東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第231話 敵襲

「ジャック事件についてもわかったしそろそろ帰るかな」

「「「「いやいや、待て待て」」」」

 立ち上がろうとした俺を望、雅、柊、築嶋さんが止めた。

「こっちの説明もしたんだ。音無兄も自分のことを説明しろよ」

「……面倒」

「じゃあ、私が勝手に説明しちゃうね。まず、お兄ちゃんはコスプ――」

「わかった! わかったから!」

 望の口を押えながら何度も頷く。

「……はぁ。それじゃ、説明するけど何について説明した方が良い?」

「とりあえず、尾ケ井について。妖怪って言われてもピンと来なくて」

「お前の両隣りに座ってるワンコと鴉と同じ生き物だ」

「「みじかッ!?」」

 俺の説明に雅と柊が驚いた。

「いや、だって、『妖怪って何?』って言われてもこう説明するしか」

「他にもあるでしょうが!」

 キッと俺を睨む雅の目には少しだけ涙が溜まっていた。雑に扱われたのがショックだったようだ。

「はいはい。まず、妖怪が生まれるきっかけっていうのは人間の恐怖心とかなんだ」

「恐怖心?」

 築嶋さんが首を傾げる。

「ああ、例えば、真夜中に風で揺れる柳が幽霊に見えたりとかな。そして、それが具現化したものが妖怪。つまりは妖怪ってのは人間の恐怖心から生まれた存在ってこと」

「へぇ……それで、尾ケ井はどんな妖怪なんだ?」

「雅は……炭素を操れる妖怪だな。うん」

「響、一瞬だけ私の能力、忘れたでしょ」

 だって最近、雅が戦っているところを見ていないのだから仕方ない。

「本当に雅の扱いが酷いな、お兄さん……」

「いつも通りだよ」

「いつも私の扱いが酷いってことだよね!?」

「まぁ、雅いじりもこれぐらいにして他には?」

 『また、私で遊んでたんだ……』と落ち込み始めた雅を望が介抱する姿を尻目に再び、質疑応答に戻る。

「音無兄は何が出来るんだ?」

「あー、その質問が一番、困るな」

「それだけたくさんのことが出来るってことか?」

 築嶋さんの質問に頷いてから簡潔に答えた。

「魔法も使えるし、築嶋さんのように『超高速再生』を持ってる。他にも色々」

「まぁ、音無妹が言ってた通りだな」

「だから、お前は何を話したんだよ……」

 ジト目で我が義妹を見る。

「普通にお兄ちゃんは強いよって言っただけ」

「ほう、お兄さんは強いのか?」

「はい、そこ。『ちょっと戦ってみようかな?』って目で俺を見るな」

「望、やめておけ。ただでさえ、お前は痛い思いをするのに」

 柊が鋭い目つきで築嶋さんを睨んだ。

「むぅ……わかった」

 確かに築嶋さんの能力は両腕、両足に負担をかける。きっと、激痛も襲うだろう。

「他に……ん?」

 質問を促そうとした時、霙から通信が入った。

『ご主人様! 大変です!』

「どうした?」

「音無兄?」

「あ、今、霙から通信が入ってるの。ちょっと待ってて」

 俺の代わりに雅が説明してくれた。

『今、奏楽さんを背中に乗せたまま、ご主人様がいる家の傍まで来たのですが、玄関先に怪しい3人組がいまして』

「怪しい3人組?」

 俺は望にメモ帳をジェスチャーで要求する。理解してくれた望がバッグの中からメモ帳とシャープペンシルを渡してくれた。

(特徴は?)

『特に目立った特徴はありません。強いて言うなら3人から異能の力を感じます』

(それって……)

『はい、【メア】です』

 メモに『玄関前に【メア】がいる。3人』と書き、皆に見せる。

「何っ!?」

「望ちゃん、静かに! 玄関ってことは私たちの声も聞こえる可能性がある」

「……くそ」

 メモを見た柊が悔しそうな表情を浮かべた。

(そっか。これが『引力』……)

