東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

298 / 543
第290話 自爆へのライン

「ッ――」

 俺が『自爆』と言った瞬間、ドッペルゲンガーは目の前からいなくなっていた。まぁ、そうだろう。ドッペルゲンガーの勝利条件は“俺を連れ去る”ことだ。もし、『俺が自爆して死ぬ』ことがあれば彼女は負ける。だからこそ、あの一言が有効だった。そうすれば、ドッペルゲンガーに『俺が自爆する前に勝負付けなければならない』という時間制限が発生するのだから。実際、ドッペルゲンガーは焦ったように俺を攻撃して来た。

(そう、それでいい)

 焦れば焦るほど攻撃が大振りになるし、隙もできやすくなる。手の内を明かすことでドッペルゲンガーを追い詰めたのだ。

 それに――俺だってこの勝負、負けるわけにはいかない。絶対に“生き残る”。それが俺の勝利条件だ。

「『ゾーン』」

 世界がスローモーションになる。まぁ、スローなのは俺だけであってドッペルゲンガーは普段より少し速いくらいなのだが。

(でも、これだけでも十分対処可能だ)

 今、俺の両手首には雷の腕輪がある。『魂同調』をした相手には勝てないが攻撃を受け流すには問題ない。

 

『魔眼『青い瞳』』

『拳術『ショットガンフォース』』

『蹴術『マグナムフォース』』

『飛拳『インパクトジェット』』

『飛蹴『インパクトターボ』』

 

 5つのスペルを発動してドッペルゲンガーの様子を確かめる。俺の右腕に向かって鎌を振り上げていた。俺の右腕を斬り落とすつもりらしい。確かに右手には『合力石』の指輪がある。右腕が斬り落とされてしまったら『合成する程度の能力』は使えなくなってしまい、霊力を使ってくっ付けるまで厳しい戦いになるだろう。

『魔術『魔力ブースト』』

 鎌が俺の右腕に触れる直前でやっと唱えることができた。そのまま、術式を構築して新しいスペルを作り上げる。

『硬術『フルメタルボディ』』

 

 

 

 ――ガギンッ!

 

 

 

 ドッペルゲンガーの鎌は俺の腕を切り裂くことはなく、弾かれてしまった。

 『魂同調』は強力な技だ。通常時の俺では太刀打ちできない。

 だが、『ブースト』系のスペルはデメリットが大きい分、効果も大きい。『霊術』、『魔術』のように単発ではそこまで強くはないのだが、重ね掛けすることによって相乗効果が得られる。『魂同調』が足し算ならば『ブースト』系は掛け算。まだ『霊術』と『魔術』しか発動していないのに5つの魂と同調しているドッペルゲンガーの鎌を弾いたのだ。その効果は絶大である。

 何より『ブースト』系のスペルは吸血鬼たちからの力の供給量を増やして俺自身の地力を水増しする技だ。つまり、魂の中に吸血鬼たちのような意志を持った存在がいなければならない。力の塊しかいないドッペルゲンガーは使用できないのだ。

「龍化!!」

 そこへ更にダメ押し。左腕に白銀の鱗が現れ、背中には白銀の右翼だけ生えた。

「竜撃『竜の拳』」

 左手を巨大化させてドッペルゲンガーへ振るう。

「――」

 しかし、彼女は『猫』の運動神経で体を捻り、紙一重で回避する。それどころかポニーテールを伸ばして俺の右目を狙って来た。

「雷転『ライトニングフープ』!」

 咄嗟にスペルを唱えて雷の輪でポニーテールの進路を塞ぐ。さすがに弾くことは出来なかったが、軌道を変えられた。ポニーテールは俺の右頬を掠って通り過ぎていく。

「「神鎌『雷神白鎌創』、神剣『雷神白剣創』」」

 一度、距離を取って同時に鎌と剣を創造する。問題が俺はまだ『結尾』を発動していないことだ。

「結尾『スコーピオンテール』」「三本芝居『剣舞舞宴華』」

 やはり、『三本芝居』を使って来た。目の前にドッペルゲンガーの鎌が迫る。それを龍の鱗に覆われた左腕で弾き、すかさずスペルを宣言。

「三本芝居『剣舞舞宴華』」

 弾いた鎌の代わりに突っ込んで来たポニーテールを直剣で受け流す。しかし、その頃には俺の首に相手の直剣が届こうとしていた。鎌の柄で直剣の軌道をずらし、バックステップで逃げる。だが、ドッペルゲンガーもしつこく追って来た。

「くっ……」

 ポニーテールを鞭のように振るって足払いするも軽くジャンプして回避された。その隙に鎌の刃が俺の右腕を斬る。傷は浅いがやはり向こうの方が身体能力は上なので徐々に追い詰められていた。

 そもそも、『三本芝居』は鎌で相手の攻撃に穴を開けて直剣で相手を牽制し、ポニーテールで隙だらけの敵を攻撃する技だ。しかし、お互いに『三本芝居』を使っているため、普段通りの動きをしてもお互いに同じ動きをすることになり、力で負けている俺にとって不利になってしまう。だからこそ、変則的な『三本芝居』をしようと攻撃する機会をうかがっているのだが、そんなものどこにもなく、それどころか防御すら危うい状況だ。やはり、『霊術』、『魔術』、『龍化』を重ねても『魂同調』には敵わない。かといって、次の『ブースト』系を発動するにはもう少し時間がかかる。

