東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第220話 チルノ?

(妖力を安定させようとするからダメなんだ。型に流す)

 目を開けると弥生が霙に拳を叩き込もうとしていた。そこに雅が割り込んで防御する。その隙にリーマがツルで弥生に攻撃を仕掛けるが、炎で焼かれてしまった。

「固定『霊力ギプス』」

 右拳が赤色に光る。

「道を開けッ! 神鎌『雷神白鎌創』!」

 左手に鎌を持って走り出した。

「そんなちゃちな鎌で何が!」

 魔眼が俺の左手の鎌を捉える。

「させないっ!」

 視線の間に割り込んだ雅が炭素で俺の姿を隠した。炭素が砕け、黒い粒子が俺の前を舞う。それを掻き分けるように鎌を左右に振って止まらずにダッシュし続ける。

「邪魔しないで!」

 今度は炎を吐いて来た。

「させません!」

 霙が横から水を放ち、水蒸気を発生させる。弥生の姿が見えなくなった。

(リーマ、よろしく)

『まかせておいて』

 しかし、俺には式神の通信がある。リーマが弥生の姿を見ていたら、その映像は俺にも視えるのだ。

「ちっ……」

 水蒸気のせいで俺の姿が見えないのか弥生が舌打ちする。

「せいっ!」

 左手に持っていた鎌をブン投げた。鎌は水蒸気を吹き飛ばしながら飛んで行く。

「そこか!」

 弥生が右拳を振るって鎌を殴る。鎌を俺だと錯覚したようだ。

「しまっ……」

「チェックメイト」

 右腕を引いて思い切り前に突き出す。拳が弥生の鳩尾に触れる刹那、赤から黄色に変化する。霊力の型を壊して妖力を開放したのだ。こうすれば、妖力が揺らぐ前に相手に攻撃することができる。

「ッ……」

 手ごたえは完璧。パキッ、という音も聞こえた。殴られた弥生は後方にぶっ飛ばされ、壁に叩き付けられて、埋もれる。異形化も解け、元の姿に戻った。気絶したようだ。

「やりすぎたかな?」

「うん、妖力で殴ればいいって言ったけど込め過ぎ」

「コントロールが効かないんだよ」

「うわぁ、減り込んでいるわね」

 それから弥生を壁から助け出す作業に20分ほどかかった。

 

 

 

 

 

 

