東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第165話 桔梗の性能

 火球が何度も僕たちを追い越して行く。

「うわッ!?」

 その度に桔梗が悲鳴を上げている。翼の操縦を任された事で僕を傷つけまいと頑張っているのだ。そのおかげで僕は考え事が出来る。

(青怪鳥に立ち向かえれば鎌で応戦できるけど……火球の中を回避しながら移動できるとは思えない)

 今は回避出来ているが青怪鳥に向かって飛ぶとなるともちろん、火球のスピードは速く感じる。前に進みながら右や左に移動出来れば可能なのだがさすがに無理だ。

(……かといって止まって火球を回避しても青怪鳥が不審に思って近づいて来なければ意味がない)

 理想的なのは『火球を回避しながら鎌に纏わせた魔力を刃先に一点集中させ、青怪鳥が僕たちが迫っている事に驚いた隙を叩く』だが、その為にはやはり、火球を回避する機動力が必要になる。

「マスター! 急いでください! 青怪鳥が来ます!」

 桔梗の言う通り、時間はない。

考えるんだ。幻想郷で経験して来た事を思い出せ。何か、ヒントになる事があったはずだ。

 

 

 ――どうやら、充電切れを知らせるバイブレーションだったらしい。

 

 

 ――僕とアリスさんが首を傾げると携帯を真上に放り投げる桔梗。そして、口を大きく開けて食べた。そのまま、顎を動かして携帯を噛み砕き、ゴクリと飲み込んだ。

 

 

 ――ですが、結局マスターの携帯を食べたのに何も武器は生まれてないし……。

 

 

 ――きっと、素材を手に入れる事で変形できる物が増えるんじゃないかな?

 

 

 ――必ずしもそうとは言い切れないの。確かに変形には何か理由があるんだろうけど、私が施した魔法は……。

 

 

「……そうか!」

 この状況を打破できる物を見つけた。その嬉しさのあまり、叫んでしまう。

「ま、マスター? どうしたんですか!?」

「わかったんだよ! アリスさんが桔梗に施した魔法が! そして、桔梗の新たな力が!」

「ほ、本当ですか!?」

「うん! とにかく、説明は後! 翼の操縦を僕に戻して!」

「了解です!」

 翼の操縦権が僕に移った瞬間、一瞬だけバランスを崩したが気合いで持ち直す。今まで真っ直ぐ前に飛んでいたが、一気に真上に飛翔する。

「マスター!? どこへ!?」

「僕を信じて! それより、僕の合図に合わせてやって欲しい事があるんだ!」

 手短に桔梗の新たな力を説明。

「そ、そんな力が私に?」

「多分。でも、試してみる価値はあるよ!」

「……わかりました! やってみます!」

 後ろをチラリと見たら青怪鳥が僕たちを追って来るのが見える。もちろん、火球を飛ばしながらだ。一つの火球が僕たちに迫って来る。それを見てその場で止まった。

 左右の翼を僕の前に移動させる。まるで、火球から僕を守ろうとしているようだ。

「1、2の……3!」

 火球が翼に直撃した瞬間、火球が弾け飛んだ。普通なら翼でガードすれば僕の体ごと吹き飛ばされてしまうだろう。しかし、火球が当たったのにも関わらず、衝撃は一切、襲って来なかった。

「やっぱり……」

 気付けば、青怪鳥が火球を吐くのをやめている。どうやら、火球が直撃したのを見て僕たちがやられたと思っているようだ。

「マスター……よくわかりましたね」

「まぁ、ね。そんな事よりも一気に行くよ!」

「はい!」

 翼を勢いよく広げ、煙を吹き飛ばす。

「ッ!?」

 こちらにゆっくりと近づいていた青怪鳥が動きを止めた。驚きで硬直してしまったらしい。その頃には僕たちは青怪鳥に向かって再び、飛翔している。

「ギャオオオオオッ!」

 すぐに硬直から解けた青怪鳥が火球を飛ばした。やはり、普通に移動してはこの火球は躱せない。

「マスター!? どうするんですか!」

「桔梗! 右翼だけ広げて!」

「は、はい!」

 右翼が少しだけ広げられる。空気抵抗などでバランスが取り辛くなってしまったが構わず、直進した。

「それとさっきの力だけど僕の意志で使う事は出来る!?」

「もちろんです!」

「わかった!」

 もう、火球はすぐそこまで迫っている。

(……ここッ!)

 ――バンッ!

