東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第1章の始まりです。


第1章 ~狂気と血~
第15話 帰還


「はぁ!? 5日間!?」

 ここは寺子屋。驚きのあまり叫んでしまった俺。

「本当に……どれだけ寝れば気が済むのよ」

「ほ、本当なのか!? 慧音!」

「ああ、ぐっすりだ」

 夜明けに目を覚ました後、俺が気絶した後の事を聞いていた。

 妖怪たちは霊夢がお札を貼り付けて一時的に封印し、紫の能力で妖怪たちの能力に制限をかけてそこら辺の森に捨てて来たそうだ。これで不死身妖怪は一生、復活する事が出来ないとのこと。

 問題は俺だった。力を使い果たした俺は何をしても目を覚まさないので人里の住人たちは心配していたらしい。人里を守った英雄だからだそうだ。妖怪たちが襲って来てから5日後、ようやく目を覚ました。

「マジか……」

 幻想郷に来てもう1週間経った事になる。

「まぁ、これで一安心だな」

 慧音が安堵の溜息を吐きつつ、そう言った。

「じゃあ、説明してもらおうか?」

「何の?」

 妹紅の質問の意味が分からず、聞き返す。

「お前の能力についてだよ。私や慧音、霊夢の服装になった事。私たちのスペルが使えた事。どういう事なんだ?」

「ああ、それは――」

 ここに来てから何度目かの能力の説明をする。

「……何とも変な能力だな」

 説明を聞き終えた妹紅は呟いた。

「ああ。それを使いこなしている響もすごいが……」

 慧音も妹紅の呟きに便乗し感想を漏らす。

「いや、運が良かっただけであって使いこなしてるわけじゃないぞ?」

 そう、ただ運が良かった。あそこで紫になってなかったら今頃どうなっていたかわかったもんじゃない。

「で? これからどうするの?」

 霊夢が不意に俺に問いかける。

「どうするって何が?」

「人里に住むの?」

(ああ、その事か……)

「いや、住まない。かえ――」

「じゃあ、どこに住むの?」

 『帰れるようになった』と言う前に霊夢が遮った。

「いや、だからかえ――」

「少しの間なら私の所でもいいのよ? 仕事が見つかるまででも」

「だか――」

「ま、まぁ、響なら万屋でも熟せるでしょうし。すぐに出て行っちゃうかもしれないけど。始めた頃は依頼なんて来ないわ。きっと」

「だ――」

「それなら私と一緒に妖怪退治してもいいし。私たちって意外にコンビネーションがいいらしいわ。慧音と妹紅が言っていたのよ」

「しゃべらせろやああああああ!!」

 何度も何度も遮られては言いたい事も言えない。

「住むなら何かと必要な物もあるかも。ちょっと、買い出しに行って来るわ」

「あ、おい! 霊夢!」

 俺の言葉は全く届いていないようで霊夢は寺子屋を飛び出して行った。

「「「……」」」

 置いて行かれた俺、慧音、妹紅はあまりの事にしばらく硬直する。

「はぁ~い……どうしたのよ? この空気」

 そこへタイミングがいいのか悪いのかスキマから紫が出て来た。

「い、いや……何でもない」

 紫が出て来ても慧音と妹紅は復活出来ず、俺は対処する事になった。

「そう? まぁ、いいわ。貴方にこれを渡そうと思って。あ、使うならPSPを装着してからね」

 そう言いながら紫は1枚のスペルカードを差し出してきた。それを黙って受け取ってからPSPを装着し、イヤホンを右耳に差す。

(イヤホン、買い換えないと……)

 そう考えながらスペルを宣言した。

「移動『ネクロファンタジア』」

 

 

 

 ~ネクロファンタジア~

 

 

 

「……うおっ!?」

 服が輝き、半そで短パンから紫の服装にチェンジした。全てがスムーズ過ぎてワンテンポ遅れて驚く。

「すごいでしょ? そのスペルを唱えればいつでも私になれるわ。でも、弾幕ごっこの時は使えないから気を付けてね?」

「使えない?」

「ええ、私の能力は使えるけどスペルは無理よ。逃げる時にでも使いなさい」

「そうか。さんきゅ」

 これで俺は外の世界に帰れると言うわけだ。

「じゃあ、今すぐ帰りなさい」

「え? さすがにそれは早すぎるんじゃ……」

「貴方は外の世界で失踪している事になっているわ。そして、今妹さんが貴方の家で警察に事情を説明している途中よ」

「はぁ!?」

 さすがに1週間は長すぎたようだ。

「ほら、急いで妹さんに元気な姿を見せて来なさい」

「お、おう! ありがとな!」

 懐から扇子を取りだしてスキマを展開する。出る場所は俺の部屋。

「後、これを持って行きなさい」

「ああ! わかった! またな!」

 差し出された物を確認せず、受け取ってスキマに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「「ハッ!?」」

 あまりにも霊夢が乙女過ぎて放心していた。慧音も私と同じようでほぼ同時に目を覚ます。

「な、何なんだ? あの霊夢は」

 慧音が私に質問して来るが分からないので首を横に振った。

「本当に何があったのよ……」

 後ろから声が聞こえて振り返って見ると八雲紫がいた。

「い、いつの間に?」

「10分ほど前かしら?」

(き、気付かなかった……)

「む? 響はどこへ行った?」

 慧音がキョロキョロしながら呟く。

「響なら私の隣に……あれ?」

 先ほどまで響は確かに隣にいた。だが、今は姿が見えない。

「あの子なら行っちゃったわよ?」

「行っちゃったってど――」

「ただいま~」

 どこへ行ったのか紫に聞こうとしたら霊夢が帰って来た。

「響、結構大荷物になったから運ぶのてつだ……響は?」

 大きな袋を抱えて霊夢が私たちのいる部屋へ入って来た。

「行っちゃったらしいぞ?」

「……え?」

 問いかけに答えたると霊夢は目を見開いた。

「ど、どこに?」

「さぁ? 紫は知ってるみたいだけど」

「でも、紫も帰ったぞ」

「はぁ!?」

 慧音に言われ紫の方を見ると誰もいなかった。

「……まぁ、いいわ」

「お、おい? 大丈夫か?」

 あれほどはりきっていたのだ。心配してしまう。

「ええ。じゃあ、私は神社に帰るわね? アリスに5日間もお留守番させてるのよ」

(アリスも災難だな……)

「ああ、わかった。後始末はまかせろ」

 これから人里の住人に響の目が覚めてどこかへ行った事を報告しなければならない。どこぞの鬼が妖怪退治のお礼として宴会の準備をしている。お礼を言う奴はもういないが――。

「宴会の日時がわかったら教えて」

「了解した」

 慧音が返事をすると霊夢は寺子屋を去った。

「なぁ? 妹紅」

「何だ?」

「霊夢はどうして響の事を?」

「私が知るか」

 ただそれだけが謎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと……帰って来られた」

 スキマを潜り抜けたら見覚えがある部屋に到着した。そう、俺の部屋だ。

「長かったような短かったような……全く、えらい目にあったぜ」

 そう、呟きながらイヤホンを引っこ抜く。いつもの部屋着に戻った。PSPをホルスターから引き抜き、PSPを机の上に、ホルスターを引き出しに仕舞う。

(さて……)

 ここからが本番だ。深呼吸して俺は部屋を出た。

 


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