東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第140話 塔

「……い、いやああああああああっ!?」

 俺の指摘を聞いて霙が自分の体を見た。やっと、自分が何も身に纏っていないと気付き、悲鳴を上げる。

「ご、ご主人様!? ど、どうして霙は服を着てないのでしょう!?」

 自分の体を抱いて放送コードに引っ掛かる部位を隠す霙。

「そりゃ、狼だったからだよ!!」

「う、うぅ……」

 涙目になり、霙が俺の方を見上げる。それにしても小さい。150cmないかもしれない。

「わ、わかった! 少し待ってろ!」

 急いで制服の裾を破き、霙に渡す。

「これは?」

「自分の体に当てて着たい服を創造しながら神力を流せ」

「は、はい!」

 霙は目を閉じて集中する。すると、俺が渡した制服の生地が光り輝き、霙の体を包み込み、望や雅が着ている制服に変わった。

「いや、何で制服なんだよ!」

「だ、だって服なんて見る事すらほとんどありませんでしたし、それに望さんやそちらの倒れている女の子も着てるのでこれが普通なのかと」

「……まぁ、いいや。そんな事より」

 今の騒ぎの間、男は攻撃を仕掛けて来なかった。正直言って攻撃のチャンスだったのにも関わらずにだ。

「おおっと……女の裸なんて何年も見てないから鼻血が……」

 慌てて鼻を押させている男。変態で助かった。

「雅、離れろ」

 炭素が操れなくなると言う話は本当らしく雅の背には翼がない。

「で、でも……」

「大丈夫。俺たちにまかせろ」

「……わかった」

 少し不機嫌そうに雅が望のいる方に走って行った。

「状況は把握してるか?」

 男がティッシュを鼻に詰めている間に霙に質問する。共闘するには味方が出来る事を確認しておかなければならない。

「はい、スペルカードを通してだいたいの事は伝わっていましたので」

 霙は男を凝視しながら答える。向こうの攻撃に備える為だ。

「お前の能力は俺が考えているので合ってる?」

「多分、合ってます。あ、狼モードにもなれますので指示していただければいつでも」

「狼モードのなる事によってどんな事が出来る?」

「そうですね……スピードが速くなり、ご主人様たちを背中に乗せて移動できます。ご主人様、望さん。先ほど、ご主人様が雅と呼んでいた方を全員、乗せても大丈夫です」

「……さんきゅ」

 もう少し聞きたい事もあったが、男がこちらを見たので質疑応答はここで終わりだ。

「ふぅ……吃驚したぜ。まさか、俺が関係を断ってから新たな式神を手に入れてるとは」

「契約はさっき済ませたばかりだけどな」

 俺もまさか、出来るとは思っていなかったので準備を放置していたのも原因だが、ここは必死に準備を進めてくれた早苗や神奈子に感謝だ。

「そう簡単に孤独にはならないってわけか……やっぱり、お前は強いな!」

 そう言って男がジッポライターに火を灯し、火球をいくつも飛ばして来る。

「霙!」

「了解であります!」

 頷きながら霙が俺の前に飛び出し、右手を前に突き出す。そして、再び大量の水蒸気が辺りに拡散した。

「水蒸気!? あの式神が召喚された時の煙って水蒸気だったのか!?」

 どうやら、男は霙が召喚された時に発生した水蒸気を式神が召喚される時に漏れる煙だと勘違いしていたらしい。

「ナイス、霙!」

「これぐらいお安い御用です!」

 次々と火球を防ぐ霙。その度に水蒸気が発生し、周りが見えなくなる。

「望、男の様子は?」

『動揺しているようですが、攻撃の手をやめようとはしていないようです。それと雅ちゃんがとても不機嫌になってます』

 まぁ、雅の方が最初に式神になりたいと言っていたのに出会ってまだ、1週間ほどしか経ってない霙がもう式神になっているのだから無理もない。

「すまん、雅」

『い、いいよ。悔しいけど今はその子の方が戦力になるから……』

「ご主人様? 誰と話しているのですか?」

 凄まじいスピードで手を動かしながら霙が質問して来る。

「望と雅だよ」

「テレパシーとかですか?」

「いや、トランシーバー。遠い所にいる人と話が出来る機械だよ」

 『なるほど』とイマイチ理解していない様子で霙が呟く。そこでやっと、男が火球を飛ばすのをやめた。

「……おい、そこのケモ耳巨乳少女」

 男が変な名前で霙を呼ぶ。

(まぁ、確かに霙……でかいけど。下手したら半吸血鬼化した時の俺よりでかいんじゃないか?)

