東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第17話 仕事の内容

「おにいちゃあああああああん!」

「うわっ!?」

 悟と口論していると後ろから望に抱き着かれる。

「び、吃驚するだろ!?」

「お兄ちゃんだ! 帰って来たんだ!」

「ああ、帰って来たぞ」

「よかった……本当によかった」

 顔のすぐ横にある望の頭を優しく撫でてやる。俺と望を見て悟も微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、東方でもしますか!」

「やらん」「あ、悟さん。もう結構です」

 望が落ち着いたのを見計らって悟が誘って来たが兄妹揃ってお断りした。

「……わかったよ。もう帰るよ! でも、インストールしたから暇な時にでも遊んでください!」

 そう、叫んで帰って行った。

「……じゃあ、飯にでもするか」

「うん!」

 母がいないので俺が代わりに作る。普段、母は仕事で忙しくて俺が飯を作っているのだ。

「さて……何作るかな?」

「ねぇ? お兄ちゃん?」

「ん?」

 冷蔵庫の中身を確認しつつ、返事をする。

「お母さんの事、聞いた?」

「……ああ」

 昔から自由な人だった。仕事も急に休んだりやめたり、何日も家を開けたと思えば何日も家に引き籠る。そんな人だった。

「まぁ、またいつか帰って来るだろうさ」

「……うん。後もう1つ」

「何だ?」

(お? これならチャーハンかな?)

「学校……大丈夫?」

「電話して来る!」

 チャーハンは少しの間、お預けのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それは大変だったな』

「はい、ご心配おかけしました」

『無事だったんだ。それだけでいい。夏休みまであと3日だ。来なくてもいいぞ。ゆっくり休め』

「いいんですか? 受験なのに」

 今、俺は18歳。高校3年だ。

『大丈夫だって。お前の成績なら受かる』

「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

『じゃあ、頑張れよ』

「はい、ありがとうございました」

 そう言って、受話器を置いた。

「どうだった?」

「大丈夫そうだ。それにもう俺は夏休みだ」

「ええ!? いいな~!」

「よくないだろ? 俺は受験生なんだから勉強しないと」

「それもそうだね! それよりお腹すいた」

 望の言葉を聞いて時計を見ると2時。1時に電話を掛けたから約1時間、話していた事になる。

「すまん。今すぐ作るから」

「ありがと、お兄ちゃん!」

 俺は安心した。1週間も行方不明だったが生活には何も影響はなさそうだからだ。この後、お喋りしながらチャーハンを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八雲紫:はぁ~い』

『音無響:メールなんだから要件だけ書け』

『八雲紫:何よ~! 意地悪なんだから』

 深夜、紫からメールが来た。

『音無響:こっちは眠いんだ』

『八雲紫:じゃあ、電話にする?』

『音無響:それもそれで嫌だな……』

 本音である。

『八雲紫:本当に意地悪なのね』

『音無響:お前にしかしないから大丈夫だ』

『八雲紫:それでも上司に対する言葉使いなの?』

『音無響:あれ? 上司だっけ?』

『八雲紫:こっちに閉じ込められたいの?』

『音無響:電話にしてください』

『八雲紫:よろしい』

 少し待ってから着信が来た。着メロは『ネクロファンタジア』である。変身はしない。やはり、イヤホンをして聞かないと能力は発動しないらしい。

『はぁ~い』

「それをしないと気が済まないのか?」

『まぁね』

「まぁ、いいけど。で、仕事についてか?」

 何となく聞いてみる。

『正解』

「マジかよ……」

『じゃあ、説明するわね。貴方の仕事は2つ。外の世界はもちろんだけど幻想郷でも仕事あるから』

「え? マジ?」

 何やら、嫌な予感がした。

『まず、幻想郷での仕事。万屋よ』

「……もう一度、お願いします」

 是非、聞き間違いであって欲しい。

『万屋よ。こちらで依頼があった時にあのスペルを使って派遣されて欲しいの』

「こちらにも学校があるのですが?」

『大丈夫。暇な時でいいから』

「……外の世界での仕事は?」

『そっちも大きく分けて2つ。1つ目は幻想郷に纏わる事の消去。2つ目は妖怪退治ね。貴方の能力を使って戦いなさい』

「……結局、コスプレするんじゃねーかああああああああ!!」

 思わず、絶叫してしまった。

「お兄ちゃん?」

 そこへ妹がノックもせずに入って来た。いつもはツインテールだが、今は降ろしている。手には枕があった。

「な、何だ?」

「一緒に寝ていい?」

(今言うか!?)

 何となく予想はしていた。望は寂しくなると一人で眠れなくなってしまうのだ。俺が失踪した事。母が蒸発した事で今になって寂しさが溢れて来たのだろう。

『どうしたの?』

 電話の向こうで紫の声がしたが無視する。

「いいけど、ちょっと待ってな。お兄ちゃん、大事な電話してるから」

「わかった。終わるまでここにいる」

(な、何だと……)

 これでは望に聞かれてしまう。

「紫! 緊急事態だ」

 望には聞こえないように小声になる。

『妹さんね?』

「ああ」

『じゃあ、こう言うのよ』

 紫からアドバイスを貰い、望みの方を向く。

「望」

「何?」

 少し目に涙を溜めている。泣き出すのも時間の問題だ。昼間は悟がいたから泣かなかっただけのようだ。

「お兄ちゃんはお前との生活を守りたい」

「うん」

「そのための電話なんだ」

「でも、相手の人は女の人でしょ? 少し、声が聞こえたから」

「仕事の上司なんだ」

「え? もう、お仕事?」

 意味が分かっていないようで首を傾げながら聞いて来る。

「ああ、今俺たちには親がいない。なら、自分でお金を稼ぐしかない」

「なら、私がするよ! まだ中学生だけど……何とかする! お兄ちゃんは受験生だもん! 勉強で忙しいでしょ?」

 紫の言う通り、望は自分が仕事をすると言った。

「駄目だ」

「どうして!?」

「お前が大事だからだ」

「っ!?」

 俺の言葉を聞いた望が大きく目を見開いた。

「お前は俺にとってただ一人の家族だ。お兄ちゃんとして、男として守らなければいけない」

「お、お兄ちゃん……」

「だから、お金の事は俺にまかせてお前は勉強に専念しろ」

「うん! 今から勉強して来る!」

「おう! 頑張れ!」

「うん!」

 望は元気よく部屋を出て行った。枕を置いて行ったので帰って来るつもりらしい。

『どうだった?』

「上手くいったよ。さんきゅな」

『ええ……軽くフラグ立ったかもしれないけど』

「ん? なんか言ったか?」

『いえ、何でもないわ。それで幻想郷の痕跡を消す仕事はその時になったら説明するわ。で、妖怪退治だけど……』

 そこで紫が言葉を区切った。

『明日の午後2時、近くの山で待ってるわ』

 それだけ言って電話は切れた。

(今、なんて言った?)

 明日。午後2時。近くの山。待つ。

「あれ? これって……」

(妖怪退治?)

 早速、コスプレする事になった。2時間後、望が帰って来るまでベッドの上で膝を抱える事にもなった。

 


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