「キョウ君、次はこれを向こうに運んでくれるかい?」
「はい、ただいまー」
桔梗【翼】(素材に刀を選択していないので切断能力はない)で低空飛行しながら森近さんから商品を受け取り、指定された場所に運ぶ。あれから僕と桔梗は森近さんの家に住みながらお店を手伝っていた。刀やら拳銃やら色々な物を桔梗が勝手に食べてしまったからである。
「そう言えば、桔梗」
「何ですか?」
【翼】のまま桔梗は首を傾げた。実際に傾げているわけではなく、僕にそんなイメージを送って来ただけだが。
「変な石を食べたって言ってたけど結局何だったの?」
森近さんのお店は見ての通り、ごちゃごちゃしているのでどこにどんな商品があるか森近さん本人も把握していない。それどころか何の商品があるかもわかっていないようだ。そのせいで桔梗が食べた石の正体は不明なままだった。
「んー、私にわかりません。全体的に白っぽくて石の中心が青っぽいのは覚えてるんですけど……」
「石の中心が青っぽい?」
「はい。白っぽいところが半透明で中まで見える感じでした」
それが本当だとすると不思議な石だ。まぁ、森近さん曰くここにある石は珍しいだけで何の効力もないらしい。たまに名称があるくらいだとか。この前見せて貰った緑色の鉱石は『合力石』と言うらしい。その『合力石』を装飾に使った指輪はとても綺麗だった。しかし、この前、桔梗が暴れたせいで少しだけリング部分が歪んでしまったらしく、森近さんに内緒で棚に戻しておいた。でも、そのせいでお客さんの指から外れず、結局その指輪を持って帰る羽目になったようでちょっとだけ罪悪感に苛まれている。もし、その時、3週間ほど前に知り合ったミスティアさんの頼まれたおつかいでお店を空けていなければちゃんと注意していたのに。
(そう言えば、この前、僕に似た人を見たって言ってたけど……何だったんだろう?)
ミスティアさんは終始、首を傾げていたが結局答えは見つからなかった。言われた僕も気になってしまってその日は仕事が手に付かず、森近さんに注意された。
「キョウ君、次お願い」
「はーい」
とりあえず、また注意されないように今は森近さんのお手伝いに集中しよう。
「すみませーん」
テキパキと仕事を熟していると不意に女の子の声が店内に響いた。お客さんだろうか。
「依頼を受けて来た成長屋ですけど誰かいませんかー?」
「少し待っていてくれ。すぐに行く」
「成長屋って何なんでしょう?」
「さぁ?」
商品を整理していた手を止めて森近さんが女の子のところへ向かったようだ。僕もどんな人が来たのか気になったが、手が離せない。作業しながら森近さんと女の子の会話を盗み聞きする。
「それで依頼の木は?」
「ああ、外に苗があるんだ。それを埋めて成長させて欲しい。埋める場所は大きな切り株があるからすぐにわかると思う」
「あー……あの切り株ですか。あんな大きな木、どうやって切ったんですか……まぁ、いいですけど。じゃあ、パパッとやっちゃいますね」
そう言って成長屋さんは店を出て行ってしまった。後、その木を切ったのは僕だ。拳の銃で粉々にした木くずは片づけたのだが、切り株は放置していた。
「森近さん」
少し気になったことがあったので彼を呼ぶ。空を飛んでいる僕を見上げて『何だい?』と視線を向ける。
「どうして、木を植えるんですか? あの木に何か思入れでも?」
「うーん、何となくかな。あの木って大きかったからないと寂しくなっちゃって」
本当に何となくらしい。疑問もなくなったのでまた作業に戻った。
「それにしても成長屋って木を成長させるお仕事みたいですね」
「そうだね。そう言う能力なのかな?」
「な、なら! マスターを成長させて大人の姿にすることも!?」
「見てみたいの?」
「ぜ、ぜひ! マスターならきっと格好よくなれると思います!」
何故か興奮気味の桔梗を見て苦笑しながら僕は乱れた自分の髪を後ろに払う。こんなに髪を長くしていたら女の子と間違えられそうだ。
「でも、お仕事だから何か支払う物がないと駄目だよ」
「そ、そこは……マスターの将来の姿を見せることが報酬ということに」
「ならない」
『そ、そんなぁ』と落ち込む桔梗。
「大丈夫だって。ずっと一緒にいればいずれ僕も成長するから」
「ッ! そうですよね! 一緒にいればいつか必ず!」
「終わりましたー」
その時、成長屋さんが帰って来た。もう終わったらしい。チラリと窓から外を見ると立派な大木が見えた。本当に成長させたらしい。
「おお、すごいね。本当に成長させられるんだ」
森近さんも感心したようで成長屋さんを称賛する。
「……まぁ、いいです。それで報酬は?」
「この店の中で好きな物を選んで持って行っていいよ。あ、でも非売品はなしで」
「……はぁ」
成長屋さんは1つため息を吐いた後、お店の中を徘徊し始めた。まさか真上に人がいるとは思わなかったのだろう。僕たちの真下を通っても僕たちに気付くことはなかった。
「うわぁ……なかなかカオス……」
それには同感します。
何となく彼女の後を追って浮遊していると不意に成長屋さんが足を止める。その視線の先には白い珠。ビー玉ほどの綺麗な珠だった。
「……これにします」
「ん? いいのかい? それ、何の名前もないただの綺麗な白い球だけど」
「何となく……これがいいような気がして」
自分でもどうして選んだのかわからないらしく成長屋さんは不思議そうに手に持った白い球を眺めている。
「君がいいなら構わないけど。うん、これで交渉成立だね。今日はありがとう。またお願いするよ」
「できれば今度は現金でお願いしますね……こっちもお店始めたばかりでカツカツなんですよ」
成長屋さんも大変らしい。彼女はそのまま、お店を出て行った。それを見て僕は床に着陸する。
「森近さん、こっちの仕事終わりましたよ」
「うん、ありがとう。今日はもう店仕舞いにしようか」
「はーい」
お店を閉める作業をしながら僕は何故かあの成長屋さんにまた会うことになると確信していた。その理由はわからない。けど、何となくそう思った。