東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第22話 人間、やろうと思えば何でも出来る

「……」

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ――」

 思わず、家から(スキマに手を突っ込んで)持って来たお玉を落としてしまった。

「て、てめぇ……」

 目の前で短い金髪の黒いワンピースを着た少女がエビフライをバクバク食べている。しかも、手で直接。

「ん?」

 こちらに気付いた少女はエビフライを咥えながら首を傾げる。

「……」

 なんと声をかけていいかわからず、沈黙する俺。

「…………もぐもぐもぐもぐ――」

「待て待て待て~い!!」

 今度は少女の腕を掴んで止めた。

「何なのだ~? こっちは食べるのに忙しいの~!」

「作った傍から食われて文句がない奴はいない!」

「え? これ、貴女が作ったのか?」

「そうだよ。ああ、そんなに手、ギトギトにして! ほら、洗いに行くぞ!」

 もちろん、こんな所に水道はない。外の井戸まで行かなければならないのだ。

「うん! わかった!」

 少女は素直に頷くと俺の後を飛んでついて来た。

 

 

 

 

 

 

 

「何で直接見に来るって方法を思いつかなかったんだろうな」

「お酒で頭の回転が遅くなってるんじゃない?」

 それもそうかと大笑いする魔理沙。それを霊夢は無視して台所へ入った。

「あれ?」

 しかし、竈に火はついているが誰もいない。

「いないじゃんか。トイレか?」

「竈の火をそのままにして行くかしら? 普通、誰かに頼んで火、見ててもらうんじゃ?」

「確かに……ん?」

 その時、魔理沙の目に食べかけのエビフライが映った。

「……霊夢?」

「何?」

「居間にルーミア。いたか?」

「え? う~ん……どうだったかしら? でも、なん……」

 霊夢もエビフライに気付く。

「ありえないでしょ? 神社の中で」

「そう、神社の中じゃなかったらいいんだ。博麗神社の外に連れ出して……」

「連れ出す前に倒されるわ」

「いつもメンツならな」

「……まずいわね」

「だろ?」

 霊夢と魔理沙は急いで居間へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「つめた~い!」

「我慢しろ」

 少女の手を丁寧に擦って油を落としている俺。石鹸があればいいのだがそんな物あるわけもなくただごしごしと擦っているだけだ。

「う~……お腹すいた」

「はぁっ!? あんなにエビフライ、喰ったのにか!?」

(10本は軽く超えてたぞ……)

「貴女は食べてもいい人間?」

「人間、喰わないだろ。普通」

「妖怪は食べるよ。普通に」

「あ、妖怪?」

「うん、妖怪」

「へ~」

 今更、驚く事もない。先ほども飛んでいたのだから。

(あれ? もう、妖怪が当たり前になってる!?)

 妖怪少女の手を洗いながらここまで毒されているのかと落ち込んでしまった。

「どうしたの?」

「い、いや……何でもない」

「あ! 料理、作って!」

「は?」

「だから、私だけに料理、作ってよ!」

「いいけど……あの食材、使えねーぞ?」

 台所の食材は紫が用意した物だ。あれを勝手に使うのは駄目だと思う。

「え~!? じゃあ、どうすればいいの!?」

「自分で持って来い。そしたら、作ってやる。はい、もういいぞ」

「わかった! “狩って”来る」

「おう! 行って来い」

(妖怪でも“買って”来られるんだ……)

 この後、俺は地獄を見る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いねーな」

「そのようね」

 居間にルーミアの姿はない。不安になって来た魔理沙とどうでもよくなって来た霊夢。

「ちょっと、探して来る!」

「いってらっしゃい」

「お前も行くんだよ!」

「嫌よ。面倒くさい」

「いいから!」

「どうしたんですか?」

 霊夢の腕を掴んで縁側から飛び立とうとしている魔理沙に少し顔を赤くした早苗が声をかける。

「実はな――」

 宴会の料理を作っている人がルーミアに襲われたかもしれないと魔理沙は早苗に説明した。

「それは放っておけません! 私もお手伝いさせていただきます!」

「さんきゅ! じゃあ、3つに分かれて探すぞ!」

「え~……私も入ってるの? めんどうね」

 そう言いながらも霊夢は人里の方へ飛んで行った。

「私は妖怪の山へ行きます!」

 それに続いて早苗も飛び去る。

「よっしゃ! 魔法の森へ行くぜ!」

 箒に跨り、魔理沙もルーミアを探して夜空を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おいおいおい? これは一体、何の冗談だ?」

「えへへ! すごいでしょ!」

 妖怪少女は買い物に行ったのではなく狩りに行った事が目の前の物体を見て分かった。

「それにしても……イノシシって」

 博麗神社の台所に大きなイノシシが横たわっている。

「捕まえるの大変だったんだよ? 早く、作って!」

「作れって言われても……どうやって捌くんだ?」

「え……作れないの?」

「う……」

 妖怪少女が目をうるうるさせてこちらを見上げた。俺は少しこう言うのに弱い。

「……わかったよ。やってみるけど期待すんなよ?」

「うわ~い! イノシシだ~!」

(聞いちゃいね……)

 両手を真上ではなく真横に伸ばしてそこら辺を飛び回る妖怪少女。その前で俺は1つ、深い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~お……出来ちゃったよ。おい」

「うわ~! おいしそう!」

 妖怪少女――ルーミアの目の前にはイノシシの生肉がずらりと並んでいる。捌いている途中に自己紹介をして来たのだ。

「おい、まだ喰うなよ。火、通してないから」

「いいよ~! このままでも~」

(さすが、妖怪……)

「いや、調理した方が絶対、美味いから」

「ん~……じゃあ、我慢する」

「よし、いい子だ。でも、さすがにこれだけの量、喰えないだろ?」

「食べられるけど食べてる途中で料理が冷めちゃうと思う」

「あ、そっち? あれ、そっちなの?」

 質問するけどルーミアは目をキラキラさせて生肉を見ていて聞いていなかった。

「……作るか」

(つっても……イノシシ料理知らねー……)

 重大な事に気付く俺。

「る、ルーミア? 何、喰いたい?」

 本人に聞いてみる。

「肉」

「わかってるよ! 具体的な料理を言え!」

「何でもいいからお腹いっぱいになりたい」

(駄目だ……どうしよう)

 数秒間考えた後、いい方法を思いついた。

「なぁ? ルーミア?」

「何?」

 生肉を凝視しながら返事をする妖怪少女。

「友達……いるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫様! 起きてください! そろそろ響を紹介しないと!」

「う~ん……まだ朝よ」

「夜中です!」

 私は紫様の体を揺すって起こそうとするが目を覚ましそうにしない。このままでは響を紹介する前に居間にいる全員が酔い潰れてしまう。

「私が代わりに紹介しますよ? いいですか?」

「おねが~い……」

 紫様はそう言うとまた眠りについた。

「全く……」

 溜息を1つ、吐いて台所に足を向ける。今でも響は料理を作っている事だろう。

「響! ちょっと来て……あれ?」

 しかし、予想は外れて台所には誰もいなかった。

「トイレ……か。竈の火も消えているし」

「藍様? どうかしましたか?」

 推測していると橙が空いた皿を抱えてやって来た。今回の宴会の幹事は魔理沙ではなく紫様なので私たちが響のお手伝いをしている。

「ああ、響を呼びに来たんだけど……見てないか?」

「いえ、先ほどから見当たりません」

「むぅ……どこに行ったんだ?」

 しばらくの間、台所で待っていたが響は姿を見せなかった。

 


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