東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第149話 女教皇

「いらっしゃいま……せ」

「……よう」

 リーマが営んでいる成長屋のドアを開けた俺を見た店主は絶句していた。俺もリーマの様子を見て戸惑いながらも店の中に入る。

「……何しに来たの?」

「まぁ、なんだ……男は倒した。それだけ、言いたくてね」

「あいつを? よく、殺されなかったわね」

「危なかったけどな」

 霙やタロット、そしてダブルコスプレがなければ、簡単に殺されていただろう。

「……ゴメン」

 手に持っていた花瓶をテーブルの上に置いてリーマが謝る。

「え?」

「だって……私の意志じゃないとはいえ、貴女を攻撃したわけだし」

「仕方ないだろ? 男の能力のせいだ」

「そうだけど……」

「なぁ? お前、妖怪の中でも強い方だろ?」

 確か、リグル以上アリス以下だったと思う。アリスは魔女か。

「そこら辺の妖怪よりはね」

「男の能力の容量じゃお前を使役出来なかったと思うんだけど」

「あの時は油断してたから。お客のフリをして来て」

 確かに男の能力を防御する為には強い意志が必要だ。何も対策をしていないと簡単に繋がれてしまう。

「本当にゴメン。もっと、気を付けていれば」

「だから、お前のせいじゃないって。それなら俺だって呪いにかからなきゃお前をこんな目に遭わせる事もなかったわけだし」

「う、うーん……それでもなんか気がおさまらないって言うか……そうだ。男を倒してくれたお礼に何かしなきゃね」

「え? いいよ。元々、倒さなきゃいけない相手だったから」

「なら、私の敵討ちをしてくれたお礼って事で。何がいい?」

 リーマがそう聞いて来るが急にそのような事を言われても戸惑ってしまうだけだ。

「そうだな……どうしよう?」

「私が聞いてるのよ……全く。ちょっと、スペルカード貸してみなさい」

「あ、ああ」

 制服の内ポケットに入っていた白紙のスペルをリーマに渡す。受け取ったリーマは目を閉じてスペルに力を込めた。

「はい。これでいいわ」

「これって……」

「式神、にはなりたくないけど……まぁ、たまになら呼んでもいいわ。ただし、私も店があるんだからね」

 そう言って『仮契約』と書かれたスペルを渡して来る。

「よく出来たな。雅の時は杯を交わしたのに」

「貴女には助けられたからね。そのせいで貴女と私に上下関係が生まれたみたい。今は貴女の方が上よ」

 もう一度、スペルを見る。

「わかった……大事にさせて貰うよ。まぁ、呼ぶ事は少ないと思うけどな」

「……へぇ? 仮式一体で十分だって言うの?」

 少し、イラッとした表情でリーマ。

「いや、俺には仲間が増えたからな」

 その時、店の外で霙の吠える声が聞こえた。どうやら、聞き耳を立てていたようだ。

「そう」

「もちろん、お前だって仲間だよ。困った時は助けて貰うから」

「……ええ。わかったわ」

 頷いたリーマが微笑んで手を差し伸べて来る。俺も同じように手を伸ばしてギュッと握手した。

 

 

 

 

 

 

 男を倒してから1週間が経ったある日。

「ただいまぁ」

 スキマを通って帰宅。久々にフランと弾幕ごっこをして疲れた。

「おかえりー」

 居間に入ると望が笑顔で言ってくれる。

「今日はどうだった?」

「フランと弾幕ごっこ」

「うわ、それは大変だったね。勝った?」

「何とかな。全く、途中からレミリアも乱入して来てハチャメチャになったよ」

「あ、響。おかえりなさい」

 お風呂場から雅が出て来る。どうやら、お風呂に入っていたらしい。

「おう、ただいま」

「おにーちゃん! おかえり!!」

 その後ろから霙(子犬モード。雅と一緒にお風呂に入っていたらしく、毛は濡れていた。子犬モードといっても奏楽よりでかい)の背中に乗って髪がびちゃびちゃのまま奏楽が現れた。

「あ! こら、奏楽! 裸のまま出て来たら風邪引いちゃうでしょ!」

「私にお任せください!」

 その瞬間、子犬だった霙が擬人モードに変化する。奏楽が落ちないようにちゃんと四つん這いの状態だ。

「……」

 咄嗟に俺は目を逸らす。

「あああ!? 霙! 服!」

 慌てて雅がバスタオルを霙に投げた。

「え? あ! お風呂に入る時、首輪を外してしまいました!? ご主人様! どうしましょう!!」

「とりあえず、犬に戻れ!」

「私は犬ではありません! 狼です!」

「いいから、早く服を着ろおおおおお!!」

 俺の悲鳴が家の中を木霊する。

 結局、霙は外の世界について来た。と言うより、置いて行こうとしたらのしかかってきて動けなくなってしまったのだ。そして、仕方なく、外の世界に。

 さすがに外の世界で狼の姿でいるのはまずい。でも、擬人モードでも狼の耳が目立ってしまうのでどうしようかと悩み、子犬モードを思い付いたのだ。他の人から見たら大型犬だと思うだろうけど。

