「……はぁ」
俺は霙を連れだって道を歩いていた。もちろん、霙は犬モードだ。その背にはリュックサックを背負っており、そこに今日買った食材を放り込んでいる。
『ご主人様、やはり心配なのですね?』
「……まぁ、な」
周りには人がいないことは魔眼を使って確認していたので声に出して返事をする。
季節は5月。その間には大きな異変もなく、こころとの修行も順調だ。もちろん、俺は無事に進級し、大学2年生になった。望たちも留年しなかった。
平和な日常を送っていた俺たちだったが2週間前に望たちの学校で大きな事件があった。『学校ジャック事件』である。
その時、雅はどういうわけか通信を切っていたので俺がそんな事件が起きていた事を知ったのは事件が解決し、二人が家に帰って来てからだ。
望の話では友達と一緒に行動して事件を解決させたと言っていたが、その概要はわからないまま。いくら聞いても二人とも、教えてくれない。
「大丈夫かなぁ?」
『そんなに心配しなくても大丈夫ですよ! 望さんも雅さんも強いですから!!』
「そうなんだけど……」
何か、面倒なことに巻き込まれているような気がしてならないのだ。
「……ん?」
望たちのことで悩んでいると視界の端に何かが映った。何となく、そちらを見て俺は驚愕する。
「え、えっと……この建物が、これで。あれが……あ、あれ!?」
小学生ほどの白髪で短髪な少女がメイド服を着て地図を凝視しながら何かを呟いていたからだ。
「……」
「あ、あれぇ……ここ、どこでしたっけ? う、うん?」
どうやら、迷子のようだ。手には買い物かごを持っているのでお使いの途中で道に迷ってしまったらしい。
「……ねぇ? 君」
さすがに放っておけないので声をかける。
「は、はい!?」
だが、向こうは地図に集中していたのか驚いて悲鳴を上げた。
「大丈夫?」
「え? えっと……大丈夫ではないです」
とても正直な子だった。
「迷子?」
「はい……恥ずかしながら」
俯き気味でメイド少女が言う。その目には涙が溜まっていた。
「その地図、見せて」
「え?」
「ここら辺はそれなりに詳しいから案内してあげるよ」
「ほ、本当ですか!?」
先ほどの涙はどこかへ行ってしまったようでメイド少女は目をキラキラさせて俺を見た。
(犬みたいな子だな……)
「えっと……この赤い印の場所に行きたいのか?」
「はい。風花さん――私と一緒に住んでる人に書いて貰ったのですが、いつの間にか変なところに迷い込んでしまって……」
「そっか。疲れたろ? こいつの背中に乗れよ」
そう言いながら霙が背負っていたリュックサックを手に持つ。
「え? い、いいんですか?」
『はい、大丈夫ですよ』
霙はそう言いながらコクンと頷く。まぁ、霙の声は俺にしか聞こえていないのだが。
「いいんですか!? ありがとうございます!」
霙の頷きを了承と解釈したのかメイド少女が笑顔でお礼を言い、霙の背中に乗った。
「そう言えば、名前は?」
地図を見ながら問いかける。
「はい、私は種子と言います!」
「種子か……珍しい名前だね」
「ご主人が名づけてくれました!」
(ご主人?)
