「響! 弾幕ごっこだ!」
「今は仕事中だから後でな!!」
後ろからルーミアが弾幕を放って来た。それに対抗して魔眼を使って弾の軌道を読み、回避し続ける。手に持っているお届け物(お酒)を傷つけないようにするのが大変だ。
「戦えー!」
「後でって言ってるだろ!」
何だか、最近のルーミアは好戦的だ。時刻は午後3時。普段なら寝惚けていたり、やる気がないはずなのに今は意識をはっきりしている。それに力も夜の時と同じくらいだ。
「喰らえっ! 闇符『ディマーケイション』!!」
「うおおおっ!? 神箱『ゴッドキューブ』!」
さすがにスペルは避け切れず、仕方なくこちらもスペルを使用する。俺を囲むように神力で創造された箱が出現し、弾幕を全て弾き飛ばした。
「むぅっ! 月符『ムーンライトレイ』!」
防がれたのが気に入らないのか再び、スペルを宣言。
(レーザーはさすがに『神箱』じゃ防ぎ切れない!)
お酒をスキホに仕舞い、スペルを2枚、指に挟む。
「拳術『ショットガンフォース』! 飛拳『インパクトジェット』!!」
連続でスペルを唱え、一気にルーミアに接近する。
「くっ……」
レーザーが頬を掠り、鋭い痛みが俺を襲う。一瞬だけバランスを崩したが無理矢理、空中で姿勢を立て直し、ルーミアの懐に潜り込む。
「いい加減にしろっ! 神拍『神様の拍手』!」
『拳術』の効果が切れると同時に両手を巨大化させる。それを見てルーミアは回避しようとするが、間に合わず俺の両手に潰された。
「お、覚えてろー!」
落ちて行くルーミアが悔しそうにそう、叫ぶ。そのまま、森の中に消えた。
「……ふぅ」
何だが、ルーミアの力が大きくなっているような気がする。
(まぁ、いいか……)
そろそろ、満月だ。そのせいでルーミアの力が増幅しているのだろう。
依頼の途中だった事を思い出し、慌てて移動を開始した。
「ふーん……そんな事がね」
白玉楼の縁側で幽々子がお饅頭を食べながら頷く。先ほど、覚えた違和感を話したのだ。
「まぁ、考え過ぎだと思うけどね」
俺も庭を見ながら饅頭を一口、齧る。甘くて美味しい。
「はぁ……はぁ……」
庭では妖夢が息を荒くしてこちらを睨んでいる。
「集中しろー。霊力がぶれてるぞ」
「は、はい!」
刀を構えて目を閉じる妖夢。普段の二刀流ではなく長い方の刀を両手で持っている。
「お願いします!」
神経を刀に集中しているのか目を閉じたまま、妖夢が合図を送った。
「行くぞー。今回は50だ」
お茶を啜りながら指輪に地力を込める。鉱石が青に変わった刹那、妖夢に向かって小さな雷弾が連続で射出された。それを妖夢が次々と刀で弾く。それを見ながら1つ目の饅頭を食べ終え、次の饅頭に手を伸ばす。
「あれ?」
しかし、皿にはたくさんあったはずの饅頭が一つもない。
「あら、もうなくなっちゃったみたいね」
「お前、喰い過ぎ」
「あまりにも美味しくて。これじゃ太っちゃうわね」
「幽霊がよく言うよ」
呆れながらも幽々子から目を離し、妖夢の方に目を向けた。やはり、まだインパクトのタイミングが早い。
「もう少し、遅くだ」
「はい……あっ」
返事をした妖夢だったが、今度は遅すぎて刀が妖夢の手から弾かれてしまう。
「全く……」
雷弾が妖夢を襲う前に全ての弾を消す。ギリギリ間に合ったようで妖夢の体には傷一つ付いていなかった。
「今日はここまでだな。集中力も切れただろ?」
「うぅ……まさか、インパクトがここまで難しいなんて」
前に妖夢との戦闘で『拳術』を完成させた時、妖夢に『その技を教えてくれ』と頼まれた。あれから1週間に2回ぐらいのペースでこのように修行を付けている(小町にも鎌の使い方を教えなければならないので毎日は出来ないのだ)。
でも、魔眼を持たない妖夢には難しいようで行き詰っていた。俺も魔眼がなければ出来なかっただろう。
「どうすれば、出来るようになるのでしょうか?」
汗を袖で拭いながら妖夢が質問して来た。
「俺だって感覚でやってるからわかんないよ。お前らが空を当たり前のように飛ぶのと同じだ。だから、こうやって手探りでコツを見つけなきゃならないんだよ」
