東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第130話 狼

「はぁ~……疲れた」

 背中で少しだけぐったりとした望が溜息交じりに呟いた。

「まぁ、最終的には弾幕ごっこだったもんな」

 テンションが上がったフランが弾を撃ち始めて俺と望が協力(俺は望を背負い、望はオペレートした)して、躱し続けるものだ。

「ん?」

 そこで眼下に広がる森を眺めていたのか変な声を上げる望。

「どうした?」

「なんか、あそこで戦ってる雰囲気がする」

(いや、雰囲気って……)

 最早、穴ではなくなってしまった。

「もし、人里の人間だったら困るから様子を見に行くぞ」

「了解」

 すぐに方向転換し、望が指さす方へ降下し始める。

 

 

 

 

 

 

 

「バゥ!」

 望が言ったポイントまで後少しの所で生き物の吠える声が聞こえた。

「魔法『探知魔眼』!」

 急いで魔眼を発動すると前方に生物の反応を7つ、察知する。動きを見ると1匹を6匹で襲っているような感じだ。

「お兄ちゃん! 助けてあげて!」

 どうやら、望も能力で状況を把握したらしく肩越しにそう叫んだ。

「言われなくても!」

 勘が『その1匹を助けろ』と言っている。地面すれすれを飛び、少しだけ開けた場所に出た。

「あれって狼?」

 着陸し、望を降ろす。それからこちらを見ずに彼女が質問する。その視線の先には血だらけの白銀の狼(だが、でかい。目線が俺とほぼ同じだ)が蜘蛛と蜂を足して2で割ったような妖怪(蜂のような羽が生えており、蜘蛛のように8本脚)と対峙していた。

「ガルッ!」

 まだ、俺たちには気付いていないようで狼が妖怪たちに向かって短く吠え、地面を蹴る。それに合わせて蜘蛛蜂の半分が地面に、もう半分が空中に移動した。

(組織を持ってる?)

 本来、妖怪はあまり群れずに単体でいる事が多い。だが、蜘蛛蜂は自分のすべき事を理解し、配置についたのだ。

「おい! 何か仕掛けて来るぞ!」

 伝わるとは思っていなかったが、大声で狼に向かって忠告した。

「ッ!?」

 しかし、狼は俺の声に反応しその場でジャンプ。同時に地面にいた蜘蛛蜂が一斉にお尻から針を射出する。針は狼がいた場所に刺さり、地面を溶かした。

「毒か!」

 今は奇跡的に躱せたが、狼は負傷している。針が命中するのは時間の問題だ。懐から博麗のお札を5枚、放り投げ印を結ぶ。

「霊盾『五芒星結界』!」

 星形の結界を狼の前に置き、空中にいた蜘蛛蜂が放った針を弾き飛ばした。

「今だ!」

 俺の登場に動揺した蜘蛛蜂に隙が出来る。狼もそれに気付いたようで地に降り立ち、一気に地面にいた蜘蛛蜂たちに詰め寄る。そして、両前脚の爪で深い切り傷を次々と付けて行く。それを見て空中の蜘蛛蜂が再び、針を狼に向けた。

「お前らの相手は俺だっての! 分身『スリーオブアカインド』!」

 3人に分身した俺は蜘蛛蜂の前に飛び出し、その道を塞いだ。妖怪は一瞬、動きを止めたが標的を俺に変更してくれた。針を2発、連続で撃った2秒後にまた1発、飛ばして来る。

「ちっ!」

 魔眼で察知したが、最初の2発を回避しても軌道的に最後の1発は当たる。結界はまだ狼を守っていて間に合わない。それに分身も他の蜘蛛蜂と戦っているので応援は頼めないだろう。だが、すぐに最後の針の軌道が急に左に逸れた。

「これならっ!」

 左に逸れた事で針と針の間に隙間が出来たのだ。そこに身を潜らせ、何とか危機を脱出。

「サンキュ! 望!」

 針の軌道を変えたのは望だ。能力を使って石をぶつけてくれたのだろう。

「頑張って!」

 妹の声援には手を軽く振るだけで答え、蜘蛛蜂に集中する。敵はもう一度、針を飛ばそうとお尻をこちらに向けた。

「雷輪『ライトニングリング』!」

 魔力があるので、『雷魔法』は使える。半吸血鬼と超高速再生能力があれば筋肉が破裂しても1秒もかからずに治るだろう。それに蜘蛛蜂は6体もいるのだ。少しでも数を減らしておいた方がいいと判断し、両手首に雷で出来たリングを装備。

「シッ!」

 今までとは比べ物にならないほどの速度で蜘蛛蜂の懐に潜り込む。蜘蛛蜂も接近されるとは思っていなかったようで驚愕したのがわかる。右手をギュッと握り、思い切り前に――蜘蛛蜂の腹目掛けて突き出した。あまりの威力に蜘蛛蜂の体が粉々に吹き飛ぶ。

(次!)

