東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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メリークリスマスです


第218話 旅行

「……はぁ!?」

 そろそろ雪が降りそうな季節になった頃、俺は紫の家に呼ばれていた。

「だって、面倒だったんだもの」

「いや、それってまずいだろ? チルノ、まだ外の世界にいるのって……」

 そこで『チルノはまだ、外の世界にいて迎えに行って欲しい』という依頼についての話を聞かされたのだ。

「お前が行けばいいだろ? スキマで一発なんだし」

「だって、そろそろ冬眠時期だし」

「その前にやれよ……」

「ちょっと面倒なことになっててね。ほら、貴方の街も結構、ヤバいことになってるでしょ?」

「……まぁ、確かに」

 気付かなかったが、どうやら俺が住んでいる街に射命丸が来ていたらしい。そして、とある商店街に住み込みで働いて飢えを凌いでいたようだ。そのせいで、『天狗は本当にいる』という噂が流れ、商店街の名前は『天狗商店街』という物に変わっていた。

「これじゃ、本物の天狗があの商店街に来そうで怖いわ」

「お前が言うと本当になりそうで怖いわ……それで、面倒なことって?」

「実は、あの氷精……ちょっと力が増えちゃって面倒事に巻き込まれてるのよ」

「力が増えた? どうして?」

 確かにチルノは妖精にしては力が強い方だが、それほどでもなかったはずだ。

「……まぁ、実際に見た方が早いから言わないでおくわ。あ、そう言えば、響の大学ってそろそろ、冬休みよね?」

「え? あ、ああ……1週間後にはもう、休みだけど?」

「そして、望たちもそうだったわね?」

「……何が言いたい?」

「何って決まってるでしょ? 依頼料の代わりに――家族旅行をプレゼントするわ」

 

 

 

 

 

 