「光撃『眩い光』!」

 『三本芝居』を解除して次のスペルを使った。

「――」

 さすがのドッペルゲンガーも顔を背けて目を庇う。その隙に天井を頭で破壊(勢いよく突っ込んだ)して2階に逃れる。俺が開けた穴から数歩、後ろに下がってドッペルゲンガーが出て来るのを待つ。

「神撃『ゴッドハンズ』」

「ッ!?」

 しかし、俺の予想に反して彼女は俺が立っていた床を巨大な手で破壊して来た。ジャンプして躱すが手の勢いは死んでいない。このままでは掴まれてしまう。

「回蹴『サマーソルト』!」

 両手から妖力を噴出し、体を無理矢理回転させて『神撃』につま先をぶつける。もちろん、インパクトも有りだ。

 巨大な手とつま先がぶつかった瞬間、衝撃波が発生し周囲の窓が粉々に割れる。空中にいた俺は踏ん張ることなどできるわけもなく、吹き飛ばされてまた天井を破壊した。

「よっと」

 何とか、3階の床に着地するがすでにドッペルゲンガーは俺を捕まえようと真上に移動していた。

(早すぎんだろ)

「雷刃『ライトニングナイフ』」「合成『混合弾幕』!!」

 彼女が生み出したいくつもの雷のナイフを合成弾で撃ち落とすがあまりにもナイフの量が多く、いくつか俺の体に刺さる。それらを引き抜きながら少しでも距離を置こうとバックステップするがドッペルゲンガーはそれを予知していたのか突進して来た。

(ここだ)

「妖術『妖力ブースト』!」

 インターバルも終了し、3枚目の『ブースト』を使用。体から放出されるオーラの色がまた一つ増えた。

「「妖拳『エクスプロージョンブロウ』」」

 右拳に妖力を凝縮し、一気に前に突き出す。ドッペルゲンガーも同じようにスペルを使用する。俺の右拳とドッペルゲンガーの右拳が激突し、また衝撃波が生まれる。

 『妖拳』は妖力を拳に集めて相手に当てた瞬間に開放するスペルだ。インパクトにも似ているがこちらは文字通り、『爆発』する。そんな技を狭い校舎――しかも、3階で使ってみろ。

「のわ!?」「っ……」

 足元が崩れるのも無理はない。ガラガラと崩れる中、俺たちはお互いを見つめながら次のスペルカードを構えた。

「竜撃『竜の拳』」「神撃『ゴッドハンズ』」

 俺は龍の、ドッペルゲンガーは神の拳を作り出し、また衝突させる。今度は2階が壊れた。

「拳弾『インパクトガトリング』」

「ッ!?」

 衝撃波に煽られ、バランスを崩しているところに『拳弾』が飛んで来る。これをまともに喰らったらマズイ。

「劣界『劣化五芒星結界』!」

 足元に博麗のお札を1枚だけ投げて『劣界』を発動し、それを足場にして攻撃範囲から逃れる。

「黒符『ブラックスパーク』」

 だが、その声がした方を見ると俺に向かって右手の平を突き出しているドッペルゲンガーの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『気付いた頃には俺は自分が殺したい相手をあいつに殺させてた。あいつを手に入れて自分が強くなった気にでもなってたんだろ』

 謎の声は明るい声音でそう言った。

「……」

 それを私は黙って聞いているしかなかった。かける言葉が見つからないのだ。

『それから月日が経ってあいつの精神も安定して来た。俺には見せなかったが、新しく出来た友達には笑顔を見せていたらしい。だからなのか殺しをしたくないと言って来た』

「なんだ、よかったじゃないか」

 バッドエンドを迎えるかと思ったが気が狂った子は何とか落ち着きを取り戻した。これでめでたし。

(……とはならない)

 結末を知っているからこそこの後の展開が読める。私だってその場にいたのだ。気を失っていたが。

『ああ、よかった。俺の気が狂ってなければな。殺しをしたくないと言うあいつを問答無用で燃やした。泣き叫ぶあいつに俺は言ってやったよ。『殺せ』ってな。今考えれば何て外道なんだろうな俺。最初は更生させるためだったのに俺自身があいつを狂わせる元凶になりそうだった』

「“なりそう”? じゃあ――」

『ああ、ならなかった。気が狂う前にあいつは逃げたんだよ。“音無響を倒す”、“リーマの仇を取る”って言ってな』

 その後は私も知っている。

「……おい。もういいんじゃないか?」

 『お前の正体を明かしても』と言おうとするがそれを止めたのは謎の声だった。

『おっと、すまん。話してる内にこっちの準備が出来た。サンキュな、誰かさん』

「誰かさん?」

『手伝ってくれたんだよ。誰か知らないけどな。会ったことないか?』

「……そう言えば」

 吸血鬼たちが謎の声に協力するとは思えないので省いた。そうすれば自ずと一人しか思い当たる節はない。

(ずっと部屋に閉じこもっている……レマって奴か?)

 まだ会ったことはないが、そう言う奴がいると響が言っていた。十中八九、レマだろう。

『よっと』

 思考を巡らせているといつの間にか部屋に大きなテレビが出現していた。

「これは?」

『外の様子を見ることができるらしい。見てみろ。お前がいなくなった結果だ』

 謎の声がそう言った瞬間、テレビが点いた。

「ッ!? 響っ!!」

 そこに映し出されたのは――床に倒れて動かない男の響とそれを見下ろす女の響だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。