東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

209 / 543
第203話 守りたい心

「おらぁっ!!」

「あ、ぐっ……」

 男が地面に拳を叩き付けた。何とか、直撃だけは避けたが飛んで来た石が俺の額にヒットし、怯んでしまう。

「隙ありぃっ!」

「がッ……」

 男の右足が鳩尾に突き刺さり、後方に吹き飛ばされた。

「まだ、まだぁっ!」

 そのままの勢いで男が火炎放射を放って来る。

「『霊盾』!」

 吹き飛ばされながらも博麗のお札を5枚投げて結界を作った。角度は火炎放射に対して45度。防ぐのではなく、逸らすための結界だ。火炎放射が結界にぶつかると軌道が逸れ、俺の上方を通り過ぎた。

「へぇ? まだ、そんな小細工が出来たんだなぁ!」

 ニタリと笑った男が俺を褒めながら火炎放射を撃つ。

「そっちも火力がすごいね!!」

 苦し紛れの見栄を張りながら横に飛ぶ。ギリギリ躱されたのを見て、男は放出を止め、いくつもの火球を飛ばして来た。

(外の世界でそんだけ妖力があるとか、あり得ないだろッ!!)

 外の世界は幻想郷よりも霊力などのオカルト方面の力が弱くなる。しかし、この男のそれはそれを感じさせないほどの強さだった。それでも、霊夢やレミリアよりは力は劣っているのだが。

「白壁『真っ白な壁』!」

 白い壁を出現させ、即座に空へ逃げる。火球が壁にぶつかると共に音を立てて崩れ、砂埃を発生させた。

「それでぇ、逃げられたと思ってるぅ?」

 男の方を見ようと首を動かしたその時、後ろからそのような問いかけが聞こえる。

「思ってないからこうやって、細工してるんだろ? 雷転『ライトニングフープ』!」

 男の拳が俺に触れそうになった刹那、雷で出来た輪が俺を取り囲むように現れた。それも4つ。等間隔で俺の周りを回っているそれらはフラフープようだった。

「おっと、それは失敬ぃ」

 男が笑いながらそっと拳に火を灯す。

 ――バキッ!

(まぁ、だろうと思ってたけど……)

「神箱『ゴッドキューブ』!」

 簡単に『雷転』が壊されたが、すぐに『神箱』が俺を守ってくれる。だが、外の世界で一番、力が弱まるのは神力なのだ。外の世界の住人は神の存在を信じていない人の方が多い。そのせいで信仰が薄れ――。

「よわっちいねぇ!」

 ――パリーン!

 こうやって、すぐに破壊される。

(それは俺も重々承知だっての!)

『響、ありがとう。もう、いいわ』

 その時、待ちに待っていた奴から通信が入った。そう、リーマである。

「解除!」

 リーマは仮式だ。そのため、召喚し続けていると俺の地力がどんどん、吸われてしまう。でも、契約を解除し幻想郷に戻すとリーマの中にあった余分な力が俺に還って来るのだ。その証拠に俺の体に霊力、魔力、神力が溢れて来るのを感じている。妖力がないのが心細いが狂気がその体を張ってまで俺を守ってくれたのだ。文句はない。

「神撃『ゴッドハンズ』!」

 両手を大きくして背後にいる男に向かって平手打ちを繰り出すも片手で止められてしまった。

「貧弱だねぇ!」

「ぐっ……」

 お腹に蹴りを貰って地面に叩き付けられる。まぁ、反射的に蹴りに逆らわず、霊力を流してバックしていたのも幸いし、そこまでダメージはなかった。

(……さてと)

 リーマの方も片付いたし、望たちがここに来るまで30分とかからないだろう。しかし、その時間は俺にとって長い。いや、この戦闘が終わるのにそこまで時間はかからないと言った方がいい。

(俺の体力的にも……ここで、決めないと)

 両手を握り、数メートルほど離れた場所に着地した男を睨む。

「凝縮『一点集中』……」

 右手に体の中にある霊力、魔力、神力を集める。右手が仄かに光った。それは赤でも青でも白でもない。全ての色が混ざったような不思議な光。

「……そろそろ、正念場ってところだねぇ」

 俺の様子を見て何かに気付いたのか男がそう質問して来る。

「ああ、そうだな」

「大技で決めるつもりみたいだけどぉ。わざわざ、僕が待ってる必要性もない、よねぇ!!」

 男が一気に俺に距離を詰めて来て、拳が俺の鳩尾に直撃し貫いた。

「ッ……」

 激痛のせいで集中力が途切れそうになり、右手の光が揺らぐが何とか、持ち直す。そして、俺の腹に突っ込まれている男の腕を左手で掴んだ。

「なっ……」

「さすがに、これだけ、やれば反撃さ、れないとで、も……思っ、たか?」

 俺の口の端から血が漏れる。だが、その口元は何故か、緩んでしまう。

「俺は、これまでにな? これ以上の痛みを味わってんだよ……物理的にも、精神的にも。だから、それに比べたらお前のこの一撃だって我慢出来る。もう、これ以上、あんな苦しみを味わいたくないから」