「な、何?」

 霙が戸惑いながら応えた。

「お前……何をした。召喚された時、神狼って言ってたけど普通の神力じゃ水蒸気なんか出ない」

 男の問いかけを聞いて霙がこちらを見る。答えてもいいか聞いているのだろう。俺も黙って頷く。これ以上、火球を飛ばされては攻撃のしようがない。火球では俺たちを倒せないと思わせた方がいいと判断したのだ。

「名前は霙」

「霙? 天気のあれか?」

「そう、雪と雨が混ざった天気」

「……そうか。名前か!」

 神は名前がないとどんどん、神力を失っていく。そりゃそうだ。信仰する神に名前がないと人はどうやってその神の存在を知る? つまり、神にとって名前が命同然。

「霙、雪と雨が混ざった天気」

 もう一度、自分の名前の意味を呟いた霙は右手の平を空に向ける。

「雨は水」

 その瞬間、右手に水の弾が出現した。

「雪は氷」

 今度は地面を蹴ってそこから氷で出来た小ぶりの鎌を創り出す。

「霙は水と氷を操る事が出来る。ご主人様が付けてくれた大切な名前」

 氷の鎌を手に持って俺に手渡しながら霙がそう言ってくれる。

「神力を使えばこれぐらい簡単です。さぁ、そこの悪い人。覚悟はいいですか?」

「水と氷か……良い名前を貰ったな。でも、すまんが名付け親は今、ここで殺す」

 男がライターをポケットに仕舞い、構えた。

「霙、狼モード」

「了解であります」

 指示すると霙がその場でジャンプし、一瞬にして大きな狼の姿になる。しかし、前と違って水色の首輪が付いていた。

(服を首輪にしたか……これで人の姿になった時にまた服に出来る)

 自分の式神に感心しながら氷の鎌に霊力を流す。それから思い切り、地面に叩き付けて壊れない事を確認した。霙の神力ですでに頑丈に出来ていたが霊力で更に丈夫にしたのだ。

「よっと」

 霙の背に飛び乗り、鎌をくるくると回して調子を確かめる。大丈夫。行ける。

「ここからだ。男」

 ピシピシと地面から聞こえた。どうやら、霙が冷気を撒き散らした事によって地面が凍ってしまったらしい。

「望、サポート頼む」

『……は、い』

「望?」

 望の声音に違和感を覚えた。何か苦しそうな気がする。

『だい、じょうぶ、です……そんな事より、お兄ちゃん。男の能力に、ついてわかり、ました……』

「おい! 望!?」

『大変だよ、響! 望が苦しそう!!』

 やってしまった。俺が自分で言っていたじゃないか。『望の能力は肉体にかなりの負荷をかける。常に使っていたら体を壊してしまう』と。男の戦闘中、望はずっと能力を使っていたではないか。

(何で気付かなかったんだ!!)

「霙、望の方へ移動! 雅は望を抱っこしろ!!」

 すぐに式神と仮式に指示を飛ばす。

「おい! 逃げるのか!」

 霙が望の方――男とは逆方向に走り始めたので逃げると思ったようだ

「ちょっと黙ってろ! 俺は逃げないから!」

 俺も叫ぶ。今はそれ所じゃない。

「雅、霙。望を永遠亭まで運んでくれ」

 望の元に到着し、俺は霙から降りてそう指示する。

「え……響は?」

「あいつを放っておけない。追いかけて来るに決まってるだろ」

「駄目、だよ……お兄ちゃん」

 望は息を荒くして俺の制服の裾を摘まむ。

「駄目だ。雅、霙に乗れ」

「……わかった」

 雅も望が限界だと思っているようで、素直に望と一緒に霙の背に飛び乗る。

「待って……情報だけでも」

「移動しながらトランシーバーで伝えてくれ」

「逃がすわけないだろうが!!」

 男が一瞬にして俺たちの前に出現した。『絶壁』を迂回して来たようで今から移動させても間に合わない。

「させねーよ!!」

 霙が作ってくれた鎌で男の拳を受け止める。

「ぐっ……」

 凄まじい威力に数センチ、押されるが何とか留まった。

「響!」「お兄ちゃん!」

「霙、行け!」

「バゥ!」

 吠えて霙は駆け出す。そして、すぐ見えなくなった。

「いいのか? お前一人でこの俺の勝てるとでも?」

「俺はまだ一人じゃない。霙とも繋がってるし何より、俺たちの関係はお前の能力なんかで断てるような関係じゃないんだよ!」

 その時、鎌に亀裂が走る。それほど男のパンチが強いのだろう。

『響。トランシーバーの電波が届くギリギリまで男の能力について説明するよ』

 雅の声が聞こえる。望の代わりに説明してくれるようだ。

「さぁ、ここからだ。音無 響」

「わかってる。お前も覚悟はいいか?」

 雅の説明を聞きながら俺と男は互いに睨み合いながら笑う。そして、氷の鎌が壊れた。

 







正位置の意味
『事故。トラブル。限界を超えたことで気が付く無理。災難』など。

逆位置の意味
『崩壊。身一つになる。大きな失敗。後悔する』など。

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