「そう……なら死んで♪」
「――ッ!」
その言葉を聞いた瞬間、背中にゾクリと何かが走った。そして紫の横を走り抜ける。
「無駄よ」
扇子で口元を隠しながら紫。その途端に廊下に大きな弾が大量に出現する。しかも全て俺を狙っているようだ。
「うおっ!」
前に転がり込んで回避。弾は俺の上を通り過ぎ、壁にぶつかる。更に大爆発を起こした。
(何なんだよ……これは!?)
「ほら、次行くわよ!」
今度はレーザーも撃ってきた。ここは廊下。逃げるには狭すぎる。
(どうする?)
俺はただの人間。このレーザーを食らえば死んでしまうだろう。手持ちはPSPのみ。
(PSP?)
そうだ。元はと言えばこのPSPのせいではないか。なんとなくだが俺がコスプレするのはこいつのせいだと思う。藍の口ぶりから考えて間違いない。
「上手くいけよ!?」
イヤホンを耳に突っ込み、音楽を再生する。もう画面なんて見てられない。
~少女綺想曲 ~ Dream Battle ~
急に曲名が頭の中に浮かぶ。その途端に服が光り、巫女服になった。だが、腋が開いている。それに頭に大きなリボンが付けられていて邪魔だ。
「あら? コスプレ?」
「うるせー!」
紫の発言に叫ぶがその間にレーザーと大玉が迫っていた。
(……で、これからどうすんだよ!)
コスプレしたからと言って強くなったわけじゃない。コスプレになにか細工はないか調べる。もうそこまで弾が迫っていた。
(またか?)
調べていると懐にまたもやお札を発見した。今回は何枚も。あの時、これに書いてある事を読んだら藍が召喚された。
(一か八かだ!?)
「頼むぞ! 夢符『二重結界』!」
祈りながら宣言すると目の前に2枚の壁が現れた。レーザーと大玉は勢いよくその壁にぶつかり消える。
「!!!」
紫はそれを見て驚いていた。当たり前だ。さっきまで逃げるだけだったのに受け止めたのだから。
「やっぱり、能力持ちだったのね」
「はぁ? 何言ってんだ?」
紫の言っている意味がわからなくて聞き返した。
「尚更、働かせたいわね!」
そう言うと先ほどとは比べ物にならないほどの弾が飛んできた。
「くそっ!」
廊下を逃げ惑う。弾をかわし、レーザーを潜り抜ける。
(―――こっち!)
勘で右に曲がった。
「お?」
出た先は庭だった。縁側からジャンプし庭に立つ。
「霊符『夢想封印』!」
懐からお札を取り出して宣言。俺の周りからいくつかの白い球が現れ、大玉に突っ込み、相殺した。
(よし! これで……)
「まだまだね」
「!」
安心した束の間、後ろから声が聞こえた。その瞬間、羽交い絞めにされ身動きが取れなくなる。
「くそっ!」
ジタバタと暴れるが動けない。
「鬼ぐらいの力がなくちゃ無理よ」
声からして紫だ。後ろを見ると空間が裂け、その隙間から上半身のみ乗り出していた。
「離せよ!」
「能力だけじゃなくスペルまで……やっぱり貴方を私の会社に入れるわ。藍! 来なさい!」
最初はぶつぶつと何かを呟いていた紫だが何故か藍を呼んだ。
「紫様、こちらにいたのですか……って! 何してるんですか!?」
縁側から顔を覗かせた藍が目を丸くして叫んだ。
「助けて!?」「この男をボーダー商事の社員にするわ! 手伝いなさい!」
俺と紫が同時に言う。
「え? 響をですか?」
藍は俺の言葉を無視して紫に質問した。
「そうよ。なかなか使えそうじゃない」
(物かよ……)
心の中でツッコむが声には出さない。
「ですが……」
藍は俺の方をちらっと見て渋る。
「やりなさい」
紫の低い声で俺は悟る。
「……わかりました」
(藍は俺の事を助けられない)
この姿じゃ動けない。さっきのお札を使おうにも取り出せない。これは絶体絶命。
その時、曲が終わった。自動的に次の曲が再生される。俺はランダム再生にしているので何が再生されるのかわからない。
~御伽の国の鬼が島 ~ Missing Power ~
服が光り、別の衣装になる。上は白い半そでのシャツに下は紫のスカート。頭から2本に角が生えた。
(もしかしたら……)
コスプレが変わった。なら、違う力を使える。なんとなくそう思った。
「ふんっ!」
再び、腕に力を込める。すると、いとも簡単に紫の呪縛から抜け出す事が出来た。
「……本当に鬼になるとはね」
紫はそう言いながら空間の裂け目から出てきた。前に紫、後ろに藍がいる状況。逃げるのはまず無理だ。
「やってやる」
逃げられないのなら戦うしかない。俺はお札を取り出す。それを見た紫と藍もお札を取り出す。
「鬼符『ミッシングパワー』!」「結界『夢と現の呪』」「式神『十二神将の宴』!」
全員が同時に宣言すると紫と藍からは大量の弾が飛んでくる。
「え?」
俺からも弾が出ると思っていたが何故か大きくなった。弾がぶつかるが痛くもかゆくもない。紫と藍は悔しそうな表情を見せるが弾を出すのをやめなかった。
「行くぞ!」
右手をギュッと握り、拳を作る。そして思いっきり地面を殴った。
「「!!!」」
地面は大きく揺れ、2人はバランスを崩した。
「次! 『百万鬼夜行』!」
宣言したら俺を中心に大玉と小玉が飛び出る。その弾たちは紫と藍を襲う。
「くっ!」
藍は縁側から大空に飛んで回避する。紫は涼しい顔をして空間の裂け目を作り出し、弾を吸収していた。
(やべ! 曲、終わる!)
感じ取るがどうする事も出来ない。曲は終わり、次が再生される。
~風神少女~
服はまた白いシャツに今度は黒のスカート。背中から漆黒の翼が生えた。体は元の大きさに戻っている。
(翼……よし! これなら!)
翼を勢いよく広げ、上昇し始める。この体なら空を飛べるはずと踏んだ結果だ。
「逃がさないわ!」
紫が空間の隙間に入る。
「!!!」
何と俺の近くに空間の隙間が出現し紫が出てきた。紫はこちらに手を伸ばしている。
(間に合え!)
急いで空間の隙間から距離を取った。そのおかげか紫の手は俺の左手に持っているPSPに触れただけだった。そのまま全速力でマヨヒガから離れる。
「紫様……響をあのまま逃がしてもよろしかったのですか?」
スキマから出てきた紫様に質問する。スキマを使えば簡単に捕まえられるはずだ。
「いいのよ。細工も出来たし」
紫様は微笑みながらそう言った。
「細工……ですか?」
だが、私にはよく理解出来なかった。細工する必要がどこにあったのかわからないからだ。
「少しの間、暇つぶし出来るから」
(ああ……そう言う事か)
今の言葉で理解出来た。ただただ紫様は暇なのだ。そこに面白い能力を持った少年が現れた。しかも私と紫様の弾幕を防ぎきって逃走。きっと、これから響がどんな行動を取るかスキマで観察でもするのだろう。
(でも、細工って?)
そこだけが不明だ。
「後で教えるわ」
私の心を読んだ紫様が笑顔で言った。
「……わかりました。その時を楽しみにしておきます」
マヨヒガで起きた外来人との弾幕戦はこれで幕を閉じた。
「……はぁ~」
縁側から家の中に入る前に気付いたがマヨヒガはボロボロだった。これから私は修復作業に入らなければならないだろう。ため息を吐いて修復するために使う道具を取りに家に入った。