東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

242 / 543
第235話 蜘蛛と鬼

「はぁ……」

 永遠と続く洞窟の中をひたすら、飛び続けている俺。いい加減にうんざりして来た、

(どこまで続いてるんだよ……)

 あの緑髪の桶幼女から何とか、逃げてから早30分。そろそろ、体力も気力も尽きそうだ。

(誰か、いないか?)

 もう、何度目かわからない質問をぶつけた。もちろん、相手は魂にいる吸血鬼、狂気、トール、闇。そして、式神である雅、霙、奏楽、リーマ。だが、いくら呼びかけても応答はない。先ほど、妖力は使えたので部屋に戻っているわけでもないし、式神通信も切っているわけでもない。

「何で、繋がらないんだよぉ……」

 更にスキホも圏外。現在地だけでも調べようとしたが、何と地図に『unknown』と出て来た。どうやら、この地図にない場所に俺はいるようなのだ。

(じゃあ、ここは幻想郷じゃないのか? でも、空気中に漂ってる魔力とかは幻想郷のものと同じだし……)

 幻想郷に比べて外の方が少ないのだ。もし、外の世界にいるのだとしたらそれですぐにわかる。

 もっと、おかしいことがあった。コスプレ出来ないのだ。『移動』を使おうとしたが、無反応。PSPも動かない。

「全く……どうなってんだよ」

 八方ふさがりとはこのことを言うのだろう。仕方なく、誰か話せる人がいないか洞窟を進んでいるのだが、何も景色は変わらない。

「はぁ……」

 ため息を吐きながら上を見る。

「……」

「……」

 女の子と目があった。

「うわっ!?」

「あ、見つかっちゃった。でも!」

 俺が驚愕のせいで身動きが取れない間に女の子が何かを飛ばして来る。

「これって!?」

 蜘蛛の糸だ。俺の体に巻き付き、一瞬で拘束されてしまった。バランスを崩してしまい、地面に叩き付けられる。

「よし、獲物確保!」

 天井から降りて来た女の子が頷きながら俺の方へ歩いて来る。短めの金髪ポニーテールに黒いふっくらした上着の上に、こげ茶色のジャンパースカートを着ていてスカートの上から黄色いベルトのようなものをクロスさせて何重にも巻き、裾を絞った不思議な衣装だった。

「え、獲物?」

「そう! さっきから見てたけど、相当参ってるようだったからね」

 ニコニコしながら蜘蛛女が言う。

(妖怪か……多分、蜘蛛の一種なんだろうけど)

 何とか、体を起こし腕に力を入れてみるもビクともしなかった。

「そんなことじゃ切れないって」

「……これなら!」

 神力を指輪に込めて体から雷を放出する。

「なっ!?」

 眩しかったのか蜘蛛女が腕で目を守った。その間に雷によって黒こげになった糸を腕に生やした神力刃で切る。

「うわ、こいつ、人間じゃなかったのか」

「いや、至って普通の人間だけど?」

「いやいや、だって、雷出したし、腕から刃物出したし」

「雷は魔法。この刃は神力で創った物」

「うん、君は人間じゃないね」

 そう言いながら、蜘蛛女が構える。妖怪にすら人間扱いされないのはちょっと悲しかった。

「丁度、よかった。妖怪でも誰かに会いたかったんだよ」

「え? 妖怪でも?」

 俺に戦う意志がないのがわかったのか蜘蛛女が構えを解きつつ、聞いて来る。

「ああ、実は――」

 これまでに遭ったことを手短に説明した。

「あー、そいつはキスメだね」

「キスメ?」

「うん。間違いない。よく逃げられたね?」

「まぁ、倒す必要性もなかったしちょっと驚かせて怯ませた隙に逃げたんだよ」

「ふーん……あ、私は黒谷 ヤマメ。よろしく」

 自己紹介するのを忘れていたようで、ヤマメは慌てて名乗った。そして、手を差し出して来る。

「音無 響。よろしくな」

 俺もそれに倣ってがっちりと握手する。

「……ん?」

 手を離すとヤマメが首を傾げた。

「どうした?」

「いや……能力が効かなかったなって」

「何してんの!?」

 自己紹介に紛れてなんてことをするんだ。

「挨拶代わりにインフルエンザにでもかけてやろうかなって」

「挨拶代わりって……」

 そんなことをしたら人に嫌われるだろうに。

「それにしてもどうして効かなかったんだ?」

「因みに能力名は?」

「病気(主に感染症)を操る程度の能力だよ」

「あー、俺に干渉系の能力は効かないんだよ」

 そう言えば、未だにどうして、干渉系の能力が効かないのか判明していなかった。

「それはやめて欲しいんだけど……」

「人間からしたらインフルエンザをやめて欲しいんだが……」

「そりゃ、そっか」

 ケラケラと声を上げてヤマメは大笑いする。

「全く……そうそう、聞きたいことがあったんだよ」

「聞きたいこと?」

「ここ、どこ?」

「ああ、ここは地底へと繋がる洞窟の中だよ」

 俺の話を聞いていたのでその質問の意図がわかったのかすぐに答えてくれた。

「……地底?」

「そう、地底」

「……幻想郷の?」

「幻想郷の地底」

「……」

 俺、幻想郷に地底があるって聞いたことがないのですが。

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 ヤマメと話しながら洞窟をひたすら、進んでいると突然、洞窟が終わり開けた場所に出た。そこは大きなドーム状の空間だった。

