東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第144話 世界

「で、出来た!!」

 僕は出来立てほやほやの人形をギュッと抱きしめながら叫ぶ。

「初めてにしては上出来よ。これなら魔力の糸で操ってもそう簡単に壊れないわ」

 アリスさんも笑顔で褒めてくれた。

「次はどうするんですか?」

「そうね……とりあえず、試運転でもしましょう。魔力の糸は作れる?」

「いえ……さすがに」

 少し前まで自分に魔力がある事すら知らなかったのにそれをコントロールするなど無理に等しいだろう。

「コツとかありますか?」

「え? う、う~ん……私はもう慣れちゃったから感覚的に出来ちゃうのよ。そうね、最初は1本だけ伸ばして人形の頭に繋いで軽く動かせるように練習しましょうか」

「はい!」

 それから、アリスさんから魔力がどんな物か教えて貰いながら手探りで魔力を操作する。最初は魔力にすら触れられなかったが、どんどん体の中に流れている魔力を感じ取れるようになった。

「いい? ゆっくり伸ばしていくのよ?」

「は、はい……」

 右手の人差し指に魔力を凝縮させ、卓袱台の上に置いてある人形まで伸ばす段階まで成長した僕。でも、この段階ですでに20回は失敗している。途中で途切れてしまうのだ。

(大丈夫……出来る)

 深呼吸し、指先からゆっくりと魔力の糸を伸ばしてゆく。伸ばしていくと糸も細くなって行き、切れやすくなるのだ。アリスさんも固唾を飲んで見守ってくれていた。

「……で、出来た?」

 感覚的に人形の頭に糸は届いたのだが、実際に目では見えないのでアリスさんに問いかける。

「出来てるわ。成功よ」

「や、やったああああああ!!」

 糸が切れないように喜ぶ。次の段階である頭を動かそうと糸に更に魔力を流した。その刹那――。

「え!?」「なっ!?」

 突然、人形が光り出した。あまりにもその光が強すぎて僕もアリスさんも目を庇ってしまう。

「きょ、キョウ君。大丈夫?」

「え、ええ……何とかってあれ?」

 光が弱まり、目を開けて人形の様子を見ようとしたが、卓袱台の上には何もなかった。

「に、人形は?」

「キョウ君、糸はまだ繋がってる?」

「え? あ、すみません。切れちゃいまし……ん?」

 糸は切れているのだが、魔力は何かに注がれ続けているのがわかる。

「どうかしたの?」

「えっと……糸は切れてるんですが、何かに魔力を注いでるようです。無意識なのでよくわからないんですが……」

「魔力を注いでる? その方向は?」

「んー、あっちですかね?」

 丁度、縁側の方だった。僕は立ち上がって縁側に出る。

「マスタあああああああああああ!!」

「うわっ!?」

 その途端に横から何かにタックルされてしまった。反動で外に飛び出し、地面に叩き付けられる。

「だ、大丈夫!? キョウ……君」

 慌てた様子でアリスさんの声が聞こえたが、何故か最後の方は小さくなった。何かを見て驚いているかのように。

「いたた……ん?」

 タックルされた所を擦ろうと手を伸ばしたが、何かに触れる。そこを見ると僕が作った人形がいた。

「あ、れ?」

「マスター! マスター!」

 その人形は僕の腰にしがみ付き、頭をすりすりしながら『マスター』と連呼している。

「キョウ君、何か操作してる?」

「い、いえ……全くです」

 僕だけではなく人形遣いであるアリスさんでもこの現象は初めて見るようだ。

「嘘でしょ……完全自律型人形?」

「何ですか? それ」

 いい加減、人形を放っておくわけにも行かず、アリスさんに質問しながら人形を両手で掴んで引き剥がした。人形はジタバタと暴れて俺にくっ付こうとする。落ち着かせる為に抱き抱えた。すると、人形が『温かいです~』と言いながら暴れるのをやめる。

「人と同じように自分の意志を持った人形の事よ。私、それを完成させる為にずっと、研究してたの。そ、それが目の前に……」

 アリスさんは靴も履かずに僕の傍までやって来て、僕の人形に手を伸ばした。

「ま、マスター! こ、この人は!?」

 だが、人形はアリスさんを見て怯えてしまう。

「アリスさんだよ。僕が君を作るきっかけを作ってくれた人だよ」

「つまり、この方がいたから私はマスターに会えたのですね?」

「うん、そうだよ」

 どうやら、この人形は少しだけ人見知りをするようだ。作られてからすぐなので仕方ないのかもしれない。

「は、初めまして……アリスさん。私は――」

 しかし、そこで止まってしまう人形。

「どうしたの?」

 アリスさんが首を傾げながら質問した。

「名前……私の名前、何でしょう?」

 僕の方を見上げて人形が聞いて来る。そう言えば、決めていなかった。

「キョウ君、決めて上げて」

「は、はい!」

 返事してジッと人形を観察する。見た目は人間のようではなくアニメに出て来るような可愛い顔にした。服装は白と黒を主としたメイド服。アリスさんの持っていた生地で一番、作りやすい物だったのだ。そして、僕の事を『マスター』と呼んでいたし、先ほどもくっ付いて来た。好かれているらしい。