 『雷輪』の力を利用し、一瞬にして分身1と戦っている蜘蛛蜂の背後に回り込み、両手を組んで一気にその背中に振り降ろした。背中が千切れ、胴体とお尻が分裂する蜘蛛蜂。これで2体目だ。

「はぁっ!」

 急いで分身2に針を刺そうとしていた蜘蛛蜂の所に移動。移動中に体を捻って蜘蛛蜂の首に当たるように後ろ回し蹴りを放った。クリーンヒットし、蜘蛛蜂の首が遠くの方へ飛んで行くのを横目に地面まで急降下する。

「分身解除!」

 魔力の消費を出来るだけ避けたいので分身を消し、狼の背中に飛びつこうとしていた蜘蛛蜂に踵落としを喰らわせた。蜘蛛蜂の体がぐしゃりと潰れる。前を見ると狼は首に針を刺される寸前だった。

「間に合えっ!」

 両腕を力いっぱい前に振りかぶり、両手首に装備されていた雷のリングを雷弾として飛ばす。蜘蛛蜂に直撃、黒こげにした。その刹那、両腕と両足の筋肉が破裂する。

「ッ……」

 激痛に目の前がぐにゃりと歪む。最近、『雷輪』を使っていなかったからか筋肉は再生したのに体が動かなかった。その隙に蜘蛛蜂が俺の額に向かって針を飛ばして来る。

(まずっ……)

 慌てて避けようとしたが、バランスを崩してその場で尻餅をついてしまった。当たる。

「ガッ!」

 だが、狼が横から針を叩き落とした。そして、最後の蜘蛛蜂に飛びかかる。喉に噛み付き、妖怪の息の根を止めた。

「お兄ちゃん!」

 呆然としていると望が駆け寄って来る。

「大丈夫!?」

「あ、ああ……」

 まだ、ふらつく足に鞭を打って何とか立ち上がった。

「くぅん」

 狼がふらふらしながらも俺の足元までやって来る。そして、俺の頬を舐め始めた。

「ありがとうって言ってるよ」

「わかるんかい」

「何となくね」

 人間と動物の言葉の穴を見つけたのだろう。

「もう、お前にわからない事はなさそうだな……」

「ハイスペックシスター望よ」

「自分で言ってて恥ずかしくないか?」

「それは言わない約束なのに……」

 シュンとなる望は置いておくとしてまだ、ぺろぺろして来る狼の傷を観察する。相当、ひどい。針は直撃せずとも掠っていたらしく、皮膚が溶けている部分が数か所あるのだ。その他にも蜘蛛蜂以外の敵にも襲われたようで、治りかけの傷や古傷も確認できる。

「お前、大変だったんだな」

 俺の呟きに答えるように鼻を鳴らす狼。

「……ん?」

 その時、狼に違和感を覚えた。

(こいつ、どこかで?)

 確か、『魂喰異変』が起きる少し前に女の子をこの狼から助けた事がある。望なら狼と会話が出来るので確かめて貰おうと振り返ったが、いきなり体に何かがのしかかって来た。

「お、狼さん!?」

 望の悲鳴に反応して狼の方を見るとぐったりとしているではないか。

「おい! しっかりしろ!」

 血を流し過ぎているらしい。反射的に懐から博麗のお札を取り出し、本能の赴くまま、地面に貼り付けた。

「お兄ちゃん? 何してるの!?」

「結界を貼る!」

「何で!」

「狼の傷を治す効果を持った結界だ!」

 自分でもよくわかっていなかった。こんな結界、霊夢は使っていなかったし自分も結界について勉強などしていない。どうして、このような術式を知っているのかわからなかった。

「望! 狼を結界の中心に移動させるぞ!」

 一人では運ぶのに時間がかかってしまうと踏んだので妹に助けを求める。

「りょ、了解!」

 二人で頑張って狼を結界の中心に移動させ、望を結界の外に出るよう指示。

「待ってろ。すぐに治るからな?」

 横たわっている狼の背に手を乗せて励まし、結界を起動させた。

 


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