東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第26話 狂気

「う~……」

 悟と遊んでいて風が吹き、目を開けるとそこは大自然。更にこれでもかと言うほど色々な花が咲いていて少し不気味だった。

「ど、どうしよう……」

 とりあえず、人に会いたい。会うためには動かなければいけない。

「よ、よし……」

 覚悟を決めて森を彷徨いはじめる。

 

 

 

 

「あ、紅い……」

 数時間後、人には会えなかったが真っ赤なお屋敷を発見する。そして、門の近くに誰かが立っていた。

(やった! 人だ!)

 嬉しくなり、走ってその人に近づく。

「す~……す~……」

 その人は腕を組み、背中を壁に預けて眠っていた。服は緑のチャイナ服に緑色の帽子。髪は紅くて長いストレートだ。

「あ、あの~?」

「んごっ……は、はい?」

 声をかけたら目を覚ましてくれた。だが、僕の背が低すぎて気付いてもらえず、キョロキョロしている。

「こ、ここです……」

「すみません。えっと……?」

「キョウです。漢字はまだ習ってなくてわかりません……」

「『キョウ』さんですか? 上のお名前は?」

 いつもの慣れで苗字を言い忘れていた。

「あ、ごめんなさい! 僕の苗字は――」

 これが幻想郷での初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を付けろ! あいつは『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持ってる!」

 響ちゃんの斬撃を躱しながら魔理沙さんが教えてくれる。

「な、何なんですか!? その物騒な能力!」

「それは私が!」

 いつの間にか文さんが私の隣に立っていた。

「物体の全てには『目』という最も緊張している点があり、フランドール・スカーレットはその点を右手に引き寄せる事が出来ます」

 文さんはぺらぺらと語りだす。その間に響ちゃんが1枚のスペルカードを左手で取り出した。

「そして――ドカーンです」

 そう言いながら、文さんが右手を握る。顔が引き攣ったのがわかった。響ちゃんは右手に持っていた炎の剣を魔理沙さんへ投擲する。

「いいか! 響の変身が変わるのは3~4分ぐらいだ! それまで耐えろ!」

 魔理沙さんは顔を背けて回避し、忠告して来る。

「……」

 響ちゃんが目を閉じて右手を前に突き出す。魔理沙さんは顔を歪め、文さんは『あややややや~!』と叫ぶ。

「も、もしかして!?」

「く、来るぞ! 全速力で移動! 私たちの『目』を引き寄せられないように!」

 魔理沙さんの指示通り、神社の上を飛び回る。

 

 

 

 ――パキーン

 

 

 

「きゃああああああああっ!?」

 何かが壊れる音がして悲鳴を上げてしまった。

「な、何が壊れた!?」

「目的は私たちではなかったようです! でも、見た所、壊れた物なんてどこにも……」

 文さんの言う通り、何も壊れていなかった。

「でも、音はしましたよ?」

「そうなんだよな」

「禁忌『フォーオブアカインド』」

 話し合っている途中で響ちゃんがスペルを発動。

「くっ!? 分身して来る!」

「ぶ、分身!?」

 魔理沙さんの言う通り、響ちゃんが4人に増えた。それぞれが私たちに向かって飛んで来る。

「とにかく! もう2分は経った! もうちょっとだから頑張って生き残れ!」

 そう言うと魔理沙さんは響ちゃんから距離を取るために高度を上げた。その後を響ちゃんが追って行く。

「じゃあ、私はこっちに行きますね?」

 文さんも響ちゃんを引き連れて移動する。

「い、行かなきゃ!」

 ここで戦ってしまうと神社を壊してしまうかもしれない。急いで離れようとしたが――。

「禁忌『カゴメカゴメ』」

「え!?」

 響ちゃんがスペルを発動し、弾幕で出来た檻に閉じ込められてしまう。

「逃がさないよ?」

「くっ……」

 仕方なく、私はスペルを構えた。

 

 

 

 

 

「……」

 上空で分身と戦っている早苗を見ているのは本物の響。しかし、意識はなくただ呆然と見ていた。

「――」

 その時、遠くの方で何かを感じ取ったのかその方向に顔を向ける。

(イッショニ、アソビマショ?)