 奏楽も大いに喜んでくれた。今では奏楽専用の乗り物になっている。霙も嬉しそうだからいいとしよう。

「おにーちゃん」

 望と雅が霙をお風呂場へ連れ込み、俺は奏楽(ちゃんとパジャマを着ている)の髪をドライヤーで乾かしていた。そろそろその作業も終わりそうな時、奏楽が俺を呼んだ。

「何だ?」

「どうやれば、おにーちゃんの式神になれる?」

「……は?」

「私、おにーちゃんの式神になる!」

「……いやいやいやいや!!」

 ドライヤーを切って奏楽の顔をこちらに向ける。

「今、なんて?」

「式神になる!」

「誰だ! 奏楽にそんな事、教えたの!」

『紫さんじゃない?』

 お風呂場のドア越しに望の声が聞こえた。そう言えば、紫が奏楽を小学校に送った時、奏楽が紫にそんな事を聞いていたような気がする。

「ねぇ? どうすればなれるの?」

 顔を近づけて奏楽。

「駄目。奏楽は式神にしない」

「……ぐすっ」

 奏楽はポロポロと泣き始めてしまった。

「え!? す、すまん! えっと……」

 どうしていいのかわからず、あたふたしてしまう。

「奏楽。あまり、響を困らせちゃ駄目だよ?」

 雅がお風呂場から出て来て奏楽の頭に手を乗せながら言った。

「だって……おにーちゃん、私を式神にしないって」

「それはね? 奏楽を大事にしたいからだよ?」

「え?」

「だって、私を見なよ。式神としてこき使われて……」

 雅の目から光が消えた。まぁ、仮式だから仕方ない。

「……でも、なりたい!」

「いいの? ボロ雑巾のように扱われて最後は捨てられるんだよ?」

「さすがに捨てないよ!」

「ボロ雑巾の方は否定しないの!?」

 自分で言っておいて何を言うか、この仮式は。

「おにーちゃん、駄目?」

「……はいはい」

 仕方ない。リーマと同じように繋げるだけでスペルを使わないようにしよう。白紙のスペルを取り出し、奏楽に渡す。

「これに霊力を込めてくれ」

「うん!」

 目をギュッと閉じて一生懸命、霊力をスペルに込めて奏楽がスペルを返してくれた。

「これでお前と仮契約な」

「ありがと! おにーちゃん!」

 ニコニコしながら奏楽が俺に近づいて来て――俺のほっぺにキスする。

(なっ!?)

 その途端、持っていたスペルから眩い光が放たれた。あまりの眩しさに俺は思わず、目を閉じてしまう。

「お兄ちゃん!? どうしたの!?」「ご主人様! 敵襲ですか!」

 お風呂場から慌てて二人が出て来た頃には光は弱くなっていた。しかし、俺と雅は動けずにいる。何故なら――。

 

 

 

 ――奏楽の髪が真っ白になっていたからだ。いや、それだけではない。体が大きくなっている。見た目からして望や雅ぐらい。いや、それ以上だと推測できた。服装も過去の俺が出会った時に着ていたあの真っ白なワンピースに変わっている。

 

 

 

「お兄さん? どうしたの?」

 首を傾げて奏楽が問いかけて来た。落ち着きのある声音だ。しかも、呼び方も変わっている。

「お、お前……その姿は?」

「え? あ……なんか、大きくなってる」

 今更、自分の体に起きた変化に気付く奏楽。

『きっと、響の正式な式神になったからね。奏楽の能力が響の魂との共鳴率を上げて雅や霙以上に力が強まったのね』

 吸血鬼が解説してくれる。頭の中でお礼を言っておく。

「これで私もお兄さんの式神になれたのかな?」

「え……あ、いや」

 俺の首に腕を回しながら奏楽が質問して来た。なんか、その仕草が変に大人っぽくて動けなくなってしまう。

「奏楽! お兄ちゃんを誘惑しちゃ駄目!」

「ちょっと! 私より早く式神にならないでよ! まだ、私仮式なのに!!」

「そうです! ご主人様の式神は私と雅さんだけで十分であります!」

 望、雅、霙が奏楽に向かって叫ぶが奏楽はそれを無視して俺にしがみ付いて来る。どうやら、体と口調は大人っぽくなっているが頭は子供のままらしい。

「はぁ……」

 これで俺の式神は仮式を含めて4人。力の供給量はさほどの物ではないが、今後、生き残れるのだろうか。

(まぁ、大丈夫か……)

 

 

 

 目の前に守りたい人たちがいるから俺は頑張れる。

 




女教皇


正位置の意味
『理知的。良識。変化する。見えてくる未来』など。

逆位置の意味
『感情的。わがまま。不公平。裏切り』など。



これにて東方楽曲伝第4章は完結です。
1時間後にあとがきを投稿します。
では、第5章もお楽しみに!

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