東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第233話 修行中にて

「『モンキーポゼッション』」

「拳術『ショットガンフォース』」

 こころから飛んで来る青い弾を両拳で弾き飛ばす。だが、次から次へと飛んで来る。

「飛拳『インパクトジェット』」

 掌を下に向けて上空へ避難。こころも空を飛んでこっちに向かって来た。

「拳弾『インパクトガトリング』」

 軽く両腕に電気を流し、肉体強化して高速で両腕を何度も突き出す。その度に拳に込められた妖力が撃ち出された。

「喜符『昂揚の神楽獅子』」

 しかし、こころは『獅子舞』からレーザーを放ち、妖力を消し飛ばしてしまう。

「くっ……」

 その時、俺が頭に付けている『般若』のお面に意識が持って行かれそうになった。ギリギリで踏み止まったが、大きな隙が出来てしまう。

「怒符『怒れる忌狼の面』」

 スペルを発動したこころが凄まじいスピードで接近する。

「霊盾『五芒星結界』!」

 5枚のお札を投擲して結界を張った。こころと結界が激突。

(地力が……)

 『般若』に意識を持って行かれないために俺の頭に常に魔力と霊力を流していたら地力が足りなくなってしまった。このままではやられてしまう。スキホからPSPを取り出し、右腕に装着した。

「亡失のエモーション『秦 こころ』!」

 結界が壊れると同時に俺の服がこころと同じになる。

「……私になるなんてずるい」

「そんなこと、言ってられないんだよ! 『モンキーポゼッション』!」

 怒りに囚われないようにしながら戦うなんて無茶な修行方法だ。【メア】の存在を知った頃から始めたのでこんな修行をやり始めて早1か月、経つ計算になるが未だになれない。

「自分の技はさすがに躱すの簡単」

 そう言いながらこころは淡々と青い弾を躱す。

「ぐっ……」

 それを見て少しだけイラついてしまった。一気に意識が遠のく。

「集中」

「わかってるよ!」

 本当にこんな修行で負の感情を抑えることができるのだろうか?

(そんなことはどうでもいい!! 今、俺ができることをするんだ!!)

