東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第177話 闇の深さ

「……」

 そっと、目を開けた。魂の戦闘は肉体よりも精神が疲労する。気だるさが俺の体を襲うが体に鞭を打って体を起こす。

「きょ、響!」

 星形の結界の外から霊奈が俺に声をかけた。声を出すのも面倒だったので手を挙げて応える。

(さてと……)

 魂移植は一応、成功した。でも、まだ俺の体に馴染んでいないのでこれから何が起きるかわからない。その前に色々とやることがある。

 急いでポケットに入っていたスキホを取り出し、博麗神社にあったリボンを出現させた。それを俺の胸の中で寝ているルーミアの頭に括り付ける。すると、大人の姿だったルーミアが子供の姿に戻った。これで闇の力を封印できたはずだ。そのまま、抱き上げて霊奈に差し出しながら口を開く。

「霊奈、すまんがルーミアを博麗神社に……氷はすぐに解けると思うから」

「いいけど……響は?」

「俺は……もう少しやることがあるから。ルーミアを頼む」

「う、うん。わかった」

 恐る恐る結界の中に入って来た霊奈にルーミアを渡す。その刹那、恐れていた痛みが俺の胸を抉る。

「響?」

「……いいから、行け」

 力の入らない手を無理矢理、振って霊奈を促す。まだ、納得していないようで何度も振り返りながら博麗神社に向かった。

 霊奈を見送り、もう一度その場に横になる。ルーミアと戦う前は曇り空だったのに対し、今は快晴だ。雲一つない。霊奈には氷はすぐ解けると言ったけど強ち、間違っていないようだ。

「……ぅ、あ、ああああああああああっ!!」

 その時、胸の奥底から何かが溢れだし、俺の体の中で暴れ出した。

「あ、あああっ……ああああああ!!」

 悲鳴を上げている感覚はあるが、自分の耳では感知できなかった。内側からの攻撃でそれどころではないのだ。

(まずいっ……これは)

 体の中で暴れているのは闇だ。ルーミアから移植した闇の力。本来、幽霊の残骸と同じように魂の部屋で封印する予定だった。だが、予想以上に移植した闇が多く、封印を破ろうと暴れている。

 まだ、発動したままの五芒星結界の中を転がるが、何の気休めにもならない。むしろ、胸の痛みはどんどん酷くなっていく。このままではルーミアと同じように闇に飲まれてしまう。その証拠に俺が転がった跡は凍っている。闇の力が熱を吸収し、地面を凍結させたのだ。

「ぐあああああああああああああああっ!!」

 体から黒いオーラが漏れ始めた。俺が闇に飲まれるまで時間がない。何とかしなければ再び、幻想郷が氷漬けになってしまう。

「本当に……世話が焼けるわね」

 不意にそんな声が聞こえたような気がする。しかし、闇を抑えるのに必死で確認できなかった。転がる気力さえなくなってしまい、仰向けのまま制止する。

「ほら、それじゃ付けられないでしょ」

 誰かが俺を見下ろして言った。しかし、視界が歪んでおり誰だかわからなかった。声を出そうと試みるがそれすらできない。限界だ。

 そして、何者かが俺の体を押してうつ伏せにする。何も見えなくなった。

「本当に綺麗な髪ね……」

 そう呟きながら俺の髪を弄り始める。

(だ、め……だ)

