東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第208話 被害報告

 目を覚ますと俺はベッドの上にいた。どうやら、山を下りる前に気絶してしまったようだ。

「お目覚めかしら?」

 そして、目の前に紫がこちらを覗いていた。

「やっと来たか」

「ええ、こっちの問題も解決したのよ」

 問題と言うのは博麗大結界の歪みのことだろう。

「お疲れ様」

「そちらもお疲れ様。全く、あの邪仙のせいでとんだ迷惑よ……」

 確かにあいつが問題を起こさなかったら、フランがこちらに来ることもなく、事件は雅の奴しか起きなかったはずだ。

「本当に……疲れた」

「でも、得られた物はあったでしょ?」

「……ああ」

 あの桃色のオーラと『式神憑依』。また、新しい力を得られた。これから、かなり戦いやすくなるだろう。

「さてと、悪魔の妹を連れて帰りたいのだけど……まぁ、今はやめておきましょうか?」

「何でだ?」

 普通ならすぐにでも連れて帰るはずなのに。

「だって、そんな幸せそうな笑顔を浮かべながら寝ていたら起こせないじゃない」

 紫の視線を追うと俺の体に抱き着いて眠るフランの姿があった。

「……まぁ、スキホさえくれれば明日、連れて行くよ」

「そう言うと思って準備しておいたわ。もちろん、新しいPSPの方もね」

 フランの起こさないように左腕で紫からスキホ(何だか、前よりボロボロで深い切り傷が1つだけあった)を受け取る。軽く操作して機能は前と同じだとわかり、すぐにそこら辺に置いた。

「PSPなんだけど、メモリースティックも壊れちゃったんだ」

「知ってるわ。ちゃんと元のデータを入れておいた……いえ、1曲だけ増えてるわ」

「増えてる? 東方って新作出したっけ?」

「まぁ、その曲が再生された時のお楽しみってことで」

 紫はウインクしてそう言った後、スキマに潜って帰った。

(勝手な奴だなぁ……)

 ため息を吐いて俺は眠ろうとするが、目が覚めてしまってすぐに眠られなかった。

『なら、こっちで話でもしない?』

 その時、吸血鬼が言う。まぁ、暇だしお言葉に甘えて魂の中に入った。

 

 

 

 

 

 