 思い出されるのは、涙。怒って、悲しくて、心配して、流した涙なんかもう見たくない。俺は嬉しさのあまり、漏れた涙だけを受け入れたい。

「お前、本当に、バカだよな」

「な、何が……」

「雅に、手を出したこと。それと俺の覚悟を甘く見過ぎたこと」

 そう言いながらそっと、男の胸に右手を当てる。男は何か感じたようで逃げようとしているが、俺の左手がそれを許さなかった。

(まだ、一度も成功してないけど……これしかないんだ。あーあ、こんな至近距離じゃ俺も巻き添えか……でも、悪くない)

 俺の覚悟は『生き残る覚悟』だ。家族のために、友達のために、皆のために、自分のために、敵を殺してでも生き残る。それが俺の覚悟。

 でも――それ以上に譲れない物がある。それは『俺の知り合いが傷つけられること』だ。

俺が生き残っても俺の帰りを待っていてくれる人が傷つけば意味がない。傷つくのをただ、見ている奴は自己中心的な人だ。俺はそんな奴になりたくない。ならない。なってはいけない。俺はそれらを守るために力を得たのだから――。

 その力で誰かを傷つけてはいけない。俺は守るためにこの力を使う。

 確かに、誰かを守るためには誰かを傷つけなくてはいけないと思う。

 だが、全ての人を守ることなんて出来るはずがない。そもそも、そんな偽善を言うほど俺は自惚れてなどいない。

 しかし、俺の前で知り合いが傷つくのだけは許せない。だから、俺はこの力を振るう。自分の身を傷つけることになっても――。

「開力『一転爆破』」

 スッと男の胸から右手を離すが、不思議な光だけはその場に残った。最初は小さな球体だった光がどんどん、大きくなっていく。

「お、おい? まさかっ――」

 冷や汗を掻く男を見て俺は一言、呟いた。

「……バーン」

 その刹那、俺と男は光に包まれる。

 

 

 

 

「……ん」

 ジンジンと体が痛む。きっと、『開力』のせいだ。でも、胸の痛みは不思議とない。霊力で傷を治したのだろう。まぁ、霊力が足りなくなって『開力』で負った傷は治せなかった。

(でも、これで……)

「いてて……」

「そ、そんな……」

 声がした方を見て俺は倒れながら絶望する。

「あんな技を使って来るなんて思わなかったよぉ? まぁ、僕を殺せなかったのは計算違いだったみたいだけどねぇ?」

 男は肩で息をしているが、確かに立ち上がっていた。

(こいつ、化け物か……いや、『開力』の凝縮が甘かったんだ。それに開放が早すぎた)

 『開力』は俺の持っている力を一転に集め、相手の目の前で開放しその爆発に巻き込む技だ。話を聞くだけではそこまで強く思えないが、例えるなら核分裂が起きる時にその中心にいるような感じだ。まぁ、さすがにそこまで威力はないが喰らえば一溜りもない――はずだった。

 しかし、さっきも言ったようにこの技はまだ、未完成。何とか、爆発には巻き込んだが開放する時に力が分散してしまい、威力が落ちた。

「さぁ? 動けないみたいだけど、僕は遠慮なんかしないからねぇ?」

 男がうつ伏せで倒れている俺に向かって歩いて来る。

(仕方ないか……体は動かないし、闇に頼るしか)

 俺はゆっくりと目を閉じる。

『じゃが、そうすれば響はまた……』

 トールが小声で呟く。トールの言う通り、俺はまた暴走する。きっと、飲み込まれればもう、戻って来られないだろう。

(……まぁ、いいや。雅を守れるならそれで)

「闇開『ダークフ――』」

 闇の力を引き出そうとした――が、俺の言葉はそれ以上、続かなかった。

「きょおおおおおおおおっ!!」

 そんな絶叫と共に男に向かって巨大な岩が飛んで来たからだ。

「……ちっ」

 顔を顰めた男は右手に炎を灯して岩を殴る。岩は簡単に砕けた。

「お、お前……」

 しかし、俺は目の前の光景に呆けて無意識の内にそう言っていた。

「響は、私が守るッ!!」

 黒い長方形の翼が12枚。髪はボブ。色は黒。身長は高校生に見える。その後ろ姿は何度も見て来た。

「雅……」

 俺を守るように雅が両手を広げて、男の前に立ち塞がっていたのだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。