 瞼が勝手に閉じて行き、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」」

 僕と桔梗は何度も頭を下げてにとりさんに謝る。

「い、いや大丈夫だよ。作り直せばいいし……」

 苦笑いを浮かべたまま、にとりさん。

「でも……大切な『のびーるアーム』が……」

 結局、桔梗が食べてしまったのだ。しかも、にとりさんを突き飛ばしたのだ。これは謝らないわけにはいかない。

「そんなことより! 桔梗、何か新しい武器は増えた?」

 目をキラキラさせながらにとりさんが桔梗に問いかけた。研究魂に火がついたらしい。

「え、えっと……試してみないことにははっきりとは」

 それに曖昧な回答を返す桔梗。

「さっきは思い描いた武器が作れたのに?」

「あの時は意識がはっきりしていましたから。ですが、『のびーるアーム』を食べたのは無意識だったのでどんな武器になるかわからないんです」

 申し訳なさそうに桔梗が再び、頭を下げる。僕の携帯を食べた時と同じだ。

「そっか……でも、武器は増えるんだよね?」

「はい。きっかけがあればわかると思います」

「なるほど……」

 にとりさんは腕組みをしながら考え事を始めた。だが、それも10秒ほどで終わる。

「じゃあ、試してみよう。私相手でさ」

「「へ?」」

「私、これでも強いんだよ?」

「そ、そう言われても……」

 にとりさんの突然の提案に戸惑っていると近くの茂みから音が微かに聞こえた。

「マスター!」

 桔梗が僕の右腕にしがみ付き、シールドに変形。そして、巨大化した。それと同時に茂みから何かが飛び出す。

 ――ガキーンッ!

 桔梗【盾】と何かが激突し、甲高い音が響いた。

「うわっ!?」

 あまりにも展開が早すぎたため、僕は遅れて悲鳴を上げる。

「キョウ! 妖怪だよ! 気を付けて!」

 桔梗【盾】の陰に隠れながらにとりさんが僕に指示を飛ばす。それに頷くだけで答え、桔梗【盾】から少しだけ顔を出して敵の様子を窺う。

 その妖怪は巨大なムカデだった。体をくねらせていつでも襲えるように準備している。

「どうします?」

 隣で僕と同じようにムカデを見ていたにとりさんに問いかけた。

「うーん……あれぐらいなら私一人で大丈夫だと思うけどキョウ、力試しってことで戦ってみてよ」

 ニッコリと笑いながらにとりさんがとんでもないことを言い放つ。

「は、はあああっ!? ど、どうしてですか!?」

「そりゃ、キョウの力が見たいだけだよ」

「いや、それでもですね? さすがに妖怪相手は厳しいんですが……」

「大丈夫! 危険だと思ったら私も加勢するから!」

「そ、そんなぁ……」

 もう一度、ムカデを見る。体長は3メートル。たくさんの足が付いており、その一つ一つが動いている。顔には巨大な顎。あれで噛まれたら胴体を真っ二つにされるだろう。

「マスター、どうします?」

「どうするって……」

 確かに幻想郷に来たばかりの頃より、僕は強くなった。鎌も扱えるようになったし、桔梗という心強い仲間もできた。でも、あんな化け物と戦うのは怖い。

「キョウ。このままじゃ君は死ぬよ?」

 真剣な顔でにとりさんが物騒なことを言う。

「え?」

「だって、今は私がいるからいいけど君たちは旅をしてるんだよね? そこに私はいないんだよ? これから幻想郷を旅して行くのならあれぐらいの敵は倒せるようにならなきゃ死ぬ」

 にとりさんの言う通りだ。青怪鳥との戦いだってにとりさんがいなかったら僕たちはどうなっていたかわからない。

「キョウ、君は強いんだ。だから、これはそれを確かめるための戦い。試練なんだよ」

「試練?」

「そう、あのムカデを倒せば自信にもなるし、桔梗とのコンビネーションの練習にもなる。生き残るためには戦わなきゃいけないんだ」

「……」

 僕は目を瞑る。そのまま、背中の鎌に手を伸ばして魔力を流す。

「桔梗、翼」

「はい」

 それから目を開けると桔梗【盾】の姿はなく、目の前にムカデがいた。ムカデもそれに気付き、凄まじい咆哮を放つ。

「にとりさん、僕……やります」

「頑張って」

 そう言ってにとりさんが数歩、下がった。すぐに鎌を構え、背中に装備されている桔梗【翼】を動かす。地面から数センチだけ浮かび、ムカデと対峙した。

「桔梗、行ける?」

「はい! 大丈夫です!」

 桔梗の声を聞くと何故か、安心できた。本当に心強い仲間だ。

「ムカデさん、すみませんが倒させていただきます」

 その言葉に対し、ムカデは突進することで答える。また、命がけの戦いが始まった。

 


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