霊奈たちがいる方を見ると5人の敵が扇状に広がって2人に銃を向けているような構図だった。
「敵を一か所に集めるよ! クランベリー!」
「禁忌『クランベリートラップ』!」
フランの傍にいくつかの魔方陣が出現し、そこから紫と青の弾が連射される。
「な、なんだこれ!?」
敵の一人が被弾する前に気づき、回避した。その声に反応し他の敵もこちらを振り返り、弾を躱していく。
「フラン、大鎌を!」
「了解!」
5人が背中合わせになったのを見てフランに指示を飛ばした。頷いたフランは空を飛んで敵の真上に移動。
「せいっ!」
そのまま、柄を下に向け大鎌を投擲した。大鎌の柄が地面に深々と突き刺さる。それも5人の中心に。
「え?」
それに気づいた一人が振り返ると同時に俺も小鎌を真横に投げた。
「な、何だ?」
敵が目を見開いて小鎌を眺めている。小鎌は5人の周りを中心に円を描きながら飛んでいた。5人の中心に突き刺さった大鎌と鎖で繋がっているので遠心力が働いてぐるぐると5人の周りを回り続けている。
「うわっ!?」
そして、5人を赤い鎖が捉え、大鎌に磔にする。小鎌が5人の周りを飛び続けていたからだ。
「く、くそ! 外れない!?」
敵が鎖から逃れようともがくが鎖は複雑に絡み合っており、抜け出すことができない。
「これでよし……霊奈、リーマ!」
リーマが育てたツルに向かって呼びかけた。
「響?」
ツルの隙間から霊奈がこちらを覗き込むのが見える。
「響!」
そして、ツルが消えて中からボロボロの霊奈とリーマが出て来た。
「お前ら、大丈夫か?」
「何とかね……それにしても、そのオーラは何? すごい力を感じるんだけど?」
リーマが興味深そうに質問する。
「俺たちにもわからないんだけど……とにかく、今はここから脱出しよう。敵の数は相当だ。仲間が来るかもしれない」
「そうだね。それじゃ――いつッ」
歩き出そうとした霊奈だったが、足を押さえて蹲ってしまった。
「大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り、霊奈の右足首を見ると酷く腫れていた。
「ご、ごめん……」
「謝るなって。それより、動けそうか?」
俺の問いかけに首を横に振って答える霊奈。
「仕方ない、背中に乗れ」
「え?」
「いいから。時間がない」
「……うん」
霊奈の方に背中を見せ、その場にしゃがむ。それからすぐに霊奈が俺の背中に乗った。
「それじゃ、行くぞ」
「悪魔の妹、私もお願い。体中、ボロボロで」
「えー、面倒。というより、私の名前はフランだよ!」
いや、フランドールだ。
「それじゃ……響の妹、負んぶして」
「っ!? い、いいよ! 負んぶしてあげる!」
突然、態度を変えたフランはリーマを負んぶして飛翔した。それに続いて俺も空を飛ぶ。
「お兄様! どっち!?」
「お前は俺の後ろに回れ!」
フランがスピードを落として俺が前に移動した。
「おらっ!」
階段へと続くドアを蹴破り、お屋敷の廊下へ出る。
「えっと、入り口は……」
「面倒だからこのままドーン!」
入り口がある方へ飛ぼうとしたが、その前にフランが目の前の壁を頭突きで破壊した。
「お、お前な……」
「これでいいでしょ?」
「バカっ! 大きな音で敵が来たらどうするの!」
背中から霊奈の怒声が飛んで来る。
「ぁ……ゴメン」
「仕方ない。急いで望たちと合流してここから離れよう」
そう言って、フランが開けた穴を潜り抜けた。
「お兄ちゃん!」
お屋敷の入り口の前にいた望が俺たちに気付いて走って来る。
「ただいま」
「おかえり! フランも無事だったんだね!!」
そのまま、俺の後ろにいたフランを見て笑顔を浮かべた。
「霊奈とリーマは怪我を負ってるから急いで離れるぞ」
「うん……リーマってあの?」
「私よ。久しぶりっていうか、私からしたら初めましてっていうか」
フランの背中に乗っているリーマが手を挙げる。
「あ、あれ? リーマ……さんの見た目って私と同じぐらいだったはずじゃ?」
「こいつは成長を操るからな。今は大人モード。望が見たのは少女モード。そして、俺が初めて見た時は幼女モードだった」
「そうなんだ……あ、妹の望です」
「あ、ご丁寧にどうも。リーマよ」
状況に似合わない間抜けな自己紹介であった。
「ほら、行くぞ!」
「響! 待って!」
霙も俺たちの元に来た(周囲への警戒が強すぎるあまり、俺たちに気付かなかったようだ)のを確認し、お屋敷から離れようとしたが霊奈がそれを止める。
「どうした? 敵か?」
「ううん……ちょっと降ろして」
「でも、お前の足は……」
「いいから」
そう言われては降ろすしかないできるだけ霊奈の足に負担がかからないように降ろした。
「やっぱり……傷が癒えてる」
「え?」
「ほら、あんなに腫れてたのにそれがなくなってるの」
霊奈の足首を見てみると本当に綺麗になっていた。
「あら、私もよ」
「なら、降りろ」
「きゃっ!?」
フランがリーマを落としたのをスルーして思考する。
(傷が癒えた? あんなに腫れてたのに? 俺も霊奈も治療の術を使ったわけでもない……それにリーマの傷もなくなってる。これは……)
その時、俺の右目がちゃんと視えていることに気付いた。
俺の右目はお屋敷に突入する前に魔眼を開放したせいで視力が落ちていた。それなのに今でははっきりと見えている。
(もしかして……この力には傷を癒す力もあるのか?)