 右翼に力を込めた刹那、大きな炸裂音と共に僕の体が横に回転しながら左へスライドした。しかし、その先には二つ目の火球。今度は右翼を閉じて、左翼を広げる。そして、左翼に力を込めて右にスライド。その後も何度か火球を回避する。その間に鎌の刃先に魔力を集中。

「ギャオッ!?」

 気付けば、青怪鳥の懐に飛び込んでいた。驚愕のあまり、仰け反る青怪鳥の左胸に向かって鎌を振るう。鎌の刃が青怪鳥の胸を少しだけ抉り、血が噴き出した。

「うッ、おおおおおおおおおっ!」

 血を見て一瞬、怯んでしまったが鎌を引き抜く。ダメージは与えたが、これだけでは倒したとは言えない。

(だからこそ、桔梗の新たな力――『振動を操る程度の能力』を使う!)

 右翼を勢いよく、青怪鳥の左胸に出来た傷に突き刺す。再び、血が溢れた。

「桔梗! お願い!」

「わかりました!!」

 頷いた桔梗。そして、右翼が激しく振動する。見た目では動いているようには見えない。だが、右翼からブーンと言う音が聞こえた。

「ギャオオオオオオオオオッッ!!?」

 青怪鳥が大暴れするが深々と刺さった右翼は外れない。それどころか振動する事によって肉が引き千切れ、どんどん青怪鳥の体内に右翼が侵入して行く。

「ギャ、オ……」

 いつしか青怪鳥が悲鳴を上げなくなり、落ち始める。

「こ、これで……ッ!?」

 安心した刹那、僕の体も青怪鳥を追うように地面に向かって落下し始めた。

「ま、マスター!? 大変です! 右翼が抜けません!!」

「え!? ちょ、待っ……うわあああああああああッ!?」

 後で気付いたが、桔梗が元の姿に戻ってもう一度、翼に変形すれば解決したのだが、焦っていた僕と桔梗はそんな事にも気付けずにそのまま、青怪鳥と共に森の中に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 目を開くと見慣れた自室の天井が見えた。過去の記憶を見た時は朝でも意識がはっきりしている。そのおかげかすぐに過去の記憶について考える事が出来た。

(5歳児にしては頭の回転が良すぎるな……まぁ、あの頃から家の事を自分の力だけでやらなくてはいけなかったから自然な事なのかもしれないけど)

 過去の俺はあの状況で桔梗の新たな力を見つけただけでなく、アリスが桔梗に施した魔法についても理解したのだ。

 アリスが桔梗に施した魔法。それは『物欲センサー』と『桔梗が食べた素材で武器を得る力』だ。

 更に桔梗が過去の俺を守ろうと覚悟を決めた時に生まれた『自分の体を変形させる程度の能力』。

 この二つがほぼ同時に出て来てしまった為に過去の俺は勘違いしていたのだ。“必ずしも桔梗が素材を食べたら、武器になる”と。

 アリスも言っていたではないか。『食べた素材で変形できる物が増えるとは言い切れない』。言ってしまえば、素材が変形以外の武器になる可能性もあるのだ。

 変形以外の武器。普通なら剣や銃など、桔梗でも扱えるような武器を想像するが、もう一つだけあるのだ。得物以外でも武器になる物が。

 それは『能力』。幻想郷の住人がスペルにも多用するように桔梗には新しい『能力』が生まれていたのだ。

 しかし、問題は桔梗にどんな能力が生まれたのか。アリスも言っていたように食べた素材によって決まるだろう。

 桔梗が食べたのは過去の俺が持っていた携帯電話。主な機能は『電話』や『メール』といった通信機能。更に今の携帯はインターネットにも接続できる。

しかし、過去の俺を守ろうとしている桔梗は通信機能よりも攻撃手段が欲しいを思うだろう。推測だが、素材によって得られる武器は桔梗のイメージの他に桔梗自身の気持ちによって決まると思う。

 話を戻そう。携帯電話の機能の中で攻撃に使えそうな機能。これは偶然だが、桔梗に携帯電話を食べられる前に過去の俺はそれを経験している。

 そう、“バイブレーション”だ。

 バイブレーションは電話やメール、アラームの時に持ち主が気付きやすくする為に携帯電話そのものが振動する機能である。

 そのおかげで桔梗は『振動を操る程度の能力』を得たわけだ。

 過去の記憶が途中で終わってしまったので、どれほどの威力かはわからないが、本気で翼を振動させれば爆発的な威力を発揮できるらしい。

 火球がぶつかった瞬間に翼を振動させ、衝撃を相殺したり、片翼だけ振動させればその反動で体が反対側にスライドされる。それを駆使して青怪鳥を倒した。

「すげーな……」

 まるで他人事のように思えるが、過去の自分がやった事なのだ。実感は湧かないが。

 思わず、欠伸が漏れたところで過去について考えるのをやめ、スキホに手を伸ばす。霊夢に『1週間、幻想郷に来るな』と言われてから1週間が経つ。今日から万屋の仕事が再開するのだ。

「……ん?」

 スキホを操作し、今日の依頼確認をしたのだが――1通も依頼がない。

(おかしい……こんな事、一度もなかったのに)

 その瞬間、嫌な予感が頭を過ぎった。

 


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