東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第183話 響、女の子疑惑

「―――」

 イライラ。

「――――――」

 イライライライラ。

「―――――――――――」

 イライライライライライライライラ。

「え? 音無様、まさか本当に女の子だったの!?」

「誰が女の子だ! それに何で様付けなんだよ!!」

 思わず、近くで噂話していた上級生たちに向かって叫んでしまった。すると、上級生たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

「ったく……」

「あはは……響、荒れてるね」

 後ろで霊奈が顔を引き攣らせながら呟く。

「だな。まさか、ここまで噂が広がるとは思わなかった」

 悟も項垂れていた。

 朝、紅いリボンを付けた俺を見た大学生たちはまず、目を点にする。まぁ、ここまでは想像できたのだが、そこから反応は以下のように分かれた。

 1、何故か感動し、涙する者(ほぼ男)。

 2、その場に土下座し、何故か涙を流す者(ほぼ男。しかも、少し太っている人が多め)。

 3、何故か、合掌する者(ほぼ男。ハゲが多かった)。

 4、何故か、その場に崩れ落ち、涙する者(ほぼ女)。

 5、握手を求めに来る人(男半分、女半分。全て悟に追い返されていた)。

 この他にも色々な人がいたが、だいたいこんな感じだった。

「はぁ……」

 その騒ぎが噂になり、とうとう本格的に俺は女として見られるようになった。トイレに入ろうとしたら、周りから悲鳴が聞こえたほどだ。しかも、中にいた男は全員、俺を見てトイレを飛び出した。

「ああああああっ!! 面倒くさいなああああ!!」

「こりゃ、やばいな」

「うん。響のストレスがね……」

「……なぁ? 怜奈?」

「っ……何?」

 後ろをチラリと見ると霊奈は悟が言った『怜奈』という単語に一瞬、反応してしまったようだ。でも、何とかそれを表に出さないようにしながら返事する。

「いつから、響のことを“響”って呼び始めたんだ?」

「えっ!?」

 まぁ、突然の質問には対処できず、硬直してしまったのだが。

「えっと……」

 さすがに『一緒に共闘した際に呼び方を変えました』なんて説明できるはずもない。

「俺が頼んだんだよ。“響ちゃん”って呼ばれてたら女の子に思われるだろ?」

「ああ、なるほど。意味なかったみたいだけどな」

(呼び方よりもインパクトのある装備品が俺の頭の上でヒラヒラしているからな)

「とりあえず、この状況をどうにかしないと響の身が危ない」

 深刻そうに悟が言い放つ。

「「え? 何で?」」

 しかし、俺も霊奈も首を傾げるだけだった。

「響はともかく、霊奈ならわかるだろ? 今、周りの生徒は皆、響を狙う狼。いつ、響がその毒牙にかけられるかわかったもんじゃない」

「毒牙っていうか……」

 俺がそう呟く。

「返り討ちっていうか……」

 その後、霊奈も俺に続いた。

「とにかく! これじゃ“あれ”の意味がない! 早急に対処するぞ!」

 “あれ”がものすごく気になったが、このまま噂され続けるのは御免だ。

「具体的にどうする?」

 因みに俺はこういったことはサッパリである。戦術なら思考回路もぐるぐる回るのだけれど。

「……よし! 集会をしよう!」

「「……はぁっ!?」」

 悟の突拍子もない提案に俺と霊奈は驚愕してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、あー。マイクテス。マイクテス。今から音無響非公式ファンクラブ定期集会を開きたいと思います』

 大学にある一番大きな講義室。その教室には大勢の人がいた。席に座れず、立っている人もいる。

『えー……皆さん、今週も集まってくれて感謝する』

 そして、一人だけマイクを持ち、黒板の前で話している俺の幼なじみ1号君。

「ねぇ? これって何なの?」

 隣に座っている霊奈が小さな声で問いかけて来た。

「俺だって聞きたい……あいつ、いつの間にこんな組織、作ってたんだよ」

 俺と霊奈は教室に詰め込まれている人からは見えないように物陰に隠れていた。

「それにしてもすごいね、悟君。ここにいるのって全員、この大学に通ってる人でしょ?」

「それだけならまだいいよ……教授までいる」

 そもそも、俺たちがこんなところにいるのか少しだけ説明した方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 俺のファンクラブ?」

