東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第300話 紅い月を見て黒猫が鳴き悪魔が笑う

 白いオーラが消えた後、俺の頭には黒い猫耳、お尻には尻尾も生えていた。腕には雷の腕輪。俺の使える技で一番速いスタイルだ。

「……ぷっ」

 しかし、俺の姿を見たレミリアは吹き出して大声で笑い始めた。まぁ、いきなり猫耳が生えたら笑うだろう。

「何それ! 私を笑わせて集中力を切れさせる作戦?」

「……」

「さっきも思ったけど響って男よね? それなのにツインテールになったり、猫耳生やしたり……ふざけてるのかしら?」

 笑っていたレミリアは目を鋭くして俺を睨む。この姿で戦おうとしていたらふざけていると思われるのも無理はない。

「これを見てもそう思うか?」

「え――ッ」

 一瞬にして彼女の背後を取り、首筋に右のツインテールの先に付けられた刃を突き付ける。もちろん、左の刃はレミリアの後頭部に向けられていた。

「……へぇ。ふざけてるわけではないのね?」

「俺だってこんな姿で戦いたくねーよ。でも、俺はもうそんな言い訳はしない。この姿は皆が俺に力を貸してくれてる証拠だから」

 このツインテールも霊夢と霊奈が新しく紅いリボンを作ってくれたから出来た技。猫耳もそうだ。だからこそ俺は否定しない。それは力を貸してくれている皆に失礼だから。

「それじゃ」

「始めようか」

 俺から離れたレミリアと俺はニヤリと笑いながら交互に口を開き――。

「「殺し合い」」

 ――同時に地面を蹴った。

 『ゾーン』

 俺とレミリアの動きが遅くなる。それでも俺たちの動きは普段のそれとほとんど変わらない。それほど高速で動いているのだ。

 まず、先攻したのは俺だ。左のツインテールを神力で伸ばし、レミリアの眉間を狙う。それを彼女は体を捻って躱す。しかも、躱した時に霊弾を一つ飛ばして来た。急いで『回界』を引き寄せて右手に固定させる。固定と言っても直接触れているわけではない。右手の動きに合わせて『回界』を動かせるようになっただけだ。だが、それだけで十分である。飛んで来る霊弾を『回界』で切り裂いた。

 雷雨『ライトニングシャワー』

 小さな雷の弾をばら撒き、それを“追い抜いた”。『雷雨』よりも俺の方が速いのだ。『雷雨』を見て右に逃げようとしたレミリアを『回界』で斬りかかることで足止めする。すかさず、己の爪で『回界』をガードするレミリアだったが、その顔は驚愕の色に染まっていた。このまま動かずにいたらレミリアはもちろん俺も『雷雨』に飲み込まれるだろう。“俺が通常状態なら”。

 何度も爪と結界をぶつけ合って火花を散らせる。『回界』はあの『五芒星』を高速回転させて攻撃する技だ。『五芒星』自体、強力な技に部類させるため、『回界』もかなり強力な技である。だが、それを爪のみで防御するレミリアはもっとすごいと思う。

 もう何回『回界』をぶつけただろうか。そろそろ『雷雨』が俺たちを飲み込もうとしていた。さすがのレミリアも焦りが出たのか顔を引き攣らせて高速で両手を動かす。急いでこの場から離れるためだ。でも、それを許す俺ではなかった。

「っ!」

 俺の背後から迫って来る『雷雨』を見て彼女は目で訴えかけて来る。『これでいいのか?』と。俺が使用した『雷雨』はもちろん、弾幕ごっこ用ではなく当たれば下手すると骨が折れるほどの威力がある。まともにくらえば例えレミリアでもただではすまないだろう。それは俺も例外ではない。しかし、俺が何もしないはずがない。

 『魔眼』で背後から迫る雷弾たちを視てタイミングを計る。

(3……2……1!)