 もう、あんな悲劇が起きないように。我を忘れて守るべき人を傷つけないように。俺は強くならなければならないのだ。

 そう思っているとこころの曲が終わって次の曲が再生される。目の前に現れたスペルを掴んで宣言した。

「ハルトマンの妖怪少女『古明地 こいし』!」

 その途端、俺の意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう!」

 僕と一緒に戦ってくれた女の子が駆け寄って来てお礼を言って来る。

「え?」

「いやー、さすがに複数の妖怪たち相手に一人だと厳しかったんだよ! 本当にありがとう!」

 僕の手を掴んで上下にブンブンと振る女の子。僕はただただ、呆然とするだけだった。

「ほら、君たちからもお礼を言わなきゃ!」

 すぐに手を離して後ろで震えている二人の女の子に言う。何だか、落ち着きのない子だ。

「あ、ありがとう……」「あ、ありがと……」

 一人はしっかりと、もう一人はまだ、拙い言葉使いで頭を下げてお礼を言った。

「う、うん……どういたしまして」

「それにしても、まだ小さいのに強いね! 何、その背中の翼!」

 今度は僕の背中に装備されている桔梗に興味を示し出す。

「あ、あの!」

「ん? 何?」

「えっと、どちら様ですか?」

 いい加減、この女の子の名前が知りたかった。

「あー! ごめんごめん! 私は古明地 こいし! よろしくね! あ、あっちの大きいのが咲。小さいのが雪だよ」

「よ、よろしくお願いします……」「……」

 おそるおそると言ったように咲さんが頭を下げ、雪ちゃんは不機嫌そうにそっぽを向いた。

「キョウです。何があったんですか?」

 確か、人間は人里に住んでいてこういった森の中には極力、入らないようにしているらしい。なのに、こいしさんたちは妖怪に襲われていた。

「あー、実はこれを取りに来たんだけどその途中で妖怪に見つかっちゃって」

 そう言いながら何かを差し出して来るこいしさん。その手には植物があった。

「これ、薬草ですね。熱を下げたりする効果があります」

 桔梗【翼】が説明してくれる。

「な、何!? 今の!?」

 だが、ここにいる人の中で桔梗の存在を知っているのは僕だけなのでこいしさんたちが目を見開いて驚愕していた。

「あ、そうでした。紹介しますね。桔梗」

「はい!」

 翼から人形に戻り、桔梗は僕の頭に着地する。

「に、人形!?」

 オーバーリアクションでこいしさんが叫んだ。その拍子に薬草が地面に落ちてしまう。

「えっと、この子は桔梗って言いまして僕の相棒です」

「ま、マスター! 私のこと、相棒だって思ってくれていたのですね! 感激です!」

「ちょっと、話がややこしくなるから!」

 僕の頬まで降りて来た桔梗は頬すりをして来る。そっと頭を撫でてやめさせた。

「喋る人形なんて初めて見た……」

 咲さんも目を丸くしている。

「……」

 しかし、雪ちゃんだけは驚きではなく好奇心の目で桔梗をジッと見ていた。

「桔梗。皆さんに挨拶」

「あ、はい。私はマスターの相棒であり、従者である桔梗といいます! よろしくお願いしますね!」

 スカートの裾を摘まんで上品にお辞儀する桔梗だった。

「……可愛い」

「触ってみる?」

「いいの?」

「桔梗がいいって言えばだけど……桔梗?」

「はい。大丈夫ですよ」

 桔梗は笑顔で頷いて雪ちゃんの方へ飛んだ。

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」

 雪ちゃんが桔梗の頭を撫でた。気持ちいいのか桔梗は目を細める。

「可愛い」

「ありがとうございます!」

 満足したのか桔梗の頭から手を離して雪ちゃんが呟く。

「それで、さっきの翼は何だったの?」

 落ち着きを取り戻したこいしさんが質問して来る。

「あ、桔梗は武器に変形できるんですよ」

「ヘンケイ?」

「形を変えるんです。桔梗、翼!」

「はい!」

 桔梗が変形し、僕の背中に装備された。

「おおおおおお!!」

「拳!」

「はい!」

 今度は右手に鋼の拳が装着される。

「おおおおおおおおおおおおお!!」

「盾!」

「はい!」

 僕の身長よりも大きな盾が目の前に現れた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「こんな感じです」

「す、すごい! かっこいい!!」

 目をキラキラさせながらこいしさんが桔梗【盾】に触れる。

「ちょ、ちょっと! こいしさん、くすぐったいです!」

「ああ、ゴメンゴメン! あ、そうだ!」

 こいしさんは桔梗【盾】を迂回して僕の前に来た。

「よかったら、お礼させてよ!」

「お礼、ですか?」

「うん! 妖怪を倒すの手伝ってくれたし!」

 ニコニコしながらそう提案する。

「でも、あれは成り行きって言うか……そこまでしてもらうほどのことじゃないですし」

「何言ってるの! 妖怪を倒すのってすごいことなんだよ!?」

「ですが……」

「お礼させてくれないと私の気が収まらないの! だから、お願い!」

「……じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」

 どうせ、これからすることもないし、もうちょっとこの時代の幻想郷の情報が欲しかった。

「それじゃ、私たちについて来てね」

「え?」

「実は私たち、旅をしてるんだ」

「た、旅……ですか?」

 てっきり、人里から来たと思っていたので驚いてしまう。

「うん。で、その旅の途中で熱を出しちゃった子がいてね」

「あ、だから薬草を」

 僕の呟きに対して咲さんと雪ちゃんが頷く。

「その子って言うのかこの二人の間の子なの。だから、姉として妹として私について来たんだけど……怖い思いしちゃったね」

「確かに怖かったけど……こいしお姉ちゃんが守ってくれるって信じてたから」

 どうやら、こいしさんはその旅をしている人たちの中でリーダー的存在のようだ。

「因みにその旅をしている人たちって言うのはどのくらいいるんですか?」

「うーん、20人くらいかな?」

「20人!?」

「まぁ、全員、子供だけどね。捨てられた子とか……ね」

 少しだけ辛そうにこいしさんが教えてくれた。

「……桔梗、戻って良いよ」

「はい」

 桔梗が人形に戻り、僕の傍まで移動する。

「それじゃ、改めて行くとしましょうか!」

 先ほどの表情はどこへやら。こいしさんは笑顔で歩き始めた。

 


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