東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第23話 焼肉

「チルノ! 石を氷漬けにするな!」

「え~! おもしろいのに?」

「続けたければ続ければいい。ただし、焼肉が遠ざかると思え」

「チルノ! 真面目にやろうよ!」

「あ、あれ? ルーミアがめずらしく、やる気だ!?」

「響さん。これでいいでしょうか?」

「う~ん……鉄板、もう少し右寄りで。ああ、大ちゃん。それが終わったら悪いけど台所から何か火種、持って来てくれる?」

「はい! わかりました!」

「居間からお皿、持って来たよ~!」

「さんきゅ、リグル。後はミスティアのタレ待ちか……」

 俺の周りにはルーミアの友達であるチルノ、大ちゃん、リグルがいる。今はいないがミスティアが自分の屋台から焼肉に合いそうなタレを持って来てもらっていた。その間に俺たちは石を積んで即席の竈を作り、その上に鉄板が乗るようにしている。

(まさか……ミスティアと再会するとはな)

 ルーミアが連れて来た時は驚いた。向こうも同じだったらしく目を見開いていた。

「このテッパンも凍らせたらどうなるのかな?」

「その瞬間、お前がルーミアに喰われるだろう」

 俺の隣でルーミアがコクコクと頷く。

「ぶぅ~!」

 つまらなさそうに頬を膨らませるチルノ。

「拗ねても駄目」

「火種、貰って来ました~!」

 そこへ大ちゃんが大量の新聞紙を抱えて帰って来る。

「さんきゅ。それを鉄板の下に入れてくれ」

「はい!」

 大ちゃんが新聞紙を入れたのを確認してから森で拾った小枝を投入する。

「火、つけるぞ~!」

≪おお~!!≫

 俺の掛け声に5人は手を上げて答える。

「待って~!」

 マッチを取り出した所でミスティアが到着する。

「お疲れ~」

「これでいい?」

 ミスティアからタレを貰い、それぞれの皿に注ぐ。

「皿は自分で持ってろよ?」

 注意しながらマッチに火を灯し、竈へ投げ入れた。少ししてから竈から煙が上がる。

「ついた!」

 チルノは目をキラキラさせて竈の中を覗き、ルーミアは涎を垂らしながら生肉を鉄板へ――。

「こら! ルーミア、まだ肉入れるな! もう少し温めてから!」

 ギリギリの所で羽交い絞めにし止める。

「え~!」

「もう少しだから我慢しろ!」

「……わかった~」

 ルーミアが落ち着いたところで鉄板の方を見るとミスティアが腕を伸ばしていた。

「温度?」

「うん。やっぱり、もう少しかな?」

「さすが屋台主」

「いや~! それほどでも~!」

 頭を掻きながら照れるミスティア。こいつとは仲良くやって行けそうだ。

「そう言えば、どうして響は宴会の料理を? とても美味しかったけど」

「さんきゅ、ミスティア。ところで……名前、略していい? なんか呼びづらい」

「い、いいけど……」

「じゃあ……」

 ふと悟がミスティアの事を『ミスチー』と呼んでいたのを思い出す。

「ミスチーでいい?」

「う、うん……いいよ」

「で、さっきの質問の答えなんだけど……幻想郷で万屋やる事になってな。これが一番、最初の仕事」

「え!? 万屋!?」

 ミスチーの大声に他の奴もこちらを向く。

「響さん。万屋、やるんですか?」

 心配そうに大ちゃんが聞いて来る。

「あ、ああ……」

「え~! こんな人間がヨロズヤなんてできるの?」

「絶対、お前は万屋の意味をわかっていない」

 鉄板がいい感じになって来たので油を引いてからミスチーと手分けして肉を並べる。ルーミアの涎の量が増えた。

「ふ、ふん! それぐらい知ってるもん! わたしと弾幕ごっこしなさい!」

「はっ!?」

「だ、駄目だよ! チルノちゃん! 人間相手に勝負を挑んじゃ!」

「大丈夫だと思うよ?」

 注意した大ちゃんを否定したのはミスチーだ。

「え?」

「だって、響は私に勝ったもん。多分、ここにいる全員より実力は上よ。それに前に人里で起きた異変も響が解決したんだし」

「え、ええええええええええええ!?」

 リグルが驚いて叫んだ。大ちゃんは口をわなわなさせていて声すら出せていない。

「お、おい! 何で知ってんだよ!」

 肉をひっくり返しながら問いかける。ルーミアの足元に涎の湖が出来始める。

「だって……ほら、ここにいるの響でしょ?」

 ミスチーは大ちゃんが持って来た新聞紙を突き出して来た。乱暴に受け取ってミスチーが言っていた場所を確認する。

 

