東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第284話 少しの休息

「――ええ、それぐらいお安い御用よ」

「おう、サンキュ」

 博麗神社の縁側。俺と霊夢、霊奈の三人は湯呑を持って話し合っていた。話し合っていたのはほとんど俺と霊夢だけだが。

「霊奈、さっそく取り掛かりましょう」

「うん、わかった」

「完成するまで時間がかかるわ。数が数だからね。その間、何するの?」

 湯呑を置いて霊奈は神社の奥へと向かった。霊夢もその後に続くが、その途中で俺の方を見て問いかけて来た。

「ああ、皆にお礼を言って回ろうかと思ってな。二つ名考えてくれたから助かったんだし」

 その話し合いに参加した人は結構いるようなので急いで回らなければ回り切れないだろう。

「ならそれが終わったら帰って来て。細かい調節したいから」

「わかった」

 頷いた俺を見て縁側を後にする霊夢。それを見送ってから俺も助けてくれた人たちの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「しつれいしまーす」

 職員室のドアを開けながら私は小さな声で言う。やはり、職員室は居心地が悪い。こそこそと担任の笠崎先生の元へ向かう。

「あれ悟さん?」

「おっす、師匠」

 すると、笠崎先生の前に悟さんが立っていた。彼も私に気付いたようで手を挙げて挨拶する。

「おう、来たか」

 私の到着を待っていたようで先生はほっとしたような表情を浮かべていた。何かあったのだろうか。

「それで俺たちを呼んだ理由って何?」

 腰に手を当てて少し面倒くさそうに聞く悟さん。どうやら、まだ話を聞いていないらしい。

「2人を呼んだのは頼みがあるからだ」

「頼み、ですか?」

「ああ……頼む! 音無をここに連れて来てくれ!」

 頭を下げて先生が叫んだ。それを聞いた私たちは目を見合わせて首を傾げる。

「えっと……詳しい話をお願いします」

「前にも言っただろ? 暴動が起きそうだって。それが本格的になって来た」

「え!? マジかよ」

 ファンクラブ会長でも知らなかったようだ。まぁ、無理もない。詳しい数は知らないが、会員数はかなりのものだ。それに最近はお兄ちゃんのことで頭が一杯だったみたいで、そこまで気が回らなかったのだと思う。

「何だ、伝えてなかったのか?」

 悟さんの反応を見て私をジト目で睨む先生。

「ちょっと色々ありまして……」

 私たちが捕まっている間、柊君たちが誤魔化してくれたらしい。『投影』の能力を持っている後輩が柊君の舎弟なので快く協力してくれたのだ。まぁ、私と雅ちゃんの姿を皆に見せて欠席していないように見せかけていたそうだったが。因みに私たちを捜索していた柊君たちももちろん、学校をサボっていたので柊君たちの姿も作ることになった後輩君はものすごく大変だったようだ。

「……まぁ、いい。それでその暴動が起きればとんでもないことになる。だからこの学校に音無を呼んで何かやって欲しいんだよ」

「なるほど、ファンイベントって奴か」

 悟さんはうんうんと頷き顎に手を当てて思考を巡らせる。

「いいよ。何かやろっか」

 そして、先生のお願いを受け入れた。

「いいんですか? お兄ちゃんに何の相談もなくて」

「昔のあいつなら拒否してたかもしれないけど、今なら大丈夫だ」

 あの事件からお兄ちゃんは少し変わった。別に悪い意味ではない。見て見ぬ振りして来たことと向き合おうとしているのだ。今も霊夢さんと霊奈さんに頼みごとをしに行っている。

「頼んだ俺が言うのもなんだけど、音無ってこういうの嫌いじゃないのか?」

「あー……確かに嫌いだけど俺たちが困ってるなら協力してくれると思うよ」

「そうか? ならお願いするよ」

「おう、企画とかはこっちで練るから舞台とか色々手配よろしく」

「任せとけ。何か決まったら連絡してくれ」

 こうして、お兄ちゃんのファンイベント開催が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それでね! すごかったんだよ!」

『へぇ、そんなことがあったんですか』

 時刻は5時。遊びに行っていた奏楽さんを背に乗せて私は道を歩いていました。その間、興奮した様子で奏楽さんは私に話しかけます。今は子犬モード(それでも奏楽さんを乗せるほどの大きさはあります)なので人の言葉を話すことは出来ませんが式神通信で返事をしました。

「で、でね? 霙……聞きたいことがあるんだけど」

 先ほどまで楽しそうに話していた奏楽さんは突然、言いにくそうにそう言います。

『何ですか?』

「悟って……家に来てる?」

『いえ、来てなかったですよ』

 もじもじしながら問いかけて来ましたが残念ながら悟さんは来ていません。それを聞いた奏楽さんは少しだけしょんぼりしてしまいます。何かあったのでしょうか?

