東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第282話 龍の正体

「……あの友情を確かめてるところ悪いけど、茶葉切れちゃった」

 おそるおそると言ったように手を挙げながら教えてくれる雅。しかし、タイミングが悪かった。

「……雅、買って来い」

「いつも私、パシリだよね!?」

「雅だから仕方ないだろ?」

「当たり前なこと聞くな、みたいな顔して言われても困るよ……」

 ため息を吐きながら雅は財布を持って家を出て行く。確か、この近くのコンビニには茶葉など置いていなかったので結構、遠くまで行くことになりそうだ。

「あ、やべ。スキホの中に茶葉の予備あったわ。まぁ、いいか」

「……なぁ、師匠。響と雅ちゃんっていつもこうなの?」

「はい、いつもお兄ちゃんが雅ちゃんをからかってますね。今みたいに予備あるのに買いに行かせたり。今回は本当に忘れていたみたいですけど」

 望と悟が何かひそひそ話しているが、無視してスキホから茶葉を取り出す。そして、霙にそれを渡そうとそちらを見た。

「ご、ご主人様……」

「あー……」

 そこにはすやすやと眠る奏楽を抱っこして身動きの取れない霙がいた。そりゃ、こんな時間にもなれば奏楽も眠くなるだろう。

「霙、すまんが奏楽をベッドに連れて行って」

「了解であります」

「んにゅ……霙、おはよー」

 霙が移動しようとした時、その振動で奏楽が目を覚ましてしまった。

「まだ深夜ですよ、奏楽さん」

「んー、何だか眠くなくなっちゃった……絵本、読んでー」

「了解であります」

 よく奏楽は霙に絵本を読んで欲しいとお願いすることがあるので、霙も慣れたらしい。明日にでも式神通信で今日のことをまとめて伝えよう。

「さてと、とりあえず悟に軽く俺のことを話した後、あの龍について教えるな」

 俺の提案に全員が首肯したのを確認して今までに起きたことを手短に話す。まぁ、また後で悟には詳しく話すつもりだ。

「――ってなわけで二つ名を手に入れて能力が戻った」

 そこまで話して俺は一度、お茶を啜る。手短にとは言ったものの一つ一つがとても濃い話なので1時間ほど時間が経っていた。雅はまだ帰って来ない。霙と奏楽もそのまま寝てしまったようだ。霙は地力を吸い取られていたので疲れていたのだろう。それは雅にも言えるのだが、何故かあいつは今も元気に茶葉を求めてコンビニを回り続けている。

「本当に……何で生きてるの?」

 最初はワクワクした様子で聞いていた悟だったが、いつの間にか呆れ顔になっておりそんな質問をぶつけて来た。

「それは俺も不思議でたまらない」

「しかも、お兄ちゃんかなり省いて話してるので実際はもっと……」

「え……これ以上なの?」

 魂喰異変の時の内側からズタズタにされた話などは省いた。話してもあまり意味ないし。

「それじゃ本題に入るか。まずはこれを見てくれ」

 そう言いながら俺は弥生から貰ったあの水色の珠をテーブルに置く。

「あ、これ……」

 珠を見てすぐに弥生がハッと息を呑む。

「弥生はわかるよな。この珠は弥生から貰った物なんだ。それを俺は袋に入れて首から下げてた。お守り代わりとしてな」

「それはどうして?」

「何となくって言った方がいいか。俺もよくわからないけど」

 椿の問いかけに答えながら俺も首を傾げた。今でもこの珠を常に持ち歩いていた理由はわからない。

「あー……響もだったんだ」

 しかし、弥生だけは違ったようで少しだけ顔を引き攣らせながら呟く。

「どういう意味だ?」

「いやー……私もそんなに詳しくないんだけど、昔その珠を巡って争いが起きたらしくてね。話によると珠を自分の傍に置いておきたくて喧嘩したらしい」

「何でそんな物騒なもん、持たせたんだよ!?」

 下手したらこの珠を巡った争いに巻き込まれていた。でも、弥生がこの珠をくれたらから皆、無事に救出できたのだが。

「響は干渉系の能力が効かないらしいから大丈夫かなって思って。でも、その珠って何の変哲もない珠なんでしょ?」

「ああ、この珠は何の変哲もない珠だぞ。ただ、俺が持てば話は別」

 きっと、昔は水色の珠にも何かしらの力があったに違いない。だが、時が経つと共にその力が衰え、最終的にはただの綺麗な珠になってしまった。だからこそ、弥生は俺にこの珠を渡したのだ。

「俺が持てば何の変哲もない物でも力を持つことがある。例えば、この指輪も他の人が身に付けても何の効果も発揮されない。でも、俺が持てば『合成する程度の能力』を得ることができる」

「そう言えば、さっき言ってたな。合力石だっけ?」

 悟が顎に手を当てながら呟く。

「ああ、この石が合力石と呼ばれてたから俺は『合成する程度の能力』を得られた」

「それでは、その珠は一体、何なのだ? 龍珠とか言うのか?」

「いや、その珠には特に名前なんてなかったはずだよ」

 築嶋さんの疑問に弥生が答える。それもそのはずだ。弥生自身もこの珠について知らないのだから。

「別に名前だけじゃない。猫のような『魂が9つある』という伝説や存在そのものでもいい。何か由来のある物ならば俺が持つと能力になることがある」

 今回はちょっと特殊だったが。

「もう前振りはいいだろ。あの龍の正体言えよ」

 煮えを切らしたのか柊がため息交じりに先を促す。ちょっと前振りがくどかったかもしれない。

「結論から言うとあの龍は――“青竜”だ」

 四神の一角。方角は東、五行で表すと木。有名な龍だ。

「……」

 だからだろう。ここにいる全員が口をぽかんと開け、俺を見ていた。

『そんなに珍しいか?』

 その時、魂の中にいた青竜がそんなことを呟く。

(まぁ、青竜は色々な話に出て来るからな。知ってる分、驚きも大きいんじゃないか?)

