東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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普通の投稿に戻ります。


第232話 協定

「……」

 望たちの方へ戻るともう、開いた口が塞がらないと言わんばかりに【メア】組たちは呆然としていた。

「もう、お兄ちゃん。遊んじゃダメじゃん」

「そうだよ。ああ言う奴らはすぐに調子に乗るんだから」

 すぐに望と雅に注意されてしまう。

「だって、あいつら戦闘経験ゼロだったし」

 【メア】に感染して間もないのだろう。技も拙い物だったし、戦い方もあったもんじゃない。

「あ、あれで遊んでいた?」

「嘘だろ……」

 築嶋さんと柊が顔を見合わせて頷いた。

「……音無兄」

「ん? 何だ?」

「私たちと戦ってくれないか?」

「……は?」

 正直、さっきの戦いは見せしめだったのだ。俺の戦闘力を見せて柊達に俺と戦おうとする気を起こさせないようにするため。なのに――。

「ど、どうして?」

「私たち、本当に強い奴と戦った事がないんだ」

「だから、本当の強者って奴と戦ってみたいんだよ。後、今の俺たちでどれだけアンタに通用するのか知りたい」

 二人の目を見るとマジだった。これは逃げられない。

「……はぁ。ルールは?」

「悪いけど、音無兄一人で頼む。尾ケ井たちも加勢されたら無理だ」

「判定は望、頼む」

「はいはーい」

 望はこうなるとわかっていたのかすぐに了承した。

(どうして、こうなるんだ……)

 だが、ちょっと面白そうだ。雅に式神通信でさっきの3人を片づけるように指示して準備に取り掛かる。

「わかった。それじゃ、こっちも本気で行かせて貰うけどいいよな?」

 右腕にPSPを装備してニヤリと笑う。

「「お、お手柔らかに」」

 こうして、俺VS柊&築嶋さんで模擬戦をすることになった。

 

 

 

 

 

 

「魔眼『青い瞳』」

 両目を青くし、二人の様子を窺う。二人共、俺の動きをジッと見ているようだ。

「さて、動かないならこっちから行くけど?」

 そう言って、適当に走り始めた。

「望、左」

 柊がそう言った後、右に移動する。どうやら、二手に分かれて俺を撹乱させるようだ。

「そうはいかないけどね。まずは、築嶋さんにしようか。雷輪『ライトニングリング』。『ゾーン』」

 世界が一気に減速――いや、俺が加速した。柊の動きがゆっくりなのに対し、俺は普段と変わらない。

(確か、築嶋さんの能力はこれとほとんど、同じだったはずだ)

 考えながら築嶋さんに接近。向こうも能力を発動したのか、俺と同じスピードで動き始めた。だが、目は見開かれているので相当、驚いているようだ。

 まずは小手調べ。軽くジャブ。築嶋さんは驚きながらも右腕でガード。すぐに左腕でカウンターパンチを放って来る。それは首を傾けて回避。今度は右足でハイキックを繰り出して来た。

(パンツ、見える!?)

 視線を逸らしながら右腕で築嶋さんの右足も逸らす。靴底が俺の額を掠る。急いでしゃがんで足払い。ジャンプして躱された。だが、そのおかげで築嶋さんは今、空中。回避は不可能。

(そこに撃ちこむッ!)

 築嶋さんの鳩尾に向かって掌底。

 

 

 

 ――ドンッ!

 

 

 

「ッ……」

 掌底が当たる寸前で左から凄まじい衝撃。チラリと見ると柊がタックルして来ていた。そう言えば、あいつの能力に『時間遅延』があったはず。それを発動させて築嶋さんに危険が迫っているとわかったのだろう。

「よっと……」

 『ゾーン』を解除して二人に向き直る。その直後、俺と築嶋さんの四肢が弾けた。だが、ほぼ同時に完全に治る。俺も築嶋さんも『超高速再生』を持っているのだ。

「あ、ありがとう……」

「気にすんな。まさか、望と同じ技が使えるなんて」

「厳密には同じじゃないけど……じゃあ、今度は柊だな」

 『モノクロアイ』の力を見せて貰おう。

「雷刃『ライトニングナイフ』!」

 雷で出来たナイフを柊に向けて大量に放つ。

「くっ……」

 柊から感じる力に少しだけ変化が現れた。どうやら、『モノクロアイ』の能力を変更したようだ。つまり、一度に一つしか能力は使えないということ。

「よっと」

 柊はナイフを全て、回避した。その隙に築嶋さんに接近される。

「喰らえッ!」

「霊盾『五芒星結界』!」

 結界を張って築嶋さんの怒とうのラッシュをガード。

「隙ありっ!」

 背後から柊の声が聞こえる。いつの間にか背後に回り込まれたようだ。

「結尾『スコーピオンテール』!」

 すかさず、ポニーテールで柊に迎え撃つ。

「ちょっ!? 髪の毛まで武器になるのかよ!」

「当たったら一溜りもないから気を付けろよ!」

 築嶋さんの攻撃を防ぎつつ、魔眼を使って柊の動きを探知。ポニーテールで攻撃。

「くそっ……なんて、硬さだ」

 顔を歪ませながら築嶋さんがぼやく。

「望! 星の頂点だ! そこが結界の弱点!!」

「わかった!」

(……へぇ)

