東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第276話 救出作戦

「音無兄の姿も気になるが、こっち優先だな……それじゃ、作戦を説明する」

 工場の近くに着地し、茂みに身を隠した俺たちは柊の言葉に耳を傾ける。

「まず、音無兄。ここまで来て何か感じるか?」

 そう聞きながら柊は地面に近くにあった石で何かを書き始めた。

「……いや、奏楽と悟以外の力は感じない」

「この見取り図のどこら辺だ?」

 地面には簡易的な工場の見取り図が書かれている。これを描いていたようだ。

「北側だな」

「俺たちがいるのは南側。一番遠いところに捕まってるのか」

「……なぁ、一ついいか?」

 ずっと黙っていた築嶋さんが発言権を得ようと手を挙げた。それに対し、目線だけで柊が許可を出す。

「お兄さんは知らないと思うが、この世界に【メア】の力を完全に封じることが出来る鉱物がある。それを加工して手錠にし、罪を犯した【メア】を捕まえるのだが……望や雅たちもそのような特殊な鉱物によって力を抑えられているのではないか?」

 確かにそのような鉱物、または道具があれば辻褄が合う。それに望や奏楽はともかく、雅や霙の手にかかれば全員を助け出した上で脱出することなど容易い。それが出来ていないとなると現在になっても身動きの取れない状況なのだろう。

「なるほど。音無兄、力が全くない場所はどこだ?」

「力が全くない場所……ここと、ここ。そして、こことここだな」

 俺が指さした点と奏楽たちがいる場所を結べば丁度、星型になった。

「待て。4か所もあるのか?」

「ああ。だから俺もおかしいと思ってな」

 今回、捕まっているのは望、雅、霙、奏楽、悟の5人。奏楽と悟は一緒の部屋に捕まっているので、それ以外の人がバラバラに捕まっているとなると力が全く感じない場所は3か所になるはずだ。

「いや、待て!」

 力の全く感じない場所を集中的に視ていると微かにだが、霊力を感じることが出来た。奏楽たちが捕まっているところを星の上部分だとすると東側の下側だ。

(この霊力は……知らない?)

 だが、どこかで感じたことのある霊力。それは今、俺の近くにも――。

「ッ……『博麗のお札』!」

 何故、こんなところに博麗のお札の霊力を感じるのだ。あれは幻想郷でも霊夢しか持っていないはず。外の世界で持っているのは俺の他には霊奈しかいない。

「……あー、そう言うことか」

 高熱で倒れている俺をどうにかしたくて望たちが霊奈を呼んだのだろう。そして、俺と霊奈が大学を同時に休んだことを怪しく思った悟が家に来て、そのまま全員が捕まってしまった。こんなところか。

 そして、お札だが普段なら霊奈自身がお札に霊力を流し込むのでもっと霊力は大きいが今は霊力を流せない。だが、お札そのものにも霊力は微弱ながら宿っているので、俺に発見して貰おうと捕まっている部屋のどこかに隠したのだ。まぁ、あまりにも小さすぎて集中しなければ視えなかったのだが、気付けて良かった。

「また救出者が増えたか。まぁ、いいだろう。さて、これで星形になった理由がわかった。問題はどこを誰が担当するかだが……音無兄は奏楽たちのところに行ってくれ」

「理由は?」

「奏楽の力を引き出せるのが音無兄だけだからだ。戦闘になった場合、音無兄以外だと2人を守らなくちゃならなくなる。でも、音無兄が行けば奏楽も一緒に戦える」

 奏楽の力は強大だが、奏楽の体に負担がかかる。きっと、今までの俺だったら反対していただろう。

「ああ、わかった」

 しかし、俺は何も言わずに頷くだけだった。もし、他の人が奏楽と悟を守り切れなかった場合、奏楽たちだけでなく助けに行った人も傷ついてしまう。それだけは避けなければならない。

