東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第230話 もう一つの世界

「さて、どこから説明したもんかな……」

 種子が淹れたお茶を飲み干した後、柊がごちる。

「とりあえず、この前のジャック事件で何があったのか教えてくれないか?」

「音無妹、兄貴に言ってなかったのか? 音無兄もこっち側なのに」

 どうやら、柊は望のことも『音無』と呼んでいたようで、俺のことを『音無兄』、望のことを『音無妹』と呼ぶ事にしたようだ。

「うん。ちょっとお兄ちゃんと望ちゃんたちは違うからね」

「違う?」

 よく意味がわからなかったので質問する。

「うーん、なんて言うかな? 力の種類が違うんだよ。お兄ちゃんは霊力とか魔力でしょ? でも、柊君と望ちゃんは……」

 そこで、言葉を区切って柊と築嶋さんを見た。話してもいいか確認を取ったらしい。

「そこからは私が話そう。望が言ったように私たちの力は少しだけ特殊なんだ。お兄さんは元々、霊力や魔力を持っていただろう? つまり、お兄さんの力は“才能”なんだ。全ての人類が持ってるわけではない力。まぁ、異能と言うべきだな」

「ちょっと待ってくれ。俺に異能の力があるって知ったのは一昨年の夏だぞ?」

「気付かなかっただけだ。おっと、すまないがこの口調のままでいいか? あまり、敬語は苦手なもので」

 そう言えば、築嶋さんは俺に対して敬語を使っていた。まぁ、そこまで気にする事でもないので了承する。

「ありがとう。それで、お兄さんの力が才能だとすると私たちの力は“病”だ」

「病? 病気だって言うのか?」

「いや、お兄さんが思っているような病気ではないだろう。簡単に言ってしまえば、私たちの力は“感染”する」

「感染!?」

 思わず、声を荒げてしまった。異能の力が普通の人間にも感染するということはいずれ、全人類が異能持ちとなってしまう。

「そう簡単には感染しないけど。そうだな……とりあえず、空気感染はしない。私たちの力――【メア】と呼んでいるが、その【メア】に触れてしまったら十中八九、感染する」

「……築嶋さんは何で【メア】を?」

 少し、プライバシーに反する質問だと自覚していたのでちょっと、声が小さくなってしまった。

「小さい頃に触れてしまったようだ。あまり、覚えていないが」

「じゃあ、柊は?」

「……わからない」

「え?」

「俺の力は普通の【メア】じゃないんだ」

 柊はそう言いながら俯く。

「どういうことだ?」

「【メア】っていうのは感染するけど、遺伝はしないんだって。でも、柊の力は遺伝らしいの」

 雅が困った表情を浮かべながら説明してくれる。

「……つまり、柊の力は親から遺伝したもので、原因は不明で困ってるって感じか?」

「ああ、だいたい合ってる」

「何か困ることでもあるのか? 異能を持ってても日常生活には影響しないだろ?」

「それだったらいいんだけどね……【メア】って、ちょっと野蛮なんだよ」

 望がそう否定した。

「野蛮?」

「【メア】は【メア】を引き寄せる。そして、【メア】を持った人を倒せば自分の【メア】が強くなる」

 腕組みして風花。

「それって……」

「そう、【メア】持ちの人間は力を欲する者はもちろん、別に欲しくない者も戦いに引きずり込んでしまう――嫌なことが永遠に続く悪夢のような力なんだ」

 さっきまでふざけていた表情はどこへやら、風花は真剣な眼差しで俺を見据える。

「……なるほどな」

 こりゃ、面倒な力だ。

「さてと、【メア】についてはわかった。ちょっと、気になることがあるからいくつか質問するぞ。まずは築嶋さんに」

「答えられる範囲で答えよう」

「俺と柊がコンビニでバイトしてる時、よく来るけど……その度に俺の力を見極めようとしてたよな? やっぱり、異能の力を探知できるのか?」

「ばれていたか……やはり、一般人と異能持ちでは雰囲気が違ってな。お兄さんが【メア】だった場合、りゅうきが傷つけられる前に止めなければと思っていたのだ。すまなかった」