俺とフランが纏っている桃色の力にはまだ、秘密がありそうだ。
「とにかく、傷が癒えたのはラッキーだ。霙には望、霊奈、フラン。俺とリーマは自力で飛んで移動する」
それを聞いて3人は霙に跨る。もう一度、魔眼を使って周囲に敵がいないか確認しようと両目に魔力を流し、魔眼を発動する。
「っ!?」
そして、見つけた。
「どうしたの?」
俺が目を見開いたのを見ていたのかフランが問いかけて来る。
「……雅の力だ」
そう、本当に微かだが、雅の力を見つけたのだ。
「お兄ちゃん! それって!?」
「ああ、雅はこの近くにいる……あっちだ!」
俺が指さした方には山がある。ヒマワリ神社がある山とは別だが、こちらの方が標高は高い。ヒマワリ神社の山はどちらかというと山と言うより、丘と言う表現の方が合っているような気がした。
「じゃあ、そっちに――」
雅がいなくなったことを知っている霊奈が何かを言いかけた時、魔眼が別の生命反応を感知。すぐにフランを守るようにジャンプした。
――ダンッ!
それとほぼ同時に銃声が轟くが、『結鎧』が弾いてくれた。
「くっ!?」
だが、衝撃は無効に出来ず、吹き飛ばされてしまう。
「お兄様!?」
俺を受け止めてくれたフラン。
「サンキュ」
「お礼はこっちが言うんだよ!」
「響! 囲まれてるわ!」
ツルを地面から生やしながらリーマが叫んだ。辺りを見渡すと黒いスーツを着た敵がたくさん、森の中から出て来ているのに気付く。
(囲まれたか……でも)
敵を見れば、手に持っているのはハンドガン。つまり、連射出来ない銃だった。
「お兄ちゃん、どうする?」
「どうするって……戦うしか――」
俺が言い終わる前に背後から凄まじい爆発音が聞こえる。空気がビリビリと振動するほどだった。
「な、何だ!?」
「お兄様! アレ!」
フランが指さした方を見ると遠いところで巨大な火柱が天を貫いていた。
「あそこって雅ちゃんがいるかもしれない山の頂上だよね!?」
望の言葉に俺はハッとなる。
(雅も何かに巻き込まれてて……戦ってる!?)
もし、戦っているならば雅の方が不利――いや、勝利は絶望的だ。きっと、敵は炎を操っている。雅では絶対に勝てない。
「くそっ……」
今すぐにでも助けに行ってやりたいが、敵に囲まれているので不可能。先ほどよりは戦いやすいとはいえ、敵の数が多すぎる。時間がかかってしまう。
「響! 行って!」
「え?」
突然、霊奈が叫んだので驚いてしまった。
「ここは私たちにまかせて、もう一人の仮式を助けに行ってあげなさい」
それに続けてリーマも発言する。
「そうだよ。お兄様に助けて貰ったからここで恩返ししないと」
フランも霙から降りて炎の剣を手に出現させた。
「その通りです! ご主人様は早く雅さんの元へ!」
狼モードから擬人モードに変わった霙の手には氷の小刀が握られている。
「お兄ちゃん、お願い。雅ちゃんを助けてあげて」
最後に望が俺にそう頼んだ。雅のことは何も言っていないのだが、事情があるのには皆、気付いていたようだ。
「……ああ。行って来る!!」
俺は山に向かって駆け出した。
でも、それを見て黙っている敵がどこにいるだろう。俺の前に何十人もの男が立ち塞がった。
「禁忌『フォーオブアカインド』!!」
背後からフランがスペルを宣言するのが聞こえる。
「「「「お兄様の邪魔をするなああああ!!」」」」
4人のフランが俺の前にいた敵を蹴散らし、道を作ってくれた。
「ありがとう!!」
「お兄様! 頑張って! こっちが片付いたらそっちに向かうから」
桃色のオーラを纏ったフラン(つまり、本体。分身は普段と同じで桃色のオーラを纏っていなかった)と言葉を交わして、俺は山を目指して走り続けた。