「確かに私は負けたけど……響さん一人の力じゃなかったから認めないよ」

 頬を膨らませながら弥生が椅子の上で体育座りしている。

「何よ。4対1とか卑怯すぎるもん……」

「全く、異形化したらこっちだって出るとこ出るよ」

 雅が腕を組みながらため息を吐く。

「それにしても、すごかったね。異形化」

 その隣で望が弥生を興味深そうに見ている。

「……まって。望は見てないでしょ?」

「ああ、私も魔眼みたいなの持ってるの」

「う、嘘でしょ……」

 ガックリと項垂れる弥生。雅も自分が妖怪だってばれた時の反応と似ていた。

「あ、弥生。大丈夫だよ。望は気にならないみたいだし」

「そうよ。私に襲われた時だって逃げずに立ち向かって来たみたいだし」

「そうそう! お兄ちゃんがこんなんだからもう、異形化とかもう普通に見えるもん」

「こんなん?」

 望の言ったことが理解できなかったのか弥生は聞き返す。

「見たでしょ? お兄ちゃん、たまにお姉ちゃんになるんだよ」

「……待って。響、女じゃないの?」

 少女モードになったリーマが冷や汗を掻きながら質問して来た。

「「「え? 何を今更?」」」

 俺と望と雅が同時に言う。そう言えば、フランが誘拐された時、召喚したら『貴女』と言っていたような気がする。

「ああ、だからあの時、一瞬で男から女になったんだ……」

「ええ!? 弥生も気付いてたの!?」

「魔眼で」

「その魔眼の能力、教えてくれないか?」

「私の魔眼は『凝縮』。視界に入った物を問答無用で凝縮させて砕くの。後は相手の情報が少しだけわかるぐらいかな」

 つまらなそうに弥生が教えてくれた。魔眼で俺を見て『男』だとわかったのだろう。

「なんか、『闇』と似てるな」

「やみ?」

 俺の言葉が理解できなかったようで首を傾げる。

「ああ、さっきの戦いでは使ってなかったけどな」

「そうそう! 何なの!? 人間が妖力とか使うって!?」

「俺、霊力と魔力。妖力に神力を使えるんだよ」

「……は?」

 目を点にして弥生は間抜けな声を漏らす。

「後はコスプレとか。色々、できるよ。さっきだって私と憑依したでしょ?」

「ひょ、憑依? 雅が粒子状になって響さんの体に取り込まれたけど結局、何だったの?」

「簡単に言っちゃえば、合体だよ。雅の力を一時的に使えるようになるんだ」

 弥生はそれを聞いて口を開けて呆けている。まぁ、妖怪を憑依させる人間などいないだろう。

「もう聞けば聞くほど響さんが人間に見えなくなっていく……魔眼の反応は人間なんだけど、納得できない」

「種族的に見れば人間だけど、中身が人間じゃない何かだよね」

 リーマが俺の方を凝視しながら呟く。まだ、俺が男だと信じられないようだ。

「……はぁ。確かに、雅とリーマを式神にできるほどの力はあるみたいだけど」

 弥生も俺を見ながらボソッと言うが、すぐに苦虫を噛み潰したような表情に変わる。

「弥生って頑固だよね。負けたのは変わらないのに」

 ため息を吐きながら雅。

「だって、他人の力を借りて勝ってもその人の力とは言えないでしょ!」

「まず、その考え方が違うんだよ」

 そう指摘したのは望だった。

「お兄ちゃんの強みは純粋な力とかじゃないの。周りの人の力を数倍も引き上げたり、協力して問題を解決するリーダー的な力なんだよ」

「リーダー?」

「そう。この人の命令なら聞いてもいい。この人のためなら動いてもいいってそう思わせるの。まぁ、カリスマ性が溢れてるって感じかな?」

 望の発言を聞いて何だか、照れくさくなり頬を掻いた。

「カリスマ……うーん?」

 しかし、それでも弥生は首を傾げている。よくわかっていないようだ。

「まぁ、認めなくていいよ。それより、ここら辺で妖精に会わなかったか?」

「妖精?」

「ああ、氷精のチルノって言うんだけど……探してるんだ」

「チルノ……ああ、あのお姉さん?」

 ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。

「お姉さん?」

「うん。長くて青い髪に青いワンピースだよね?」

「青い髪だけど短いよ?」

 横から望が補足する。

「でも、チルノって名乗ってたし……」

 弥生の様子から見て嘘は吐いていない。もしかしたら、チルノの身に何か起きている可能性がある。

「……あっ!?」

 何か考え込んでいた望だったが突然、大きな声を出す。

「ど、どうしたの?」

 肩をビクッとさせた奏楽が不安そうな表情を浮かべて望に問いかけた。

「い、いや……その、えっと?」

 何か閃いたようだったが、望は困惑したまま首を傾げている。

「何かわかったのか?」

「うーん、弥生ちゃんの話の辻褄が合うかもしれないって思ったんだけど……でも、そう簡単になるかな?」

 まだ、自分の中で疑問が残っているらしい。煮え切らない様子で妹はため息を吐く。

「弥生ちゃん、チルノの場所わかる?」

「え? あー、うん。わかるけど今はちょっと……」

 頬を掻きながら弥生は露骨に目を逸らした。その視線の先には雅がいる。

「……なぁ、もしかしてガドラ関係なのか?」

 弥生ならガドラのことを知っているだろうし、雅に視線を送ったのは雅の前でガドラの話をしていいのか判断出来なかった、と推測して問いかけた。

「ッ!? が、ガドラを知ってるの!?」

 見事、推測が命中したようで見るからに動揺する弥生。

「そりゃ、戦ったし」

「戦った!?」

 首がもげるのではないかと疑ってしまうほどの勢いで雅の方を弥生は見た。

「うん……私と響で倒したよ」

「たおっ――」

 目を見開いたまま、弥生は後ずさる。

「あの子、衝撃的なことがあるとすぐに後ずさるんだよね」

「そうなんだ」

 リーマの捕捉を軽く流す。

「じゃあ、ガドラは?」

「……」

 弥生の質問に雅は答えず、俯いた。雅は俺にも言おうとしないが、だいたい想像は出来ている。

「うーん、これはマズイことになった」

 雅の沈黙で全てを理解したのか弥生が腕組みをしながら唸った。

「何があったんだ?」

「実は……ガドラの子分たちが『ガドラの帰りが遅すぎる』って騒いでて明日の深夜に本州に乗り込もうとしてるの」

「こっちに来るってか?」

「うん、かなり子分たちは焦ってるみたい。確か、ガドラがいなくなったのは今年の7月ぐらいだったから」

 だが、本州に行ったとしてもガドラはもうこの世にはいない。でも、そのことを子分は知らない。俺は心の中で舌打ちをして頭のギアをチェンジさせた。

 


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