東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第19話 吹き荒れる神風

「よ、妖怪退治?」

「ああ、依頼されてな」

「……ぷっ! あはははは!!」

 急に笑い出す幼女。少し頭に来た。

「無理! 何人もの陰陽師が私を倒そうとしたと思う? 無理だって! しかも、そんな変な服で? やめと――」

「うるせーぞ。妖怪風情が……人間なめんな」

 そう言いつつ、イラッと来た俺は風を利用してお腹を抱えて笑っている幼女の頭上に高速移動し、脳天目掛けて踵を落とす。

「がっ!?」

 油断していた幼女は抵抗出来ずに踵落としを食らい、凄まじい勢いで境内に墜落した。

「秘術『グレイソーマタージ』」

 立ち上がりそうだったので追撃する事にした。宣言すると俺の周りに大きな青い星と小さな赤い星が現れた。その後、それぞれが分裂しいくつもの星が生まれ、幼女に向かって突進する。

「きゃあ!?」

 幼女の悲鳴が聞こえたが無視。自分でも容赦がないと思うがこれは殺し合いなのだ。相手の事など考えていたら自分が死ぬ。

「く……よくもやったね!」

 幼女はスペルを直撃しても服が少し破けるだけだった。それどころが反撃する為に弾幕を放って来る。やはり、弾幕ごっこ用では威力が足りない。ならば――。

(数で勝負!)

「奇跡『白昼の客星』!」

 真下にいる幼女に向かって弾幕をばら撒く。弾幕と弾幕がぶつかり、凄まじい衝撃波を生み出す。

「くっ……」

 押され始める俺の弾幕。このままでは押し切られてしまう。

(ど、どうすれば……)

 その時、真上からまたもや突風が吹き荒れる。突風は俺の弾幕の威力を上げて、向こうの弾幕を押し返す。

「さっきからどうなってんの!?」

 幼女は弾幕を放ちながら文句を言って来た。

「俺だって知るかよ!」

 風の後押しのおかげで俺の弾幕と向こうの弾幕の戦いが互角になる。弾がぶつかる度に衝撃波を放出。それに押されて俺はどんどん高度が上り、幼女の足元に亀裂が走る。

(埒が明かねー……)

 あちらもそう思ったようで地面を転がって斜め横から攻撃して来た。

「くそっ!?」

 体を捻ってバランスを崩しながらも紙一重で回避する。その間にスペルが時間切れになった。態勢を立て直す前に幼女が突っ込んで来る。

「弾幕が駄目なら格闘よ!」

 そう言いながら、右手を握っている。きっと、右ストレートだ。

 予測通り、右手を突き出して来た。咄嗟に下降気流を発生させ、急降下。幼女の攻撃を躱す。すれ違う瞬間に手に持っていたお祓い棒で幼女の背中を叩く。

「きゃっ!?」

 急に背中を叩かれた幼女は前のめりになった。相手は妖怪なのであまりダメージは与えられていない。だが、バランスを崩す事は出来た。体を無理やり幼女の方に回転させ、スペルを唱える。

「奇跡『ミラクルフルーツ』!!」

 俺の周りに花火のような弾幕が展開され、一気に周囲にばら撒いた。もちろん、幼女がいる方にも飛んで行く。

「ッ!?」

 幼女はまたもや何も抵抗出来ずに背中に弾幕を食らった。その後にもいくつかの弾幕が命中する。

「もういっちょ!」

 時間切れになったのを見計らって、今度は上昇気流を発生。それに乗り、瞬時に幼女の元へ移動する。勢いを殺さずにお祓い棒を突き出す。

「なっ!?」

 お祓い棒は幼女の背中を深く抉る。更に俺は腕を半回転させる。

「あがががががっ!?」

 腕の動きに合わせ、お祓い棒も回転し、幼女の体から不気味な音がした。背中の肉が回転するお祓い棒に巻き込まれ、ねじれたのだ。

「吹き飛べっ!!」

 俺の腕に沿って暴風が幼女に向かって吹き荒れる。幼女は弾丸のように上空へ高く吹き飛ばされた。

「おまけだ!」

 上昇気流から下降気流へ。対象は俺にではなく幼女。暴風に翻弄されながら幼女は背中から境内に叩き付けられた。衝撃で境内に小さなクレーターが出来、砂埃が舞う。

「……」

 ここで油断してはいけない。相手は妖怪だ。これぐらいで倒せたとは思えない。

「ふん……なかなかやるようね?」

「え?」

 下から幼女の声が聞こえた。しかし、おかしい。先ほどとは声質が変わっている。子供の声から大人の声になったような気がした。

「私も本気を出さなきゃ駄目かな?」

「っ!?」

 砂埃が晴れて幼女の姿が現れる。だが、幼女は美女に成長していた。ぶかぶかだったYシャツは胸が大きすぎてぴちぴち、ロングスカートは成長した事によりミニスカートに変わっている。