 何でも引き寄せてしまう能力。

「あーあ。面倒なことになったな」

「すまん」

 俺の独り言に対して柊は謝る。

「いや、そっちじゃないよ」

 ぶっきらぼうに否定しながらスキホからPSPを取り出して、右腕に装着した。

「え?」

「移動『ネクロファンタジア』」

 スペルを宣言し、紫の服を身に纏う。それを見た柊、築嶋さん、種子、風花が目を見開く。

「それじゃ、言葉で説明するのも面倒だから見せるわ」

 そう言いながら俺が扇子を横薙ぎに振るう。

「ちょっと、揺れるけど我慢しろよ?」

 注意した時にはすでにここにいる全員の下にスキマが展開されていた。

「「「「―――ッ」」」」

 スキマ初見組は悲鳴を上げる間もなく、落ちて行く。望と雅は慣れたようで大人しく落ちて行った。俺もその後に続く。

「よっと」

 華麗に着地し、周りを見ると望と雅はちゃんと立っていた(靴はないので靴下だが)。柊は種子に、築嶋さんは風花に支えられたのかこけておらず、唖然としている。

「「「うわあああああああ!!」」」

 遅れて、三人の男がスキマから落ちて来た。そのまま、地べたに叩き付けられる。

「いたた……な、何だ?」

 耳に赤いピアスを付けた男が辺りをキョロキョロと見渡し、俺を見つけた。

「お、お前が【メア】か!」

「……ああ、そうだ」

 ちょっと、面白い事を考えたので嘘を吐く。

「見つけた! お前ら、やっちまうぞ!!」

 赤ピアスが立ち上がって、構えた。それ続けて黄色いパーカーを着た男も立ち上がる。

「相手は女。ラッキーだぜ」

 黄色パーカーはそのまま、右手をこっちに向けて伸ばす。

「3人でやれば瞬殺だ!」

 最後の青い靴が目立つ男も俺を睨みながら戦闘態勢に入る。

「お、おい! 音無兄!」

 やっと、俺が男3人に狙われていると気付いた柊が叫ぶ。

「大丈夫。ここら辺は民家もないし」

 どこかの山奥だって紫が言っていた。もし、外の世界で戦うことになって余裕があればここで戦えと命令されているのだ。平地なので戦いやすい。

「そうじゃなくて、相手は3人だぞ!?」

「お前は俺を誰だと思ってる。こんな奴らぐらいすぐだって。手出しは無用だ」

 それに柊達に俺の実力を見せるために嘘を吐いたのだ。

「でも……」

 今度は築嶋さんが何か言おうとするが、望が手だけで止めた。ちょっと驚いた様子で望を見た築嶋さんは結局、何も言わずに俺のことを心配そうに見つめるだけとなった。

「さぁ、どうやって、戦うかな」

 【メア】との戦闘はこれが初めてだ。確か、【メア】は触れると感染してしまう恐れがあると言っていたが、干渉系の能力を無効化してしまう俺なら感染することもないだろう。

「これで終わりだ!」

 赤ピアスが右手から炎を飛ばして来た。どうやら、炎系の能力らしい。

「魔眼『青い瞳』」

 魔眼を発動し、火炎放射の軌道を読んで躱す。

「そこっ!」

 今度は青靴が高圧水流弾を放って来る。これに当たれば肋骨が数本、折れてしまうかもしれない。

「霊盾『五芒星結界』」

 だが、高圧水流弾は結界に阻まれてしまった。

「隙ありッ!」

 最後の黄色パーカー。右手から雷撃を飛ばす。

「……」

 俺はただ、何もせずに雷撃を喰らった。

「音無兄!?」「お兄さん!?」「響さん!」

 柊、築嶋さん、種子の悲鳴が聞こえる。

「よし、これで……ッ!?」

 黄色パーカーが勝ち誇った声を漏らすもすぐに絶句に変わった。

「あーあ。炎もぬるいし、水流弾も雑。雷なんか……こうやって、乗っ取ることだってできる。ちょっと、期待外れだな」

 黄色パーカーが放った雷撃を俺の体の周りを旋回させながら呟く。もうちょっと、強かったら本気で戦えたのだが、これだけ実力の差があれば下手したら殺してしまう。手加減しなければならない。

「う、嘘……だろ」

 赤ピアスが目を見開いていた。

「じゃあ、終わらせるか」

 黄色パーカーの雷撃を真上に打ち上げて、右手に力を込める。もちろん、俺も雷撃だ。

「ふっ!」

 一気に右腕を真上に突き上げて雷撃を飛ばす。大きさは黄色パーカーの5倍。丁度、ボウリングの球と同じぐらいだ。

「なっ……」

 それを見た黄色パーカーが口を大きく開けて驚愕していた。

「雷ってのはこうやって操るんだぜ!」

 黄色パーカーの雷撃に俺の雷撃が衝突。その刹那、黄色パーカーの雷撃が破裂し、放射線を描きつつ、落ちて来た。その後に続けて俺の雷撃も弾け、同じように落ちて来る。それはまるで、流星群のようだった。

「に、逃げろッ!」

 青靴が慌てて逃げようとするもすぐに何かにぶつかって背中から地面に倒れた。

「な、何だよ! これ!」

「牢獄『神に裁かれし者の檻』」

 このスペルは神力で創った檻を俺の周りに出現させ、敵の逃亡を防ぐものだ。範囲はだいたい、100㎡。

「それでは、おやすみなさい」

 その場でお辞儀をすると雷撃が次々と地面に突き刺さる。

「「「ぎゃあああああああああああああ!!!」」」

 哀れな3人組の断末魔を聞きながら俺は望たちの方へ歩き出した。

 


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