東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

261 / 543
第254話 数十年後の再会

「……」

 『シンクロ』のデメリットで魂に拘束されていたが、やっと表の世界に帰って来た。

(えっと……)

 目を開けると見覚えのない天井。多分、地霊殿だ。そして、背中から伝わる感触で俺はベッドに横になっていることもわかった。

「でも……これは?」

 そして、一番の問題。それは俺の両隣りに誰かが寝ている事である。腕をギュッと抱きしめられているのでわかった。

 そっと、右を見てみるとそこにはこいしがいた。気持ちよさそうに眠っている。

 左を見ると何故かさとりが寝ていた。こちらもすやすやと寝ている。

「……んん?」

 そこでお腹の辺りが普段よりも重いことに気付く。顔を上げて見てみると尻尾が2股に分かれた黒猫が寝ていた。更に、その黒猫に乗って寝ている鴉。

(何だ、この状況)

 このままでは身動きが出来ない。

「雅」

「はいはい」

 俺が魂に拘束された時に外の世界に戻った雅を呼ぶ。スペルは使っていないが、雅の意志でこちらに召喚出来るのでそれを利用した。

「頼むわ」

「……響って何をしたらそんなに慕われるの?」

「知らねーよ。勝手にくっ付いて来るんだから」

「そんな貴女も響さんの事が大好きなくせに」

「……はい!?」

 俺と雅の会話に割り込んで来たのは、いつの間にか起きていたさとりだ。

「おはよう」

「おはようございます」

「離れてくれない?」

「私、低血圧なのでちょっとこのままでいいですか?」

「いや、そんな微笑みながら言っても説得力のカケラもないんだが?」

 低血圧の人はもっと、イライラしているはずだ。

「それにしても、雅さんは素直ではありませんね」

「な、なな!?」

「あ、さとりは人の心が読めるんだよ。お前、今、めっちゃ読まれてるよ」

「か、帰る!!」

「あ、おい!!」

 顔を真っ赤にして雅は外の世界に帰ってしまった。

「ふふ……」

「あまり、雅をいじめるなよ」

「すみません。でも、貴方も雅さんをいじめてるじゃありませんか」

 俺も一瞬だけ、リョウの記憶を読んだことがある。きっと、心だけでなく過去も読めるのだろう。

「さてと……さすがに起きなければなりませんね」

 俺の腕を離してさとりは黒猫と鴉を抱き上げてベッドから降りた。

「響さんはもう少し、その子と寝ていてあげてください」

「その前に一ついいか?」

「何でしょう?」

「……いや、やっぱいい」

「そうですか?」

 不思議そうに俺を見ながら首を傾げるさとり。

「ああ。あ、そう言えば、魔理沙は大丈夫なのか?」

「はい。今朝早くに目が覚めて今、もりもりと朝ごはんを食べていると思いますよ」

「……お前、もしかしてずっと起きてた?」

 俺たちを起こしに来たさとりはそのまま、ベッドの中に潜り込んだ。そんな気がする。

「何のことでしょう?」

 さとりは素知らぬ顔でそのまま、部屋を出て行ってしまった。

「……たく」

(素直じゃないのはどっちだよ)

「ホントに困ったお姉ちゃんだよね」

「おはよう、こいし」

「おはよう、キョウ」

 こいしの方を見ると彼女は嬉しそうに笑っていた。

「どうしたんだ?」

「ううん! やっと、キョウとお話しできると思って」

「さっきまでしてたじゃんか」

「こうやって、表の世界でだよ……ねぇ、キョウ?」

「ん?」

 突然、顔を伏せてしまったこいし。

「咲と月のこと、覚えてる?」

「……ああ」

「全部、思い出した?」

「全部とは言えないけど……ある程度は」

「そう……」

 まだ、こいしの中で咲と月のことが枷になっているのだろう。

「こいし」

「ん?」

「遊んでやるって約束、したよな?」

「うん、したね」

「遊びじゃなくて……デートしないか?」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、響は何を考えてるんだか」

「まぁまぁ! あいつも大変だったんだし! これぐらいいいじゃん!」

「悪いな、二人とも」

 地霊殿の中で合流した霊夢と魔理沙に地上までの道案内を頼んでいた。

「キョウ、どこに行くの?」

 そして、こいしも一緒に来ている。

「内緒だ」

「えー! デートなんだから教えてくれてもいいじゃん!!」

「何がデートよ」

 霊夢は何故か、不機嫌だった。

「霊夢?」

「別に、羨ましいとか思ってるわけじゃないのよ? 今回、響の『シンクロ』は不安定だったみたいだから何か異常があるんじゃないかって思って、今すぐにでも永遠亭に連れて行きたいのよ」

「お前とも今度、出かけてやるから今日の所は許してくれない?」

「ええ、わかったわ」

「ちょろいなっ!?」

 少し満足げに頷いた霊夢に対して魔理沙がツッコんだ。

「……キョウ」

「何だ?」

「楽しいね」

 こいしを見ると微笑んでいた。

「……ああ、そうだな」

 リョウたちはまだ、生きている。きっと、また俺を狙って襲って来るはずだ。

 

