東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第285話 久しぶりの母校

 あの工場での戦いから5日ほど経った。そんな日に俺は何故か俺が通っていた高校の体育館にいる。

『皆さん、お待たせしました! これから『音無響公式ファンクラブ開催、音無響母校に帰る!』イベントを開催します! 今回のイベントで司会進行を務めますのは、この私、音無響の妹、音無望です。よろしくお願いしますー!』

 司会を務める望は笑顔でそう宣言すると空気がビリビリと震えるほどの歓声が上がる。

「……」

 それを聞いて俺は眉間を指でつまむ。俺のどこがそんなにいいのだろうか。

「それじゃ、手筈通り頼むぜ」

 俺の隣で台本を片手にサムズアップする悟。元はと言えば、こいつが一昨日に『イベントに出てくれね? 暴動起きそう』とお願いして来たのが原因だ。

(暴動って……)

「手筈通りって何も聞いてないんだけど」

「大丈夫。そこら辺は全部、師匠に頼んでおいたから」

 ものすごく嫌な予感がするけど今更である。

『それでは、今回の主役であるおに――音無響さんに出て来て貰いましょうー。じゃあ、皆! 声を合わせて呼んでください。せーの!』

≪響様ああああああああ!!≫

「人の名前を様付けするんじゃない!!」

 そう叫んで俺は舞台に飛び出す。まさかそんな呼ばれ方をされるとは思わなかったからだ。因みに俺の胸にピンマイクが付いている。なので、俺の声はスピーカーから吐き出されるから声を張らなくても大丈夫だ。望は普通にマイク持っているけど。

『お兄ちゃん、いきなりツッコミから登場ってお笑い芸人みたいだよ』

 俺の登場により更に大きくなる歓声。それが少し落ち着いてから望が俺に向かってツッコんだ。

「だって、そんな呼ばれ方されるの慣れてないし。そもそも、俺のどこがいいんだか」

「可愛いところー!」

 俺の呟きに最前列に座っていた女の子が答える。でも、全然嬉しくない。苦笑いしながら手を挙げることでお礼を言うと『きゃー!』と言いながら大興奮していた。

「俺は男だってば……はぁ」

 それからすぐに小さな声で呟く。でも、俺の声をしっかりとピンマイクは拾っていたようで望が口を開く。

『そうやってため息を吐いてる仕草も絵になってるんだよ。さてさて、お兄ちゃんも出て来てくれたことですし、イベントを進めていきましょう。そんなに時間ないからね』

 確かイベント時間は2時間だったはずだ。このイベントは平日の放課後に行われているのだから仕方ない。

『それにしても……全校生徒参加だって。どう思う、お兄ちゃん』

 手に持っていたカンペを見て次の企画を確認しながら望が俺に質問する。時間稼ぎをしたいらしい。

「全校生徒ってことは柊とかもいるのか? あいつ、こんなのに興味なさそうだけど」

「おい! 柊、どうやって響様と知り合った! 吐け!」

「うっせ」

 生徒たちがいる方からそんな声が聞こえたので本当にいるようだ。

「いやいや、知り合いってか……望たちと仲良くしてるから自然と話すようになったぞ」

 何故か周りの人から柊が責められているのでフォローしておいた。

「特に雅がお世話になってるみたいだから今度、お菓子でも――」

「ちょっと、どうして私なの!?」

 舞台袖から顔だけ出して生徒たちにも聞こえるほどの大声で雅が叫ぶ。計画通りだ。少しだけいじってやろう。

「よく俺の作った弁当のおかず、床に落とすじゃん。それで泣きそうになってるお前に柊たちがおかずを提供してるって聞いてるぞ」

「なっ……望! 秘密って言ったでしょ!!」

『私、お兄ちゃんには言ってないよ? 奏楽ちゃんには話したけど』

 もちろん、俺は奏楽から聞いた。ものすごく嬉しそうに話してくれた。

「うわあああああああん! 皆のばかああああああ!」

 秘密をカミングアウトされた雅は絶叫して舞台から飛び降りてどこかへ行ってしまう。裏方の仕事は大丈夫なのだろうか。

「響様って……とてもクールでカッコよくて可愛いイメージで近寄り辛かったけど、違ったね」

「うん、ツッコミやフォローもしてたし何より、あの子をいじってる時の響様、ものすごく楽しそうでこっちまで楽しくなっちゃった」

 走り去る雅を見ているとそんな会話がちらほらと聞こえた。普通にしていたのに何故、こんなに好印象なのだろうか。

『えっと、色々とありましたが企画の方へ移りましょう。題して、『ドキッ! 音無響への質問!』。この企画は事前に皆さんに答えて貰った質問を運営が全て目を通し、その中で多かった質問、面白かった質問、ぜひお兄ちゃんに答えて欲しい質問をぶつけてみよう、というものです。じゃあ、お兄ちゃんはそこの椅子に座って』