「……黙っててゴメン」

 ここは人気のない校舎裏。そこで俺たち3人で緊急会議を開いた。もちろん、議題は『俺の女疑惑の消滅』。

「え? 響ってファンクラブあったの?」

 意外そうに霊奈が聞いて来る。

「あるわけないだろっ!」

「だから、非公式なんだって」

「……待てよ、幼なじみ。お前、何を言ってるんだ?」

「見た方が早いな。はい」

 そう言いながら悟は1枚のカードを渡して来た。

「音無響非公式ファンクラブ……会員ナンバー0000001」

「あれ? おかしいな? 私の考えが間違いじゃなかったら悟君が会長になるよね?」

「ああ、俺が作ったし」

「「……」」

 思わず、俺と霊奈はお互いに頬を摘まみ合った。痛い。

「嘘……だよな?」

「いや、本当」

「……何で?」

「まぁ、落ち着け。お前、なんか体から黒いオーラが漏れてるぞ?」

 俺の中から本来、外の世界で表に出してはいけない力が溢れているらしい。

「で、でも! 理由があったんだよね? ほら、ここに入会料も0円って書いてるし! 悟君にこんなことをするメリットないもん!」

 もし、入会料があったらこいつは俺を使って金儲けしていたことになる。

「もちろんだ。俺は響を守ろうとしたんだよ」

「俺を、守る?」

「霊奈はわかるだろうけど響ってモテるよな?」

「うん」

「即答!?」

 霊奈の答えが意外すぎて驚いてしまった。

「いや、そこは驚くところじゃないって……望ちゃんや雅ちゃん、それに奏楽ちゃんも霙ちゃんも知ってると思うよ?」

「マジかよ……」

「何で、犬の霙まで?」

 悟の疑問を意図的にスルー。

「で? どうして、ファンクラブが俺を守ることになるんだ?」

「その前に……響、世界には色々な人がいるってわかってるか?」

「あ、ああ……」

 戸惑いながらも頷く。

「いや、お前はわかってない。ヤバい奴は本当にヤバいんだ。例えば、お前を殺してでもその体を手に入れようとする奴とかな」

「は?」

 あまりにも現実味のない言葉が悟の口から飛び出したので目を丸くしてしまった。

「響を殺してでもその体を手に入れたいって?」

 霊奈は冷静に質問する。

「つまり、響が誰かの手に渡るくらいなら観賞用にするってことだよ。ホルマリン漬けにしてな」

「そ、そんなことあるわけ……」

「まぁ、これは大げさにしただけだけど……俺が聞いた中ではお前、外国に売られそうになってたぞ?」

「は?」

「だから、お前を捕えて外国のお偉いさんに高値で売ろうとした輩がいるんだって」

「……いやいや」

 そんな小説のような話あるわけない。

「中学2年の秋。お前、海の近くに呼び出されなかったか?」

「え? あー……そんなことあったな」

 確か、要件は『お前がトイレ行ってる間に美術の先生が教室に来て突然、“海の絵、描いて来い”っていう宿題が出たから一緒に描こう!』みたいな感じだったような気がする。でも、画板を持って持ち合わせ場所に行ったのに誰もいなかった。一人で海の絵を描いたから覚えている。

「あの時、俺が手を回さなきゃどうなってたか……」

「手を回す?」

「ま、それはともかく。お前は常に狙われてるんだよ」

「誰に!?」

 いきなり、物騒な話になったので思わず、叫んでしまった。

「そこで音無響非公式ファンクラブだ」

 だが、俺の質問を無視して悟は説明を続ける。

「俺がこれを作ったのは俺たちがまだ中学3年の時だった。『音無響拉致計画』を何とか、未遂に終わらせた俺はさすがに対処しないとまずいって思ったんだ」

「ものすごく気になる単語があったんだけど!」

 今度は霊奈がツッコむ。それすら悟はスルー。

「そこで考えたんだよ。ファンクラブをな」

 悟はニヤリと笑いながら言った。

 


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