「ご馳走様」
朝9時。響は箸を置いてそう呟いた。因みに今の所、誰も起きていない。魔眼でキッチンを探し出し、スキホの中に保存してあった食材を使って朝食を作ったのだ。
「さてと……」
食器を流しに置いた後、携帯(スキホではなく、響の携帯だ)を取り出して電話をかけた。
「お前ら、起きるの遅すぎるだろ」
時刻は午後3時。奏楽と霙が顔を出したのを見てため息交じりに響が呟く。
「だって、お兄ちゃんが起こさないから」
正午ぐらいに起きた望が反論する。
「……まぁ、いい。じゃあ、作戦会議を始める」
響の目が真剣な物に変わったのを見て全員がソファや椅子に腰かけた。その間にスキホから大きなホワイトボードを召喚させる響。
「うわっ……何、その携帯!?」
スキホの機能を始めて見る弥生が驚愕した。
「この中に道具とか色々、収納できるんだよ」
説明しながら黒ペンでホワイトボードに『作戦!』と書きこむ。
「まず、作戦は『3枚の壁』だ」
そう言いながら横に真っ直ぐ黒線を等間隔に3本、書いた。
「妖怪たちが上から攻めて来るとして、1枚目の壁の役割は敵に少しでもダメージを与えること」
一番上の黒線に『ダメージ!』と付け足す。
「そして、2枚目の壁はダメージを受けた敵……つまり、弱そうな敵を出来るだけ排除する」
2番目の黒線に『撃退!』と書き足した。
「最後の壁は残った敵を全て、片づける。これが『3枚の壁』。もちろん、壁役は俺たちだ」
3番目の黒線に『駆逐!』と書いた後、ペンを黒から赤に持ち替える。
「そして、重要なのがチーム編成だ。助っ人を加えて俺たちの人数は9人。3人一組で壁役をやって貰う」
赤ペンで『1枚目』、『2枚目』、『3枚目』とこれまた等間隔に書いて行く。
「とりあえず、ここに全員、集めたいから霙と弥生。すまないが、チルノを呼んで来てくれ。霙に乗れば往復5分もかからないはずだ」
「了解であります!」
霙は力強く頷いた後、狼モードになって弥生の傍に移動する。
「え、えっと……よろしく」
「バゥ!」
おそるおそる弥生が霙の背中に乗るとアジトを出て行った。
「仮契約『リーマ』!」
すかさず、響がスペルを地面に叩き付けてリーマを召喚する。
「わざわざ召喚する必要あったの?」
式神通信で作戦会議を聴いていたリーマは不思議そうに響に質問した。
「ああ、チームで話し合いをして貰いたいからね」
スキホを弄り、PSPを腕に召喚しながら軽く説明する響だったが、すぐに別のスペルを唱える。
「移動『ネクロファンタジア』!」
紫の衣装を身に纏い、扇子を横薙ぎに払ってスキマを開く。
「霊奈!」
スキマに頭を突っ込んで幼馴染の名前を呼ぶ。
「あ、はいはい。やっとね」
すると、スキホの中から出て来た霊奈は待ちくたびれたような表情を浮かべながらアジトの床を踏む。
「やっぱり、助っ人って霊奈さんだったんだね」
望の質問に響と霊奈は同時に頷く。
「霊奈、今朝に説明した通りだ。今日はよろしく頼む」
「もちろん、響のためだったら何だってするよ」
傍から聞けば恥ずかしい台詞だったが、響にとってその台詞は心強い物だった。
「ただいまー」「来てやったわ」
その時、アジトの扉が開いて狼モードの霙に跨った弥生とチルノが姿を現す。
「早かったな」
「うん、霙の足が速くて助かったよ。ん? そちらの方は?」
霙から降りた弥生は霊奈の姿を見て聞く。
「博麗 霊奈だよ。響に呼ばれて一緒に戦うことになったの。よろしくね、弥生ちゃん」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
霊奈が差し出した手をギュッと握り返しながら弥生が頭を下げる。
「……よし! これで全員だ! 今から、チームを発表する。メンバー編成は1チームに『近距離攻撃役』、『遠距離攻撃役』、『防御または援護役』の3人という感じで分けている。まずは1枚目の『近距離攻撃役』は霊奈だ」
「あ、早速だね」
「1枚目はバランスよく敵にダメージを与えることが重要だからな。お前の刀は単発だけど威力の強弱は少ないし、何より攻撃速度が凄まじい」
「了解。とにかく、敵を切ればいいんだよね?」
霊奈の質問に響は頷くだけで答え、『1枚目』の下に黒ペンで『霊奈』と書く。
「それじゃ、次。1枚目の『遠距離攻撃役』はリーマ」
「はーい」
「お前には遠距離攻撃だけじゃなく、他にも役割があるからよろしくな」
「え? 他の役割?」
「それを説明するために『援護役』を発表する。望、頼む」