「あらぁ、奏楽ちゃん、霙ちゃんこんにちはー」

 その時、よく私たちに話しかけてくれるおばさまに会いました。最初は犬に乗った奏楽さんを見て驚いていましたが、奏楽さんと会話する内に奏楽さんのことを気に入ったようです。

「こんにちはー!」

 しょんぼりしていた空気はどこへやら。奏楽さんは元気よく挨拶しました。

「ばぅ」

「うんうん、今日も元気だねぇ。今日は楽しかったかい?」

「うん! とっても楽しかったよ!」

 おばさまの質問に満面の笑みで奏楽さんは答えます。ユリさんと遊んだようでとても有意義な時間を過ごしたようです。

「そうかいそうかい。子供は遊んで大きくなるからねぇ。これからもたくさん遊んで大きくなるんだよ」

「はーい!!」

 手を挙げて返事をした奏楽さんを見ておばさまは目を細めます。そして、そのまま私たちはおばさまとお別れしました。

「こんにちは」

 その直後、不意に後ろから声をかけられ、思わず驚いてしまいます。振り返るとそこには奏楽さんよりも少し大きい女の子がいました。その子は体に合わないぶかぶかの服を着ていてとても不思議な雰囲気を纏っています。何より目立つのが胸に輝く蒼いアクセサリーでした。その蒼いアクセサリーは少し大きめの球でそれをチェーンに付けてネックレスにしていてここからでもその蒼い球がひび割れているのがわかります。それ以外は“右腕と左目がない普通の女の子”でした。

(気配が、なかった?)

 ですが、それ以上に気になることがありました。常に周囲の気配を探っていたのですが、全く気付かなかったのです。

「お姉ちゃん、誰ー?」

 少しだけ警戒している私でしたが、奏楽さんは無邪気に質問しました。

「んー……そうだね。少し変なお姉ちゃんとだけ言っておこうかな」

 変な女の子は寂しそうな表情を浮かべて胸のアクセサリーを撫でます。その手付きはとても優しいものでした。

「ふーん、それでどうしたの?」

 曖昧な返答だったので奏楽さんは首を傾げますが、すぐに次の質問をぶつけます。

「ちょっと可愛らしい子と子犬さんがいたからね。思わず声をかけちゃったんだ」

 奏楽さんの質問に照れくさそうに答える女の子でしたが、すぐにぶかぶかの上着のポケットに右手を突っ込みました。

「はい、これをあげるね」

 そう言って差し出して来たのは『黄色い珠』と『緑の珠』でした。その大きさは女の子の胸にある蒼い球よりも2回りほど小さいものです。丁度、ビー玉ほどの大きさでしょうか。

「うわぁ! 綺麗ー!」

 奏楽さんは目を輝かせて黄色い珠を手に取り、色々な角度から観察します。

「はい、子犬さんにも」

「くぅん?」

 まさか私にもくれると思わなかったので驚きましたが、素直に女の子が差し出した緑の珠を口に咥えます。確かにとても綺麗な珠です。

「お姉ちゃん、ありがと!」

「バゥ!」

「その珠はお守り代わりに持っててね。首から下げるとより効果的だよ。後、私に会ったこととこの珠のことは秘密だよ?」

「うん!」

「それじゃ、またね。奏楽ちゃん、霙ちゃん」

 そう言って女の子は歩いて行ってしまいました。

「霙、綺麗だね!」

『はい、家に帰ったら首から下げられるように袋と紐を縫いますね』

「うん、お願い!」

 それから私たちは色々なお話をして家に帰りました。

「あれ? どうして私たちの名前を知ってたんでしょう?」

 家に着いて早速、首から下げられるように布を縫っていた時、女の子が私たちの名前を知っていたことに気付きましたが、考えてもわかりませんでした。

 

 

 

 

 

 

「……」

 幻想郷での用事も終わり、俺は家に帰らずに辺鄙な土地で呆然としていた。

『ね、ねぇ……これは……』

 頭の中で弥生(式神になったので家に居候するか聞いてみたところ、考えてみるとのこと。今は仮居候している)の声が響く。無理もない。俺だって驚いているのだから。

「あー……正直扱いにくいな」

『これで手加減したんだよね?』

「したに決まってんだろ。してなかったらどうなってたことか」

 俺と弥生は【憑依】してその性能を確かめていた。しかし、目の前の光景にただ困惑するしかなかった。

 

 

 

 何故なら、辺鄙な土地に巨大なクレーターを作ってしまったからである。

 

 

 

 とりあえず、弥生との【憑依】は本当に困った時に使うことを心に決めた。

 




モノクローム図鑑



柏木 陸斗


能力:投影


詳細:柊の後輩で舎弟。それだけ。本当にそれだけ。自身の影の薄さが最近の悩み。柊に憧れて舎弟になった。因みに柊は陸斗があまりにもしつこかったため、渋々了承した。リクと呼ばれている。パシリ君や後輩君とも呼ばれたりしている。
能力の投影はどこぞの正義の味方みたいな投影魔術ではなく、ホログラムのような物を出すだけである。一応、触れられるが強い衝撃を与えると消えてしまう。戦闘方法は投影して自分や味方の偽物をたくさん出して敵をかく乱したり、偽物に紛れて攻撃をするなど。たくさん投影しなければならないのでどんどん【メア】が増えて行き、今では柊以上に【メア】は多い。しかし、それを知っている人は誰もいない。リク本人もまさか柊より【メア】が多くなっていることに気付いていない。椿あたりが知ればリク専用の<ギア>を作ってくれるに違いない。
オリジナルでも同じような扱いを受けている。しかも、【メア】にすら感染していない。楽曲伝で彼の台詞は出て来るのだろうか。作者の私もわからない。でも、出す可能性があるので図鑑に載った。よかったね、リク。私は応援しているよ。
……出してあげたくなったので出る予定です。

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