東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

26 / 543
お待たせしました。このお話しから『第1章の本編(響さんの人間離れ)』が始まります。


第25話 運命の歯車

「何でついて来るんだよ~」

「いいじゃないですか~。魔理沙さんについて行けば何か記事になりそうな事がありそうなんですよ」

 ニコニコしながら私の隣を飛ぶ射命丸。それを見て1つ、溜息を吐く。私の気持ちはこの空のように分厚い雲で覆われていた。

「遊びじゃないんだぞ?」

「じゃあ、何しに守矢神社まで?」

「昨日の宴会の事で早苗に話があんだよ」

 先ほど、ルーミアと鉢合わせし、落としてから昨日の事を聞いたのでその報告をしに行くのだ。

「昨日ですか? はて、何かありましたっけ?」

「質問するが昨日の料理、誰が作ってた?」

「そりゃあ、幹事が八雲紫だったのでその式神である八雲藍じゃ?」

「いや、違うな。藍はずっと紫の世話をしてた。珍しく紫が潰れたからな」

「なら、誰が?」

「新しい万屋だってさ。ルーミアはそいつの事、かなり気に入ってた。多分、食べ物でも貰ったんじゃないか?」

 因みに名前は『キョウ』。

(あいつじゃないよな……行方不明だって聞いてるし)

「もしかして、昨日の宴会って?」

「ああ、その万屋は紫の下で働いているらしいから宣伝目的だな。まぁ、紫がはりきりすぎて酔い潰れたから意味ないけど」

「人里とか博麗神社にあったあの木箱って依頼状を出す為の物なんですか?」

「そこまでは……紫に聞くのが一番、手っ取り早いだろ?」

「だって、あの妖怪どこにいるかわからないんですもん」

「確かに」

 射命丸と話している内に神社に到着する。

「ん?」

 守矢神社の境内で早苗が誰かと弾幕ごっこをしていた。こちらに背中を見せている早苗の対戦相手は早苗と同じ巫女服を着ていて髪は黒いポニーテールで白い蛇の髪飾りが飾られている。右手にお祓い棒を持って弾幕を躱し続けていた。他に早苗と違うは左腕に大きめのホルスターを付けている所だ。