 

 

・この間、起きた妖怪の群れが人里を襲う『脱皮異変』。名前はこの妖怪が脱皮をして復活する事から名付けられた。この異変を解決したのは博麗の巫女である博麗 霊夢。里の守護者の上白沢 慧音。竹林の健康マニア、藤原 妹紅。あと一人いるのだが、現在行方不明である。3人に名前を聞いたが本人に迷惑がかかると拒否されてしまった。だが、その人物らしき人影を撮影する事に成功した。

 

 

 

 文章はここで終わっており、上には大きな写真があった。凄まじい暴風の中、黒い人影が右手を真上に向けており、その手に括り付けられている棒らしき物からどでかいレーザーを放っている。周りに結界を貼っている霊夢と妹紅を羽交い絞めにしている慧音がいた。

「お、俺だああああああ!!」

 ルーミアの皿に焼けた肉を盛り付けながら項垂れる。

「やっぱり……こんな事、出来るの響しかいないもん」

「確かに本人なら人里でこんな技、使わないもんな」

「す、すごいです! これなら万屋も出来ます!」

「うん! きっと出来るよ! 妖怪退治の依頼も来そうだね!」

「だから、嫌なんだよおおおおおお!!」

 大ちゃんとリグルの発言を叫んで否定。ルーミアは箸を使わずに手で肉を掴んで食べている。とても満足そうで何よりだ。

「いいわ! わたしと弾幕ごっこしなさい!」

「あれ!? チルノちゃん、話聞いてなかったの!?」

「寝てたわ!」

「話が長すぎたようだな」

 チルノなら仕方ないと納得してしまった。

「いいから! 早く!」

「はいはい……ミスチー、頼む」

「わかった。ルーミアでしょ?」

「ああ、皿を突き出しているし」

 ルーミアの事はミスチーに任せて立ち上がった。

「大ちゃんもリグルも適当に食べておいて」

「は、はい!」

「わかった」

 チルノはもう飛び上がっていてやる気十分だ。

「ルールは?」

「スペルカードは4枚。当たるか落ちるか全部ブレイクした方の負けでいいわね?」

「おう」

 PSPからイヤホンを伸ばし耳に装着。

「……飛ばないの?」

「今は飛べないんだ。後で飛ぶ」

「あ! 私が合図出しますね~!」

 大ちゃんが手を挙げてアピールする。

「頼む」

「それじゃ~! 始め!」

 大ちゃんの合図と同時にPSPを操作し曲を流す。すると、目の前に光り輝いたスペルカードが出現する。

「い、いきなりスペル!?」

 リグルが驚くが無視して掴み取り、大声で宣言した。

「亡き王女の為のセプテット『レミリア・スカーレット』!」

 服がピンクのワンピースにドアノブのような帽子。背中に漆黒の翼が生えた。変身が終わると同時にチルノに向かって飛ぶ。不意に後ろを見た。

「へ、変身!?」「す、すご~い!」

 大ちゃんとリグルの声が聞こえる。その後ろでは――。

「もっと!」

「はいはい。これもいいよ。でも、これは駄目」

 ルーミアがミスチーにお肉を取って貰っていた。

「ふ、ふん! 変身がどうしたって言うの!! これでも食らえ! 凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 チルノはチルノで叫びながらスペルを発動。これは脱皮異変の時に俺が出した技だ。その場に留まって弾を躱す。そして、弾が止まった所で懐からスペルを取り出す。

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 宣言した後、右手に紅い槍が現れて思いっきりチルノに投擲した。

「うそっ!?」

 止まった弾を蹴散らしてチルノに被弾。神社の境内に墜落した。

(ごめんな……俺も肉、喰いたかったんだ)

 心の中で謝りながら焼肉会場へ戻る俺であった。

 その後は普通に焼肉を楽しみ、チルノ達に万屋を宣伝してから無断で帰った。居間をちらっと覗いたら紫が寝ていたからだ。無責任にもほどがある。

 

 

 

 

 

「へ~……なかなか面白い奴だったね。今の」

「ああ、まさかこんな所に来るとは運命って奴かね~」

「会ったら喜ぶかな?」

「口が塞がらなくなると思うぞ?」

「それもそうだね~!」

 縁側からチルノとの戦いを見ていた人がいたなんて俺は知らなかった。そして、この人たちがあいつと再会させるきっかけとなる事も――。

 


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