「いや、俺も築嶋さんと柊に異能の力があるのは初見でわかっていたことだし、そうだろうと思ってたよ」

 俺の言葉を聞いて築嶋さんと柊は目を丸くした。

「知ってたのか!?」

「そりゃ、魔眼持ちだからな。多分、柊が自分の力に気付く前からお前に力があるのはわかっていたと思うぞ」

「……あーあ、音無妹の言う通り、音無兄はすごいな」

 その場で寝ころんだ柊が呟く。

「次、望と雅。お前ら、【メア】に触れたか?」

「大丈夫だよ。ジャック事件の犯人は【メア】を持ってなかったし」

「それにその頃は柊も自分の力に気付いてなかったからね」

「尾ケ井! しつこいぞ!」

「はいはい」

 珍しく、雅が弄る側だった。ちょっと、驚きである。

「柊と築嶋さん。雅の正体は?」

「「知ってる」」

「それじゃ、ラスト。今まで、【メア】に襲われた事はあるか?」

 これが一番、重要なことだ。

「俺はない。まだ、自覚を持って1週間とか2週間だからな」

「私は3回ほど。何とか、返り討ちにして来たが……自分からは仕掛けていない」

「それでいい。異能な力に頼っていたらいつか、自分を傷つけるだけだからな」

 俺のように。

「因みに【メア】ってどんなことが出来るんだ?」

「個々によって能力が違う。私の場合は両腕、両足の肉体強化。更に高速再生だ」

「……築嶋さん、もしかして」

「言うな。無茶な戦い方しか出来ないのでな」

 俺で言う『雷輪』と同じだろう。高速で両腕、両足を動かせば筋肉や骨が悲鳴を上げる。それを高速再生で治す。これを繰り返しながら戦い続けるのだ。

「お兄ちゃんは何も言えないよね?」「響は何も言えないよね?」

「……わかってる。さすがに」

 両隣から迫る視線が痛い。

「柊は?」

「……アイ」

「え?」

「『モノクロアイ』」

「……いや、中二病はいいから」

「だから、言いたくないんだよおおおおおおお!!」

 突然、柊が暴れ出した。お茶が零れないように自分の湯呑を掴んで退避させる。

「お兄さん、あまりりゅうきをいじめないでくれ」

「いじめたつもりはないんだけど……で、その『モノクロアイ』ってどんな能力なんだ?」

「『モノクロアイ』ってのは、この目のことを言うんだが、一言じゃ何ともな」

 左目を覆いながら柊。

「いくつか能力があるってこと?」

「そう言うこと。今のところ、確認したのは『視界完全記憶能力』、『時間遅延』、『虚偽透視』、『引力』かな?」

「虚偽透視ってなんだ?」

「相手の嘘がわかることだよ」

 俺の質問を望が即座にさばいてくれた。

「それと、『引力』ってのは?」

「何でも引き寄せてしまう能力だ」

「もっと、具体的に」

 食い下がったら、築嶋さんが少しだけ困った顔になる。

「それが、こればかりは何とも言えない……奇跡までも引き寄せてしまうからな」

「……それ、なんてチート?」

 奇跡を何度も引き寄せられたら敵に勝ち目などないだろう。

「コントロール出来たらな」

 ため息交じりに柊が答えた。

「つまり、出来ないと?」

「自覚してまだ2週間だっての。こんな短期間にそこまでコントロール出来るわけないだろ?」

「そりゃ、そうか……」

「あ、そうだ。元はと言えば、ジャック事件について聞きたかったんだよね?」

 雅の指摘にハッとする。忘れていた。

「その名前のまんまだよ。私たちの学校がジャックされたの」

 望が俺の顔を見てそれに気付いたのかすぐに説明してくれる。

「相手の目的は?」

「柊君の両親が残した論文」

「論文?」

「……俺の両親は研究者でかなり、有名だったらしい」

「その論文ってどこにあるんだ?」

 俺の質問に対して、柊は右こめかみを右人差し指でコンコンと叩いて答えた。

「ここ」

「頭の中? あ、そうか。『視界完全記憶能力』」

「そう、小さい頃に親に見せられた論文が頭の中に残ってるんだよ。それをどこからか嗅ぎ付けた奴らが起こしたのが今回のジャック事件ってわけ」

「その論文は相手に渡ったのか?」

「いや、私とりゅうき、望と雅でジャック犯をぶっ飛ばして解決した」

 得意げに話す築嶋さんだった。

「ぶっ飛ばしたって……バカか、お前ら」

「「だよねー」」「まぁ、だよな」「え!?」

 望、雅、柊は頷く。だが、築嶋さんだけは俺がバカにした理由がわかっていないようで驚いていた。

「築嶋さん。君は何もわかってないね」

「え? ええ?」

「確かに、ジャック事件なんてものが起きたら異能の力に頼って解決したくなるだろう。俺だって、この力を使えば十分もかからずに全員を殺せるはずだ」

「じゅ、十分!?」

「望ちゃん、驚くとこ、違うからね?」

 因みに十分とは大げさに言ったつもりはない。半吸血鬼化して3人に分身し、それぞれで適当にスペルを使ったらジャック犯などすぐに倒せるだろう。

「でも、異能の力は今の世界から見たらイレギュラーなんだよ。異能の力を知ってる人同士ならいいけど、一般人に見られでもしたら……」

「み、見られでもしたら?」

「最悪、解剖されるな。異能の力を解明しようとする人も出るだろうし」

「……以後、気を付けます」

 頭を下げた築嶋さんを見て全員が声を上げて笑った。

 


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