東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第240話 覚妖怪

「こいし様、この人は誰なんですか?」

 猫車に響を乗せて地霊殿の中を飛んでいる間にお燐がこいしに質問する。

「昔の友達。でも、キョウは覚えてないみたい」

「そうなんですか?」

「過去の記憶がないんだって……はぁ、久しぶりに会えたのに」

 見るからに落胆しているこいし。それを見てお燐は不思議そうに首を傾げた。

「あれ? そう言えば、私、こいし様の姿が……」

「ああ、何かキョウを見た瞬間、能力が効かなくなっちゃって」

「え!? それじゃ!?」

「大丈夫だよ。心は読めないから。多分、キョウが何か影響してるんじゃないかな?」

 そう言うこいしだったが、その表情は嬉しそうだった。

「……ですが、一体、何が起きてるんでしょう?」

「わからない……」

 その時、背後から爆音が轟いた。あまりにも大音量だったので二人はその場で耳を塞いでしまう。

「い、今の何!?」

「お空が核をぶっ放したんですよ!」

「じゃあ!?」

「さとり様たちが戦闘を始めたようです!」

 こいしとお燐は不安そうに後ろを見た後、頷き合って移動を再開した。

(キョウ……頑張って)

 そんな中、こいしはずっと心配そうに石になってしまった響を見ていた。

 過去に助けてくれた命の恩人をずっと――。

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 頭の痛みで目が覚める。

「あ!? マスター!」

 すると、桔梗が抱き着いて来た。その眼には涙が溜まっている。

「桔梗?」

「あ、目が覚めたんだね」

 そこへこいしさんが現れた。手には濡れた布を持っている。

「えっと……」

 状況が飲み込めず、狼狽えてしまった。

「マスター、こいしさんとの模擬戦中に気絶してしまったようなんです」

「気絶?」

 そう言えば、こいしさんの攻撃を喰らいそうになった時、桔梗が身代わりになってくれてその後は――。

「あれ?」

 どうやら、そこで気絶してしまったようだ。記憶が途切れている。

「……まぁ、目が覚めてくれてよかった」

 ホッとした顔でこいしさんが言う。

「心配かけてすみません」

「大丈夫だって! 私もズルしちゃったし」

「ズル?」

「私、人の心が読めるんだよ」

「人の心を、読める!?」

 読心術とか会得しているのだろうか。

「ああ、私、妖怪なの。覚妖怪」

「……はぁ!?」

「驚く気持ちはわかるよ。何で、妖怪が人間の子供たちと一緒に旅をしているのかってことでしょ?」

 こいしさんが言ったことは当たっている。人の心が読めるのは本当らしい。

「信じてくれてありがとう。まぁ、大人の人は考えてる事が怖いから読みたくないんだけどね……」

 そう語る彼女の表情は優れない。本当に苦手なようだ。

「それに比べて子供たちは純粋っていうか……私も安心して一緒に過ごせるの」

「そうなんですか……」

 大人は怖い。顔は笑っているのに、心の中では別のことを思っているのだ。そんな黒い部分を見えてしまうのは辛いだろう。

「もう、キョウが落ち込んでどうするの?」

 僕の心を読んだのかこいしさんは柔らかく微笑んでいた。

「でも、ありがとう。やっぱり、キョウは優しいね」

「いえ……」

「ほら! 元気出して!」

「……はい!」

 僕が頷く。くよくよしていても仕方ない。

「あの、何かお手伝いできることはありませんか?」

「え?」

「僕たち、しばらくやることがないんです。旅に付いて行ってもいいですか?」

「……うん、いいよ!」

 こいしさんが怯んだように見えた。しかし、次の瞬間には笑顔になっていたので僕の見間違いだろう。

「そうだね……キョウは強いから敵が来た時に撃退して貰おうかな?」

「敵、ですか?」

「うん、やっぱり妖怪たちが襲って来るんだよ。私一人じゃ大変な時もあるし。手伝ってくれる?」

「もちろんいいんですが……敵が来なかったら暇ですよ?」

「その間は人手が足りない時に呼ぶから安心して。ただ飯は許さないから!」