「そうだね……『桔梗』、なんてどう?」

「桔梗……」

 僕の言葉を繰り返した人形は僕の目を見つめ続けた。もしかして、名前の由来を言って欲しいのかもしれない。

「えっとね? 前に図鑑で読んだんだけど、桔梗の花言葉って『誠実』や『従順』って意味なんだ」

 それを聞いて人形はわたわたし始める。何かに動揺しているらしい。

「ま、マスター……わ、たし! 頑張って、マスターの為に働きますね!」

「あ、そうか。君の主人って僕なんだった」

 すっかり、忘れていた。

「もちろんですよ! 私はマスター以外の人の言う事を聞くつもりはありません! 本当に素敵な名前をありがとうございます!!」

 そう言いながら頭を下げる人形。

「えっと、後ね? もう一つ、理由があるんだけど……」

「? はい、何でしょう?」

 少し恥ずかしくて言い出せずにいたのだが、人形――桔梗が促してくれる。

「僕の名前、『キョウ』なんだ。だから、同じ『キョウ』が付く『キキョウ』がいいかなって。よくあるでしょ? 親が自分の名前の一部を子供の名前に使うのって」

 僕の説明を聞いた桔梗は目を見開いて(桔梗は人形だが、口を動かしたり瞬きが出来るらしい)僕の顔を見ていた。

「だめ、かな?」

「そ、そそそそ! そんな意味まで込めて下さるなんて……私は何て幸せ者なんでしょう!」

 顔を真っ赤に(人形なのに)して桔梗が俺の胸に頭を押し付ける。

「いい名前ね。キョウ君」

「ありがとうございます、アリスさん。これもアリスさんが人形の作り方を教えてくれたからです」

「いえいえ。私も完全自律型人形が見れて本当によかったわ。後は自分の手で桔梗みたいな人形を作れるようになるだけね」

 笑顔でアリスさんが僕の頭に手を乗せてくれた。何だが、くすぐったい気持ちになる。

「……マスター」

「何? 桔梗」

 だが、桔梗を見ると不機嫌そうにしていた。

「何でもありません」

「?」

「あらあら……キョウ君はすごい人形を作っちゃったのね」

 少し困ったような、それでいて嬉しそうにアリスさんがそう言ったが、僕には全く意味がわからなかった。

「あ、そうだ。アリスさん。お願いがあるんですが……」

 僕の腕から飛び出し、アリスさんの肩に着陸して話しかける桔梗。

「何かしら?」

「私、武器とか持ってません。マスターを守る為の武器を用意してくれると助かります」

「そうね……桔梗の体は練習用の人形だから専用の武器がないのよ」

 そう言えば、作る前にアリスさんがそのような事を言っていたような気がする。上海さんは弾幕ごっこでも活躍できるようビームを撃ったり出来るらしいが、さすがに人形初心者の僕には操れるわけもなく最初は練習用の――武器を搭載していない人形を作ったのだ。

「え……じゃあ、私は戦えないのですか? マスターの魔力から幻想郷についてのデータを頂いた所、かなり戦闘が多い場所だと思ったのですが」

「まぁ……多いわね。弾幕ごっことか皆、頻繁にやってるし。キョウ君が巻き込まれる可能性もゼロじゃないわね」

「なら! 尚更、武器が必要じゃないですか!」

「桔梗? 僕、一応戦えるよ? 先生に鎌の使い方も習ったし」

 興奮し始めた桔梗を抑える為に教えた。

「でも、ここの戦いは弾幕って言って遠距離攻撃が主なの。さすがに鎌一本じゃ心細いと思うわ」

 しかし、アリスさんに反論されてしまう。

「仕方ありません……この身を盾にしてマスターを守らなければ」

「それだけはしないで」

 アリスさんの肩に乗っていた桔梗を両手で持ち上げて、言い放つ。

「マスター?」

「それだけは駄目だよ? 桔梗を犠牲にして僕は生き残りたくない」

「で、でも!」

「駄目。折角、友達になれたのに」

 僕は比較的一人でいる事が多かった。近所に友達は悟しかいないし、両親は仕事でいつも帰って来るのが遅い。もう、自分では慣れたと思っていたのだが、やはり心の中で寂しいと思っていたようだ。桔梗が傍にいてくれたら僕はすごく嬉しいし楽しいと思う。

「マスター……ですが、私はマスターを守りたいです」

 しかし、桔梗も僕の目を真っ直ぐ見て言った。

「方法はなくもないわ」

「「え?」」

 アリスさんが顎に手を当てながらそう呟く。僕たちは同時にアリスさんを見た。

 




世界


正位置の意味
『完成する。最高潮。頭打ちになる。完全に出来る』など。

逆位置の意味
『どうしても完成しない。はかどらない。進展しない。限界に気付く』など。

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