東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第219話 黄色い瞳

「じゃあ、死ぬ気でどうぞ」

 弥生がそう言うと一瞬だけ目が光った。

「よっと」

 魔力を足元で軽く爆破させて空を飛ぶ。その瞬間、先ほどまでいた場所がなくなった。そう、跡形もなく。

(こりゃ、厄介だな)

 魔眼のことはパチュリーの図書館で勉強したが、彼女の魔眼は見たことがない。多分、『遺伝魔眼』だ。能力がまだ、把握できていない今、迂闊に接近するのは得策ではない。

「油断は禁物だよ?」

「くっ」

 俺を見続ける限り、魔眼はいつでも発動し続ける。本当に厄介だ。

「魔眼『青い瞳』」

 こちらも魔眼を発動し、相手の力を視る。

「魔眼!?」

「お互い様だな!」

 相手の視線を視てその線上から逃れ、右手に神力を込めた。

「神撃『ゴッドハンズ』!」

 巨大な手を思い切り、突き出す。しかし、すぐにその右手が砕ける。

(やっぱり、砕ける……雅の炭素でも砕けるらしいからこれぐらい簡単に、か)

「その力は?」

「質問は後。続きをしよう。霊盾『五芒星結界』」

 5枚の博麗のお札を結んで展開した。だが、砕かれる。

「さすがにきついなぁ」

 攻撃しようにもその武器はすぐに砕かれるのだ。魔眼で視線を先読みしてもこちらの攻撃手段は消されてしまってはジリ貧になる。

(妖力を手に纏わせれば……でも)

『いいから、使え。いざとなれば『狂眼』で安定されられるだろ?』

「それだと、女体化するから嫌なんだよ!!」

「何のこと!?」

「こっちの話だ! 拳術『ショットガンフォース』」

 妖力を両手に纏わせようとするが、違和感を覚えた。

「な、何だこれ……」

 魔眼で両手を見る(もちろん、逃げながらだ)とラグが生じている。

「ぐっ……」

 熱い。両手がものすごく熱い。

「きょ、狂眼『狂気の瞳』!」

 左目は青く、右目は紫色になる。もちろん、これでも魔眼も狂眼も発動する。まぁ、女体化したけれど。

「な、何!? 女に!?」

「分身『スリーオブアカインド』!」

 3人に分身して一気に弥生に接近する。一瞬で2体の分身が砕かれるが、その時には弥生の懐に潜り込んでいた。

「っ!?」

「これでっ!」

 右手を思い切り、弥生の鳩尾にブチ込んだ。

「がッ……」

 体をくの字に曲がらせ、弥生は思い切り、吹き飛ばされた。そして、すぐに壁に叩き付けられる。

「……?」

 今、手ごたえが変だったような気がした。

「異形」

 ぼそりとそんな声が聞こえた瞬間――。

「っ――」

 目の前が真っ暗になった。いや、違う。

「これは、やりすぎじゃない?」

 雅が炭素で俺を守ってくれたのだ。

「雅、邪魔しないで……ってどうやって?」

「私は式神だけど、自分の意志で響の傍に召喚できるんだ」

「それって式神としてどうなの?」

「さぁ?」

 炭素のせいで弥生の姿は見えないが、声は先ほどよりも上から聞こえる。

(異形……それって)

 永琳印の薬を噛んで元の姿に戻った。

「……響さん、私のことどう思う?」

「え?」

 突然、弥生から問いかけられ、聞き返してしまう。

「雅」

「……うん」

 炭素が消え、弥生の姿が露わになる。

「こ、これは」

 弥生の背中から片翼だけ白銀の翼が生えていた。更に目の周りや、首筋の一部に白銀の鱗。

「ドラゴン?」

「さすが、響だね。そう、弥生は……魔眼を持った妖怪と竜のハーフと人間との間の子。つまり、人間の血を2として、魔眼を持った妖怪の血が1、竜の血が1。かなり複雑だけど」