 こいしさんはそう言って、ウインクする。

「……はい!」

 何だか、必要とされているようで嬉しかった。

「マスター、私もいますよ!」

 少しだけ不貞腐れた顔で僕の頭に乗る桔梗。

「わかってるよ。重たい物とか持つ時とかよろしくね」

「もちろんです! マスターの命令とあらば、例え、火の中、水の中。どこへでもお供します!」

「大げさだなぁ」

「だから、ちゃんと褒めてくださいね?」

「はいはい、わかってますよ」

 そう言いながら頭の上にいる桔梗を撫でる。『キャー』と桔梗は嬉しそうに悲鳴を上げた。ちょっと、強すぎたのかもしれない。まぁ、喜んでいるようなのでよしとしよう。

「二人は仲良しだね」

 それを見てこいしさんが感想を漏らした。

「そうですよ? マスターと私は仲良しなのです」

 桔梗はこいしさんの肩に移動して胸を張る。

「こいしお姉ちゃん! 月が目を覚ましたよ!」

 そこへ咲さんが現れた。

「え!? ホント!?」

「うん! あ、キョウ君も目が覚めたんだね!」

「あ、はい。おかげさまで。それより、こいしさん! 行きましょう!」

 僕が寝ている間に冷えないように、とかけていてくれた薄い布から脱出し、慌てて靴を履いて立ち上がる。

「うん!」

 咲さんの後を追ってこいしさんがテントから出た。僕たちもその後を追う。

「月!」

 月さんが寝ているテントに辿り着き、中に入る。そこには寝ている雪ちゃんの頭を微笑みながら撫でている女の子がいた。きっと、彼女が月さんだろう。

「あ、こいしお姉ちゃん……」

「よかった。目が覚めたんだね!?」

「う、うん。大丈夫だよ」

 あまりにもこいしさんが必死なので若干、引いている月さん。

「あれ? その子は?」

 そこで僕たちに気付いたらしく、月さんは不思議そうに首を傾げた。

「あ、紹介するよ。キョウと桔梗。二人が月を助けてくれたんだよ」

「キョウです。こっちが桔梗」

「よろしくお願いします、月さん」

「え!? に、人形が喋ってる!?」

 やはり、完全自律型人形は珍しいのだろう。桔梗を凝視しながら目を丸くしている。

「そう! この子が月の病気を治してくれたの!」

「そうなの?」

「はい!」

 桔梗はまた、『えっへん』と胸を張った。

「ありがとう、桔梗」

「いえいえ!」

「後、今日からこの2人も一緒に旅をするから」

「よろしくお願いします」

「……うん、よろしくね」

 咲さんは何故か、ほんの少しだけ目を伏せて頷いてくれた。まるで、何かに怯えるように。

「それじゃ、他の皆にも紹介するから付いて来て」

「あ、はい! 桔梗はもう一度、月さんを診察して」

「了解です!」

 頼られるのがよっぽど嬉しいのか、笑いながら桔梗は月さんの方へ飛んで行く。それを見届けて僕たちはテントを出た。

 その後、子供たちに『僕もしばらく、一緒に旅をする』と紹介したら、皆、微妙な表情を浮かべていることに気付く。

(こいしさんとの模擬戦で怖がらせちゃったのかな?)

 それを見て僕はそんなのん気なことを思っていた。

「マスター! 月さん、健康そのものでした!」

 そこへ診察が終わったのか桔梗が帰って来る。

「よかった。皆、もう月は大丈夫だよ!」

 こいしさんが断言すると子供たちは嬉しそうに周りの子と話し始めた。

「月も治ったことだし、そろそろここから離れるよ! 皆、準備して! あ、キョウはまず、上から敵がいないかどうか見て来て」

「あ、はい。わかりました。桔梗【翼】!」

「はい!」

 桔梗【翼】を装備して空を飛ぶ。ある程度、飛んだところでホバリングし敵がいないか目を凝らして確認する。

「桔梗、いた?」

「……いえ、この辺りには何もいないようです」

「よし、なら戻ろう」

 そう言うと僕はこいしさんの傍に降りた。

「いないようです」

「ありがとう。今の内にさっさと移動しちゃおう! キョウは困ってるところを手伝ってあげて」

「はい!」

 こうして、僕たちはこいしさんと一緒に旅をすることになった。

 


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