東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第243話 糸

「くっ……」

 僕が目を覚ますと右腕に鋭い痛みが走った。思わず、うめき声を漏らしてしまう。

「マスター! 大丈夫ですか!?」

 背後から桔梗の声が聞こえる。まだ、桔梗【翼】のようだ。

「な、何とか……」

 体を起こすとガサガサと葉っぱが音を立てる。柔らかい葉っぱの上に落ちたらしく、衝撃を吸収してくれたようだ。

「ほっ……ですが、こちらが」

「え?」

 後ろを見ても、翼に何も変化はなかった。

「逆です」

「逆?」

 左翼を見ていた目を右翼に向ける。すると――。

「え!?」

 翼が折れていた。左翼は無事だが、右翼は壊れてしまっているのだ。

「桔梗、大丈夫!?」

「私に痛みはありませんが……このまま、飛ぶのは難しいです」

「一度、人形に戻ってまた、翼になれば!」

「……やってみましょう」

 そう言う桔梗だったが、声に覇気がない。まるで、最初から失敗するとわかっているかのようだった。

 実際、やってみると右翼は折れたままだった。

「そんな……」

「時間が経てば直ると思います。しかし、すぐには……」

「じゃあ、どうすれば!?」

 こいしさんたちがいる広場はかなり遠い。今から歩いて向かっても何日もかかってしまうはずだ。

「うっ」

 また、右腕に激痛。

「マスター!?」

 人形に戻った桔梗が慌てて右腕の様子を確かめた。

「マスター! 右腕の骨が、折れてます」

「嘘っ!?」

「ほら」

 袖を捲ると腕が酷く腫れていた。一目見ただけで怪我をしているのがわかる。

「ど、どうしよう……」

「マスターがこんな状態で動かすわけにもいきません」

 桔梗が食べた薬草は全て、病を治したり、頭痛や腹痛を抑える効果を持っているものばかりだった。骨折に有効な薬草はなかったはず。

「お? こんなところに人間?」

「「っ!?」」

 突然、声が聞こえて僕たちは驚いてしまった。

「それに、人形? 珍しい組み合わせだね」

 振り返ると短めの金髪ポニーテールに黒いふっくらした上着の上に、こげ茶色のジャンパースカートを着ていてスカートの上から黄色いベルトのようなものをクロスさせて何重にも巻き、裾を絞った不思議な服を着た女の人がいた。

「ん? どうかしたの?」

 首を傾げる女の人だったが、さっきの台詞から妖怪だと推測できる。迂闊に動けなかった。

「あ、あの!」

「え!? 人形が喋った!?」

 しかし、桔梗が話しかけてしまう。人形が喋るとは思わなかったのか、女の人は目を丸くして驚いた。

「マスターが腕を折ってしまって動けないんです! どうか、助けてください!」

「腕を折った? ちょっと見せて」

 桔梗の真剣さが伝わったのか女の人は嫌がることなく、僕の腕を診た。

「確かに、折れてる……よし、ちょっと待ってて」

「あ、はい」

 女の人が僕たちに背を向けて何かをしている。僕と桔梗はそれを黙って見ているしかなかった。

「これでオッケー」

 振り返った女の人は白い糸のような物を持っていた。

「それは?」

「私の糸だよ。これで、腕を固定すればマシになると思う」

 そう言いながら糸を僕の首にかけてそのまま、腕を吊る。

「どう? 痛くない?」

「大丈夫です。本当にありがとうございました」

「いやいや、困った時はお互い様だよ……ん」

 その時、女の人が訝しげな表情を浮かべた。

「ちょ、マスターに何するんですか!?」

 それとほぼ同時に桔梗が叫ぶ。

「桔梗?」

「マスター! この人、マスターを病気にさせようとしました!」

「へ!?」

 驚愕のあまり、桔梗を見ると桔梗の両手が緑色に光っていた。桔梗【薬草】を使っているようだ。

「お? わかっちゃった?」

「じゃあ、本当に!?」

「挨拶代わりに、ね。でも、効かないのか」

「何で!?」

「私なりの冗談だってば」

 女の人はケラケラと笑いながら手をヒラヒラと振る。

「……」

「ん? 桔梗?」

 呆れて横を見てみると桔梗の様子がおかしいことに気付いた。

「ください」

「えっ!?」

「その糸、ください」

 マズイ。折角、女の人が処置してくれたのに桔梗に食べられてしまう。

「すみません! この糸、出してください!」

「え?」

「いいから、早く!」

「あ、うん」

 女の人は糸を手から出した。その瞬間、桔梗が糸の先端にかぶりつく。

「ええええ!?」

「糸を出し続けて! 手が食べられちゃいますよ!」

「あ、アンタの人形、どうなってんの!?」

 悲鳴を上げている女の人だったが、僕の言葉を聞いて糸を出し続けている。桔梗も糸を食べ続けていた。

(……めちゃくちゃ長いうどんを桔梗がひたすら、食べてるみたい)

