東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第153話 昔話

「きょ、響ちゃん!? それはまずいんじゃ!?」

 雅が道路の真ん中で伸びているのを見て怜奈が叫んだ。

「いいんだよ。ほら、お前ら! 謝れ!」

「うぅ……ごめんなさい」「くぅん」「ごめんなさい!」

 望は申し訳なさそうに、霙は一礼して、奏楽は笑顔で、雅は伸びていた。

「全く……」

 再び、溜息を吐いて後ろを振り返る。そこには望たちを見てニヤニヤしている悟と困惑している怜奈がいた。

「紹介するよ。こいつが妹の望。色々あって一緒に住む事になった奏楽。奏楽を乗せてるのが飼い犬の霙。あそこで倒れてるのが居候の雅」

 俺が紹介するとそれぞれが怜奈に挨拶する。もちろん、雅は伸びていた。

 因みに悟も霙の擬人モードは見た事ない。説明が面倒だからだ。

「あ、響ちゃんの家族だったの。てっきり、響ちゃんのファンが私を排除しようとしてるのかと……」

 ホッと胸を撫で下ろしている怜奈。

「は? まぁ、いいか。で、こっちが……怜奈だ」

 咄嗟に苗字が思い出せず、下の名前を紹介する。

「よろしくお願いします」

 怜奈もぺこりとお辞儀をした。

「響は師匠たちが付いて来てるの知ってたんだな」

「え!? そうなの、お兄ちゃん!?」

「まぁ、な。奏楽、ありがとな」

 そう言いながら奏楽の頭を撫でる。

「えへへ」

 嬉しそうな奏楽。本当に助かった。

「あ、そうか……」

 やっと、奏楽も俺の式神になった事を思い出したのか望がハッとする。

「言っておくが、俺には恋人は愚か、好きな人もいないから」

「本当に全部、知ってたんだね……」

 望と霙が同時に溜息を吐く(まぁ、霙はそのような仕草をしただけだが)。

「怜奈さん。本当にごめんなさい」

「いいの。お兄ちゃんの事が心配だったのね」

「え? あ、そ、そうなんです」

 何故か、戸惑いながら答える義妹。

「なるほどね……」

 それを見て悟は何かわかったようだが、俺にはさっぱりだった。

「因みに……怜奈さんはお兄ちゃんとはどのような関係で?」

「怜奈は俺たちの幼なじみなんだよ」

「お、幼なじみ!?」

 目を丸くしながら望が驚く。

「確か、お兄ちゃんの幼なじみって悟さんだけじゃなかったっけ?」

「少し前まで忘れてたんだよ……」

 俺は望の目を見る。一瞬、望の目が薄紫色に変わった。過去の記憶が曖昧になっていたからだと理解してくれたのだろう。

「そっか……それじゃ帰るね。私たちの事はいいから楽しんで来てね!」

「バイバーイ!」

 尾行はもういいらしく、望たちはそう言って踵を返す。

「あ! 待って!」

 だが、望たちを止めた怜奈。

「その、私が引っ越してから響ちゃんたちがどんな感じだったのか気になったから……よかったら、話してくれる?」

「え? あ、はい!」

 突然のお願いに呆けた望だったが笑顔で承諾する。

「なら、立ち話もなんだからどっか店に入るか? もちろん、犬も入れる店な」

 悟が霙の頭を撫でながら提案した。

「ああ、そうだな。携帯で検索すればわかるだろうし行くか」

 そうと決まれば早い。それぞれの携帯で店を調べて犬も入れる店を見つける。さすがに雅を置いて行くわけにもいかないので俺が背負ってその店に向かった。

 

「――響ちゃん、本当に大変だったんだね」

 涙目の怜奈が俺の両手を握って言う。

「いや、楽しかったからいいよ」

 望が俺と出会ってから今までにあったこと(もちろん、幻想郷については内緒だ)を怜奈に話した。するとまた泣きそうになってしまったのだ。

「俺も吃驚したよ。響の母親が失踪したと思ったら、雅ちゃんを住まわせたと思ったら、奏楽ちゃんを拾って来たと思ったら、霙を飼い始めたんだから」

「俺自身、驚いてるよ……」

 まさか、俺が幻想郷に行ってから1年も経たずに生活がここまで変化するとは思っていなかった。霙が来てから約2か月。今は6月なのでもう少しで幻想郷に行ってから1年だ。

(早かったな……この1年)

 去年の夏に幻想郷に行った。その後、雅と戦って仮式にした。冬には暴走する奏楽と戦って、2か月前は能力に目覚めた望に助けられ、俺の初めての式神である霙と共に『関係を繋ぐ程度の能力』を持つ男と戦った。

(本当に色々あったなぁ……)

 やはり、これらの原点は幻想郷にある。幻想郷に行ったことで気付いた俺の能力。そして、その能力から生まれたコスプレや指輪。仮式や式神。この1年で俺は相当、強くなったと思う。