 そんな声が聞こえた気がした。ここにいるより楽しそうだ。響はすこし口を緩ませ、声がした方へ飛び立った。その事に早苗は全く気付かないで分身と戦っていた。

 

 

 

 

 

「それは困りましたね~」

「は、はい……」

 僕は美鈴さんに今までの事を話していた。

「むぅ~……少し待っててください!」

 そう言って美鈴さんはお屋敷の中に入ってしまった。

「うぅ~……」

 その途端に不安になる。美鈴さんの話によればここは僕がいた世界とは違うらしい。怖い。

「お待たせしました~! どうぞ、入ってください!」

 そう思っていると美鈴さんが帰って来る。更にこのお屋敷に入れて貰えるようだ。

「い、いいんですか?」

「はい! きちんと許可を取りました!」

 そう言いながら僕の手を握ってニコッと笑顔を見せてくる美鈴さん。それを見ていると先ほどまでの不安がどこかへ吹っ飛んでしまった。

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ! あ、忘れてました!」

「?」

「ようこそ! 幻想郷へ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

「? どうしましたか? お嬢様?」

 紅茶を入れている途中で急にレミリアお嬢様が肩をビクッと震わせた。

「……咲夜。戦う準備をしておきなさい」

「え?」

 意味がわからず、聞き返してしまった。

「でも、この狂気は? フランはここにいるし」

「ん? 私がどうしたの? お姉様?」

 お嬢様の呟きを聞いた妹様がケーキを食べながら首を傾げる。

「貴女は何も感じないの?」

 呆れながら妹様に問いかけるお嬢様。私の疑問は無視されてしまったようだ。

「感じるに決まってるでしょ~。私の狂気に反応してるみたいだね」

「きょ、狂気ですか?」

「うん。さっき、声が聞こえたもん。何だか懐かしい感じがしたよ?」

(懐かしい?)

「懐かしい?」

 お嬢様も分からなかったようで質問した。

「お姉様は覚えてる? あの子の事」

「……ええ。覚えているわ。あれほど衝撃的な事はないもの。でも、ありえないわ」

「そうなんだよ。ありえないから分からないんだよ」

「とにかく、咲夜は出来るだけ時間を稼いで。多分、強いから死なない程度に」

「は、はい……」

「じゃあ、私も準備して来るよ。とっても楽しそうだから♪」

 妹様は残りのケーキを一口で食べ、幸せそうな笑顔を見せた後、部屋に戻って行った。ただ、その笑顔の中には少しだけ狂気が混ざっていた。

「……」

「美鈴にも伝えて来て頂戴。中に入れないのが一番だから」

「かしこまりました。お嬢様」

 時間を止め、門まで移動する。門には腕を組んで険しい顔をしながら空を見ている美鈴がいた。

「? 珍しく起きているのね」

「……はい。何か来るのを感じたので」

「そう……なら、大丈夫そうね?」

「はい、善処します」

 私も美鈴が見ている曇り空を見る。雨が降りそうだった。

 

 

 

 

 

「……はぁ~」

 自分の部屋に戻ってから何度目かわからない溜息が漏れる。

(あの子……元気にしてるかな)

 昔に迷い込んで来た小さな子供の事を思い出す。あの頃はまだ地下にいたけどあの子は毎日遊びに来てくれた。

「だからあんな事になっちゃったんだよね……」

 もう一度、溜息を吐く。60年ほど前から始めた日記を開き、あの子の事を書いた所を読む。パラパラと――。

「まぁ、いいや。もう、あの子はここにいないんだし! 今は遊ぶ事だけを考えよ!」

 無理矢理、自分に言い聞かせて日記を放り投げて机の中に仕舞ってあるスペルカードを取り出した。

 


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