「だ、誰なんでしょう? 早苗さんと同じ格好ですが……」

 射命丸も戸惑っている。

「少女綺想曲 ~ Dream Battle『博麗 霊夢』!」

 対戦相手は1枚のスペルを取り出し、宣言。すぐに霊夢の巫女服へ早変わりする。

「今度は霊夢さんですか!?」

 早苗が声を上げて驚く。射命丸は息を呑んでいる。

「射命丸……」

「は、はい!? 何でしょう?」

「あいつが万屋だ」

「あ、あの人が? で、ですがどうやって変身して?」

「能力だ」

「……その口調だとあの人を知っているようですね?」

「まぁな」

「もう! いい加減、説明してください! 奇跡『ミラクルフルーツ』!」

 早苗がスペルを唱え、高密度の弾幕が対戦相手を襲う。

「後でな! 夢符『二重結界』!」

 対戦相手もスペルを発動。2枚の結界が弾幕を弾き飛ばす。

「今度はこっちからだ!」

 懐から数枚のお札を取り出し、投擲する。

「嘘!? さっきまで通常弾、撃てなかったのに!?」

 早苗は体を捻ってお札を躱す。

「霊夢だとお札が使えるから撃てるんだよ!」

「霊夢さんだと……? ま、まさか!?」

 早苗は顔を歪め、振り返る。その先には先ほど躱したお札が早苗に向かって突進していた。

「やっぱり、ホーミングですか!?」

 悲鳴を上げながらお札から逃げる早苗。その後を追うお札。

「す、すごいです……」

「ああ、さすが霊夢」

 対戦相手は逃げ惑う早苗をぼーっと見ていた。声をかけるには絶好のチャンスだ。

「お~い! 響!」

 対戦相手――響のいる辺りまで高度を下げながら手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

「お~い! 響!」

「ん?」

 涙目で逃げている早苗を見ていたら上から聞いた事のある声が俺の名を呼ぶ。

「ま、魔理沙?」

 振り返るとこちらに手を振りながら近づいて来る魔理沙と日ごろお世話になっているあの天狗の服を着た少女がいた。

「久しぶりだな~! 元気にしてたか?」

「あ、ああ……でも、何でここに?」

「ちょっと早苗に話があって。でも、それどころじゃないみたいだな」

 チラッとまだ逃げている早苗の方を見ながら魔理沙がそう言った。

「まぁな。少し離れていてくれ」

「おう! 射命丸、行くぞ!」

「は、はい!」

 射命丸と呼ばれた天狗と一緒に魔理沙は神社の方へ移動を始める。

「えいっ!」

 早苗がお札に向けて弾幕を放ち、相殺した。

「あ、危ないじゃないですか!?」

「いや、俺も知らなかったんだよ。それにお前はまだ1回、被弾出来るじゃねーか! 俺なんか後がないんだぞ!」

 俺はスペルを唱える事は出来るが通常弾を撃つ事は出来ないらしい。霊夢の場合、お札を投げればいいだけなので使えるようだが他の服は無理なので相手の弾幕をひたすら躱すしかない。スペルも枚数制限があるので無闇に使えない。俺の能力は弾幕ごっこと相性は最悪だったようだ。早苗は後、3枚。俺は後、2枚だ。

(時間もないし、霊夢のスペルは使わない方がいいみたいだな……次のコスプレに運命を委ねるか)

 お札を投げながら考える。

「秘法『九字刺し』!」

「くそっ!?」

 早苗がスペルを発動。ビームや小さな弾を躱す。その間に曲が終わる。

(頼む!)

 祈りながら目の前に出現したスペルを唱えた。

 

 

 

「U.N.オーエンは彼女なのか?『フランドール・スカーレット』!」

 

 

 

 その瞬間、テレビの電源を切ったように俺の意識が途切れた。

 

 

 

 

 誰も気付かなかった。このスペルが運命の歯車を動かし始めるきっかけになるとは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 響ちゃんがスペルを発動した。すると、また服が変わる。今度は赤いスカート。頭にはフリルの着いた帽子。背中には枯れ木に綺麗な結晶がくっついたような翼。

「あ、あれって!?」

 神社の方から魔理沙さんの声が聞こえた。いつの間にか観戦していたらしい。響ちゃんは俯いたまま動かない。しかし、私のスペルは時間切れになってしまい、当てる事は出来なかった。

「一気に決めます! 神徳『五穀豊穣ライスシャワー』!」

 スペルを唱え、小さな弾が響ちゃんを襲う。

「禁忌『レーヴァテイン』」

 響ちゃんも最後のスペルを発動し、炎の剣を手に持った。そして――。

「え?」

 響ちゃんが炎の剣を横に一振りすると私が出した小さな弾で出来た弾幕が四方八方に散らばる。急いで最後のスペルを唱えようとお札を手に持つがその隙に響ちゃんが剣を振り下ろして来る。

「ッ!?」

 それをガードする為にお祓い棒で受け止めたが向こうの勢いが強すぎて私の体は境内に叩き付けられてしまう。私の負けだ。

「いたた……」

 痛む背中を擦りながら体を起こす。

「早苗!? 逃げろ!?」

「え?」

 魔理沙さんが目の前に現れたと思ったら響ちゃんが再び、剣を振り降ろそうとしていた。

「恋符『マスタースパーク』!」

 ミニ八卦炉を響ちゃんに向けて魔理沙さんがスペルを宣言する。このスペルは八卦炉から極太レーザーを撃ち出す技。そのレーザーが撃ち出されようとした刹那――。

 ガキッ!

 響ちゃんの剣が八卦炉と衝突した。その拍子に八卦炉に亀裂が走る。

「まずっ!?」

 魔理沙さんが悲鳴を上げた瞬間、八卦炉が暴発。

「きゃあっ!?」「うおっ!?」「くっ!?」

 私、魔理沙さん、響ちゃんの3人が吹き飛ばされる。私と魔理沙さんは地面を何度がバウンドし重なるように地面に倒れ、響ちゃんは近くの木に背中から衝突。

「くっ……だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……でも、八卦炉はもう駄目だな」

 立ち上がりながら地面を見ると八卦炉の残骸が散らばっている。

「何でこんな時に晴れてないんだよ……」

 剣を支えにして立ち上がった響ちゃんを睨みながら魔理沙さんが呟く。

「? 一体、どういう事ですか?」

「あいつは今、吸血鬼なんだ」

「きゅ、吸血鬼?」

「フランドール・スカーレット。レミリアの妹でつい最近まで地下に幽閉されていた」

「幽……閉」

「で、今のあいつの状況だけど――」

 魔理沙さんは一息置いてから言葉を発する。

 

 

 

「――フランの狂気に取り込まれて暴走してる」

 

 

 

 それを証明するように響ちゃんは虚ろな紅い目で私と魔理沙さんを睨み、剣を構えた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。