「……てな、わけで。まさかの北海道だな」

「うん、まさかの北海道だよ」

 俺と望は大きな荷物を持って目の前に広がる雪景色に呆然としていた。よくこんなに積もっているのに飛行機は飛んだものだ。

「……」

「雅?」

 その景色を見ていた雅に声をかける奏楽。その表情に何か感じたようだ。

「え? あ、うん。何?」

「大丈夫?」

「……ゴメン。ちょっと、一人にさせて」

 雅は元々、北海道にいた。ガドラの件もあって色々、考えたいこともあるのだろう。

「俺たちは紫が予約したホテルに行ってチェックインしよう」

 空港から歩いて20分ほどの場所にあるホテルだ。

「……うん、そうだね」

「それにしても紫の奴、わざわざ飛行機にするなんて思わなかったな」

「だって、紫さんは冬眠するからね。空の旅も面白かったし」

「私が何ー?」

 “空”という単語で自分が呼ばれたと思ったのか、奏楽が返事をする。

「奏楽じゃないよ。あの空のことだってば」

「? ああ、奏楽じゃないんだ。ちょっとビックリしたよ」

 にぱー、と笑いながら奏楽は霙の頭をポンポンと叩く。すると、霙はトコトコと歩いて行った。どうやら、トイレに行ったようだ。

「さて、これからどうするかな……」

「チルノがいる場所、教えて貰ったの?」

「……いや。でも、魔眼で見つけられるからって」

 チルノの力が強くなったという話と関係があるようだ。まぁ、詳細は教えてくれなかったけど。

「雅ちゃん、大丈夫かな?」

「それはあいつ次第だ」

「あ、あの……」

「「え?」」

 後ろから聞き覚えのない声が聞こえ、俺と望は同時に振り返る。そこには見覚えのない――そして、ほんの少しだけこちら側の雰囲気を漂わせた少女が立っていた。

「雅を知ってるんですか?」

「……何?」

 思わず、聞き返してしまう。

「だから、その……尾ケ井 雅を知ってるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうぞ」

「どうも」

 俺は少女――上代 弥生(かみしろ やよい)から缶コーヒーを受け取る。

「さて、上代……話を聞かせてくれ」

 因みに望は奏楽の方へ行っている。後、式神の通信も切った。雅が聞かれたくない話もあるかもしれないからだ。

「うん」

 上代の話によると雅と上代は友達同士だったようで、リーマ(上代ははっきりと名前を言わなかったが、話の内容からして間違いないだろう)と3人でつるんでいたようだ。

「じゃあ、お前は雅の仲間だったんだな……」

「雅ともう一人と一緒によく過ごしてたんだ。だから、雅って聞こえた瞬間、もしかしてって……」

「それにしてもリーマとも知り合いだったとは……」

「え!? リーマを知ってるの!?」

「まぁ、色々あってな。お前は……ハーフか」

 俺の言葉を聞いて上代は目を丸くする。魔眼で視ればすぐにわかる。リーマと雅の間――両極端のクォーター同士の間の妖力だったのだ。つまり、ハーフ。

「そ、そこまで……音無さんって一体?」

「望もいるから響でいいよ」

「では、私も弥生で。まさか、響さんもこっち側?」

「……うーん、違うかな?」

 種族的には人間だし。

「何で、そんなに煮え切らない返事?」

「こっちも色々あるんだよ」

 さすがに全てを言うわけには行かないので誤魔化す。

「あ! 響、こんなところにいた! ゴメンね、さっきは勝手に……え?」

 そこに運がいいのか悪いのか雅がやって来た。そして、弥生の姿を見て固まってしまう。

「おう、雅。お前の友達に会ったぞ」

「え、ええええ!? 何で!?」

「色々あったんだよ。今、伝える」

 通信を使って詳細を教えた。

「……なるほど。そんなことが」

「え? ええ?」

 一瞬で状況を把握した雅を見て弥生が首を傾げる。

「弥生、誰もいない場所ってないか? ここじゃ人通りがあって説明のしようがない」

 ここはたまに人が通っているのだ。

「え? 結構、少ない方だと思うけど……」

「響、望たち呼んだよ」

 霙に通信を使って知らせたのだろう。望は能力を開放しなくても霙の言葉はわかるようだからすぐに来るはずだ。

「な、何、これ?」

「後で説明するから今は場所を移動しよう」

「えっと、じゃあ、私の住処に」

 弥生の案内で俺たちは移動した。

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 弥生の案内で来たところはかなり古臭い建物だった。フランが誘拐されて連れて来られた屋敷よりもボロボロだ。原型を保っているだけでも奇跡と言えよう。

「うわぁ! 懐かしい!」

 しかし、雅だけは違ったようで目をキラキラさせてその建物を見ていた。もちろん、望たちはジト目である。

「こっちに来て」

 弥生はそんな雅を見て嬉しいのか微笑みながら建物の中へと入って行った。俺たちも素直について行く。

「中は意外と綺麗だな」

 細長い廊下を進むが、あまり亀裂や埃は目立たなかった。

「響、逆だよ。外はわざと汚くしてるの」

「……ああ、人が来ないようにするためか」

「さすが、察しが良いね」

 そこで廊下から少し開けた場所に出る。そこには椅子やソファがいくつか置いてあった。

「じゃあ、適当に座って」

 弥生のお言葉に甘えて適当な椅子に座る。望たちも腰を降ろした。

「さてと……お前と雅たちの関係はわかった。とりあえず、3人揃えよう」

「え?」

「仮契約『リーマ』」

 スペルに手を当てながら宣言。すると、俺の隣にリーマ(少女モード)が現れる。

「……へ!?」

「おー、本当に弥生だー」

「ちょ、え? え?」

 弥生は目を点にしたまま、立ち上がった。

「久しぶりに3人、揃ったね」

 雅がリーマの手を取って弥生の傍まで歩く。

「待って! ど、どう言うこと?」

 状況が飲み込めていない弥生は後ずさりする。

「簡単に言っちゃうと、私たちは響の式神になったの」

 リーマが少しだけ不満そうに言う。

「し、式神!? 人間の!?」

「弥生でも勝てないと思うよ。響は強いから」

 雅が微笑みながら断言した。

「でも、普通の人間……」

「弥生でもって言い方だと、お前らよりも強いのか?」

 弥生の言葉を遮って雅とリーマに確認する。

「まぁ、強いよね」

「うん、私の炭素も砕かれるし」

 砕かれる?

「へぇ、意外だな」

「まぁ、今じゃ響の加護があるからどうかわからないけど」

「加護?」

「ああ、俺の力を少しだけ分けてるんだよ」

「じゃあ、本当に……」

 雅とリーマが俺の式神(リーマはまだ、仮式だが)だと言うのがまだ信じられないのか何故か、弥生は俺を睨んだ。

「あ、これヤバい奴だ」

「望たち、こっちに来て」

 リーマと雅が慌ただしく、望たちをこの部屋から避難させる。

(まぁ、これだけ妖力を漏らしてたらそうなるよな? 狂気)

『……ああ』

 狂気が目を覚ましたのは紫の家でチルノの話を聞いた数日後だった。調子はかなり、悪い。あれから妖力も揺らぎっぱなしで戦闘で使えるかどうかわからないのだ。

(復帰戦、厳しくなるかもよ?)

『全く、面倒なことになったもんだ……』

「ゴメン、やっぱり自分の目で見ないと信じられない。だから、戦う」

 弥生の目の色が黄色に変化する。あれは――。

「おおう、魔眼か」

『ありゃ、勘弁じゃのう』

 薄暗い部屋の中、俺を睨む黄色い瞳が淡く光った。

 


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