東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第188話 光と闇

 俺と魔理沙の周りには無数の星屑。しかし、それらは真っ直ぐにしか飛んでいない。これは俺が思い描いている宇宙とほど遠いものだった。

「重力『グラビィティボール』!」

 ならば、俺が星たちを導けばいい。そのためにはまず、重力を生み出さなくてはいけない。地球が太陽の周りを公転しているのは太陽の重力に引き寄せられているからである。

「うおおおおっ!」

 両手に小さな重力の弾を作り上げた。それを真上に放り投げる。その後、どんどん重力の弾を星の中に投げ込んで行った。

「お? おお!?」

 星の様子を見ていた魔理沙が声を上げる。今、星の中に重力の弾は8つ。その重力の弾の周りを星たちが回り始めたのだ。

「す、スゲー!」

 魔理沙の眼がキラキラと輝いている。感動しているようだ。

 星たちは重力の弾に引き寄せられ、カーブ。しかし、重力の弾はそこまで大きくないので吸い込まれることなく重力の弾の後方へ飛んで行く。それが図書館の8つの場所で起こっているのだ。

「ぱ、パチュリー! これ、やばくない!?」

「私たちも反撃よ! 同時に行くわ!」

「わかった!」

 星たちは時間が経つにつれ、スピードが上っている。放っておけば大変なことになると思ったのだろう。パチュリーがフランの隣に降り立ったのと同時に構えた。

「火水木金土符『賢者の石』!」「QED『495年の波紋』!」

 パチュリーの周りに5つの宝石が出現し、それぞれから小さな弾がいくつも射出される。その後すぐにフランから波状弾幕が撃ち出された。

 そして、波状弾幕がパチュリーの放った弾にぶつかり、反射。更に反射した波状弾幕が別の弾に当たり、反射する。連鎖的に反射して行き、図書館内は凄まじい量の弾幕で埋め尽くされた。

 普段なら『神箱』か『五芒星』で身を守り、弾の密度が薄くなったところで一気に反撃とするだろうが、今、俺たちは宇宙の中にいるのだ。ここでは地球のルールは通用しない。

「「え!?」」

 パチュリーとフランが驚きの声を上げた。そりゃ、そうだろう――。

 

 

 ――パチュリー達が放った弾幕すらも黒い弾は引き寄せ、ベクトルを変えているのだから。

 

 

 星と星の間に小さな弾が通り過ぎて行く。その様子はまるで満天の星空に流れる流星群のようだった。

「響! 最後にでかいの一発、行っとくか!」

「でかいの?」

 黒い弾のコントロールが難しいので魔理沙の方を見ずに聞き返した。

「ああ! 二人で同時にだ!」

「……おう、やってみるか」

 じゃあ、この宇宙とはお別れだ。

「――――――」

 神経を集中させ、黒い弾を大きくしていく。離れていても力の糸は繋がっているのでこれぐらい簡単だ。

「きゃっ!?」

 黒い弾が大きくなるにつれ、引力も強くなる。そのため、人間も引き寄せられるのだ。パチュリーの方をチラリと見ると体が浮いていた。このままでは黒い弾に吸収されてしまう。

「パチュリー! 禁忌『フォーオブアカインド』!」

 くねくねした杖を図書館の床に突き刺したフランは4人に分身。4人は手を繋ぎ、離れていたパチュリーの手を掴んだ。

 その頃には黒い弾は星たちを全て吸い込んでいた。そして、黒い弾は小さくなっていき、消えた。吸収した弾幕が俺の体に入って来るのがわかる。全て、闇のエネルギーへ変換した。

「魔理沙!」「響!」

 俺と魔理沙はお互いの名前を叫び、スペルカードを手に取る。

「黒符『ブラックスパーク』!!」「恋符『マスタースパーク』!!」

 俺の右手から黒い極太レーザーが、魔理沙の八卦炉から白い極太レーザーが撃ち出された。

 更に黒いレーザーが白いレーザーを引き寄せ、2本のレーザーが螺旋を描きながらパチュリーとフランに突進。そのまま、二人に直撃し大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたた……」

