東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第28話 出会いと衝突

「あ、あれ?」

 紅魔館にお世話になってから2週間が経った。このお屋敷は見た目通り、広い。案の定、道に迷ってしまった。今、何階なのかも分からなくなってしまった。

「ど、どうしよう……」

 今までは誰かと一緒にいたので何とかなった。でも、今は一人。

「適当に歩くしか……」

 僕はビクビクしながら歩き始めた。

 

 

 

 

 

「? ここって?」

 階段を下りると部屋があった。この前、案内してくれたレミリアさんは紹介してなかったと思う。よく見ると鍵がかかっていた。

「だ、誰かいるかな?」

 おそるおそるドアをノックする。

「――?」

 中から誰かの声がした。

(やった! 人がいる!)

「あ、あの! 僕は『キョウ』って言います! 2週間ほど前からお世話になってます!」

「わ……フ……レ……」

 中の人がドアに近づいて来てくれたのか先ほどより聞き取りやすくなった。

「す、すみません! もう一度、言ってくれませんか? ドア越しなので聞き取りづらくて」

「いいよ。私はフランドール・スカーレット。よろしくね? キョウ」

 女の子の声が聞こえて嬉しくなった。

「は、はい! よろしくお願いします!」

 これがフランさんとの出会い。この後、あんな事が起きるなんてレミリアさん以外知らなかった。いや、レミリアさんも知らなかった。運命では全く起きるはずない事だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来ましたか」

 曇天の空の下。黒い影が高速でこちらに近づいて来る。門に背中を預けるのをやめて拳を握る。

「さて、どれくらい耐えられるのやら……」

 腰を低くし一気に跳躍。目指すはあの黒い影。

(一撃で決める!)

体の中にある全ての気を握りしめた右手に込める。

「秘弾『そして誰もいなくなるか?』」

「ッ!?」

 敵がスペルを発動し、消えた。私の渾身の一撃は空を切る。

「い、今のスペルはフラン様のっ!?」

 驚いた瞬間、周りに大量の弾が私を狙う。

「しまっ――」

 どうする事も出来ずに被弾し、気を失ってしまった。

 

 

 

 

「……」

 響は美鈴が落ちていくのを黙って見ていた。

(早く……おいでよ)

「――」

 声に急かされ響は紅魔館の窓を叩き割り、そこから内部へ進入する。

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当ですか?」

「あ、ああ……どうもそうらしい。紫も驚いていたほどだ」

「あやや~! これは記事になりそうですね~!」

「その新聞をばら撒いた瞬間、お前は光を失うと思うぞ? あ、時間は永遠な」

 魔理沙さんの忠告に震える文さん。あの人ならやりそうだ。

「で、どうします?」

「う~ん……やっぱり、協力してもらうか」

「はい、見てみたいですし」「そうですね。見てみたいですし」

 決まれば早い。私たちは移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「外の世界って面白そう」

「そうかな~?」

 フランドールさんと出会って3日、経った。僕は毎日ここに遊びに来ている。ドアが邪魔して顔は見えないけどおしゃべりぐらいなら出来る。

「で? 今日の本は何?」

「今日はね~! 吸血鬼と人間の恋の物語!」

「……吸血鬼、ね」

「うん! パチュリーさんがおすすめしてくれたの!」

 フランドールさんは本をほとんど読んだ事がないらしくこうやって読み聞かせしているのだ。だが、この本は分厚くて1日じゃ読み終わりそうにない。

「まぁ、いいよ。面白そうだから」

「じゃあ、読むね!」

 僕はドアに背中を預け、本を読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 窓が割れる音がし、時間を止めて現場まで移動。そこには丁度、窓から中に入ろうとしている敵がいた。

(服が妹様に似ている? いや、まるっきり同じだわ。羽も。髪は違うけど……一体、どういう事なの?)

「そこまでよ」

 疑問を残しつつ、時間を戻して敵に言う。

「――」

 敵は廊下に降り立ってゆっくり、こちらに目を向ける。

「ここで貴女を倒すわ」

 ナイフを構え、投げる。敵はそれを軽く躱し、私に向かって突進して来る。

「幻世『ザ・ワールド』!」

 スペルを発動し、時間を止めた。その間にナイフを設置。

「そして、時は動き出す」

 私の言葉に反応して時間が動きだし、ナイフが敵を襲う。

「禁忌『恋の迷路』」

 だが、敵がスペルを発動する。敵を中心にして波状弾幕が放たれる。ナイフは弾幕に吹き飛ばされ、廊下に散らばる。

(こ、これは妹様の!?)