「おう」

 望に勧められた椅子に座る。その対面にも椅子があり、そこに望が腰を下ろした。

『まずはこちら。“どうして、女の子なのに男の子って言うんですか?”』

「いや、戸籍でも生物学上でも男だからだよ」

『皆さん、聞きましたか? まだ疑っている人もいるかもしれませんがお兄ちゃんは正真正銘、男の子です。妹である私が保証します』

 それを聞いて悲鳴を上げる低い声と歓喜の叫びをあげる高い声。どうやら、結構な人がまだ疑っていたらしい。

『じゃ、次ー。“嫁でも婿でもいいので、嫁ぎに来てください”。2年の男子から』

「嫌だ」

 生理的にも法律的にも無理である。

『……って、“嫁に来て!”とか“婿に来て!”って質問ばっかりなんだけど』

「……それ以外で頼む」

 さすがに望も引いていた。もちろん、俺も引いている。

『そ、それじゃこれなんかどう? “この前、道を歩いていると響様と隣のクラスの尾ケ井雅って子が仲良さそうに歩いていました。2人は付き合っているのですか?”』

「雅と? 何の冗談だよ」

 確かに雅は大切な人だが、それは家族としてである。そんな感情、持ったこともない。

『おー、ばっさりだね。まぁ、雅ちゃん自身もお兄ちゃんをそう言う目で見なくなったから違うと思うよ』

「……ん? 見なく“なった”?」

『さーて、次の質問に行きましょう。“趣味は何ですか?”』

「お見合いかよ!!」

 そんなこんなで俺はどんどん、質問に答えて行き、イベントは大盛り上がりで終わった。どうして盛り上がったのか最後までわからなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

「あー……疲れたぁ」

 食堂で俺はテーブルに突っ伏しながら呟く。あれから変な質問ばかり来て精神的に疲れてしまったのだ。

(こんなんで暴動、治まるのかな)

 ただ舞台に立ってお話ししていただけだ。ファンイベントと言っていたので握手とかすると思っていたのだが、そんな企画が一切なかったので驚いた。悟曰く、『響に触れた瞬間、その人の血が出てしまう。鼻から』らしい。まぁ、この学校は結構、大きいので全校生徒の数も尋常じゃなく、握手会などしていたら日が暮れてしまうだろう。実際、もう暮れてしまったが。

「よう、音無」

 コップの水を飲み干したところで食堂の入り口から笠崎先生が入って来た。卒業以来だが、あまり変わっていない。

「おっす」

「……影野も音無もそうだけど何で敬語使わないんだ?」

「そりゃ、先生だから」

「……もう何も言うまい。で、どうだったんだ? イベントの方は」

「失敗はしなかった。成功したのかどうか俺には判断できない」

 先生の質問に肩を竦めながら答える。

「影野は成功だって喜んでたけどな。でも、何で一人なんだ?」

「疲れたんだよ。あんな大勢の前で話すことなんか今まで……あったにはあったけど慣れてないし。だから、一人になりたくて」

 一瞬、去年の文化祭を思い出してため息を吐きたくなったが我慢して天井を仰ぐ。この学校に通っていた頃に比べて、俺は何もかも変わってしまった。そんなことを思い、ちょっとだけしんみりしてしまう。

「あー……なるほどな。あ、そうだ。久しぶりに来たんだから校内でも回ったらどうだ? 今なら学校の校門以外の敷地内には誰もいないし」

「敷地内にいない?」

「ああ、影野たち運営が生徒たちを抑えてるんだよ。お前に会わせてくれって騒いでるんだ」

 余計、暴動が悪化したような気がする。

「そうだな……回るか。サンキュ、先生」

「おう、こっちも助かった。でも、校門には近づくなよ? 地獄絵図だから」

「……了解した」

 それから先生と別れて校内を徘徊する。使っていた教室や先ほどまで使っていた体育館、悟がカッターで傷を付けた机などを見て回り――。

 

 

 

「懐かしいな」

 

 

 

 ――最後に旧校舎を訪れた。

 




モノクローム図鑑


柊 龍騎


詳細:『モノクローム』の主人公。主人公なので詳細を書こうとすると長くなると思ったため、2回目の図鑑となった。
柊の両親はすでに死亡しており、一人暮らしをしていた。しかし、種子を拾い、風花がやって来てから3人で暮らしている。隣の家は望の家でよく柊の家に遊びに来る。柊の能力『モノクロアイ』により、頭の中に柊の両親が書いたレポートがあり、とある組織がそれを狙っているため、よく【メア】と遭遇し、戦う羽目になっている。
オリジナルの方では不良として学校の人たちに恐れられている。その不良の噂も実は真実ではなく、チンピラに絡まれ、それをやり過ごしたところを生徒に見られ、それから『柊は不良』という噂が広まってしまった。そのせいで双子後輩に勝負をしかけられたり、リクに付きまとわれたりした。楽曲伝でその不良設定が残すかどうか私もまだ決めかねている。
楽曲伝でもオリジナルでもバイトをしているが、楽曲伝ではコンビニ。オリジナルでは新聞配達+その他となっている。しかし、オリジナルでは日曜日に1週間の間に溜まった疲れを取るためほとんど寝て過ごしている。
実はオリジナルの方では柊が幻想入りし、紅魔館で働いていたこともある。幻想入りと言うよりは住み込みのバイトの張り紙を見て紫と会い、紅魔館に住み込みで働くことになっただけである。その頃はまだ銃を使っていた。楽曲伝で幻想入りする予定はない。
オリジナルの方で『モノクロアイ』や<ギア>グローブの他に『光』と『手』という【メア】を持っている。『手』は手に【メア】を集めると言う能力でそれを利用して<ギア>を回す。『光』は危険が迫っていたり、何かヒントとなる場所を見ると光って見える能力。『光』に関しては柊自身、自覚していないため、たまにしか発動しなかった。楽曲伝では出て来ない予定。

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