 瓦礫の下からフランが這い出てくる。その手の先にはぐったりしたパチュリーもいた。

「だ、大丈夫か? フラン」

 慌てた様子で魔理沙がフランの手を取り、起き上がらせる。

「ひ、酷いよ……あんなの」

 フランは俺(『黒符』のせいで闇のエネルギーを使ったため、子供姿だ)を睨みながら文句を言って来た。

「威力も抑えていたしセーフ」

「あれで抑えてたの!?」

「てか、抑えなかったら俺が闇に引きずり込まれる」

 その時、スキホが震えた。時間だ。

「すまん、少しだけ時間をくれ」

「時間?」

 喘息のせいか顔を青ざめさせながらパチュリーが首を傾げた。

「闇のエネルギーを俺の地力に変換しなきゃならないんだ。このまま放っておいたら闇の力が大きくなって俺が堕ちる」

 そう言いながら背中から巨大な闇の手を生やす。

「うわっ……そんなこともできるのかよ」

 魔理沙が顔を引き攣らせながら呟く。

「じゃあ、またな」

 呆けている3人に向かって手を振りながら俺の体は背中の手に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 お兄様が闇の手に飲み込まれた。

「本当にどんどん、人間から離れてしまうわね……」

 呆れたようにパチュリーが言う。

 確かに霊力、魔力、神力、妖力を持ち、魂に吸血鬼、狂気、トールを宿し、曲を聴いて他人の能力をコピーしたり、指輪を使って本来、使うことのできない力を駆使して闘うお兄様。それに加えて闇を使えるようになってしまったのだ。もはや、人間ではない。

「でも、響が幻想郷に来てそろそろ1年か」

「そう言えば、そうだったね」

 この1年は本当に速かった。会えないと思っていた男の子。私が初めて壊そうとしても壊れなかった人間。昔は何の力もない子だったのに今じゃ私を軽く蹴散らせるほど強くなった。

「……あれ?」

 その時、私は気付いてしまった。この1年で起きた異変は『脱皮異変』、『狂気異変』、『魂喰異変』、『氷河異変』。明らかに例年よりも異変の数が多い。

(お兄様が来てから……何かが起こってる?)

「それにしても、響って何考えてるんだろうな?」

「え?」

 魔理沙の疑問の意味がわからずに聞き返した。

「だってさ? 響って外の世界から来てるんだろ?」

「うん」

「普通ならこんなところに来たくないと思うんだよ。ここはいつ、何が起きてもおかしくないし外の世界には家族もいるし」

「あ……」

 確かに魔理沙の言う通りだ。外の世界なら仕事だってたくさんあるだろうし、幻想郷で万屋をしなくても暮らしていけるはずなのだ。一人暮らしならまだしも、家族がいるならこんな危険なところに来ようと思うのだろうか?

「決まってるじゃない」

「「え?」」

 パチュリーがはっきりとそう言ったので私と魔理沙は思わず、目を見開いてしまった。「本人も気付いてないと思うけど彼には覚悟があるのよ。絶対に死なない。必ず、家族の元に帰るって言う覚悟が……だから、今までの異変だって彼はボロボロになって解決して来た。家族のために」

 そうだ。『脱皮異変』も『狂気異変』も『魂喰異変』も『氷河異変』も――いや、それだけじゃない。お兄様は今まで、何回も死にそうになった。それでも、お兄様は起死回生の一手でピンチをチャンスに変えて来たのだ。

「本当……何者なんだろうな?」

 魔理沙はため息を吐きながら私に問いかけて来た。

「うん、私にもそれはわからないかな……」

 私も脱力してしまっていた。

 結局、お兄様は何を考えているのだろう。何がしたいのだろう。何を――求めているのだろう。

 

 

 

 

 

 フランドールの疑問の答えはこの後すぐにわかることになる。しかし、それまでに3つ、大きな事件が発生する。

 その事件が一人の妖怪の運命を変えることになるなどこの時、響もフランドールも知る由もなかった。

「本当に響って面白いわね♪」

 そして、図書館の椅子に座って黒い球体の中にいる響を見ながらそう呟いた全ての事件の元凶になる邪仙すらももちろん、知らないことだった。

 


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