「それじゃ、俺は西側の上。種子は西側の下。望は東側の上。風花はその下だ」

「だが、どうやって侵入する? 工場はかなり崩れやすいのだろう?」

「……それが、前来た時よりも綺麗になってる。多分、敵がこの工場を立て直したんだ」

「じゃあ、多少暴れても構わないのだな?」

 柊の言葉を聞いた築嶋さんはニヤリと笑って己の拳と拳をぶつける。気合十分だ。

「まぁ、落ち着け。まずは建物の中に入らなくちゃいけないだろ。その方法はあるにはあるけど……」

「ああ、リュウキの<ファイナル≪G≫>であの大きな扉をぶっ壊すんだね。でも、あれかなり燃費悪いよ?」

 そう言いながら風花が工場の方へ顔を向ける。そこには大きくて頑丈そうな扉があった。その前には見張りが2人いる。見つからずに扉を開けるのは無理そうだ。

「そうなんだよな。この中で何があるかわからないから出来るだけ力は温存したいんだけど……」

 腕を組んで悩む柊。確かに、敵のアジトに乗り込むのだから戦闘になる確率は高いだろう。

「じゃあ、俺がやろうか?」

 俺の言葉を聞いて全員がこちらを見て首を傾げる。

「今の俺ならあんな扉ぐらい簡単に破壊できるぞ?」

「簡単にって……音無兄なら出来そうだけど」

 苦笑いを浮かべて柊は頬を掻く。まぁ、無理もない。今の俺の姿は人間のそれとは違う。そんな奴が扉を簡単に破壊できるなどと言えば引くに決まっている。

「それじゃ、音無兄が扉を破壊した後、全員で突入。音無妹たちを助けた後、中央に集合だ」

 そう言って簡易見取り図の中央に書かれた大きな部屋を指さした。

「どうして集合するのだ?」

 首を傾げながら築嶋さんが問いかける。

「俺たちは今からばらばらになる。きっと、戦うことになるだろう。通路も狭いし、特に築嶋さんと風花は戦い辛いはずだ。だからこそ、皆で一度、集合して一気に突破した方が安全だと思うぞ」

 柊の代わりに俺が答えた。普段なら個々で脱出しても問題はあまりない。ここにいる全員、普通の人間相手に遅れを取るようなこともないだろう。例え、相手が武装していても、だ。しかし、今回の場合、望たちを守りながら戦うことになる。そんな状況で満足に戦えるとは思えない。なので、集合した方がいいのだ。

「なるほど……わかった。中央の部屋に集合だな」

「他に質問はないか?」

 柊の質問に対し、全員が無言だった。質問はないらしい。

「じゃあ、作戦開始だ!」

 こうして、俺たちの救出劇が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(さてと……)

 まずはあの扉を破壊しなくてはならない。

「お手並み拝見といきますか」

 左手をギュッと握って深呼吸。この力を初めて使うので少しだけ緊張しているのだ。覚悟を決めて霊力と神力を左腕に流す。すると、左拳が仄かに光り輝いた。

「皆、準備しておけ。一気に行くぞ」

 後ろにいる皆にそう言いながら、茂みを出た。

(扉までの距離は結構ある。でも、俺なら……いや、俺たちなら届く)

「ん? お、おい! あいつ!?」

 音で気付いたのか欠伸を噛み殺していた見張りの一人が俺に気付き、大声を上げる。

「ターゲットだ! 連絡しろ!」

 そして、もう一人の見張りが叫びながらトランシーバーで連絡を取ろうとした。

「電流『サンダーライン』」

 すかさず、右手を前に突き出して雷撃を放つ。

「あぐっ!?」

 雷撃を喰らった見張りは顔を歪めてトランシーバーを落とした。その隙に左腕を引き、腰を落として構える。

「すぅ……はぁ……」

 深呼吸しながらゆっくりと力を開放して行く。左手の輝きが増す。

「竜撃『竜の拳』」

 そう宣言すると左手が突然、巨大化した。その大きさは『神撃』を上回っている。そして、霊力と神力を開放して扉に向かって思い切り、振るった。

「「うわあああああああっ!?」」

 巨大な拳が迫って来るのは相当、怖いだろう。この見張りたちも例外ではなく、悲鳴を上げた。俺の拳はそのまま扉に突き刺さり、粉砕した。

「よし、皆行くぞ!」

 左手を元の大きさに戻すと同時に柊と風花を乗せた種子が俺の隣を走り抜ける。その後を築嶋さんが追いかけた。築嶋さんは種子に乗るよりも早く走れるのだ。

(皆、待っていろよ!)

 俺も急いで工場の中へ入った。

 




モノクローム図鑑

柊 龍騎(ひいらぎ りゅうき)

能力
・モノクロアイ(内容は本編参照)


武器:<ギア>グローブ
・<ファイナル≪G≫>などステップによって技が変わる。<ファイナル≪G≫>の場合、手の平から極太レーザーをぶっぱなす。なお、Gはグローブという意味であり、決して黒い悪魔のことではない。
ステップはファースト、セカンド、サード、フォース、ファイナルまで存在している。
<ギア>グローブは元々、<ギア>ガン(椿が所持している物。攻撃手段がなかった柊に椿が渡した)だった。しかし、敵の攻撃を<ギア>ガンが受けてしまい、破損。そのせいで<ギア>が回らなくなり、柊は再び攻撃手段を失った。失ったと言っても<ギア>ガンは貰った当初から柊の【メア】に合わず、椿ほど使いこなせていなかったが。
しかし、風花の危機にありったけの【メア】を<ギア>ガンに注いだところ、<ギア>がそれに応え、再構築され、<ギア>グローブへと姿を変えた。
普段はブレスレットになっており、任意のタイミングでグローブに展開できる。
また、【メア】をグローブに纏わせることができるため、<ギア>を回さなくても殴るだけならば地面を陥没させられるほどの威力を持つ。
地面に向かって【メア】を放出することで空を飛ぶことも可。どっかの大空みたいですね(ニッコリ)。
【東方楽曲伝番外編】ではガン=カタを見よう見まねでするなど、意外に器用なこともできる。

なお、【東方楽曲伝番外編】は今のところ、どこにも投稿していません。

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