東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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やってもうた。
また予約投稿し忘れていました。
なので、今日の正午にもう一話、投稿します。


第162話 天才と落ちこぼれ

 紅魔館でフランと遊んだ(結局、弾幕ごっこになってしまった)後、霙の背に乗って俺たちは博麗神社に向かっていた。もう少しと言った所で俺の腰にしがみ付く霊奈の手が震えている事に気付く。

「……霊奈、無理しなくていいんだぞ?」

「だ、大丈夫。緊張してるだけだから」

 そう言ったが、霊奈の震えは止まらなかった。やはり、霊夢に会うのが怖いのだろう。

「心配しなくていいと思うぞ? あいつならお前の事を忘れててもおかしくない」

「そ、それはそれで傷つくんだけど……」

「確かに……」

「響? どこに向かってるの?」

 ふと、横を飛んでいた霊夢に質問される。

「どこにって博麗神社だよ」

「あら、丁度よかったわね」

「どこかに行ってたのか?」

「人里に買い物しにね」

「ああ、そりゃよかった」

 行ってみて誰もいなかったらどうするか考えていなかった。そのまま、数秒ほど無言で飛び続け、気付く。

「れ、霊夢!?」

「何よ? 急に大きな声出して」

「い、いや、あまりにも自然に話しかけて来たから……」

「まぁ、いいわ……久しぶりね、霊奈」

「っ!?」

 霊夢に名前を呼ばれて目を見開く霊奈。

「わかるの?」

「何となくね」

「……はぁ。久しぶり、霊夢」

「話は神社に着いてからね」

 そう言って霊夢はスピードを上げた。俺たちもその後に続く。

 

 

 

 

 

 

「――と言うわけだ」

「へぇ……ずずぅ」

 霊奈との再会から今までの事を手短に話したが、霊夢は興味なさそうにお茶を啜る。

「もう少し、リアクションしろよ」

 そう言う俺も湯呑を傾けた。美味い。

「二人とも、何でそんなに和んでるの!」

 俺の隣で煎餅を齧りながら霊奈。やはり、霊奈も博麗神社の縁側は落ち着くらしい。見た感じ、緊張も解けたようだ。

「お前もだ」

 因みに雅と霙は一足先に帰った。雅は宿題があるらしく、霙は少し疲れてしまったらしい。雅はともかく、霙には色々世話になったのでゆっくり休んで貰いたい。

「で? 霊奈はどうしたいの?」

「え?」

「だって、私の事を教えてくれって響に頼んだんでしょ? 私に何か用があったんじゃないの?」

「えっと……もう、いいかな」

 湯呑を見つめながら霊奈が小さく呟く。

「霊夢って昔から修行、サボってたでしょ? だから、博麗の巫女の仕事もサボってるかなって思って……もし、そうだったら霊夢と決闘して私が勝ったら博麗の巫女を私に譲らせようって」

 そこで霊奈は一息入れる為にお茶を啜った。

「でも、響ちゃんとレミリアさんの話を聞いたり、実際に人里に行ってここの人たちを見てちゃんと妖怪を退治してるんだなって」

「まぁ、宴会の時は妖怪も一緒に飲むけどね」

「……やっぱり、霊夢は霊夢だね。ほとんどの物に対して無関心。それでいて何故か人から好かれちゃう」

「私は――」

 それを聞いて霊夢は少し目線を下げた後、本当に小さな声で何かを呟いた。

「霊夢?」

 気になった俺はそっと霊夢の名を呼ぶ。しかし、霊夢は何も答えなかった。

「……それが響から貰ったリボン?」

 霊奈の髪をまとめている(今日はポニーテールだ)青いリボンを見ながら霊夢が質問する。俺の聞き間違いなのかもしれないのでそれ以上、追求出来なかった。

「ああ、霊奈が引っ越す前に渡したんだ」

「そう」

 それだけ聞くと霊夢はまた湯呑を啜る。興味がなくなったようだ。

「あ、そう言えば、霊夢は結界に守る以外の使い道があるって知ってたか?」

 数日前に初めて知った“攻撃する為の結界”。もう少し、詳しく知りたかったのだ。

「もちろんよ。まぁ、私は守る方が性に合ってたから『守る結界』をひたすら練習してたわね」

「私はその逆で『攻撃する結界』を練習してたなぁ」

 霊夢は興味なさそうに、霊奈は昔を懐かしむように呟く。本当にこの二人は全てが正反対だ。

 霊奈は努力型。霊夢は天才型。そして、攻めの結界と守りの結界。霊奈は少し、人の目が気になってしまうタイプで霊夢は他人に無関心。

「結界も奥が深いな」

 俺は今まで、守りの結界しか知らなかった。しかし、霊奈の攻めの結界は俺の守りを粉々に砕くほどの攻撃力だ。

「なぁ? 俺も攻めの結界を使えるようになるかな?」

 気付けば、そう霊奈に質問していた。

「どうだろう……守りの結界は固く、広く結界を展開させるけど攻めの結界は小さく、細く結界を作らなきゃいけないから全く逆なんだよね」

 確かに俺が使っている『五芒星』は面で展開する。だが、霊奈の鉤爪は鋭く尖っていた。腹を貫かれたのだ。威力も高い。もしかしたら、『五芒星』を破られてしまうかもしれないほどだ。

「それに前者は結界の状態を維持するだけでいいけど、後者は維持するのもそうだけど、破損部分を直したり、霊力を纏わせて攻撃力を上げたりしなきゃいけないから……」

 そう簡単に習得できそうな技でもないようだ。実は霊力の量で言えば、霊夢より霊奈の方が多い。まぁ、力の量が多いからと言って強いとは言えないのだが。

 しかし、霊夢や霊奈の霊力が海だとして俺の霊力は水たまり。博麗のお札のおかげで『五芒星』を発動する事が出来るが(それでも、心にいた奴の霊力と俺の霊力が邪魔し合っているので『五芒星』を覚えた頃よりは発動が難しいものになっている)さすがに攻めの結界は無理そうだ。

 ――そうとも限りませんよ?

