「きょ、キョウです」
「……そう。私はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主よ」
美鈴さんに案内されたのはレミリアさんの部屋だった。やはり、あいさつはしておいた方がいいとの事らしい。そのレミリアさんは僕の事をつまらなさそうに見ている。美鈴さんは門番の仕事でもうこの場にいない。不安だ。
「え、えっと……」
「美鈴から聞いている。災難だったわね。まぁ、この屋敷も馬鹿でかいから戻れる日まで好きなだけ使いなさい」
「あ、ありがとうございます」
きちんとお辞儀してお礼を言う。
「……ねぇ? 貴方、何歳?」
「? 5歳ですけど……」
いきなり質問されて戸惑いながら答える。
「へ~……5歳にしてはしっかりしてるのね?」
「まぁ、家が家ですから」
僕は苦笑いしながら答える。両親は忙しくほとんど僕一人で生活しているのだ。料理も少し出来る。
「ふ~ん……じゃあ、部屋に案内するわ」
「はい!」
頷いてレミリアさんの後について行く。
「……」
私は持っているスペルカードを確認して窓から空を見る。先ほどより曇って来た。お嬢様も準備があるらしく部屋に行ってしまい、多少不安を感じる。ここまで身構えるほどの敵が来るらしい。
「とにかく時間を稼ぐ」
お嬢様に言われた事を復唱し、気合を入れる。
「――ッ!?」
その時、いきなり外から威圧感に襲われた。
(こ、これが……)
目を見開いて外を見る。黒い影が見えた。あれが敵。
「美鈴……」
最初に戦う事になる美鈴が心配になるほどの威圧感。妖怪だから死にはしないだろうが大怪我は避けられないはずだ。
「……持ち場に」
首を横に振って私は移動を開始した。
「これで終わりです!」
私が放った弾幕が響ちゃんにヒットし、消滅した。どうやら、私が戦っていたのは分身だったらしい。
「や、やっと……ですか」
地面まで降下しそのまま座り込んでしまう。かなり、力を消費してしまったのだ。
「お~い! 早苗! 大丈夫か~!」
上から声が聞こえ、そちらを見ると魔理沙さんが飛んで来ていた。服は所々破れているが怪我はなさそうだ。
「は、はい……何とか」
「ん? 響はどこ行った?」
「え?」
そう言えば、響ちゃんの姿がない。戦っている最中にどこかへ行ってしまったようだ。
「お二人さ~ん! お待たせしました~!」
そこへ文さんが到着する。
「あや? あの方は?」
「それが……いなくなってしまったんです」
「そ、それはまずいですね~……あの姿で暴れて貰っては人里が滅亡してしまいますよ~」
文さんがさらっと惨酷な事を呟いた。
「……なぁ? もう4分、経ったよな?」
魔理沙さんが顔を青くしながら質問する。
「は、はい、経ってますけど……あれ?」
時間切れを狙っていたはずだ。それなのに分身は最後まで消えていない。
「ん? これ、何でしょう?」
疑問に思っていると文さんが何かを見つける。
「これは……スペルカードだな。えっと、永遠『リピートソング』? お前らのじゃないよな?」
魔理沙さんに聞かれて首を横に振る。文さんも同じようにしていた。
「リピートソングって事は……繰り返す曲? 同じ曲を聞き続けるって事ですかね?」
簡単な英語だったので推測出来た。私の言葉を聞いた魔理沙さんが目を見開く。
「……まずい。まずいぞ! このスペル、響のだ!」
「響ちゃんの?」
「ああ、あいつの能力の事なんだが――」
魔理沙さんは響ちゃんの能力について教えてくれた。
「じゃ、じゃあこれは?」
「多分、フランの曲を聞き続けてる」
「でも、待ってください! このスペルって弾幕ごっこで使っていいものなのでしょうか?」
「どういう事ですか?」
文さんの言っている意味が分からず、聞き返す。
「このスペルって卑怯ですよね? 相手に有利な姿になった時に発動すればもう勝つに決まっています。だから、これは仕事用じゃないかと」
「仕事用?」
「はい。魔理沙さんと早苗さんの話によれば響さんという方はこの幻想郷の住人の姿になって万屋の仕事をしている可能性があります。ですが、時間制限がありますよね? もし、その時間制限を超える仕事だったら? 同じスペルを何回も唱えなければいけません。それだけでもかなりの時間ロスです。だから、こういったスペルを作ったのではないでしょうか?」
