東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第136話 魔術師

「全く、何でお前はすぐに手を抜くんだよ」

「仕方ないだろ? まさか、スキマを使って逃げられるとは思ってなかったんだから」

 博麗神社の屋根の上。また、主と式神は話していた。

「いや、あの状況で関わりを断ちに行ったのはおかしいだろ。お前の握力なら響の頭を潰す事だって出来たはずだ」

「まぁ、そこはあいつにもっと恐怖を与えてだな?」

「あの時すでに響は気絶していた。そのせいで外の世界に避難させちゃったんだろうが」

「そ、そうだけどさ……」

 主の正論に式神は小さくなる。

「響がこっちに来る可能性は?」

「能力を断ったから多分、自力じゃ無理だな。PSPとか使わせないようにスキホだって破壊しちゃったし」

「お前、本当に馬鹿だな」

「ぐはぁ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、ダメージを受けたように仰け反る式神。

「それに誰かを生け捕りにして人質にしても連絡する手段もない。ましてや、あたしたちじゃ八雲には勝てないし」

「まぁ、俺の能力でもさすがに素の状態じゃ八雲の能力を断つ事は出来ないもんな」

「使えるのか使えないのかよくわからない能力だな」

「その能力のおかけであの成長を操る妖怪を一時的に式神に出来たけどな」

 ああ言えばこう言う式神を睨む主。

「頼むからその紅い目で睨まないでくれ……心臓に悪い」

「なら、あたしの言う事を黙って聞いておけ」

「へいへーい」

 力なく頷く式神を見て主は深い溜息を吐いた。

「……まぁ、響ならどうにかして幻想郷に来るだろう」

「何で?」

 主の言っている意味が分からず、式神は首を傾げる。

「そりゃお前を倒す為だな」

「能力もないあいつに俺が倒されるとでも?」

 1週間前の戦闘で響の実力を見た式神は余裕ぶっていた。

「……可能性はゼロじゃない。何だって響にはあいつが付いてるからな」

「あいつ?」

「きっと、お前の能力も中途半端にされてるぞ」

「……そう言えば、何かに防がれた感触があった気がしなくもない」

「それに響は本気を出してない」

 主の言葉を鼻で笑う式神。

「だって、自分が殺されそうな状況だったのに本気を出さないってあり得ないだろ?」

「じゃあ、本気になりたくてもなれなかったら?」

「え?」

「誰かのせいで枷をハメられていたら? 自分の力が強すぎて本気を出したら肉体が耐えられなかったら?」

「……なら、なおさら決着を付けたいな」

 ニヤケながら式神がそう言うと博麗神社の屋根から降りて行った。

「……はぁ」

 そんな式神を見て倒されると予測した主は溜息を吐き、一瞬にしてその姿を眩ます。そして、博麗神社の屋根には誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