 確かに、目の前の弥生は背丈も高くなっている。

「この姿を見て、どう思う?」

「……普通」

「……え?」

「見た目は竜だけど中身は人間だ。だから、普通」

「そんな理屈ッ!」

 竜の拳で俺に向かって殴りかかってくる弥生。

「くっ」

 それを止めようとする雅だったが、左手で制止させ、右手を前に突き出す。俺の右手と弥生の拳が衝突するもその場で止まった。

「そ、そんな」

「お前は自分の力に恐れ、怯えている。だから、弱い」

「ま、また変な力を!?」

「きょ、響!? 何で、妖力を使わないで……」

 雅の言う通り、俺は何も力を使っていない。強いて言えば、感情のコントロールしかしていないのだ。

「え!? 人間の力だけで竜の力を防げるはずが」

「人間の脳ってさ。30%の力しか引き出せてないんだってよ」

「はぁ?」

「それでも、その限界を超える方法はいくつかある。一番簡単なのは……怒り」

「「ひっ……」」

 俺の目を見た弥生と雅が悲鳴を上げる。きっと、目が血走っているからだろう。少しでも気を抜けば残骸に力を与えてしまうので注意が必要だ。

「さぁ、続きをしよう」

 そう言って右手に力を込める。少しずつだが、弥生の拳が押され始めた。

「何で……」

「気持ちが迷っている奴と怒りすらも力に換える奴が戦ったら勝つのは決まってる」

「迷ってなんか」

「お前は、自分の血を憎んでいた。他の人とは違う容姿を怖がっていた。でも、雅とリーマはお前に寄り添ってくれた。だから、大丈夫だった。そう、その安心は過去形なんだよ。今のお前は、雅もリーマもいないお前は、また独りになったお前は、ひたすら怯えてるだけなんだよ!」

 左手から雷を飛ばす。

「きゃっ」

 感電したのか弥生が右腕を引いた。その隙に雅を脇に抱えてバックステップして距離を取る。

「ちょっと、何で追撃しないの!?」

「怒り状態は長く持たないんだよ!」

「じゃあ、妖力で殴ればいいじゃん!」

「こっちにも事情があるんだ! 契約『霙』!」

 スペルを床に叩き付けて叫ぶ。

「バゥ!!」

 そして、霙が召喚された。

「さっきの犬も式神だったの!?」

「私は狼ですよ!」

 すぐに擬人モードに変わった霙が氷で出来た直刀を両手に持って弥生に突っ込む。

「雅、霙のアシスト! 仮契約『リーマ』!」

「本当にやんちゃな子ね!」

 大人モードのリーマがツルを弥生に向かって伸ばす。

「もう、次から次へと召喚して!!」

 突っ込んで行った霙を左手で軽く跳ね飛ばしてツルに向かって炎を吐き出した。

「炎まで!?」

 燃え尽きたツルを見て声を荒げてしまう。

「だから、私もリーマも勝てないんだよ。でもっ!!」

 こちらに飛んで来た火球を雅が炭素で防いだ。

「え!? み、雅が炎を!?」

「私だって成長してるんだよ! 響、お願い!」

「憑依『音無 雅』!」

 黒い粒子を身に纏い、雅を憑依させた。

「合体!?」

「炭道『黒き道』!」

 炭素の道を使って弥生に接近。

「魔眼!」

 黄色い瞳が光った。

「炭素『黒き風』!」

 咄嗟に黒い粒子を周りに旋回させて身を守った。

「炭槍『黒き槍』!」

 右手に漆黒の槍を持って突き出す。切っ先が弥生の頬を掠める。弥生が反射的に首を傾けて躱したのだ。

「なっ――」

 しかし、一瞬だけだが、隙が出来た。それを狙って霙が弥生の背中に触れて氷漬けにする。

「動きが……」

「やっぱり、翼でバランスを取ってたんだな?」

 よく尻尾の生えている動物は尻尾でバランスを取っていると言う話を聞いたから試したが、見るからに動きが鈍くなっている。

「こんな氷……」

 弥生が翼の氷を破壊しようと翼に向かって拳を振るおうとした。

「させないよっと」

 だが、その拳にツルが巻き付いて邪魔をする。リーマだ。

(もう一回、妖力を!)

 さっき、弥生を殴った時の違和感は多分、腹の部分に鱗があるのだろう。それを普通の――いや、怒り状態でも衝撃は貫通しない。

「はああああああっ!」

 今度は右拳にのみ、妖力を纏わせる。

「何で、人間が妖力を!?」

「ぐぅ……」

 弥生が驚愕で動きを止めている間に何とか、妖力を安定させたい。

『何で、安定しないんだ……』

 狂気の呟きが聞こえる。オレだって知らない。

(……何だろう。この妖力)

 今、気付いたが今までの妖力を何か違うような気がする。根本的な何かが。

「雅、解除」

「え!? ちょ!?」

 突然、憑依を解除された雅は目を見開いて俺の隣に召喚される。

「何で!?」

「ちょっと、試したいことがあって。お前ら、時間を稼げ」

「いい加減にしろっ!」

 とうとう、氷が砕かれてしまった。更に弥生を拘束していたツルも引き千切られてしまう。

「わかったよ! 本当に勝手なんだから!!」

 雅は両手に炭素を纏わせて弥生に突っ込んだ。

『響、何する気なの?』

(決まってる。妖力を安定させるんだよ)

『しかし、どうやって?』

 そう、安定させるための方法はない。だから、妖力を固める。

 


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