「じゃあ、どうやってこのスペルを? 仕事用だったら使えないよな?」
「っ!? も、もしかして! さっき壊したのって!」
私は恐ろしい事に気が付いて声を荒げる。
「そ、そうか! あいつ、フランの能力でこのスペルの制限を壊しやがった!」
悔しそうに魔理沙さんが右手を握る。
「追いかけましょう!」
「ああ! 見つけたらここに集合な!」
「待ってください!」
飛び立とうとした私たちを止める文さん。
「魔理沙さん、八卦炉なしで本体に勝てますか?」
「ぐっ……」
痛い所を突かれて魔理沙さんが顔を引きつらせる。
「早苗さんも肩で息してるじゃないですか」
「うっ……」
「それにここに戻って来たって向こうも移動しているはずです。すぐに見失ってしまいます。まだ、3人固まっていた方が安全です。それとあの方に協力を依頼するのはどうでしょうか? もうこれは異変です」
「あー……それは私も考えた……んだが」
頬を掻きながら魔理沙さんが気まずそうにしていた。
「? どうしました?」
「じ、実はな――」
「う、うぅ……」
目の前がくらくらする。俺は一体、どうしてしまったのだろう。何となく面倒な事になっているような気がする。
「あ、気付いた?」
「……え?」
体を起こしていると聞き覚えのない声が上からした。声からして女。
「ほら、立って」
その女に腕を掴まれ、無理矢理立たされる。
「さんきゅ……っ!?」
お礼を言いながら顔を上げるとそこに――。
「じゃあ、状況を説明するわね」
俺がいた。
「ま、待て! お前は何者だ!?」
顔つき、髪型が全く同じなのだ。違うのは声質と背丈と体つきぐらい。声は俺よりも高めで背丈は俺の肩ぐらいまでしかなかった。体は丸みを帯びていて胸も膨らんでいる。望よりあるようだ。まるで――。
「『俺が女だったらこんな姿をしてる』って思った?」
「っ!?」
俺の考えている事が見透かされている。
「まぁ、そう思うのも無理ないわ。でも、これを見たらどうかしら?」
女はそう言って、背中をこちらに向ける。
「つ、翼?」
女の背中に漆黒の翼が生えていた。いや、違う。枯れ木のような筋があって全てが黒と言うわけではなかった。
「ええ、翼よ」
俺の方に向き直りながら女が言う。どうやら、こいつは人間ではないらしい。
「で、今の状況だけど」
「だから! お前の正体を教えろって言ってんだよ!」
「私? 私は貴方。貴方は私よ? で、状況なんだけど」
諦めて女の話を聞く事にした。
「ぼ、暴走?」
「ええ、貴方は狂気に取り込まれてる」
「……早苗は?」
一番、近くにいた早苗の事が心配になる。
「大丈夫みたいよ? 今は分からないけど」
(今は?)
疑問に思ったが無視する事にした。
「俺は? 俺には何が出来る?」
「……あるにはあるけど無謀よ?」
「何かあるのか!?」
「まず、ここの事を説明するわね」
女に言われて初めて俺はこの空間を観察する。地面は血のような赤い液体でびちゃびちゃだ。そこに寝ていたのにも関わらず服が濡れていないのはどうしてだろう。空は夜空。いや、空ではない。ドーム状になっているようだ。
「この空間は貴方の魂の中なの」
「魂?」
「そう。で、貴方が暴走したきっかけは狂気との魂逆転」
「へ?」
「貴方の魂は特別でいくつかに分かれているの。そして、元々の魂を10とすると貴方の魂は8あった。で、狂気は1だったの。比率的に貴方の魂の方が多いわ。だから、貴方がこの体の所有権を握っていた。でも、あの変身が原因で狂気と貴方の魂の位置が逆転。狂気が8。貴方は1ってわけ」
「じゃあ、ここは?」
「狂気がいた空間よ」
色々、疑問があるが無視して一番、気になる事を聞く。
「お前は? どうしてここにいる?」
「私のいた空間も狂気に乗っ取られたのよ。これで8対2。魂逆転の直前だったからこっちが広くなったみたい。全く、どうして安心して寝かせてくれないのかしら?」
「ご、ごめんなさい……」
思わず、謝ってしまった。
「……まぁ、いいわ。で、貴方に出来る事。それはこの空間を破壊する事よ」
どうやら、本当に面倒な事が起きているようだった。