「スペルの枚数は自由。1発もしくは墜落したら終わりでいい?」
「ああ」
旧都の上空でルールを確認するパルスィ。俺はすぐに頷いた。
「それじゃ、始めるわ!」
そう叫ぶといきなり、大量の弾幕を放って来る。
(これが通常弾かよ!)
「魔眼『青い瞳』!」
残り少ない魔力を消費し、魔眼を発動。迫り来る弾幕を何とか、躱す。
「妬符『グリーンアイドモンスター』!」「雷雨『ライトニングシャワー』!」
そして、ほぼ同時にスペルを発動した。弾幕と弾幕がぶつかり合い、小さな爆発をいくつも起こす。
「霊盾『五芒星結界』!」
次に10枚のお札をばら撒き、印を結んで星形の結界を2枚、作り出した。
「恨符『丑の刻参り』!」
また、パルスィがスペルを宣言する。霊力も残り少ないのでこのスペルを全て、受け切れない。
「神鎌『雷神白鎌創』!」
神力で創った鎌を手に持ち、それに魔力を込める。すると、鎌に雷が纏い始めた。
「鎌鼬『鎌連舞』!」
結界が弾幕を防いでいる間に準備が整った。結界を迂回した後、一気に加速してパルスィに接近する。
「くっ」
スペルが通用していないのが見えたのか、パルスィは舌打ちして回避行動を取る。しかし、それでは遅い。
「シッ――」
俺が鎌を振ると鎌から斬撃が飛び出る。しかも、その斬撃の数は5つ。雷を纏った斬撃がパルスィに向かって飛ぶ。
「嘘っ!?」
目を見開きながらパルスィは体を捻る。やはり、斬撃の数が少なかったようでパルスィの服を少しだけ斬り裂くだけで終わった。
(やっぱり、地力が足りない!)
「固定『霊力ギプス』! 拳術『ショットガンフォース』!」
霊力で妖力を固定し、弾幕の隙間をぬってパルスィの元へ向かう。
「させない! 花咲爺『華やかなる仁者への嫉妬』!」
俺に向かって大玉が飛んで来る。それを右へ回避。しかし、その大玉の後を追うように桜のような弾幕がいくつもその場で止まっていた。
(残るタイプか)
「結尾『スコーピオンテール』!」
両手は『固定』のせいで動かせないのでポニーテールで桜を散らす。
「花咲爺『シロの灰』!」
パルスィがスペルを追加。先ほどと同じようなスペルだが、弾の量が桁違いだった。
「うおおおおおおおお!!」
魔眼で弾の位置を確認し、躱す。ポニーテールで桜を散らせ、前に進む。
「ちっ……」
そんな俺を見ていてパルスィも危機を感じたのか、後退し始める。それをしつこく追ってやっと、ポニーテールが届く位置まで近づいた。
「しつこい!!」
「勝負だから仕方ないだろっ!!」
何度もポニーテールで攻撃するが、パルスィは何度も避ける。
(ここッ!)