 俺だって吃驚した。なんせ、珠から声がして『力を分けろ』と言って来たのだから。

『どれ、続きは儂から説明しようか』

(お前から? どうやって?)

『儂はこの魂にいる奴らとは違って汝の魂に縛られておらん。じゃから、このように……』

 すると、俺の胸と珠が輝き始める。そして――。

「よっと」

 俺の隣に俺が出て来た。いや、俺であって俺ではない。身長は俺と同じぐらいだが、髪が綺麗なエメラルドグリーンで頭には立派な角が生えている。服装は俺が通っていた高校の制服だから露出が少ないのではっきりとは言えないが、首にいくつか緑色の鱗があるので体にも鱗があるのだろう。それに龍のような尻尾がここからでも見える。

「お、お兄ちゃん……この人は?」

 いち早く我に返った望が喉を震わせながら問いかけて来る。

「あー……青竜、だよな?」

「いかにも。儂は青竜。まさか女子(おなご)の姿で出て来るとは思わなかったが、よろしく頼むぞ」

 腰に手を当てながら自己紹介する青竜だったが、それに応えられる人はいない。

「えっと、お前……表に出られるのか?」

 仕方ないので俺が質問した。基本的に魂の中にいる吸血鬼たちは外に出ることはできない。例外として『魂交換』で体の所有権を一時的に渡せば可能となる。

「表に出るも何も先ほども言ったように儂は汝の魂に移住しているわけではない。まぁ、汝の地力を借りているのは確かだが」

「つまり、俺の力を使って珠から出て来てるってことか……」

「そう言うことだ。汝の魂とこの珠は儂の霊力で繋がっているから行き来自由なのだ。だから、汝の魂にいてもこのように儂の分身を生み出すことができる。しかし、どうして儂は女子になってしまったのだ? 今まで、このようなことはなかったのだが」

「ああ、それは俺の力を使ってるからだよ。お前も見ただろ? 俺の魂にいる奴らは皆、俺のような姿をしてるんだ。違うところもあるけど」

「すまん。ずっと儂の部屋にいたのだ。他の住人には会っていない」

 なるほど、だから自分の姿を見て驚いていたのか。

「でも、吸血鬼はお前のこと知ってただろ?」

「ドア越しに挨拶したからであろう。あの時はまだ汝の魂に慣れていなくてな。まだ部屋から出られなかったのだ」

『ホントに……響はいつもいつも』

 青竜の話を聞いていると突然、頭の中で吸血鬼の声が聞こえた。呆れたような声音である。

(いつも、何だよ)

『ずっと私たちを放置してたから教えてあげない』

 『べー』と言って通信が切れてしまった。どうやら、拗ねているらしい。

『吸血鬼はずっと心配しておったからの。後で埋め合わせしなければな』

(……ああ、わかったよ。トール)

 トールのアドバイスに声だけで頷いて改めて周囲の状況を確かめた。

「お? これは今のお茶か。少し貰うぞ」

 青竜は表に出て来たことにテンションが上がっているのか俺の湯呑に急須からお茶を注いでいる。ちょっと顔がにやけているので日本茶が好きなのかもしれない。

「それで……問題が……」

 青竜の登場から一切、瞬きをしていない皆を見て俺は深々とため息を吐いた。

 




モノクローム図鑑


霧下 椿


能力:圧力


詳細:【メア】を取り締まる機関に属している。【メア】に感染してしまうと他の【メア】を引き寄せやすくなってしまうため、戦う意志の無い人が殺されてしまうことが多く、そう言った犯罪を未然に防ぐ、もしくは犯罪者を捕まえる警察のような機関である。その中でも椿は<ギア>を扱う珍しいタイプで圧力というそこまで使えない能力を上手く使って戦う。圧力は本来、【メア】を凝縮させて相手にぶつけることぐらいしかできないが、<ギア>に【メア】を無理矢理流し込めるのでさほど【メア】が多くなくても回すことが可能となる。それでも銃に組み込めるような小さな<ギア>しか回せない。まぁ、<ギア>自体、【メア】が多い人でないと回せないのでその小さな<ギア>を回せるだけ十分すごい。因みに圧力の能力を応用して肉体強化も可能だが、使い過ぎると体が壊れてしまう。
彼女の苗字を忘れて1時間ほど探したのは内緒である。
兄と弟がいたが、九門という人に殺されてしまい、自分も殺されそうになったところで機関の人に助けられ、そのまま機関に属することになった。元々、機械いじりが好きで機関の中でも<ギア>に関する部署に属しており、柊に初めて会った時に自身のことを『メカニック』と説明している。ただし、説明するのがすごく下手くそ。
風花のうちわを作ったのも椿。しかし、本人同士は面識なし。柊の両親が【メア】に関して研究していたので機関もそれに協力していた。その時に研究者たちも自衛できるように何か武器を用意することになり、柊の両親の同僚だった風花の武器を作ることになった。
オリジナルとの差はほとんどない。
因みに兄も弟も生きていたりする。兄はオリジナルですでに登場済み。楽曲伝では出て来ていないので図鑑紹介はなし。

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