「禁弾『スターボウブレイク』」

「くっ!?」

 敵がまたもや妹様のスペルを唱え、七色の矢を放つ。体を捻って躱すも躱し切れず、左足に掠ってしまった。

「――ッ」

 その掠った箇所から血が噴き出る。弾幕ごっこではありえない事だった。つまり、これは弾幕ごっこではない。

(本当に殺しに!?)

 次々に矢が放たれる。逃げようとするが足に激痛が走る。このままでは殺されてしまう。

「紅符『スカーレットシュート』」

 その時、後ろから紅い弾幕が飛んで来て七色の矢を相殺する。

「お、お嬢様?」

「お疲れ様、咲夜。治療して来なさい。出血多量で死ぬわよ」

「は、はい」

「それにしても……予想外ね。まさか、フランのスペルを使えるなんて……」

 口ではそう言っているが少し口元が緩んでいる。

「まぁ、いいわ。さぁ、かかってらっしゃい」

 お嬢様の挑発に敵は矢を放って答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、壊すって……どうやって?」

「それは自分で考えて欲しいわ。私も分からないんだから」

「無責任な……」

「貴方の魂でしょ? 自分で何とかしなさい」

 女はそう言うと飛び立った。

「ハッ!」

 天井までたどり着いた女は右腕を引いて思いっきり突き出した。どうやら、殴って壊すらしい。

「俺の魂?」

 その様子を見ていて先ほどの女の言葉を思い出す。ここは俺の魂の中だ。

(……よし)

 目を閉じる。イメージするのだ。そうすれば、きっと――。

「……来た」

 左腕にホルスターが取り付けられていた。ここは現実世界ではない。ならば、これぐらいの事は出来る。そう思って試したら成功した。イヤホンを伸ばし、耳に装着。曲を再生。

「ここからだ! 絶対、壊してやる!」

 スペルが出現し、宣言する。

「U.N.オーエンは彼女なのか?『フランドール・スカーレット』!」

 

 

 

 

 

 

「――って事なんだよ」

 場所は博麗神社。そこで魔理沙さんが霊夢さんに事情を説明している。文さんは響ちゃんの行方を聞き込みしているのでここにはいない。

「……わかったわ。行きましょう」

 縁側に湯呑を置いて、霊夢さんが立ち上がった。

「ほ、本当ですか?」

「ええ、聞くだけでもかなりやばい状況だわ。それに響が心配よ」

「「……」」

(あの霊夢さんが人の心配を……)

 驚いて魔理沙さんと顔を見合わせる。

「皆さ~ん! 響さんの居場所がわかりました!」

 丁度、文さんが帰って来た。

「どこなんだ?」

「はい、どうやら紅魔館に向かったようです」

「紅魔館? どうしてそんな所……ま、まさか?」

 魔理沙さんが後ずさる。何かわかったようだ。

「……紅魔館にいるフランの狂気に誘われたようね」

 魔理沙さんの代わりに霊夢さんが言った。

「え? 狂気に?」

「響はフランに変身しているのでしょ? なら、フランの狂気だって響の中にいるはず。もしかしたら、引かれ合うのかも」

「フランと戦えばどうなるのかわかったもんじゃない!」

 魔理沙さんが箒に跨りながら呟く。

「急ぎましょ? このままでは紅魔館が全壊するわ」

 冷静に見えた霊夢さんの目には不安と心配が見受けられた。何やら、とんでもない事になっている事がわかる。

「あ、その前にいいですか?」

 文さんが霊夢さんを止めた。

「ん? 何?」

「この異変の名前でも決めておきませんか?」

「おいおい! こんな時に決めなくても……」

 魔理沙さんが文句を言うが文さんはそれを無視した。

「そうね……『狂気異変』とでも言っておきましょうか」

「うわ……聞くだけでやばい感じがします」

 顔を引きつらせて感想を漏らす私。

「まぁ、そういう状況だって事は言っておくわ」

 それだけ言って霊夢さんは紅魔館を目指して飛び立った。それに続いて私たちも出発する。だが、霊夢さんはまだ言っていない事があった。それを知るのはずっと後の事になる。

 


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