東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第132話 特徴

「遅かったじゃない。どこまで行ってたの?」

 博麗神社の境内に降り立った俺に霊夢が箒を片手に話しかけて来た。

「色々あってな」

 フランと遊んだり、霙を助けたり、ぺろぺろされたり。

「まぁ、いいわ。確か、夜は人里に行くのよね?」

「おう。慧音に呼ばれてな」

 時計を見ると午後5時。夕方だが、日没までもう少しだけ時間がある。

「お茶でも飲む?」

「頼む。望もいるか?」

「あ、はい。お願いします」

 いつものように縁側に座った。望も恐る恐る着席。

「はい、お待ちどうさま」

 あらかじめ、用意しておいてくれたのかすぐに台所の方からお盆を持った霊夢がやって来る。

「さんきゅ」

 熱いお茶が入った湯呑を受け取り、お礼を言う。啜るとお茶の苦みがほんのりと口の中に広がった。

「ありがとうございます」

 茶菓子の煎餅に手を伸ばし、バリバリと齧っている横でお茶を受け取り、頭を下げた望。

「あ、美味しい……」

「どうも。で? 何時くらいに出かけるの?」

「そうだな……満月が昇ってからかな?」

 慧音も時間指定はしていなかったし、それぐらいで大丈夫だろう。

「じゃあ、お風呂は帰ってからね。適当にそこの温泉でも使って」

「温泉?」

 俺が首を傾げると霊夢ではなく望が答えた。

「地霊殿の時に間欠泉が湧いたんだよ。その時に温泉を作ったらしいよ?」

「そうなのか?」

「ええ。少し熱めだけどいい温泉よ」

「でも、お風呂道具持ってない……」

 望がシュンとなる。安心させる為に無言でスキホを操作し、着替えやシャンプーなどお風呂道具を縁側に出現させた。それを見て望が目を見開く。

「これで大丈夫だろ?」

「さ、さすがお兄ちゃん」

 それからは満月が昇るまでまったりと過ごした。

 

 

 

 

 

 時刻は深夜。襲って来る眠気を噛み殺しながら俺は慧音の家で夜食のおにぎりを食べている。望もお腹が空いていたのか2個目に突入していた。

「こんな時間まですまない。予定よりも手こずってしまってな」

 俺の対面に座っている慧音(いつもと違って頭に角を生やし、お尻にはふわふわの尻尾がある)が申し訳なさそうな表情を浮かべながら湯呑を差し出して来る。

「いんや、大丈夫だよ。珍しいのも見れたしな」

 俺と望は慧音が満月の日にやる儀式(説明はされたのだが、歴史をどうこうするとしか理解できなかった。てか、説明の途中で寝た)を傍で見学できたのだ。

「ご馳走様」

「お粗末様。確か、これから妹紅の家に?」

「ああ、犯人像を聞いておかないと」

「ふむ……深夜だから気を付けろ。妖怪たちの活動時間だからな。それに響、いつもと能力が違うのだろう?」

 慧音の言う通り、PSPが使えない今、俺は望を背負って妹紅の家まで移動しなければならない。

「まぁ、大丈夫だろ。分身して2人態勢で俺たちを警備させればいいし」

「お前がそう言うなら大丈夫だな」

 お茶を飲み干して溜息を吐く。

「そう言えば、こんな時間にあいつ起きてるのか?」

「う~ん……五分五分かな? でも、今日は起きてると思うぞ」

「何でわかるんだ?」

「そりゃ、満月だからな」

 慧音はそれだけ言うと湯呑を傾けた。言っている意味が分からず、俺と望は顔を見合わせて首を傾げる。

「大丈夫とは言ったが、早めに行った方がいい。今日は少し曇っている」

「お、おう。じゃあ、お茶ご馳走様。行って来るよ」

 疑問を抱きながらも俺は望を連れて妹紅の家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、危なかった……」

 妹紅の家の前で着陸した俺はその場で崩れ落ちながら呟く。

「ま、まさかルーミアが昼間の仕返しに来るなんてね……」

 夜。しかも、今日は満月だ。妖怪であるルーミアの力は普段より格段に上がっていた。何とか、望のオペレーションと吸血鬼の運動能力で撃破したのだが、長期戦になってしまったため、慧音の家を出発してから1時間も経っている。