俺の能力が断たれてから1週間が過ぎる。

「……ふぅ」

「どう? 出来そう?」

 心配そうに俺の手に握られたスペルカードを見ながら望。

「わかんない。自分で意図的に能力を使ったのは初めてなんだよ」

 今、俺が言った能力は元々、俺が持っていた変化する前の能力の事である。

「使ってみた?」

「いや、宣言はしてみたけど無理だった」

「え!? 失敗なんじゃないの!?」

「そうでもない。まだ馴染んでないからだと思う」

「馴染む?」

 首を傾げる望だったが、俺自身すら上手く説明出来ないのでスペルカードを制服の内ポケットに仕舞った。

「そっちの準備はどうだ?」

「うん、昨日見つけた亀裂は今もその場にあるってさっき雅ちゃんから連絡があったよ」

「お前の準備は?」

「テストしてみたけど幻想郷でも動くと思う」

 そこで時計を見る。時刻は午前10時。今日は土曜日なので講義を入れていない俺を含め、全員休みだ。

「行くか」

「今から?」

「ああ、亀裂が消えたらいつ、見つけられるかわからない。それにそろそろ、俺の体が限界だ」

 内側から溢れる霊力に体が悲鳴を上げているのだ。

「……わかった。じゃあ、雅ちゃんに連絡するね」

「こっちは悟に電話して奏楽の面倒を見て貰わないとな」

 携帯を取り出して悟に連絡し、事情を説明(まぁ、多少省いたが)すると快く頷いてくれた。それからすぐに悟が家にやって来て俺と望は亀裂を見張っている雅の所に向かった。

「これが博麗大結界の亀裂……」

 本来なら望にしか見えない。だが、望がその亀裂に触れた途端、雅にも見えるようになったのだ。それは俺も例外ではなくちゃんと見えている。

「忘れ物はないか?」

「私は大丈夫だよ。荷物ないし」

 妖怪である雅は背中に10枚の炭素の板を装備していた。普段は6枚なので最初から本気で行くつもりらしい。

「望は?」

「うん。確認したけど大丈夫。必要な物は全部持ったよ」

 望の背には大きなリュックサックがあり、今回の戦闘に役に立ちそうな物がたくさん入っている。まぁ、ほとんど通用しないと思うが。

「そう言う響はいいの?」

「ああ、博麗のお札とスペルがあれば大丈夫だし」

 指輪は今でも外せないのでメリケンサックのように殴って使おうかと思っている。

「……ないなら、行くぞ?」

 俺の言葉を聞いて頷く望と雅。

「今更だが、恐くなったら来なくていいんだぞ? 特に望は戦闘向きの能力じゃないんだから……」

「大丈夫だよ。お兄ちゃん。私は私に出来る事をするから」

 俺は望に留守番しておいて欲しかった。望を守る事を中心とした作戦だが、戦闘中は何が起こるかわからない。

「ほら、行くよ? 響」「ほら、行こ? お兄ちゃん」

 だが、二人同時にそう言われては俺に否定は出来なかった。

「よし! まず、幻想郷に入り次第、戦闘の準備を行う。その間に雅は辺りを探索し、男がいないか確認。発見しても無理に戦わず、俺たちの所に戻って来る事。もし、気付かれてしまったら、そこら辺に生えている木を倒しまくれ」

「何で?」

「そうすれば向こうの邪魔も出来るし、音で雅に危険が迫った事が俺たちにも伝わる。望は俺の傍で待機だ。俺の準備が出来たのち男の探索。そして、発見したら戦闘に入る」

「「了解!」」

「行くぞ!!」

 俺たちは躊躇いもなく亀裂の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 ターゲットの響がそこら辺にいないか探していると森がざわつき始めた。関係を繋いで情報を得る。

(誰かが現れた……人数は3人。その内、二人はその場で何かしており、一人が離れていく……)

「もしかして?」

 響かもしれないが、詳しい場所まではわからない。即席で築いた関係ではこれ以上、情報は得られなかったのだ。

「出鱈目に動くしかないか……」

 俺はジャンプし、木の枝に乗る。そして、別の木に移り、先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん。何かがこっちに近づいて来るよ」

「いきなりか……」

 幻想郷に入ってから目が紫色に光り続けている望の忠告を聞いて舌打ちをする。まだ、こちらの準備が出来ていないのだ。

「雅に戻って来いって連絡してくれ」

「わかった」

 望が頷いたのを見て俺は制服を脱ぎ、上半身裸になった。

「ちょっ!? お兄ちゃん! 何やってるの!?」

「何って……準備だよ」

「そんなの聞いてないよ!」

 だって、言ってないもん。

「急いで連絡しろって。男は後、どれくらいでここに?」

「うぅ~……そうだね。少なくとも10分はかかるかな?」

「それだけあれば必要最低限の準備は出来るな」

 急いで脱いだ制服の内ポケットから博麗のお札を取り出し、準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 木から木へと飛んでいたが急に大きな広場に出たので首を傾げる。

「……」

 その次の瞬間にはこの広場は誰かの手によって人工的に作られた物だと気付き、地面に降り立った。

「出て来いよ。音無 響」

 どうやってかはわからないが、俺がこの森にいる事を知り、わざわざ作った物だ。森からの情報ですぐにわかる。このまま、森と関係を繋いでいたら戦闘に支障が出るので断ち、広場の中心に向かう。これだけ開けた場所では不意打ちは難しいだろう。

「全く……お前の能力は一体、何なんだよ」

 そう言って木の陰から制服姿の響が現れる。

「言っただろ? 俺は全てを繋ぎ、全てを断つ能力だって」

「まぁ、『関係を操る程度の能力』とかだろうけど」

「一言一句間違ってないのが腹立つな」

「ありゃ、そらすんません」

 響は少し頭を下げるが一切、目に怯えがない。まるで、1週間前の戦いなどなかったかのように。

「覚悟はいいか? 今度こそ、お前を殺すから」

「大丈夫。俺はお前なんかに殺されるような人間じゃないから」

 そう言ってから数秒経った後、ほぼ同時に敵に向かって跳躍。俺と響は同じタイミングで右腕を引き、お互いに相手をぶち殺す勢いで思い切り、突き出した。

 




魔術師



正位置の意味
『かけひき。リーダーシップをとれる。進歩。行動を起こせる』など。

逆位置の意味
『無気力。トラブル。チャンスを逃す。反抗的』など。

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