 

 

 でも、今は楽しんでもいいだろう。少しぐらい、気を緩めてもいいだろう。

 だって、あんなに頑張ってこの日常を守ったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上に到着した俺たちは一度、解散した。霊夢はこころに俺を見つけたことを報告するために博麗神社に。魔理沙は汚れてしまった服を変えに自分の家に。そして俺たちは――。

「人里?」

「そうだ。ここに用事がある」

 こいしを連れだって人里に来ていた。

「響ちゃん! 今日は早いんだね!」

「はい、ちょっと泊まりで依頼をこなしていました」

「そうかいそうかい! 頑張ってね!」

「ありがとうございます」

 こいしと並んで歩いていると人里の皆に話しかけられた。いつものことなので、一言二言、言葉を交わしてまた歩き始める。

「キョウ、人気だね」

「そうか?」

「うん、キョウと話してる時、皆、嬉しそうだったもん」

 何故か、そう話しているこいしも嬉しそうだった。

「あ、ここだよ」

「ここ?」

 こいしはその民家を見て首を傾げる。

「ここ、普通の家だよ?」

「そうだな」

「いや、そうだなって……」

 納得していないこいしを放っておいて俺は民家のドアを開けた。

「おばあちゃん、おはよう」

「響ちゃん? どうしたんだい、こんな朝早くに?」

 家の中で食事の支度をしていたおばあちゃんが不思議そうに聞いて来る。

 このおばあちゃんには何かとお世話になっている。望が初めて幻想郷に来た時にお菓子をどれぐらい、あげようか話していたあのおばあちゃんだ。

「ちょっと、ね」

「?」

「ほら、入って」

「え、でも……」

 入り口の影に隠れていたこいしの背中を押して家の中に入れる。

「ッ……」

 こいしを見た瞬間、おばあちゃんは手に持っていた包丁を落としてしまった。

「え? ええ?」

 それを見てこいしは目を白黒させる。こいしは今も無意識状態だ。俺の傍にいたらこいしを知っている人はこいしの存在を認識できるが、知らない人はこいしを認識できない。でも、このおばあちゃんはこいしを認識した。

「おばあちゃん、紹介するよ。古明地 こいし」

「……知ってる」

「し、知ってるって?」

 こいしは戸惑いながらおばあちゃんに問いかけた。

「響ちゃん……響ちゃんはもしかして?」

「そうだよ。今まで忘れてたけど……やっと思い出したんだ」

「ねぇ! キョウ! どういう事なの!? 説明して!!」

「簡単だよ。ね? “雪”おばあちゃん」

「…………雪?」

 目を見開いたこいしはおそるおそる、おばあちゃんに確認する。

「そうだよ。こいしお姉ちゃん」

「え? でも……雪は」

「こいしお姉ちゃんが地底に行っちゃった後、皆で協力して人里まで辿り着いたの」

「じゃ、じゃあ!!」

「……皆、逝っちゃった。ほとんどが老衰だったよ」

 『もう、残ってるのは私だけ』とおばあちゃんが少しだけ悲しそうに教えてくれた。

「そう……」

「でも、皆、幸せそうだった。これも、全部こいしお姉ちゃんのおかげだよ」

「……雪」

 とうとう、こいしは泣き崩れてしまう。

「ありがとう、ね。本当に、ありがとう」

 そんなこいしを雪おばあちゃんはギュッと抱きしめる。

 その途端、こいしは大声を上げて泣いた。

(なぁ、桔梗……)

 傍にいない、俺の大切な友達に声をかける。

(確かに、お別れするのは悲しかったけど。こんな再会を見れたのは幸せだと思うんだ)

 見れば、おばあちゃんも涙を流していた。

「桔梗……お前は今、どこにいるんだ?」

 その問いかけはこいしたちの泣き声にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響とこいしがまだ、魂に捕らわれている頃。ドグはリョウを連れて地上に出て来た。

「はぁ……はぁ……」

 響が追って来ていないと言え、地底では色々な奴が襲って来る。主がこんな状態では普段よりも力を発揮できないドグは全速力で地底を脱出したのだ。

「くそっ……」

 意識はあるのに、喋ることのできない主を見て式神は奥歯を噛み締める。

(精神が崩壊してやがる……あいつ、本当に何したんだ!?)

「ぁ……」

 移動中も時々、声のような音を漏らすリョウ。その眼を虚ろで口からは涎が垂れ流しになっていた。完全に精神が壊れている。

「どうすりゃいいんだ……」

 永遠亭に行きたくてもドグの顔はもう、割れている。あそこには行けない。でも、あそこぐらいしかリョウを治療できないのも事実。

「……そうだ」

 あいつなら、リョウを助けられる。いつも、リョウに付きまとって来て面倒な奴だが、確か元カウンセラーって言っていた。

「よし……」

 ドグは覚悟を決めて、飛翔する。リョウを助けるために。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。