「あー、妹紅? 起きてるか?」

 ドアをノックしながら問いかけるが、応答なし。

「寝ちゃったみたいだね」

「そうだな……ん?」

 諦めて博麗神社に帰ろうかと思ったその時、屋根の上で綺麗な白髪が揺れた。

「あれ? 妹紅?」

「ん? ああ、お前たちか。こんな夜遅くどうした?」

 屋根の上からこちらを見下ろしながら妹紅。

「妹紅さんこそ、そこで何してるんですか?」

 望が問いかけると黙って屋根の上の少女は手招きした。来い、と言いたいらしい。仕方なく、望をお姫様抱っこ(負んぶするのが面倒になったので)して屋根まで飛翔する。

「おお、見せてくれるね」

「は? 何が?」

 何故か顔を紅くした望を降ろして妹紅と向き合う。

「ほら、見てみろよ」

 妹紅が指さしたのは空だった。

「「あ……」」

 空を見上げた俺たちは同時に声を漏らす。

 妹紅の家は竹林の中にある。その為、普段は空など見えやしないだが、屋根の上から見上げると何と、そこには大きな満月が浮かんでいた。

「下からだと屋根が邪魔で見えなかったと思うが、こうやって上に上がれば綺麗に見えるだろ?」

 妹紅の言う通り、ここからだと満月が竹林の隙間から顔を出しており、何とも幻想的な風景を作り出していた。

「綺麗だな……」

「うん。やっぱり、周りが暗いから星もたくさん見えるね」

 俺たちが住んでいるのは住宅街なので繁華街よりかは星が見えるが、やはり幻想郷の方が鮮明にわかる。

「それで? 何か用があったんじゃないか?」

 あまりに綺麗な景色に呆然としていた所に妹紅が質問して来た。

「あ、そうだ。お前、俺に呪いをかけた犯人を見たんだよな?」

「その話か。お前には言っておくべきだったな。確かに見たぞ。でも……」

 そこで妹紅は口を閉ざしてしまう。

「でも?」

「そいつ、二人組だったんだ」

「そいつって事は単数じゃないんですか?」

 妹紅の言葉に疑問を覚えた望が更に聞いた。

「私が見たのは2人だった。そうなんだけど戦った方は1人なんだ」

「つまり、どういう事だよ?」

「つまり……犯人だと思う男が使役してたんだよ。リーマを」

「はッ!? リーマを!?」

 思わず、大声を上げて驚いてしまう。

「誰?」

 俺の反応から知り合いだとわかったのか首を傾げながら望。

「俺が外の世界で初めて戦った妖怪だ。で、紫の誘いに乗って幻想郷で『成長屋』を営んでいる。でも、どうしてリーマが?」

「私にもわからない。リーマに話しかけたが答えないし目も虚ろだった」

「話を聞くと正気ではないようですが……」

「だから、男がリーマに何かしたんだと思うんだ」

「なるほど、リーマは巻き込まれたって事か……なら、犯人は――」

 妹紅が見たと言う男で間違いない。

「その男はどんな感じでしたか?」

 望も俺と同じ答えに至ったようですぐに男の特徴を聞いた。

「それなんだが、暗くて顔は詳しくはわからなかった。背は響よりもでかかったな。180後半ぐらいだろう」

「服装は?」

 さすがに背丈じゃ情報が少なすぎる。

「お前と同じような服装だったな。そのじーぱんって言う奴だ」

 それを聞いて俺は目を細めた。最近、外来人が増えて来て人里にも外の世界で着られているような服も売っている事がある。しかし、ジーパンはまだ見た事がない。

「お兄ちゃん、どう思う?」

「リーマを使役し、ジーパンを穿いている……正直言ってわからん」

 まるで、外の世界から来ているような風貌だ。それにリーマを使役出来ると言う事はリーマ以上に強い事も明らか。

「お前は?」

「う~ん……何となくだけど、お兄ちゃんにとってやばい相手かも」

「どうして?」

「だって、お兄ちゃんって干渉系の能力が効かないんでしょ? 干渉させるには何かを経由しないと駄目なんだよね?」

 望の質問に頷くだけで答えた。

「じゃあ、何で犯人はそれを知ってたんだろう?」

「あ……」

 確かにそうだ。この事は紫や永琳など、幻想郷でも限られた人しか知らない。それにも関わらず、犯人は薬を使って俺に呪いをかけた。

「響、大丈夫なのか? そんな奴に狙われて」

「……はっきり言っちゃえばまずい。向こうの情報はほぼ皆無。でも、敵は俺の事を調べている。こっちが不利だ」

「とりあえず、紫さんに言って1週間ぐらいお仕事休ませて貰った方がいいかも」

「ああ、私と慧音。後、あの文屋とかにも話して情報を集める。それまでは来ない方が良い」

 望と妹紅がずいずいっと俺に迫りながら心配してくれる。

「……だな。もう、死にそうになるのは嫌だし」

 そうと決まれば善は急げ。博麗神社に帰る前に紫にメールすると向こうも同じ事を考えていたらしく、1週間ほど万屋を休む事になった。

 

 

 

 

 

 しかし、この時に紫のスキマを使って急いで家に帰ればよかったのだ。事件は翌日の朝に起こった。

 


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