ポニーテールに気を取られて、俺の方を見ていなかったのか俺はパルシィの懐に潜り込む事に成功した。そこへ右拳を叩きこむ。
「ッ!? 舌切雀『謙虚なる富者への片恨』!」
俺の拳が届く寸前でパルスィがスペルを使用した。しかし、間に合わなかったようで俺の拳がパルスィの体を捉える。
「なっ!?」
だが、その瞬間、パルスィの体が弾け大量の弾幕が俺に迫った。躱せない。『霊盾』で防御するもすぐに壊れてしまった。
「神箱『ゴッドキューブ』!」
『霊盾』で時間を稼いだおかげで『神箱』が間に合ったようだ。
「あ、あぶな……」
「アンタこそ、あれ、殺す気だったでしょ!?」
俺の呟きが聞こえたのか『神箱』の外でパルスィが怒っていた。
「あれでも手加減した方だっての」
「あれで!? 当たってたら体が粉々になってたでしょ!!」
「そこは何とかしてたよ」
多分。
「もう、いいわ! これで終わりよ! 嫉妬『ジェラシーボンバー』!!」
パルスィからハートの弾幕が撃ち出され、弾けた。そして、そこから大量の米弾が出て来る。
「合成『混合弾幕』!!」
霊力、魔力、妖力、神力の弾を出鱈目にばら撒いて米弾を全て弾き飛ばす
「何ッ!?」
「こっちも終わらせる! 神撃『ゴッドハンズ』! 神拍『神様の拍手』!」
両手を巨大化させ、パルスィを叩き潰すように手を合わせた。
「ちょ、ちょっと!?」
さすがのパルスィも逃げきれずに俺の両手に包まれる。数秒ほどで両手を離すとパルスィが落ちて行く。どうやら、気絶しているようだ。
「はい、おしまい」
そう呟くと同時にパルスィは旧都の地面に叩き付けられた。
「いやー! 響も意外にやるもんだな!」
俺が地面に着地すると勇儀がバンバンと俺の背中を叩きながら大笑いする。ちょっと、骨が軋んだが折れていないようだ。
「もう、無理……倒れそう」
地力をほとんど使ったのでとにかく、眠い。今なら立ったままでも眠れると思う。
「大丈夫?」
そこへヤマメがやって来た。
「ああ……寝てもいい?」
「うん、大丈夫だよ。あそこ、使っていいから」
ヤマメが指さしたのは先ほどまで俺が料理を作っていた家だ。確か、2階があったのでそこで寝るとしよう。
「おお、そうだった。響、ちょっと待ってくれ」
その家に向かっていると勇儀に止められた。
「何?」
「お前が起きたら案内したい場所があるんだ」
「え? どこ?」
「無意識の妹を持つ奴のところへだよ」
「へ?」
首を傾げたが勇儀はそれだけ言ってまた酒を飲みに別の家へ入ってしまう。
(無意識の妹?)
よくわからなかったが、今はそれどころじゃないので無視して目的地へ向かった。
「は? 響が消えた?」
私は思わず、お茶を零してしまう。
「うん、パッと」
目の前にはこころがいる。先ほどまで響と修行していたのに彼の姿はどこにも居なかったので聞いてみたところ、消えたそうだ。
「な、何で?」
「さぁ? 戦っていたら消えちゃった」
こころもよくわかっていないようで常に首を傾げている。
「……ねぇ? 消える直前はどういう状況だったの?」
「えっと、響は地力が少なくなって来たからコスプレをしてた」
「そのコスプレって?」
「最初は私になって……その後は、何だったっけ? 確か、『ハルトマン』とか言ってたよ?」
「はるとまん?」
その単語には聞き覚えがなかった。多分、曲のタイトルだろう。
「ああ、その後に『こいし』って言ってたよ」
「こ、こいしですって!?」
もし、響が『古明地 こいし』に変身したというなら全て、説明がつく。彼は無意識状態に入ってどこかへ行ってしまったのだ。
「まずいわね……」
こいしは人の目に映らない。いや、そこにいることすら感知されない。そんな響を見つけるなんて不可能に近い。
「そうとは限らないぜ!」
その時、上空から魔理沙が降りて来た。
「どういうことよ?」
「響の能力はせいぜい5分で変わる。だから、今頃、見えてるようになってるってことだ」
「なるほど……っていうか、聞いてたの?」
「だいたいな」
ニシシ、と魔理沙は笑う。
「どうする?」
こころが私たちに質問した。
「そうね……探すわ。でも、闇雲に探しても時間がかかるだけだと思うのよ」
「ほぅ?」
『その心は?』と言いたげに眉を吊り上げる魔理沙。
「だから、今の響が行きそうな場所へ行く」
「その場所はどこなんだ?」
「こいしになってるって言うなら一つしかないでしょ?」
そこまで言って、魔理沙も気付いたようだ。
「地底か?」
「そう、もしかしたら帰省本能が働いて地底に向かってるかもしれないわ。それにあそこには私たちしか行けないし、響もあの場所について何も知らないから危険なの」
「よっしゃ! そうと決まれば話は早い! 早速、行こうぜ!」
「私はどうすればいい?」
「こころはお留守番だ。響が帰って来るかもしれないから」
「わかった。気を付けてね」
手を振るこころを置いて私と魔理沙は地底へ向かった。