見た目は小学生だが、幻想郷理論のように見た目より歳を取っているのかもしれない。そう考えると本当に雇われている可能性だってある。
「よし。場所はだいたいわかった。霙、種子を落とさないようにしろよ」
『はい! 了解であります!』
「霙さん、よろしくお願いしますね」
こうして、種子の家に向かって俺たちは歩き出した。
「……」
歩き始めて十数分後、目的地に到着する。もう一度、地図を見て確かめたが、ここで合っているようだ。見た目は普通の一軒家。俺の家より少しだけ大きいぐらいだ。
「……“柊”?」
その家の表札を見てバイト先の後輩を思い出すが、『柊』という苗字は別段、珍しい苗字ではない。きっと、違う柊さんなのだろう。
「ここです! 音無さん、ありがとうございました!」
種子は霙から飛び降りて俺に頭を下げて来た。
「いや、これぐらい」
「あの、お礼と言ってはなんですが……お茶でも飲んで行きませんか?」
「え? でも……」
「大丈夫ですよ! ご主人は学校なのでまだ、帰って来ませんから!」
因みに俺は講義がない日だ。サボりではない。
『ご主人様、どうします? さすがにそろそろ、家に帰らないと食べ物が痛んでしまいますよ』
霙が俺の方を見ながら聞いて来る。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。お茶を飲んでる間、冷蔵庫に入れておいてください」
しかし、俺が答える前に種子がそう言ってくれた。
「……種子」
「はい?」
「お前に用事ができた。中に入れて貰うぞ」
「へ? え? あ、はい」
突然、俺が態度を変えたので種子は目を白黒させながら玄関のドアを開ける。俺たちは種子の案内で中に入った。
「霙、そこで待ってて」
俺は霙に命令してスキホから濡れタオルを取り出す。もちろん、種子から見えないように。
「今、濡れタオル持って来ますね」
「あ、いや、大丈夫。丁度、ウェットティッシュがあった」
咄嗟に嘘を吐く。濡れタオルで霙の足を綺麗にして、濡れタオルをスキホに戻した。
「ゴミ、貰います」
「いや、ゴミは自分で処理するから大丈夫だよ」
そう言いながら自分のポケットにゴミを入れる真似をする。それにしても種子は本当に気が利く。そのせいで色々と面倒だが。
種子は何故か、俺を見て感心している。
「あ、ではついて来てください」
我に返った種子は俺と霙を連れてとあるドアを開けた。中を見てみるとどうやら、リビングのようだ。
「適当な場所に座っていてください。今、お茶淹れますので」
種子はメイド服を翻してキッチンの方へと消えて行った。
「おい、霙。どう思う?」
『そうですね……かなり、怪しいです』
「だよなぁ……」
種子は霙の言葉を理解していた。そこでまず、種子が普通の人間ではないことがわかる。
(なら、何だ?)
魔眼で確かめても微弱の霊力を感じるだけ。この霊力量なら普通の人間より少ないほどだ。
「ただいまー」
その時、種子とは別の女の子の声が聞こえた。
「種子ー。ちゃんと、帰って来られ……およ?」
リビングのドアが開いて黒髪でボブカットの少女が入って来る。背丈的に中学生。
「あれ? お客さん?」
「あ、お帰りなさい風花さん」
種子がキッチンから少女――風花を出迎える。
「種子、この人と大きな犬は?」
「はい、音無さんと霙さんです。私が迷子になっている時に助けてくれたんです」
「え!? 地図、描いたじゃん!」
「すみません……地図の見かたがわかりませんでした」
「あー……なるほど」
風花は納得したように頷く。
「えっと、音無さんだったかな? 種子を助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「それで、お礼にお茶をご馳走しようと思いまして……」
「本当に種子は律儀だねぇ……」
苦笑いを浮かべる風花。しかし、すぐに俺を見る。その目は鋭かった。
「でも、さすがに人かもわからない奴を家に入れるのはどうかと思うよ」
それを聞いてすぐに魔眼を発動。
「……お前は人間じゃないけど?」
「いや、今の一瞬で目の色を変えた人には言われたくないよ……」
ごもっともだ。
「さてと……これはどうしよっかなぁ」
「ど、どうするってどうするんですか!?」
風花の呟きに過剰反応する種子。魔眼で風花を視ているが妖力を集中させていないので攻撃を仕掛けて来るつもりはないらしい。
「そうだね……とりあえず、殺すか?」
風花がニヤリと笑い、背中に漆黒の翼を出現させ、俺の喉に向かって伸ばして来た。
――パキッ……
「……霙、やめろ」
「で、ですが!?」
擬人モードになった霙が風花の翼を受け止めてそのまま、凍らせたのだ。
「い、いやぁ……こいつの実力を確かめようとしただけなんだけどまさか、翼を氷漬けにされるとは思わなかった」
風花もさすがに驚いていた。
「とりあえず、座れ。お互いに話すことがたくさんありそうだ」
「「「……はい」」」
俺の指示に素直に従う3人であった。
今回登場した種子と風花は私のオリジナル小説『モノクローム』に出て来るキャラです。
あ、『モノクローム』はすでにどこにも投稿していない小説です。
……いや、東方楽曲伝を書き始めた当初、『モノクローム』とコラボさせようと思い、色々とフラグを立てたり、お話しの中に加入させていたのですが、まさかここまで東方楽曲伝が長く続くとは思わず、こんな時期にクロスすることになっちゃいました。
まぁ、別にそこまで関係ないので大丈夫だと思いますw