東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第279話 終わりと企み

 俺たちの姿を見て敵は皆、動けずにいる。しかし、俺たちから動くことも出来ない。もし、動けば望たちが狙われてしまうからだ。奏楽に皆を守らせることも出来るが、先ほども見たように銃弾を弾くほどの防御力はない。

『なるほど……まだ仲間がいたのですか。これは予想外ですね』

 ボイスチェンジャー特有の気味の悪い声が部屋に響く。

「そりゃ、さっき呼んだからな」

 俺がお粥を食べた後、掛かって来た電話の相手が弥生だったのだ。何となく、電話を掛けたくなったらしい。

『そうですか。まぁ、いいでしょう。確かに、龍の鱗は銃弾を弾きます。ですが、鱗以外の部分は普通の人間と同じでしょう。なので――』

 そうボイスチェンジャーが言った刹那、目の前の壁に小さな穴が開き、そこからスナイパーライフルの銃口が出て来た。壁に細工を施していたらしい。

『――そこを狙えばいい』

 バンッ、とスナイパーライフルが弥生に向かって火を噴いた。急いで弥生を突き飛ばす。突然、突き飛ばされたので弥生は倒れてしまったが銃弾の軌道上から外れることが出来た。その代わり、俺がその軌道上に躍り出ることになったが。

(『ゾーン』)

 すぐに『ゾーン』を発動させ、俺に迫る銃弾の軌道を読む。銃弾の矛先は――俺の眼球だ。

 ――キンッ!

 だが、銃弾は何かに弾かれてしまう。俺の目の前には黒い板。

「寝起きに……これはちょっと辛いって……」

 振り返ると雅がフラフラしたまま、地面に両手を付いていた。炭素を操って俺を守ってくれたのだ。

「雅、頼む」

「っ……やっと、わかったんだね」

 俺の言葉の意味を理解した雅は目を見開いて驚くが、すぐに笑った。

「契約『音無 雅』!」

 地面にスペルカードを叩き付けて、俺の前に雅を召喚する。それと同時に俺の中の地力を分けた。

「あー、やっと力が出て来た。全く、何なの? あの首輪」

 歪な黒い翼を広げ、溜息を吐く雅。まぁ、地力が全て吸い取られていたのだから仕方ないか。

「悟、次は霙だ」

「もうやってるよ」

「あ、悟、ありがと。助かったって……響、何その恰好!? それに弥生まで何でいるの!?」

「後で説明するからお前は皆を銃弾から守れ」

「むぅ……わかった。でも、必ず話してよね!」

 そう言って雅は黒い翼を地面に突き刺して、いつでも炭素壁を召喚できるようにした。これで俺たちも自由に動ける。弥生も立ち上がって俺の隣に来て俺の指示を待ってくれている。

 では、もう少し準備を進めよう。幸い、敵の動きはない。何が目的なのかはわからないが、好都合だ。

「紫」

「……何かしら?」

 小さな声で虚空に呼びかけると小さなスキマが開き、紫の声が聞こえた。

「今から反撃に出る。瀕死の奴を永琳のところに届けて欲しい」

 正直、龍人の力は計り知れない。きっと、殴るだけでも人間相手ならば一瞬にして粉々にしてしまうだろう。

「優しいのね」

「無駄な殺しが嫌なだけだ。頼むぞ」

「はいはい、わかったわ。でも、治療が終わったら適当な場所に放り捨てるわよ?」

「構わん」

 さて、これで準備が整った。最後の仕上げと行こう。

「弥生、いいか?」

「うん、覚悟は出来てるよ」

 あの時の電話で俺たちはすでにお互いの覚悟を言い合った。そして、今からその覚悟を形にしよう。

「『我、この者を式神とし一生、配下に置く事をここに契る』」

 弥生の肩に手を置いて軽く口付けを交わす。すると、俺たちの前に2枚のスペルカードが出現した。俺たちはそれぞれ、1枚ずつスペルカードを掴み取る。そして、すぐに宣言した。

「契約『音無 弥生』!」

 弥生を召喚(目の前にいるので煙は出なかった)すると地力をやり取りする見えないパイプが繋がる。更に、弥生の体を覆う鱗が増えていた。

「望、後はよろしく」

 全ての準備は整った。早く、この悪夢を終わらせるとしよう。後ろにいる望にそっと言ってから俺と弥生は同時に飛び出す。

「え? あ、うん! お兄ちゃんと弥生ちゃんが遊撃するみたいだから私たちは自分の身を自分たちで守ろう! 悟さんたちを囲むように――」

 そこまで聞いてもう俺はナイフを構えていた敵の一人に迫っていた。軽く左拳で敵の頬を殴る。

「ガッ……」

 敵はトラックにでも轢かれたかのように壁に叩き付けられて消えて行った。スキマに落とされたようだ。

(やっぱり、手加減が難しいな)

 ならば、一思いにやってしまおう。どうせ、力をセーブしても意味がないのだ。手加減して敵を排除する時間が長くなってしまうより、さっさと倒して家に帰った方がいいだろう。

「竜撃『竜の拳』」

 空を飛んで2階に移動し、敵が密集しているところへ巨大な龍の拳を撃ち込む。面白いように敵が吹き飛んだ。そのまま、左腕を振るって周りにいた敵も撃退していく。

 だが、俺の攻撃を掻い潜った1人の敵がジャンプして俺の目の前で銃を構える。その銃口が向く先は俺の素肌。この距離では躱すことは出来ないだろう。

(捨て身の一撃か)

 このまま、俺の撃っても敵はそのまま、1階に向かって落ちていくだろう。そんな敵の度胸と根性に感心した。

「狼迫『狼の咆哮』!」

 ――ウォォォォォォォン!!