「ここは地底。そして、この先には旧都があるの」

「旧都?」

「うん。地上から追い出された嫌われ者たちが住んでる場所」

 洞窟の中で地底の話を聞いていたのでそこについては深く突っ込まなかった。

「とにかく、今はあそこで体を休めるといいよ。私の顔が利くところ、紹介するから」

「何から何までありがとな」

「いいってことさ。君も大変な目に遭ってるみたいだし。それにこんな物も貰っちゃったし」

 ヤマメはそう言いながら手に持っている天界の酒が握られている。色々とお世話になったのであげたのだ。

「それならいくらでもあるんだよ」

 実はあれから何度も天子から挑戦状を受け取っており、勝つ度に酒を貰っているのだ。俺自身、飲めないので人にあげるしかない。しかも、天子とは相性が良くて(主に緋想の剣を無効化できる点で)今のところ、一度も負けたことが無いため、酒が溜まる一方なのだ。

「ずっと、気になってたけど響って何をやってるの? 人間なのに空は飛べるし、能力持ちみたいだし、干渉系の能力は効かないし」

「地上で万屋をやってる。でも、何故かは知らないけど地底については全く、教えてくれなかった」

「誰が?」

「俺の上司」

「へぇ……あーあ、その上司が響に地底のことを教えてたらもっと早く知り合ってたのにね」

 本当に残念そうにヤマメが呟いた。

「どうして?」

「だって、人間なのに私のことは怖がらないし、話してて楽しいし」

「そりゃ、どうも。地上に戻ったら頼んでみるよ」

「え? 何を?」

「地底にも依頼状投函ボックスを置くことだよ。そうすれば、俺に依頼を出せる」

 しかし何故、紫は地底にボックスを置かなかったのだろうか?

「そりゃ、いいね。宴会に誘ってやる」

「俺、酒は飲めないから料理を作るぐらいしか出来ないんだけど」

「お? 料理出来るの?」

「人並みにはね」

「そりゃ、いい。頼むね」

 そんなことを話している間に旧都に到着した。

「すごい、賑わってるな」

「ここは鬼がたくさんいるからね。皆、どんちゃん騒ぎさ」

 ヤマメの言う通り、至る所に居酒屋が建っている。しかも、それだけでは足りないようで道端で飲んでいる角を生やした人――鬼までいた。

「スゲーな」

「ここにいたら、飽きないよ。あ、でも気を付けて」

「え?」

「ここに人間が来ると――」

 ヤマメが何かを言おうとするが、魔眼(常に発動し続けていた)に反応があった。方向は前。反応からして、人。いや、鬼。そして、俺に向かって突進して来ている。

「怒符『憤怒のバカ力』!」

 こころとの修行で身に付けた感情制御を使用したスペルを宣言し、思い切り、右拳を前に突き出した。

 

 

 

 ――ガンッ!!

 

 

 

 拳と拳がぶつかり合い、俺たちの足元にクレーターが生まれる。衝撃波も発生したようで周囲にいた人が強風に煽られていた。

「へぇ……私の一撃を受け止めるたぁ。アンタ、なかなかやるねぇ?」

「正直言って、こっちは限界なんだけど?」

 目の前にいたのは一本だけ角を生やした鬼だった。この鬼が来ている服は見たことがある。リーマと初めて戦った時に来たコスプレだ。

「きょ、響!?」

 隣に立っていたヤマメは風のせいで尻餅を付いたらしく、地面に座り込んでいた。

「ヤマメ、こいつをやめさせてくれないか?」

「いいじゃないか? こうやって、鬼と互角の筋力を持つんなら」

「これはリミットっていうか……裏ワザみたいなもので、あまり使いたくないんだよ」

 先ほどからガリガリと魔力と霊力が減っている。

「……そうかい。じゃあ、今日のところはやめておこうかね」

 そう言って、鬼は力を抜く。

「おっとっと……」

 怒り状態を解除するも足に力が入らなくなり、思わずよろけてしまった。

「本当に限界だったようだね」

「ちょっと、いきなりは酷いんじゃない?」

 ヤマメも立ち上がって鬼に文句を言った。

「あっはっは!! だって、人間を見ると前の巫女や魔法使いみたいに強者かどうか確かめたくなるじゃないか」

「巫女? 魔法使い? もしかして、霊夢と魔理沙のことか?」

「お? アンタ、知ってるのか?」

「まぁ、神社にはほぼ毎日、通ってるし。魔理沙はよく会うし」

「本当に地上は変わったね。鬼と戦える奴らがゴロゴロいるじゃないか」

 嬉しそうにそう呟く鬼。

「おっと、自己紹介を忘れていた。私は星熊 勇儀。よろしく」

「ああ、俺は音無 響」

 そう言って硬く握手する。

「……ん?」

 そこで勇儀は首を傾げた。

「どうした?」

「いや、私と握手しても手が潰れないなって」

「だから、お前たちは何をしてるの!?」

 地底の人たちは少しだけ変な奴らだった。

 因みに手が潰れなかった理由は念のために手を神力で創った膜で覆っていたからである。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。