「よう」

 魂の中に入り、俺はそこにいた“3人”に手を挙げて挨拶する。

「うむ」

「やっほー!」

 トールと闇が返事をしてくれるが吸血鬼は紅茶を入れていたため、無反応だった。

「……狂気は、まだ部屋か?」

「ええ、呼んだのはそのことも話しておこうかと思って」

 ティーポットとティーカップをお盆に乗せてキッチンからやって来た吸血鬼。

「やっぱり、あれはあり得ない現象だったのか?」

 もちろん、狂気の具現化である。

「……ああ、正直言って無茶と無謀だった」

「無茶と無謀?」

 トールの言っている意味がわからず、聞き返す。

「まず、我らがこの魂から出たら魂バランスが崩れてしまう。そうならないために響に力を供給して楔としておるんじゃよ」

「つまり、俺に力を与えることで自分たちを俺の魂に縛り付けてるってこと?」

「そうよ。聞こえは悪いけど響の魂が崩れたら私たちも死んでしまうからこっちにもメリットはあるの」

「じゃが、狂気は一瞬だけだが、響の魂から抜けてお主の盾となった。あと数秒、帰って来るのが遅かったらどうなっていたかわからんかったぞ。これが無茶じゃ」

 そこまで話してトールは紅茶が入ったカップを傾ける。

「じゃあ、無謀は?」

「……狂気はお主の中に全ての妖力を置いて飛び出したんじゃよ」

「なっ!?」

 妖力を全て置き去りにしたということはあの時の狂気は人間――いや、それ以下の存在だったと言うことだ。力が無ければただの抜け殻なのだから。

「あ、あいつ、大丈夫なのか!?」

「率直言うけど、危険な状況よ。ガドラの炎が狂気の体を蝕んでる。このまま、何もしなければ……どうなるかわからないわね」

「くっ……」

 多分、俺には何も出来ないだろう。それが悔しくて奥歯を噛んだ。

「まだ、話し合うことは残ってるわ。残骸について」

 目を鋭くしたまま、吸血鬼が呟く。

「響、雅が殺された時、また残骸に飲み込まれそうになったじゃろ?」

「……ああ」

 あの時、聞いた声はきっと、魂の残骸だ。

「やっぱり、この前の狂気との魂同調のせいで響が負の感情を抱くと力を与えてしまうようね」

 憎しみ、悲しみ、怒り、嫉妬。他にもたくさんあるだろう。

「……結構、ヤバくないか?」

「だから、こうやって話し合っておるのじゃろう。しかし、響も人間。負の感情を抱かないように生きるなんて無理じゃ」

 そりゃ、俺だって怒ったり、泣いたりする。

「でも、推測だけど強い感情じゃなきゃ残骸に力を与えないじゃないかしら?」

「どうして?」

「だって、響が暴走したのはフランと雅が傷つけられた時でしょ? 今まではフランが悪いことして怒っても暴走するなんてことはなかったわけだし」

「……俺、家族を傷つけられて感情を押し殺すなんて出来ないぞ?」

 実際、暴走したのだ。

「それぐらい、わかっておる。だから、悩んでおるのじゃろうが」

「そうだよなぁ……どうしよう?」

「それなら、私にいい考えがあるよ」

 いつの間にか俺の膝の上に座っていたフランが言った。

「いい考え?」

「うん、少し前に――」

「ちょ、ちょっと待って!」

 フランが考えを述べようとするがそれを吸血鬼が止める。

「どうした? 吸血鬼」

「いや、何でフランがいるの?」

「……あれ!?」

 そうだ。ここ、俺の魂だ。フランが勝手に入って来られるわけがない。

「私にもわからないけど……何か、入って来ちゃった」

 舌を出して悪戯がばれた子供のような笑みを浮かべるフラン。

「きっと、響との共鳴率が上がった事によってこうやって、魂に引きずり込まれたんじゃろうな。まぁ、シンクロは出来んだろうが……」

「そんなに共鳴率が上ってたっけ?」

「多分、桃色のオーラのせいで常に響とフランは共鳴している状態なのかもね」

「簡単に言っちゃえば、私とお兄様の仲が良くなったってこと?」

「間違ってはおらんな」

 トールが頷くとフランは嬉しそうな表情を浮かべ、俺の胸に背中を預けた。

「お兄様、やったね」

「まぁ、仲が良くなることはいいけど……大丈夫なのか? 近くにいるだけで魂に入って来たりとか?」

「それはないわ。今は同じベッドで至近距離で寝てるから来ちゃったけど普段はないと思う」

 それなら、いいだろう。紅魔館に遊びに行く度に引き込んでいたらレミリアに殺されてしまう。

「それで? いい考えって何なのじゃ?」

「ああ、そうだったそうだった。少し前に希望がなくなるっていう異変が起きたんだけど……その原因の付喪神が『感情を操る程度の能力』なんだって」

「『感情を操る程度の能力』? そんな能力があるのか?」

 そいつならどうにかしてくれるかもしれないが、信じられなかった。感情を操るとは一体、どんな能力なのだろうか。

「私も新聞で見ただけだから詳しくはわからないけど……霊夢なら知ってるんじゃないかな? 当事者だし」

「なら、幻想郷にお前を送るついでに聞いてみるか……」

「え!? 私、送られるの!?」

 何を驚いているのだ、この妹は。

「さっき、紫が来てスキホとPSPをくれたんだよ。これでお前を紅魔館に帰してやれる」

「えー……」

「じゃあ、『起きたらすでに紅魔館でした』の方がよかった?」

 吸血鬼が意地悪い笑みを浮かべながらフランに質問する。

「そ、それは嫌だ!」

「まぁ、明日のお昼ぐらいに送るよ」

「う、うぅ……」

 フランはものすごく不機嫌そうな顔で唸った。

「そろそろ、夜明けじゃ。ほれ、お主らはもう、戻れ」

「わかった。狂気のこと、頼む」

「ええ。出来る限りのことをするわ」

 吸血鬼とトールが頷くのを見て俺は最後に闇の方を向く。

「闇、体は大丈夫か?」

「うん! もう、バリバリだよ!」

 バリバリとは一体、何なのだろうか。

「そ、そうか……まぁ、異変を感じたら呼べよ」

「うん!」

「じゃあ、フラン。帰るぞ」

「はーい」

 俺たちは3人を置いて魂から出て眠りについた。

 




雅の方が解決しましたが今度は……狂気ですか……。

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