 そして、猫のもう1つの能力を使った。そう、『猫化』である。

「ッ!?」

 突然、人間だった敵が黒猫になったので目の前の吸血鬼は目を見開いて驚いた。俺は俺で猫になったため、体が空中に投げ出されて身動きが取れない。そんな2人を『雷雨』が飲み込んだ。小さな雷弾がレミリアにぶつかり、弾けてその体を吹き飛ばす。俺も体は小さいと言ってもさすがに全てを躱し切れず、いくつかの雷弾が体に当たった。

 だが、『猫化』の能力の一つに“雷系の技を吸収し、帯電させる”というものがある。悟の警棒から発せられた雷を身に纏い、妖怪を灰にできたのもこの能力があったからだ。

 雷獣『サンダーキャット』

 バチバチと音を立てながら『雷雨』が直撃して吹き飛ばされているレミリアの後を追いかける。地面を蹴る度に体から雷光が走り、溜めている雷の威力を高めていく。

「にゃあああああああああ!」

 雄叫びのような鳴き声を上げながら頭からレミリアのお腹に突っ込んだ。俺の体に溜まっていた雷が一気に解放され、レミリアを襲う。

「あああああああああああ?!」

 さすがのレミリアもこれには絶叫する。超高圧の電流を流されているのと同じなのだから。

「……」

 俺の体に溜まっていた雷の力を全て放出し尽くした時には倒れはしなかったが、レミリアの体から力が抜ける。体中から黒い煙を昇らせていて服もボロボロだった。

「にゃっ!?」

 しかし、すぐに彼女の右手に捕まってしまう。気絶させることはできなかったようだ。

「……死ね」

 無表情で俺の顔を見た後、力いっぱい地面に叩き付けられた。グチャ、と体から嫌な音が聞こえる。猫の体なので人間の頃より体は脆い。口から空気が漏れ、意識が飛びそうになる。だが、すぐに激痛で強引に正気に戻されてしまう。急いで体に霊力を流そうとするが、その前にレミリアが血だらけの俺の体を持ち上げて壁に向かって投げる。咄嗟に体を人間に戻すが、勢いは抑えられずに背中から壁に激突し、そのあまりの威力に壁にクレーターができた。

「く……そ……」

 痛みと疲労、『雷輪』のデメリットで筋肉が破裂したせいで『魂同調』が解除されてしまった。このままでは魂に引き込まれて動けなくなってしまう。

『任せろ』

(ああ……頼む)

 そんな頼もしい仲間の声を聞きながら俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄様!」

 目にも止まらぬ速さで戦っていたお兄様とお姉様だったが、いきなり地面と壁が陥没した。壁の方を見ると傷だらけのお兄様が倒れていた。どうやら、お姉様にやられてしまったらしい。でも、お姉様もお姉様でかなりダメージを受けている。

「やっと沈んだ……後はフラン。貴女だけ」

「……」

「響の『魂同調』が解除されてる。確か、6時間ほど魂に引き込まれるのよね? 傷が治ってももう復帰できない」

 お姉様はニヤリと笑って私の方へ近づいて来る。

(お兄様は言ってた……)

 もし、俺がやられても諦めるな。時間を稼げ。何とかする、と。

「……」

 でも、私に出来るだろうか? お兄様は一時的にとは言え、お姉様のスピードに追い付きダメージを与えた。だが、私はダメージを与えるどころか2人の姿を捉えることすらできなかった。そんな私に――。

『お前はただ力のコントロールができないだけだ』。

 昨日、お兄様に言われた台詞が頭の中に響く。

『でも、コントロールするのって難しいんだよ?』。

 少しだけ拗ねたような声音で反論する。私だってコントロールしたいのだ。しかし、上手く行かない。やり過ぎてしまう。だから、力をセーブするしかない。

『……お前はまだわかってないのかもな』

『え?』

『いや、何でもない。ほら続きしよう。明日までに完璧にしないと』

 昨日の会話はそこで終わった。あの時は何が何だかわからなかった。

(……もしかして)

「だんまり、か。それじゃ貴女も沈みなさい」

 俯いていた私に向かってお姉様が突っ込んで来る。目にも止まらぬ速さで鋭く尖った爪を私の喉へ伸ばした。

「……」

 それを私は右手で掴んだ。

「なっ……」

 今までやられっぱなしだった私に捕まれたからか、お姉様は驚愕した。

「わかった」

 やっと気付くことができた。私は力をコントロールするためにセーブしていたのだ。弾幕ごっこで本気を出してしまうと相手を壊してしまうから。だから、セーブしていた。

「間違いだったんだね」

 私の独り言を聞いて首を傾げるお姉様。そうだ。お姉様が言っていたのだ。『殺し合い』だと。だから、“力をセーブする必要なんてどこにもない”。“コントロールする必要なんてどこにもない”。

「お姉様、私も本気出すね」

 そう言った後、お姉様の手を引き千切った。満面の笑みを浮かべて。

 


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