

「とりあえず、俺の内ポケットにスペルカード、入ってるからそこから『分身』を出してくれ」

「了解。左から2つ。右から3つ。上から1つ来るよ……っと、これかな?」

「サンキュ。口の前に持って来てくれ」

 望が取り出したスペルカードを口でくわえてそのまま、宣言。

「ひゅんしん『ふりーほうふぁあふぁいんほ』!」

 きちんと発音出来なかったが、俺が3人に分身する。分身二人がルーミアに向かって突撃。その隙に本体の俺は一目散に逃げる。

「あー!! 待ってよ!! まだ、終わってないんだから!!」

 ルーミアの叫びが聞こえたが、スルーして紅魔館を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……どうなるかと思ったね」

「ああ。助かったよ」

 霧の湖上空。さすがにルーミアもここまでは追って来ないと踏んだのでスピードを落として飛んでいた。

「それにしてもお兄ちゃん、人気者だね。ルーミアの前にはリグルとか大ちゃんとかも挨拶しに来たし」

「自分でもよくわからんが、寄って来るんだよ」

 そう言えば、最初に会った頃からルーミアとか集まって来た。どうしてなのかは今でも分からない。

「んー、でもものすごく嫌な予感がするだけど?」

「え? 俺も何だけど……」

 この流れはきっと、あいつも来るに決まっている。

「あー! 響だー! 遊べー!」

「「ほーら、やっぱりチルノが来たよ」」

 また、逃走劇が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「うおーい……美鈴~……」

 紅魔館の門にて、フラフラの俺は門番をしていた(珍しく起きていた)美鈴に声をかけた。

「きょ、響さん!! 大丈夫ですか!?」

「へ?」

 しかし、俺の姿を視界に捉えた美鈴が目を見開き、駆け寄って来る。

「ど、どうしたんだ?」

 あまりにも美鈴が険しい表情を浮かべていたので戸惑ってしまった。

「だ、だって……ほぼ毎日欠かさず通っていたのに急に来なくなってしまったので怪我でもしたんじゃないかって……」

「あー、ちょっと呪いにかかって寝てたわ」

「ああ、そうなんですか~。それならよかった……いやいや、良くないですよ! 軽い感じで言われたのでものすごく軽い感じで返しちゃったじゃないですか!?」

 美鈴のノリツッコミは今日も調子がいい。このやり取りも久しぶりだ。

「いや~、生きてて良かったよ」

 心からそう思う。死んでたら望にも会えなかったし楽しい事も何も感じる事が出来なくなってしまうのだ。

「この場合、その言葉って思いのほか重たいですからね! あれ? 響さん、なんかいつもと違います? 気がまるで、お嬢様やフラン様のような……」

「ああ、半吸血鬼だし」

「あ~! なるほど! だから、お嬢様たちと同じような気ですねってえええ!?」

 本当に美鈴はいいリアクションを取ってくれる。

「ど、どうしてですか? ま、まさか今更フラン様の血が……その翼もお嬢様とフラン様の翼を足して2で割ったような姿をしていますし」

「え? 去年の秋ぐらいからだけど」

「結構前ですね!?」

「何か、この姿だとこっちに来れなくてな。満月の日だけ来ないのはそれが理由だ」

 『もう、響さん。人間じゃなくなってます……』と言う中国の呟きは聞こえなかった事にした。

「あ! そうだ! 一刻も早くフラン様に会いに行ってください!! 響さんが来なくて最近、機嫌が悪くて……」

 美鈴は紅魔館メンバーの中でもフランと弾幕ごっこする機会が多い。相当、やられたのだろう。

「了解……でも、その前に今日は連れがいるんだ」

「連れ、ですか?」

「うん。望ー!」

 少し離れた場所にいた望に声をかける。すると、おそるおそる望が物陰から出て来た。

「ど、どーもー……望です」

「あ、どうも。紅 美鈴です」

 お互いにぺこりと頭を下げて挨拶。

「今日はこいつに紅魔館を案内したいんだけどいいかな?」

「え? あ、はい。響さんの連れならお嬢様も許してくれると思います。因みにお二人のご関係は?」

「妹」

「あ~! 妹さんですか~……ってえええええええ!!?」

 俺の『呪いかかった発言』や『半吸血鬼化発言』の時よりも大げさに仰け反り、驚く美鈴。

「ど、どうした?」

「だ、駄目です……今のフラン様に望さんを会せたら紅魔館が崩壊してしまいます!」

「「へ?」」

 美鈴が変な事を言ったので首を傾げる俺と望。

「大丈夫だろ?」

「いいえ! まずいです! とにかく、今日の所はお帰り下さい!」

「だが、断る」

 面倒になって来たので目に力を入れて『狂眼』を発動。美鈴と目を合わせる。

「なっ!?」

 さすがに気絶させるのは気が引けたので体が上手く動かせないようにしてその横を通り過ぎた。

「じゃあ、また帰りにな」

「ま、待って!! 本当にまずいんですからあああああああ!! の、望さん! 危険ですから戻って来てくださいいいいい!!」

「さようなら、美鈴さん」

 望もゲームで美鈴のキャラを知っているのできっちりスルーしてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ! ホントに紅い!」

 紅魔館エントランス。望が歓喜の声を上げる。それはまるで、玩具を買って貰った子供のようで思わず、微笑んでしまった。

「とりあえず、フランの所に行くか?」

「うん!」

「えっと……この時間なら図書館にいるかな?」

 フランの行動パターンはだいたい把握している。いつもなら図書館で本を読んでいるはずだ。

「図書館と言う事はパチュリーにも会える?」

 そのセリフを聞くと動物園に来た人みたいだ。

「まぁ、あいつはあそこからほとんど動かないしな」

「『動かない大図書館』だもんね」

「じゃあ、行くか」

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「弟様!」

 図書館に向かっている途中で目の前に咲夜が現れた。とても焦っているらしい。

「どうした?」

「美鈴の言ってた事は本当だったみたいね……そちらが弟様の妹様ですか?」

「え? あ、はい。音無 望です」

 最初に何かぶつぶつと言っていた咲夜が望に質問する。少し、望は戸惑ったように自己紹介した。

「どうしてこんな時に来たんですか!?」

 すぐに血相を変えて叫ぶ咲夜。

「な、何なんだよ。一体、お前と言い、美鈴と言い……」

 美鈴はともかく、咲夜がここまで焦っているのは危険だ。その時、どこからか爆音が轟く。

「ッ!? お兄ちゃん! 下から来る!!」

「咲夜! 逃げろ!」

 叫びながら望を抱え、翼を駆使して数十メートル後方にジャンプした。そして、間髪入れず廊下の床が爆発する。

「おにいいいいいいいいさああああああああああまあああああああああああああ!!!」

 爆発音に負けないほどの声量でフランが俺を呼んだ。

 


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