 その時、タイミングよく心にいた奴の声が頭の中で響いた。

(どういう事だ?)

 ――確かに霊奈の言う通り、守りの結界より攻めの結界の方が霊力の消費は激しいですが、今の貴方には問題ないと言う事です。

「詳しく説明しろよ」

 思わず、声に出してしまった。

「え? 何が?」

 それに反応した霊奈。だが、すぐに霊夢が俺の代わりに対応してくれた。

「大丈夫。多分、魂の中にいる人と喋ってるだけだから」

「は?」

 そう言えば、まだ霊奈には俺の魂について説明していなかった事に気付く。手ぶりで霊夢に『その事について霊奈に説明してくれ』、と頼み、意識を心にいた奴に向ける。

 ――そろそろ、私を『心にいた奴』と呼ぶのはやめてくれませんか?

(だって、お前の名前、聞いてないし)

 ――そうですね……レマとでも呼んでくださいな。

(じゃあ……レマ、俺には問題ないってどういう事だ?)

 ――簡単ですよ。貴方は日ごろから神力で色々な物を形作っていますよね? それと同じ感覚なんですよ。

「つまり……俺はもう、慣れてるって事か」

 また、口に出してしまったが、霊奈は霊夢の説明を真剣に聞いていたので反応はなかった。

 ――はい。なので、『五芒星』よりは霊力を消費しますが、普段の貴方でも攻めの結界を扱う事が出来ます。まぁ、結界の大きさにもよりますが。

(大きさはどれくらいだ?)

 ――そうですね……何かを支えにするなら刀、一本。無からならスコップです。

(……一応、聞くがスコップってあの、工事に使われるような奴?)

 ――いえ、子供用です。あの、取っ手に穴が開いてる奴。

「使えねええええええっ!?」

 公園にある砂場で使われるようなスコップでどう、敵と戦えばいいのだろう。叩くのか? 突き立てるのか? それとも、砂をばら撒いて目を潰せとでも言うのか。

 絶望に浸っているとふと疑問に思った事が一つ。

(支えって何だ?)

 ――例えば、木の棒にお札を貼って結界で覆うんです。そうすれば、芯がありますので無から作るより、霊力を節約できます。まぁ、無から作るより頑丈ではなくなってしまいますが……。

 つまり、棒状の物を使えば刀は作れると言う事だ。しかし、それ以前の前に俺は刀など使えない。まずは誰かに刀の扱い方を教えて貰わなければいけないのだ。

「……あ! そうだ! 霊奈、お前って刀、使えるよな!?」

「え? あ、うん。それなりに……」

 丁度、霊夢の説明も終わっていたので確認すると頷いてくれた。

「頼む! 攻めの結界と刀の扱い方を教えてくれないか?」

「はぁっ!? そ、そんな急に言われても!?」

 目を見開いて霊奈が戸惑う。

「いいじゃない。教えてあげれば」

「じゃあ、霊夢教えてあげてよ!」

「私は攻めの結界は専門外。それに刀も使えないし」

「う、うぅ……」

 自信がないのか霊奈は頷こうとしなかった。

「嫌ならいいんだけど……」

 攻めの結界が使えるようになれば今までよりもぐっと戦略が広がる。それを期待していたのだが、諦めた方がいいのかもしれない。

「そ、そんな顔しないでよぉ……」

 落ち込んでいると霊奈が困った顔になる。そんなに酷い顔だったのだろうか。

「わ、わかった! 教えてあげるから!」

「ホントか!?」

「こんな状況で嘘は吐かないよ。外の世界で暇な時間にだけどね」

「それで十分だよ! ありがとう!」

 霊奈の両手を掴んでお礼を言う。

「え? あ、う、うん……どういたしまして」

 少しだけ、顔を赤らめながら霊奈が頷く。

 こうして、俺は攻めの結界と刀の扱い方を霊奈に教わる事になった。

 

 

 

 響は男だ。しかし、女顔である。それも顔のパーツが整っているので美少女だ。男だけど美少女なのだ。

 その顔は“女としては”凛々しい。そんな子が涙目になって上目使いで何かをお願いして来たらどうだろう。思わず、承諾してしまうのでないだろうか。

 この時もそれと同じだ。

 響は知らず知らず、涙目になってしまっており、落ち込んだ時に姿勢が低くなっていたので霊奈の方を見ると上目使いになっていた。

 それを見てしまった霊奈は断るに断れず、勢いのままに頷いてしまったのだ。

 

 

 

 その様子を見ていた霊夢は深く溜息を吐いた。

 


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