 敵が引き金を引く直前で下の方から凄まじい遠吠えが部屋に轟く。その衝撃により敵はバランスを崩して明後日の方向に銃弾をばら撒く。

「翼撃『白翼の舞』」

 左腕を振るった勢いを利用してその場で回転し、白銀の片翼で敵を打った。うめき声を漏らしながら敵は地面に叩き付けられ、またスキマに落ちていく。

「霙、ありがとう」

 フラフラしたまま立っている霙にお礼を言った。この距離では声など届かないだろうが、式神通信を使えば何も問題もない。

「いえ、ご主人様のお役に立てなかった分、ここで汚名を返上したいと思います!」

「心強いよ。契約『霙』」

 召喚したことによって霙が大きな狼となり、近くにいた敵に襲い掛かったのを見て気持ちを切り替える。

(さてと……)

 敵の数は減っている。地上は奏楽と霙、柊たちが、2階では弥生が暴れているからだ。このまま、敵の殲滅は出来る。しかし、だ。

「どうして、ボイスチェンジャーは指示を出さない?」

 撤退するにしても、迎え撃つにしても、ボイスチェンジャーの指示があれば少しは抵抗できるはずだ。先ほど、捨て身で俺に攻撃しようとした敵を見れば敵たちは相当、ボイスチェンジャーのことを信頼していることがわかる。そんな信頼しているボイスチェンジャーの指示一つで士気は上がり、仲間同士で連携が取れるだろう。

 だが、現状はどうだ。敵は個々で攻撃し、お互いがお互いの足を引っ張り合っている。

「……そうか」

 ボイスチェンジャーの狙いに気付いた俺はすぐに飛翔し、小型カメラを殴って破壊した。

『ほう、気付きましたか』

 今まで黙っていたボイスチェンジャーが感心したような声を漏らす。

「俺としたことが、忘れていた。お前の狙いは俺を観察、研究すること。俺や俺の仲間の戦闘力を計っていたな?」

 こいつは自分の部下を犠牲にして俺たちを観察していたのだ。反吐が出る。

『ご名答。いやぁ、もう少し見ていたかったです』

「嘘つけ」

 ボイスチェンジャーの愚痴に対して、悪態を吐きながら別の小型カメラを翼で叩き落とす。それからすぐにもう一台を握り潰した。

『なかなか抜け目がありませんね。安心して研究できませんよ』

「それはこっちの台詞だ」

 さて、この部屋に後どれほどのカメラがあるのだろうか。

「弥生、そっちは頼んだ」

 これ以上、情報が漏れないようにカメラを全て破壊しなくてはならない。敵の方は弥生たちに任せても大丈夫だろう。

「任せて!」

 笑顔で頷いた弥生は迫って来ていた敵を魔眼で吹き飛ばした。消滅させないように手加減しているようだ。

「お兄ちゃん、右側のドラム缶の側面にカメラがあるよ!」

 俺とボイスチェンジャーの会話を聞いていたのか、望がカメラの場所を教えてくれた。

「その調子でよろしく」

「うん!」

 それから俺は小型カメラを破壊し続け、気付いた頃には敵は全員、スキマ送りになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 いくつものモニターがある部屋で男はため息を吐く。最初は全てのモニターが光っていたのだが、今は砂嵐だ。1つのモニターを除いて。

(まさか、部下のヘルメットに取り付けていたカメラ以外、破壊されるとは思いませんでした)

 しかも、小型カメラを取り付けていた部下は数多くいたのだが、このカメラ以外は全て全滅である。他のカメラは壊されていない物もあるようだが、何故かモニターに情報を送って来なくなっている。

「まぁ、運が良かったですね」

 生き残ったカメラは偶然、部下の頭から落ちた物だった。そのおかげで今も部屋の中の様子をモニターに送ることが出来ている。すでに部屋には誰もいないのだが。

「では、次の段階に移行しましょうか」

 男は笑みを浮かべながら後ろを見る。

 そこには大きなガラスで出来た筒があった。人さえも入りそうなほど大きな筒の中は何かの液体で満タンだった。

「観察、研究、推測、考察はもう十分しました。その次は何か? 決まっています。実験ですよ」

 誰にともなく呟いた声は部屋に響くだけだった。

「……」

 唯一、男の言葉を聞いたのは筒の中で自分の体を抱いて丸くなっている人だけだった。

「さぁ、音無 響。貴方の力を見せて貰いますよ」

 

 

 

 また、新しい戦いが始まろうとしていた。

 




モノクローム図鑑


築嶋 望(のぞむ)


能力:四肢の強化、超高速再生


詳細:柊の幼馴染で彼に【メア】の存在を教えた人。学校ジャック事件にて柊に自分が【メア】であることがばれてしまった。攻撃手段は単純で殴る蹴るのみ。ただし、凄まじい速度と破壊力を持つため、初見だと対処するのが難しい。その代わり、雷輪のように能力を使った後、筋肉が破裂する。それを補うのが超高速再生。痛みにはもう慣れたもよう。
オリジナルの話では望は【メア】ではなく一般人として柊を支えていた。結局、最終的に【メア】になったが。オリジナルでも四肢の強化と超高速再生。名前は同じだが、苗字は違う。竹……何とか。ちょっと忘れてしまいました。
両親は共に医師であり、柊の両親と一緒に研究したこともある。元々、柊の両親と望の両親は学友で将来、隣の家に住もうという夢を果たした結果、柊と望は幼馴染となった。つまり、2人が初めて出会ったのは0歳の時である。
<ギア>は持っておらず、少しだけ前に出過ぎる欠点があり、戦闘時は柊に注意されることが多い。

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