「響ちゃん?」

「え? あ、何でもないよ」

 少し自分の世界に入り込み過ぎてしまったようだ。

「あ、そう言えばこの前、響ちゃんが持ってた携帯見せて欲しいんだけど……」

「携帯? いいよ」

 そう言って俺は自分の携帯を取り出した。

「そっちじゃなくて古い方」

「?」

 どうして、スキホなんか見たいのだろうか。

 そんな疑問が頭に浮かぶが断る理由もないのでスキホを出して怜奈に渡した。

「……うん。ありがとう」

 数秒間、スキホをジッと見ていた怜奈だったがすぐにスキホを返してくれる。

「……」

 その様子を見ていた望が少しだけ目を細めた。

「私の話はこれで終わりです。今度は怜奈さんの話を聞きたいです!」

 だが、すぐに怜奈に話を振る。

(何かに気付いたけどここじゃ言えないってことか……)

「え? 私の話?」

「はい! 悟さんにも何度か聞いたのですが、怜奈さんからも聞きたいんですよ! 昔のお兄ちゃんのこと!」

「あ、私も聞きたい!」

 望の提案に乗っかる雅。

「そ、そうだなぁ……私が最初に会ったのって悟君だよね?」

「ああ、そうだったな」

「「ええ!?」」

 怜奈の発言に頷く悟を見て驚愕する望と雅。

「そんなに驚くことか?」

 俺からしたら二人の反応に吃驚した。

「だって、てっきりお兄ちゃんが泣いてる怜奈さんを助けて仲良くなったのかと」

「何で私、泣いてる設定なの!?」

「確かあの時は……俺が泣いてたな」

「ええ!?」

 悟のカミングアウトに再び雅が驚く。

「どうしてそんな状況に!?」

「あの時、響も一緒だったんだけど突然、響がいなくなってて怖くなって泣いちゃったんだ」

「兄を溺愛する妹かっ!」

 雅がズバッとツッコミを入れる。

「ちょっと! 私、お兄ちゃんがいなくなっても……泣いちゃうなぁ」

 反射的に抗議しようとした望だったが、残念ながら不発に終わった。

『ねぇ? 今の話ってホントなの?』

 いきなり、吸血鬼が話しかけて来て吃驚した。何とか、表情に出さずに済んだ。

(俺は覚えてないけど……二人が言うんだからそうなんだろ?)

『確か、過去のキョウが幻想郷に行った時も悟とボール遊びしてなかったか?』

 すかさず、狂気が意見した。

(……確かにそうだな)

『悟からしたらキョウが突然いなくなったように思うじゃろうな』

 つまり、こいつらは悟と怜奈が出会ったほんの少し前に俺は幻想郷に行ったということになる。

「で、怜奈と一緒に響を探して神社で見つけたんだよな?」

「ああ! そうだった! 響ちゃん、呆けてたよね」

「懐かしいなぁ……でも、あの時の響、少しおかしかったな」

「詳しく頼む!」

 俺は立ち上がって悟に詰め寄る。

「お、落ち着けって! そうだな……雰囲気とか髪型とか?」

「髪型?」

「ああ、響って昔は髪、ポニーテールじゃなかったろ?」

 確か、幻想郷に行く前の俺は髪を結んでいなかったと思う。あの頃は肩より少し長いくらいだったからだ。それでも普通の男の子より長めだったのだが、散髪屋に連れて行ってくれる人がいなかったのでずっと放置していた。

「でも、神社にいた響はポニーテールだったんだよ。髪も伸びていたし」

「そうだったの? てっきり、響ちゃんの髪ってあれぐらいなのかと」

 悟の言葉が意外だったようで怜奈がそう呟いた。しかし、俺はそれを無視して考える。

(確かに今まで見てきた過去の俺は髪を結んでいない。つまり、これから過去の俺が髪を結ぶ何かがあるんだろう……)

「まぁ、とにかくその神社で響を見つけたのが俺たち3人の出会いだ」

 そうやって悟が手短に話を切り上げる。

 だが、その後のことは俺も覚えていた。

 俺を見つけた悟が俺に飛びつき、号泣。それを俺と怜奈が宥めて何とか泣き止ませたのだ。それから怜奈に悟のことで迷惑かけたと謝ったが、怜奈も楽しかったと言ってくれた。次の日。俺と悟が公園に行ったら怜奈が待っていた。そして、怜奈はこう言ったのだ。

 

 

 

『私とお友達になってください!』

 

 

 

 俺も悟も断る理由もないし、逆に『仲良くなりたい』と話し合っていたぐらいだ。

 こうして、俺たちは一緒に遊ぶ仲になったのだ。

「へぇ……」

 思い出すのをやめた時、こちらを見ながら雅がニヤリと笑う。

「あ」

 雅たちとは遠く離れていても会話できるし、見たものや聞いたことを伝えることも可能だ。しかし、さすがに考えていることについては切断した。お互いに考えていることが筒抜けになるのは恥ずかしかったからだ。

 まぁ、回線を繋げば、考えていることも伝えられるのだ。

 俺も普段、考えていることは伝わらないように気を付けているのだが、考え事していると雅たちに伝わってしまうらしい。

 今も過去のことを思い出していて呆けていたので雅に思い出が伝わってしまったようだ。

(悟……すまん)

 俺が心の中で謝る。

 それからはお喋りして楽しい時間を過ごし、解散となった。

 


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