妖夢の場合、拳ではなく刀で修行しているので霊力を得物に纏わせなければならず、コントロールが拳よりも難しいのだ。
「確かに『どうやって空を飛んでいますか?』って質問されても困っちゃうものね」
幽々子がコロコロと笑いながらそう付け足した。
「はぁ……では、荒れた庭を綺麗にして来ます」
刀で弾いた雷弾が地面を抉ったり、植えている木を傷つけたりと後片付けが大変そうだ。まぁ、木などはリーマに頼んで苗の状態から成長させれば楽なのだが意外に金がかかる。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「ええ。また、よろしくね」
「……それは妖夢の稽古をか? それとも、お菓子?」
今日のお饅頭は俺が持って来たのだ。
「さて、どうでしょうね?」
「はいはい……安かったら買って来るよ」
(特売だったから土産に持って来ようなんて思わなければよかった。今更、後悔しても遅いけど……)
溜息を漏らした後、スキホにゴミを収納し、スキマを通って博麗神社に向かった。
「だから! どうしてこんな遠いコンビニ来るんだよ!」
「私が来たかったからだ」
「はぁ……」
博麗神社でお茶を飲んだ後、外の世界でバイトだ。そして、いつも通り望の同級生の築嶋さんとバイトの後輩である柊が喧嘩中である。
「本当にお前ら、飽きないな……」
「だって、望が!」「だって、りゅうきが」
「はいはい……」
毎回、同じようなやり取りを見ていてこっちも飽き飽きだ。しかも、築嶋さんも何故か、人が一人もいない時にやって来る。
「頼むから来ないでくれ」
「お客様にそんな口の聞き方でいいのか?」
「生憎、何も買って行かない人はお客様ではございません。どうぞ、あちらのドアから出て行ってください」
「あ、望のお兄さん。あんまん、一つ」
「はーい」
この流れも何度目だろう。慣れた手付きで俺は築嶋さんにあんまんを手渡した。お代を貰い、レジに打ちこむ。
「これで私はお客様だ」
「くっ……」
悔しそうな表情を浮かべる柊を見てニヤリと笑う築嶋さん。それを見て俺は溜息を吐いてからあんまんを補充する為にレジを離れた。
「……」
その瞬間、築嶋さんが鋭い目つきで俺を観察する。これも何度目だろう。
(やっぱり、築嶋さんもこっち側(能力者)か……)
俺の中に流れている力を視ようとしている気配がする。まぁ、俺も何度か築嶋さんの力を視ようとしたが、力の種類が俺とは違うらしくよくわからなかった。
「……じゃあ、またなりゅうき。望のお兄さんも」
それは築嶋さんも同じようで少しだけ訝しげな表情を浮かべた後、あんまんを食べながら出て行く。
「早く、帰れ」
「おーう」
俺たちは力なく返事し、仕事に戻った。
(でも、柊も築嶋さんと同じ力を持ってるんだよな……)
こちらは本人すら自覚していないけど。やはり、外の世界でも能力を持った人はいるらしい。
「じゃあ、やっぱり、霊夢も?」
「ん? 何か言った?」
俺の独り言が聞かれてしまったのか柊が首を傾げて問いかけて来る。
「……なぁ? お前って幽霊、信じるか?」
「はぁ? 何を急に」
「いや、何でもない」
「……信じるも信じないもないな」
頭を掻きながら柊。俺が何故、質問したかわからないが答えていると言った感じだ。
「何で?」
「根拠がないから。幽霊がいるって言う根拠も。いないって言う根拠も」
意外にこいつは考えているのかもしれない。
「もし、いるって根拠が出来たら?」
「そりゃ、信じるよ。超能力だって信じるし宇宙人の存在も認める」
「結構、サッパリしてるんだね」
もし、自分の力を自覚しても精神は壊されないだろう。自分に異能の力があればほとんどの人が怯えるはずだ。酷い人は自殺すると紫が言っていた。
「無駄に生きてないからな」
そう言った柊の顔は少しだけ寂しそうだった。
人生、何があるかわからない。去年の夏までは俺だって幽霊など信じていなかった。だが、幻想郷を知ってから考え方は変わった。幽霊だっているし、超能力者もいる。ましてや、宇宙から来た薬剤師や兎までいるのだ。今の俺なら何が起きても簡単に吃驚しないだろう。
だが、その確信もすぐに嘘だとわかる。