「ふふふ。この姿を見せるのは男の前だけよ?」

(いや、俺も男なんだが……)

「その姿で男を誘惑して誰もいない所へ連れ込み……喰う、てか?」

 言っても信じてもらえなさそうなのでスルーした。

「ご名答♪ 私は成長を操れるのよ」

 幻想郷では『成長を操る程度の能力』だと推測する。

「冥途の土産に教えてあげるわ。私の名前はリーマ。外の世界では珍しいクォーターよ」

「クォーター?」

「ええ。あ、勘違いしないでね? 人間の方が4分の1の方だから」

「半妖と妖怪の間に生まれた子供?」

 俺の発言を聞いてリーマが微笑む。正解らしい。

「妖怪の血が騒ぐの。人間を見るとね。だから食べる。それが妖怪でしょ? だから、貴女も食べてあげる」

「妖怪だからって人間を見境なく喰っていいわけないだろうが!」

「私だって見境なく食べてないわ。1か月に2人ぐらい。それに家族を持っていない男よ。私について来るのがそういうのしかいないから」

「消えたって怪しまれないって事か」

「ええ、しかも死体に手を加えて事故死に見えかけているわ」

 得意げに話すリーマ。

 

 

 

 ~華のさかづき大江山~

 

 

 

 巫女服から下は青い生地に赤い筋がいくつも通った半透明のスカートに上は体操服のような半そで。おでこから1本の赤い角が生える。鬼のようだ。左手には半透明の液体が並々と注がれている杯を持っている。

「また変身した?」

「確かに……妖怪は人間を喰う」

 リーマが目を見開いて驚いているが無視して俺は自分の言いたい事を言う。

「それは避けられない。妖怪は人間を喰う種族だ。恨むのはお門違いってもんだ。だがな……」

 そこまで言って杯を口元へ運ぶ。液体は俺が大好きなア○エリアスだった。酒かと思ったのだが気のせいだったようだ。

「ぷはっ! 今日は依頼されているのでな。それが俺の戦う理由だ。元々、妖怪退治なんぞに興味はねー」

 もっと言うと戦いたくない。コスプレしなければいけないからだ。

「そ、それだけ?」

「……ああ。もうひとつあった。お前、ここを住処にしてるだろ?」

「そうだけどそれが?」

「ここは大切な場所だ。妖怪の好きなようにはさせない」

 重心を低くし、右手を握る。いつでも駆け出せるように足に力を入れる。

「鬼の力を妖怪が防ぎ切れるか楽しみだ」

 このコスプレになってから闘争心が溢れて来るようになった。鬼だからだろうか。

「お、鬼? 貴女は何者なの?」

「俺か? 俺はただの社員だ」

「社員?」

「ああ、知らないと思うけどボーダー商事ってとこ「ぼ、ボーダー商事!?」

 知っていたらしい。

「あ、あの……幻と呼ばれた妖怪が作ったと言われるあの?」

「い、いや……そこまでは知らないけど」

 紫は外の世界でも有名なようだ。

「変身は貴女の能力よね?」

「あ、ああ……」

 リーマの顔から余裕が消えた。少しまずい。油断している所に鬼の拳から繰り出される渾身の一撃で決める予定だったのだが、これほど警戒されては当てるのは難しい。

「時間制限があるんじゃない?」

「……」

 痛い所を突かれ思わず、黙ってしまった。

「図星のようね。じゃあ、その時間切れを狙いましょう」

「くそっ!」

 次の曲で勝てる保障はない。力で妖怪に勝るものは鬼ぐらいしかいない。地面を蹴って、一気に跳躍。脚力が凄まじく、境内にまた穴が開いた。そして、一瞬にしてリーマの懐へ潜り込む。右手を思いっきり引いて勢いよく突き出す。

「よっと……」

 顔面を狙ったパンチはリーマが成長を操ってまた幼女になり、背丈が低くなった事によって躱された。

「えいっ!」

「うわっ!?」

 勢いが余ってバランスを崩している所へリーマは足払いをして来た。その後、顔からこけた俺の背中に飛びつく。

「は、離れろ!?」

「嫌だもん!」

 暴れてもリーマは頑なに離れる事はなかった。このままでは時間切れが来てしまう。何かリーマを振りほどく手立てはないかと境内を走り回る。

(こうなったら!)

 俺は足に力を入れて思い切り真上へジャンプした。

 


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