 女の人には悪いが、そんなことをのん気に思った。

 

 

 

 

 

 

 

「どう?」

 私の隣に浮いている本に質問する。この本の向こうにはパチュリーという人がいるようだ。

『これは呪いね』

「呪い?」

『前、響は呪いをかけられたことがあって……その時にかけられた呪いが再発したんだと思う』

 それから本からガサゴソと物音がしてページを捲る音が聞こえた。本で何かを調べているらしい。

『そうね……この状態になってしまったら基本的に対処法は術者を殺すしかないわ』

「あの子を、殺す?」

 すぐに無理だと思った。あの子は強い。

『でも、さすが私の弟子ね。石になる瞬間に霊力を体に纏っていたようなの』

「それをするとどうなるの?」

『完全に石になっていないってこと。何かきっかけがあれば石化を解除できる』

「きっかけ……」

『例えば、そうね……魂を撃ちこむとか?』

 言っている意味がわからず、本を見ながら首を傾げる。

『自分の魂を響に向かって撃ちこむの。まぁ、魂を撃ちこむんだからその人は死んじゃうし、この方法はなしね』

 パチュリーは自分で提示した案を自分で破棄してからまた本で調べ物を始めた。

「……ねぇ? 魂を撃ちこむのって自分じゃなきゃ駄目?」

『え? いえ、他人の奴も出来なくもないけど……どうするつもり?』

「もしかしたら……ちょっと、行って来る!」

『あ、ちょっと待ちなさい!!』

「キョウを見てて!」

 私はある物を探しに飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

「さっきの猫耳よりは強いみたいだけど、所詮、魔法使いか」

 肩で息をする魔理沙とため息を吐いている女の子。

 魔理沙の服はボロボロなのに対し、女の子は服すら破れていない。

「本当につまらないな」

「へへ……まだ、終わっちゃいないぜ?」

「それでも次で終わる」

 女の子はスペルを構えて発動した。

「影刀『月影刀』」

 女の子の手から黒い刀が出現する。

「それじゃ、落ちて怪我しないようにね」

 そう言いながら女の子はその場で刀を横に一薙ぎする。すると、刀から黒い斬撃が魔理沙に向かって射出された。

「なっ!?」

 咄嗟に回避しようとする魔理沙だったが、急ぎ過ぎてしまった為、バランスを崩してしまう。このままでは斬撃をまともに喰らってしまうだろう。

 ――キンッ

 しかし、その斬撃は魔理沙に届かなかった。そう、誰かが守ったのだ。

「何が……」

「間に合ったみたいだな」

 目を見開いて驚いている魔理沙の前に響がいた。

「響!?」

「すまん、待たせた」

 響は石化していない。どうやら、呪いが解けたようだ。

「あの、呪いを解呪したのか?」

 女の子も予想外だったようで驚愕していた。

「ああ、パチュリーと……こいしのおかげでな。後はこいつもだな」

 呟きながら響は自分の胸に手を当てる。

「響、本当に大丈夫なんだよな?」

「おう、だからもう休んでいいぞ」

「あぁ……しんどかった、ぜ」

 無理をしていたのだろう。魔理沙はそのまま、ゆっくりと落ちて行った。

「契約『音無 雅』」

「後で説明してよね!!」

 召喚された雅はすぐに魔理沙を回収しに急降下する。

「いいのか? 雅を使わなくても」

「使うって言うな。一緒に戦うって言え」

「……それでいいのか?」

「ああ、大丈夫だ」

「余裕か?」

 女の子の問いを聞いて響は呆れたようにため息を吐く。

「違うに決まってるだろ」

「じゃあ、どうして?」

「動けない魔理沙を守りながら移動できるのは雅だけだからな。霙だと攻撃されたら終わる」

 リーマは燃費が悪いし、奏楽はもっての外だ。

「そっか。じゃあ、始める?」

「おう」

 響の手にはいつの間にか白い鎌が、女の子の手には黒い刀が握られている。

 そして、ほぼ同時に攻撃を仕掛けた。

 


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