 柊の目にはこの結界の弱点が見えているらしい。

「そこだ!」

 そして、『結尾』の弱点の刃の付け根に向けて踵を落とし、刃をへし折った。

「なるほど。柊はかなり、面倒な相手だなっと!」

 その時、築嶋さんが『五芒星』を破壊。

「電流『サンダーライン』!」

「うわっ!」

 一気に距離を詰めようとした彼女を『電流』で牽制し、振り返る。

(これなら、どうだ!)

「狂眼『狂気の瞳』」

 右目が紫色になった。そして、柊の目をジッと見る。

「……ッ!」

 異変に気付いたのか柊が顔を歪めた。しかし、それ以上のことは起きない。

「へぇ……『狂眼』を弾き返したか」

「まぁ、この目は特別だって……え?」

 言葉の途中で何かに気付いたのか呆然とする柊。その視線の先には俺の背中。

「おお、そうだった。『狂眼』を使ったらこうなるんだった」

「ちょっと! 響! 着てる服、ライン出やすいんだからバレバレだよ!」

 雅からの忠告が聞こえるが無視。俺だってそれぐらいわかっている。

「音無兄が……女に?」

「色々あってね。あ、女になっただけじゃないからね?」

 服を突き破って漆黒の翼が外に出た。

「な、何ッ!?」

 築嶋さんがそれを見て後ずさりする。

「さぁ、こっからだぜ? 分身『スリーオブアカインド』」

 俺が3人に分身した。

「「……はあああああッ!!?」」

「これからが本番だ」

「いやいや、待て待て!? アンタ、人間じゃないのかよ!?」

「人間だよ?」

 柊の家でも言ったではないか。

「背中の翼は!? 何で、分身しているんだ!?」

「築嶋さん、とりあえず、落ち着こう? 地団駄踏み過ぎて足元にクレーター出来てるし」

「「説明しろっ!!」」

「なんか、日々を過ごしてたら色々と出来るようになってこうなった」

「「説明になってない!!」」

 それにしても息がピッタリだ。

「武器の俺が良い?」

 鎌を召喚しながら、俺の右隣に立つ俺が言った。

「それとも、魔法?」

 今度は左隣。その左手には雷が纏っている。

「本気の俺でもいいぜ?」

 右手に鎌。左手に直刀。ポニーテールにも刃。全てに雷を纏わせている。因みに今までは半吸血鬼化した時、指輪は使えなかったが、魔眼が両目になったことによってコントロールできるようになった。

「「……あー、無理です」」

 両手を上げて柊と築嶋さんが降参する。

「はい、そこまで」

 あっけなく終わってしまった。

「えー。これからが面白いところなのに。折角、この姿も見せたのに」

「いや、その姿を見せたから降参したんだよ!」

 雅の的確なツッコミに何も言えなかった。

「本当に強いな……まさか、あそこまでとは」

 柊がため息交じりでそう呟く。

「ああ、さすがはお兄さんって感じだな」

 築嶋さんは元々、俺が強いと思っていたようでうんうんと頷いていた。

「それで? これからどうする?」

「どうするって?」

「いや、お互いに異能の力を持ってるってわかったことだ。手を組まないか?」

「手を組む?」

 俺の提案の意味がわかっていないようで築嶋さんが首を傾げた。

「お互いにピンチになったらお互いを助けるって事だよ。まぁ、正直言って俺たちの力は種類が違うからあまり関わらない方がいいけど……」

「その提案は私たちにとっては好都合だよ。敵対さえしてくれなきゃ万々歳だ」

 そこで風花が入って来た。

「敵対?」

「ああ、りゅーきは何でも引き寄せるから出来るだけ問題は抱えたくないんだよ」

「なるほど……まぁ、これからは仲良くしようってことでいいか?」

「おう、それで頼む」

 柊と築嶋さんと握手して協定が結ばれた。これで【メア】に関する事は大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 しかし、俺は知らなかった。近い未来、この協定に頼ることになるなんて。

 


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