響は望がいた方を見ると、そこに望の姿はなかった。
「あ、ゴメン。もう、書いちゃったよ」
振り返るとホワイトボードの前に望が立っている。しかも、黒ペンで『霊奈』の下に『リーマ』、『望』と書かれていた。どうやら、響がリーマと話している間に書きこんでいたようだ。
「まぁ、その能力を活かして無傷の敵をリーマと霊奈に教えるんだ。そして、リーマは望の護衛役兼望を運ぶための乗り物だな」
「ツルを伸ばして望を支えればいいんだよね?」
「いや、ツルじゃなくて髪の毛の方が良い。成長を操るんだったら、髪を伸ばしたり短くしたりできるだろ?」
「うぇ……あれ、気持ち悪いからあまりやりたくないんだよね」
苦虫を噛み潰したような表情のまま、リーマが文句を言う。
「お前に拒否権はないっての。頼むぞ、3人共」
リーマもそこまで本気で嫌がっていたようではない。響の作戦を3人は素直に受け入れた。
「じゃあ、次は『2枚目』。『近距離攻撃役』は霙。『遠距離攻撃役』は奏楽。『防御役』は雅だ」
「あれ? てっきり、2枚目の遠距離はチルノだと思ってたのに」
雅が目を丸くしながら呟く。
「2枚目は出来るだけ敵の数を減らすのが目的。やっぱり、一番きつい壁なんだよ。多分、チルノだと火力不足だ」
「何よ。私が弱いって言いたいの?」
すぐさま、チルノが横やりを入れる。
「そうじゃない。2枚目に要求されるのは『火力』。3枚目に要求されるのは『精神力』なんだよ。だから、チルノは3枚目に入れた」
「どうして、3枚目は『精神力』が必要なの?」
弥生の質問はここにいる誰もが思った事だ。本来、3枚目に要求されるべき事柄は『敵を残さないための正確な攻撃』。つまり、『正確性』だと思ったのだ。
「3枚目は最後の砦。3枚目が突破されてしまったら、本州に妖怪の大群が押し寄せてしまう。だからこそ、誰一人通さないっていう気持ちがないと不安と恐怖で潰れる」
それを聞いた奏楽以外の人は納得した顔を響に向けていた。奏楽は彼が作っていたカツサンドに夢中である。
「最後は弥生、チルノ、俺の3人。基本は弥生が近距離。チルノが遠距離。俺が防御兼援護だ」
「響が2枚目に入った方がいいんじゃないの? この中で一番、2枚目が適任だと思うんだけど」
「いや、俺には式神通信がある。式神同士でも通信は出来るには出来るが、俺が一番、使いこなせるんだ。だから、1枚目のリーマ。2枚目の3人から情報を得て、3枚目の指揮を執った方が安全なんだよ」
霊奈の疑問にスラスラと響は答える。
「それに雅には『主喚』が使えるから2枚目の助っ人として飛べるから俺と雅は離した方が良い」
「『主喚』って何?」
首を傾げながら望。
「雅の傍に俺を召喚するスペルだ。まぁ、式神が主を召喚するとかあり得ないんだけど、雅の式神になった経緯は特殊だったから出来るようになったんだってよ」
因みに特殊な経緯とは響が『雅を守る』と強く祈りながらキスをしたことにより、響の能力が発動し、雅にそのような力を与えた。そのことを知っているのは響と雅、そして紫の3人のみである。
「雅ってそんなに特殊な式神だったんだね」
感心したように弥生が呟く。
「自分じゃよくわからないけどね」
正直、雅自身も式神らしくない力を得てしまったことに困惑している。その隣で霙が不満そうに頬を膨らませているのは明らかに雅に嫉妬している証拠だが、奏楽以外、それを見た人はいなかった。
「さて、作戦はこんな感じだ。チームごとにどんな感じで攻めるか話し合ってくれ」
そう言って、弥生とチルノの傍に響は移動する。
「じゃあ、どうする?」
腕を組みながら弥生は作戦の立案者に聞いた。
「俺たちは敵を全て倒さなきゃいけないから俺の魔眼で敵を探知し、チルノは弾幕で先制攻撃。生き残った奴を弥生が叩き潰すで良いと思う」
「響さんは魔眼のみ?」
皮肉に聞こえるようなセリフだったが、響の実力を知っている者だったら、『戦闘には参加しないのか? 響は強いのに?』と言う裏の意図が簡単に予測できる。
「いや、俺は状況によって行動する。2枚目がピンチだったらそっちに加勢しに行くし。チルノと協力して援護射撃するし。お前に攻撃が迫ってたら防御するし。必要なら敵を潰すし」
「……響さんなら出来そうだから困るんだよね」
昨日の夜、雅に『響に無理させないように見ててあげて』と言われた弥生はため息を吐いた。雅のお願いは弥生にとって少しばかり荷が重い物だったかもしれない。